機械音響学
騒音対策,音響利用などと関連して,機械音響学が重要となっている。本書は機械系の学生,技術者を対象に,機械音響学を解説した入門書である。音場解析,静音化技術,振動連成問題の解析,数値解析法などを扱っている。
- 発行年月日
- 2004/07/16
- 判型
- A5
- ページ数
- 236ページ
- ISBN
- 978-4-339-04573-4
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
騒音対策,音響利用などと関連して,機械音響学が重要となっている。本書は機械系の学生,技術者を対象に,機械音響学を解説した入門書である。音場解析,静音化技術,振動連成問題の解析,数値解析法などを扱っている。
音響学はこれまで,電気音響学や建築音響学として発展し,それぞれ電気工学や建築工学の分野において重要な役割を果たしている。これに対し機械工学の分野の機械音響学は,騒音対策の必要性が高まるに伴って,あるいは音響利用が進むにつれて,近年急速に重要性を増している。
電気音響学や建築音響学の分野では,これまで多くの著書が出版されている。これに対し,機械音響学の分野の著書は少ない。このため機械系の学生,技術者が音響学を学ぶには,他分野を指向した著書を通して学ぶことを余儀なくされることが多く,学びやすい状況になかった。本書は,機械系の学生,技術者を対象として,これらの学生,技術者に読みやすい著書となることを心がけて,機械音響学の基礎を解説したものである。好評を博している著者の前著「振動工学(基礎編,応用編)」(コロナ社)と全体の基調は同じになっているので,機械系の学生,技術者には,同著と同じように読んでいただけると思っている。
本書で取り上げた項目はつぎのようである。まず数学的な準備をした後,波動方程式を導いた。つぎに波動方程式に基づいて,平面波の伝播,管路の中の音波,自由空間の音波,閉空間の中の音波などの諸問題を扱った。これらの章の聞の適当な位置に,工学的に重要な静音化技術を扱った章を設けた。また機械音響学では,音振動連成問題は重要であるので,その基礎となる弾性体の振動の章と,音振動連成問題の章をそれぞれ設けた。最後に,設計現場で必須のツールとなっている有限要素法や境界要素法を適切に使いこなすために,これらの方法の基本的な考え方を三つの章にわたって解説した。
本書を著すにあたって著者が心がけたことは,上述の前著と同じように,全体を統一して取り扱うことである。統一した取扱いとするため,本書の各章のかなりの部分で式展開を新たに行った。細心の注意を払い,ひとつひとつ納得しながら式展開を進めたつもりであるが,思わぬ誤謬があることを恐れる。もしお気づきの点があったらお手数でも著者までお知らせいただきたい。
本書は,いくつかの企業で、行った研修の資料と名古屋大学などで行った講義のノートをもとにし,企業との共同研究の際の資料を追加してできあがったものである。研修や講義の際に寄せられた質問やコメントは,本書を仕上げるにあたってきわめて有用であった。
本書の原稿に対して,同僚,後輩,学生から貴重なコメントをいただいた。本書を改善するのにこれらのコメントを役立たせていただいた。お名前は申し上げないが,これらの方々に感謝申し上げたい。
本書が,機械音響学を学ぶうえで読者に少しでも役立ち,あるいはこの分野の発展にいささかでも貢献することがあれば,著者にとってはこのうえない大きな喜びである。
2004年5月
安田仁彦
1.緒論
1.1 音響学
1.2 フーリエ解析
1.2.1 オイラーの公式
1.2.2 フーリエ級数
1.2.3 フーリエ積分
演習問題
2.波動方程式
2.1 音波
2.2 1次元の波動方程式
2.3 2次元と3次元の波動方程式
2.4 種々の座標系における波動方程式
演習問題
3.平面波の伝播
3.1 平面波
3.1.1 基礎式
3.1.2 調和運動する振動板による平面波
3.1.3 非調和運動する振動板による平面波
3.1.4 平面波の伝播
3.1.5 調和波の伝播
3.2 音圧と音の強さ
3.2.1 音圧と音圧レベル
3.2.2 音のエネルギーと音の強さ
3.3 2次元と3次元の波動方程式に基づく平面波
3.3.1 2次元波動方程式に基づく平面波
3.3.2 3次元波動方程式に基づく平面波
3.4 音波の反射と透過
3.4.1 反射と透過
3.4.2 反射と屈折
演習問題
4.管路の中の音波
4.1 一様断面の管路
4.1.1 半無限長の管路
4.1.2 閉口管路
4.1.3 開口管路
4.1.4 音響インピーダンス密度が与えられた値となる管路
4.2 断面が連続的に変化する管路
4.3 複雑な管路
4.3.1 断面が不連続に変化する管路
4.3.2 空洞が結合された管路
演習問題
5.遮音と吸音
5.1 遮音
5.2 平板による遮音
5.2.1 斜入射の音波の遮音
5.2.2 コインシデンス効果
5.3 吸音
5.4 吸音材による吸音
5.4.1 多孔質吸音材
5.4.2 膜状吸音材
5.4.3 共鳴形吸音材
5.5 消音器における遮音と吸音
5.5.1 吸音形消音器
5.5.2 リアクタンス形消音器
5.5.3 共鳴形消音器
演習問題
6.弾性体の振動
6.1 膜の振動
6.1.1 運動方程式
6.1.2 自由振動
6.1.3 モード関数の直交性
6.1.4 自由振動と初期条件
6.1.5 強制振動
6.2 板の振動
6.2.1 運動方程式
6.2.2 自由振動
6.2.3 モード関数の直交性
演習問題
7.自由空間への音波の放射
7.1 球面波
7.1.1 基礎式
7.1.2 呼吸球による球面波
7.2 点音源と二重音源による音波
7.2.1 点音源による音波
7.2.2 二重音源による音波
7.3 平面音源による音波
7.3.1 平面音源による音波
7.3.2 放射インピーダンス
7.4 弾性振動板による音波
演習問題
8.閉空間の中の音波
8.1 1次元閉空間の中の音波
8.1.1 閉口管路
8.1.2 開口管路
8.2 2次元閉空間の中の音波
8.2.1 長方形の閉空間
8.2.2 円形の閉空間
8.3 3次元閉空間の中の音波
8.3.1 直方体の閉空間
8.3.2 円筒形の閉空間
演習問題
9.音振動連成問題
9.1 1次元閉空間の音振動連成問題
9.1.1 固有振動
9.1.2 振動板による音波
9.2 2次元と3次元の閉空間の音振動連成問題
9.2.1 2次元と3次元の閉空間の音振動連成問題
9.2.2 固有振動
演習問題
10.有限要素法・境界要素法の数学基礎
10.1 重みつき残差法
10.1.1 基本的な考え方
10.1.2 微分方程式を近似する重みつき残差法
10.1.3 微分方程式と境界条件を近似する重みつき残差法
10.2 微積分の公式
10.2.1 方向微分
10.2.2 1次元の部分積分の公式
10.2.3 グリーンの補助定理
10.2.4 2次元と3次元の部分積分の公式
演習問題
11.有限要素法による音響解析
11.1 1次元の音響問題
11.1.1 1次元の音響問題の例
11.1.2 要素分割と未知関数の表示
11.1.3 基本境界条件からなる問題の解析
11.1.4 未知定数の決定
11.1.5 自然境界条件を含む問題の解析
11.1.6 連立方程式の係数の計算
11.2 2次元の音響問題
11.2.1 2次元の音響問題の例
11.2.2 要素分割と未知関数の表示
11.2.3 重みつき残差の条件式
11.2.4 未知定数の決定
11.3 3次元の音響問題の例
11.3.1 3次元の音響問題の例
11.3.2 要素分割と未知関数の表示
11.3.3 重みつき残差の条件式
11.3.4 未知定数の決定
演習問題
12.境界要素法による音響解析
12.1 数学的な準備
12.2 1次元の音響問題
12.2.1 1次元の音響問題の例
12.2.2 重みつき残差の条件式
12.2.3 基本解
12.2.4 境界法による解析
12.3 2次元の音響問題
12.3.1 2次元の音響問題の例
12.3.2 重みつき残差の条件式
12.3.3 基本解
12.3.4 境界積分方程式
12.3.5 境界積分方程式の離散化
12.3.6 無限領域を含む音響問題
12.4 3次元の音響問題
演習問題
参考文献
演習問題略解
索引