放射線生物学

放射線生物学

放射線の人的作用を正しく理解し,放射線の医療効果を最大限に引き出すことを目的とした,医療系,特に診療放射線技師向けの教科書。

ジャンル
発行年月日
2018/09/21
判型
A5
ページ数
176ページ
ISBN
978-4-339-07244-0
放射線生物学
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定価

2,530(本体2,300円+税)

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放射線の医療効果を最大限に引き出すため,被爆した際の放射線障害,突然変異の発症,放射線治療など,放射線の人体的作用を正しく理解する必要がある。本書は,医療系,特に診療放射線技師のための放射線生物学の教科書である。

1895年,ドイツの物理学者レントゲン博士(W.C. Röntgen)が陰極線管の実験中に遮蔽紙の位置に無関係に蛍光板が光る現象を発見し,これが陰極線管からの未知の放射線の放出によると考えてX線と名付けた。その年末に博士の婦人の手のX線写真を添えてX線の論文を発表した。この論文が放射線と医療のかかわる出発点となった。これを契機に,X線の医療への利用は急速に拡大し,初期のX線単純写真から最近では人体の断層を撮像するX線CTへと発展して,頭蓋内をはじめ人体各部臓器を画像として診るようになり,治療の進歩に大きく貢献した。

一方,放射線科学はベクレル(A.H. Becquerel)よる放射性ウラン発見やキュリー(P. Curie)による放射性ラジウムの発見が加わって一層の発展を見たが利用が進むに従って放射能を持つ物質からの急性の放射線障害があとを絶たなくなった。これは,放射線が物質を透過する性質と細胞に障害を与える性質を併せ持っていることによる。

医療に用いられる電離性放射線には電磁放射線と粒子線があり,さらにそれらが何種類にも分類されている。これらの放射線はそれぞれ異なった性質を持ち,生体の組織や細胞に与える影響は異なる。同一の放射線でもその強さ(エネルギーの大きさ)によって生体への影響は変わる。

放射線にどのように向き合えばよいのか。放射線は人体のいろいろな組織にさまざまな影響を及ぼし,その影響が現れる放射線量や時期もさまざまである。被ばくした際の放射線障害,放射線治療(特にがんの治療),放射線による突然変異の発症などの対処は個々に異なる。放射線生物学は,このような場面で診療や治療で放射線の医療効果を最大限に引き出すために,放射線の人体的作用を正しく理解し,有効に活用することが求められている。

生体を構成する組織と細胞の成り立ちや振舞いを理解し,放射線と細胞の相互作用や組織への影響を考え,さらには放射線の積極的な利用法としてがん治療についても学んでいきたい。がん治療の分野で,日本では外科手術が主流といわれているのに対して,欧米の動向は放射線治療が主流になりつつあるといわれている。このような環境にあって,診療放射線技師の役割はますます大きくなっている。さらに,要求される知識の範囲は拡大するばかりである。すでに,この分野に求められる生理学的,技術的な知識を解説している多くの優れた専門書が提供されている。

本書は,初歩的で基本的な内容を平明に紹介することを主旨としており,診療放射線技師を目指す学徒の学び舎に加えていただければ幸いである。

2018年6月 木村 雄治

1. 生物学の基礎
1.1 DNA,RNAの構成
 1.1.1 ヌクレオチドの構造
 1.1.2 塩基配列の相補的結合
 1.1.3 DNAの遺伝物質と二重らせん構造
 1.1.4 遺伝情報の複製
 1.1.5 DNAとRNAの違い
1.2 ゲノムと遺伝子
 1.2.1 ゲノムと染色体構造
 1.2.2 常染色体と性染色体
 1.2.3 RNAによるDNAの転写と翻訳機能
1.3 細胞周期と細胞分裂
 1.3.1 細胞周期
 1.3.2 細胞分裂
1.4 細胞死
 1.4.1 細胞死とアポトーシス
 1.4.2 ネクローシス

2. 放射線の基礎
2.1 放射線の種類と性質
 2.1.1 電磁波の特性
 2.1.2 粒子線の特性
 2.1.3 重荷電粒子線の特性
 2.1.4 放射線の性質
2.2 放射線の線エネルギー付与(LET)と生物学的効果比(RBE)
 2.2.1 放射線のLET
 2.2.2 放射線のRBE
 2.2.3 LETとRBEの関係
 2.2.4 LETとOER(酸素増感比)の関係
2.3 放射線量の単位
 2.3.1 フルエンスとエネルギーフルエンス
 2.3.2 照射線量
 2.3.3 吸収線量
 2.3.4 等価線量(総量線量)

3. 放射線と細胞の相互作用
3.1 放射線の透過性
 3.1.1 光電効果
 3.1.2 コンプトン効果(散乱)
 3.1.3 電子・陽電子対生成
3.2 電離と励起の作用
 3.2.1 電離・励起現象
 3.2.2 水分子の不対電子生成
 3.2.3 直接作用と間接作用

4. 放射線の細胞破壊
4.1 DNAの損傷
 4.1.1 塩基損傷
 4.1.2 DNA鎖切断
 4.1.3 紫外線による損傷
4.2 DNAの修復
 4.2.1 塩基系の修復
 4.2.2 DNA鎖切断の修復
4.3 増殖死と間期死
 4.3.1 細胞分裂の回数と細胞死の関係
 4.3.2 細胞周期と放射線感受性
 4.3.3 細胞周期チェックポイント
4.4 突然変異
 4.4.1 遺伝子突然変異
 4.4.2 染色体異常(染色体突然変異)
4.5 生存率曲線
 4.5.1 ヒット理論
 4.5.2 生存率曲線とLQモデル
4.6 亜致死損傷回復と潜在的致死損傷回復
 4.6.1 亜致死損傷回復(SLDR)
 4.6.2 潜在的致死損傷回復(PLDR)
4.7 細胞のがん化
 4.7.1 多段階発がん
 4.7.2 がん遺伝子とがん抑制遺伝子
 4.7.3 がん抑制遺伝子p53の作用
 4.7.4 DNA修復遺伝子の異常
 4.7.5 アポトーシス機構の異常
 4.7.6 発がん性物質と環境

5. 放射線の組織への影響
5.1 組織と細胞動態
 5.1.1 細胞動態による組織の分類
 5.1.2 組織の放射線感受性
 5.1.3 造血幹細胞と血球
 5.1.4 血球に対する放射線の影響
5.2 急性障害と晩発生障害
5.3 確定的影響と確率的影響
5.4 主たる組織の放射線障害の特徴
 5.4.1 リンパ球と血液がん
 5.4.2 骨髄障害
 5.4.3 生殖器系の障害
 5.4.4 消化器系の障害
 5.4.5 皮膚の障害
 5.4.6 眼・水晶体の障害
 5.4.7 中枢神経の障害
 5.4.8 その他の組織の障害

6. 放射線の人体への影響
6.1 被ばく線量と障害
 6.1.1 被ばく線量と人体の影響
 6.1.2 急性死の被ばく線量と生存時間
 6.1.3 半致死線量(LD50)
6.2 早期放射線障害
6.3 後期障害(免疫力の低下)
6.4 放射線の胎児への影響
 6.4.1 着床・器官形成期の障害
 6.4.2 胎児成長期の障害
 6.4.3 胎児の血液循環と免疫
 6.4.4 胎児の画像診断
6.5 発がんのリスクと遺伝的影響
 6.5.1 リスクの高い疾患
 6.5.2 発がんリスクに影響する生物学的因子
 6.5.3 発がんの遺伝的影響

7. 放射線によるがん治療
7.1 腫瘍組織の放射線感受性
 7.1.1 良性腫瘍と悪性腫瘍
 7.1.2 悪性腫瘍の転移
 7.1.3 腫瘍の放射線感受性
 7.1.4 分割照射と感受性
7.2 放射線療法の種類
7.3 ガンマナイフ
7.4 電子線・X線リニアック
 7.4.1 装置の構成
 7.4.2 加速管と電子ビーム偏向
 7.4.3 X線ターゲット
 7.4.4 照射ヘッド部
 7.4.5 放射線の均一化(平坦用フィルタとスキャッタラ)
 7.4.6 マルチリーフコリメータ(MLC)
7.5 定位放射線照射
 7.5.1 ガンマナイフによる定位放射線照射
 7.5.2 リニアックによる定位放射線照射
 7.5.3 画像誘導放射線治療(IGRT)
 7.5.4 強度変調放射線治療(IMRT)
7.6 陽子線治療
 7.6.1 装置の構成
 7.6.2 照射野の形成
 7.6.3 スポットスキャニング照射法
 7.6.4 動体追跡放射線治療
7.7 重粒子線(炭素線)治療

8. 放射線防護と安全管理
8.1 国際法の経緯と安全管理
8.2 放射線治療事故の事例
8.3 操作ミスの要因
8.4 放射線治療に携わるスタッフの教育・研修
8.5 安全対策
 8.5.1 安全性の考え方
 8.5.2 人為的ミスの安全対策

引用・参考文献
索引

木村 雄治(キムラ ユウジ)

掲載日:2022/12/13

日本生物物理学会誌「生物物理」Vol. 62 No. 6

掲載日:2019/10/05

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