責任ある人工知能ロボット - 倫理・法・社会的観点から考える未来 -
人を幸せにするAI社会を造るAIロボット開発における倫理・法・社会的課題にアプローチ
- 発行予定日
- 2026/05/下旬
- 判型
- A5
- 予定ページ数
- 240ページ
- ISBN
- 978-4-339-03405-9
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
AIに対する倫理的・社会的課題への対応が急務となる中,AI倫理原則と社会実装の間には大きな隔たりがある。本書では人を幸せにするAI社会を造るため,にAIロボット開発における倫理的・法的・社会的課題についてアプローチ。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
I.人工知能(AI)ロボットがもたらす新たなチャンスとリスク
人類の歴史において,科学技術はこれまで新たなチャンスをもたらすと同時に,リスクももたらしてきた。科学技術の進歩は諸刃の剣であり,AIやロボット技術も例外ではない。生成AIの出現は,産業革命以降,インターネットの登場にも匹敵するほどの大きな社会的インパクトを与えるといわれている。
AIがもたらす最大のチャンスは,「多様性と包摂」の社会を創発させる可能性であろう。AI社会では,日常生活において収集,共有されたビッグデータからAIが学習し分析することによって,防犯や交通,農業,建設,医療や看護,介護,家事などさまざまな分野において予測や最適化が可能となる。生成AIは,仕事の効率化や労働力不足の解消,新薬や治療法の開発など,イノベーションの加速にも大きく寄与している。さらに,AIロボットのパーソナル化が進むことによって,自分に合ったサービスや機会を得ることができるようになる。このようなAI環境において個々人が「拡張された知能」を身につけることにより,自らの想像力や創造力を発揮し,これまでできなかったような自己実現が可能になるだろう。
しかしながら同時に,AIは新たなリスクも顕在化させている。ビッグデータに内在する偏りにより,差別や排除,社会的格差が強化される危険性はすでに指摘されている。生成AIは,誤情報・偽情報の拡散,著作権侵害,大衆操作などの社会的不安を増幅させる側面も持つ。また,AIやロボットへの過度な依存や,慣れ親しんだ仕事の喪失によって,自らの存在意義が揺らぎ,「アイデンティティ・クライシス」に直面する可能性も否定できない。その延長線上には,社会全体の不安定化という深刻なリスクが存在している。
II.提言:『ヒューマン・ファースト・イノベーション』
2050年の社会が大きな混乱に陥らずに,人を幸せにする持続可能な社会となるためにはどうしたらよいのだろうか。編者が提唱してきた「ヒューマン・ファースト・イノベーション」について述べていく。「ヒューマン・ファースト・イノベーション」(図1)には,三つの重要な要素がある。それは,「ヒューマンファースト」,「文理融合」,そして「自己創造」である。

現在,世界各国でAI倫理に関する多様な原則が提示されている。政府主導の枠組みのみならず,企業,世界経済フォーラム,OECD,国連関連機関など,その担い手は多岐にわたる。これまでの国際的議論,ガイドライン,報告書,提言を踏まえると,共通して重視されているAI倫理の要素として,2章で詳述するとおり,人類全体の幸福の増進,人間中心,人権尊重,個人の尊厳と自律,サステナビリティ,多様性,公平性,正確性,透明性,アカウンタビリティ,プライバシー保護,安全性などが挙げられる。
なかでも,国際的に最も重要とされているのが,「人間中心」の原則である。これは,技術そのものを中心に据えるのではなく,まず人間や生き物の尊厳を基軸に据えて考えるべきだという立場を意味する。その上で重要となるのが,「技術ファースト」からの転換である。
日本は戦後復興を経て技術立国としての競争力を維持してきたが,近年はデジタル化の遅れも指摘され,AIやロボットを活用したDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進が重視されている。DXとは単なるデジタル化ではなく,デジタル技術を活用して人々の幸福や社会の質を高めるための転換である。そのためには,技術の高度化そのものを目的とするのではなく,AIやロボットをいかに活かして生活を豊かにするかという「ヒューマン・ファースト」の視点が不可欠である。
さらに,新たなテクノロジーによって国境を越えた相互依存が加速する現代において,持続可能な社会を実現するためには,一国の利益のみを優先する「ネーション・ファースト」では不十分である。求められているのは,地球規模で全人類の幸福を視野に入れ,「多様性と社会的包摂」を中核に据えたグローバルな「ヒューマン・ファースト」の姿勢である。
また,イノベーションを社会に根づかせるためには,「文理融合」の視点が不可欠である。本書は,理工系のAIロボット研究者や医療専門家とともに参画した内閣府主導の「ムーンショット型研究開発制度」†の成果の一部を含んでいる。同プロジェクトでは,私たちが直面する社会課題を解決するために,技術的課題にとどまらず,倫理・リスク・社会的受容性を含む総合的なアプローチが求められてきた。
AIがもたらす最大のリスクとして,しばしば失業の問題が指摘される。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)は,膨大な「無用者階級」創出の危険性を示し,AI時代において「人間が取り残されないためには,一生を通じて学び続け,繰り返し自分を作り変えるしかなくなるだろうと述べている。
AIやロボットの導入が加速する変動の時代において,人々がアイデンティティの喪失に陥ることなく,いかにして幸福な人生を築いていけるのか。本書が掲げる「ヒューマン・ファースト・イノベーション」の第三の柱,すなわち「自己創造(self-creation)」は,この問いに対する重要な手がかりとなる。
ヒューマン・ファーストな社会とは,人々が自己を創造し続けるための多様な機会と環境を提供する社会である。AIやロボットがもたらす変化は,失業などの否定的側面だけではなく,個性や創造性を発揮し,新たな可能性を切り拓く契機にもなりうる。だからこそ私たちは,AI環境に適応しつつ,これまで以上に自己を創り続けるための叡智を身につけていく必要がある。
III.本書の構成
AIに対する倫理的・社会的課題への対応が急務となる中,世界中でAI倫理の議論が活発化し,数多くの原則が提示されてきた。しかしながら,AIロボット倫理学の第一人者である哲学者マーク・クーケルバーグ(Mark Coeckelbergh)は,著書「AIの倫理学」の中で,「大量の指針や政策文書の雪崩現象が起こった」(上記翻訳書,p.126)にもかかわらず,これらのAI倫理原則と社会実装の間には依然として大きな隔たりが存在するとつぎのように警鐘を鳴らしている。
倫理原則を列挙することと,実際にそれらの倫理原則をどのように実装するかを考えることとは,まったく違うことである。
…私たちが実際に何をしたらいいのかという点は不明確なままなのである。(p.139)
本書では,こうした問題意識に立脚し,「人を幸せにするAI社会」を創造するために,AIロボット開発において必要な倫理的課題(1章,2章),法的課題(3章,4章),社会的課題(5章,6章)についてアプローチしていく。
1章では,スマートロボットに関して,技術観・人間観・自然観の再考という現代的な課題を背景に,システム論・メディア論の観点から解説する。2章では,倫理および技術倫理の基礎を概説した上で,AI倫理・スマートロボット倫理を整理し,開発者が重視すべき「スマートロボット倫理基本方針」を提示する。
AI倫理を実装へと橋渡しするには,ガバナンスの構築が不可欠である。本書では,内閣府「ムーンショット型研究開発制度」目標3「一人に一台一
生寄り添うスマートロボットAIREC」を例に,法学的観点からガバナンスを考察する。
3章では,スマートロボットに関する主要な法的課題を整理し,規制とガバナンスの基本的方向性,ガバナンス構築に向けた論点を提示する。4章では,弁護士の実務的視点から,国内法規範のケーススタディや欧州AI法への体系的な当てはめを通して,開発から社会実装までの法的論点を具体的に検討する。
いかに技術が優れていても,人々に受け入れられなければ社会的インパクトは生まれない。また,倫理や法は社会的・文化的文脈に深く根差している。したがって,今日のグローバル社会においてAIロボットを社会実装するためには,国際的な社会的受容性(ソーシャル・アクセプタンス)への理解が不可欠である。
本書では,この普遍性と文化的特殊性の両面を検討するため,次世代を担う若者を対象とした国際比較調査から,AIロボットに対する態度・意識・ニーズ・社会的受容性を明らかにする。
5章では,日本・英国・米国の計6000名を対象としたサーベイ調査に基づき,AIに対するリスク認知を分析する。6章では,AIがもたらす社会的インパクトを理解するための理論枠組みとして「コミュニケーションの複雑性モデル」を導入する。日英米に加え,チリ,中国,シンガポール,スペインを含む7か国の現地研究者による詳細なインタビュー調査により,AIロボットの社会的受容性を多層的に捉える。特に,個人,社会集団,社会,世界という多層構造の各レベルにおいて,AIロボットがもたらす新たなチャンスとリスクに注目する。最後に,若者が2050年の未来社会に求める理想像とAIロボットの社会的役割を総括し,「ヒューマン・ファースト・イノベーション」の核心概念である「自己創造(self-creation)」を提示する。
本書における倫理・法・社会的観点からの多面的な考察が,人間の尊厳を根幹に据えつつ,未来のAI社会のあり方を構想するための理論的・実践的視座を提供し,人を幸せにする持続可能な未来の創成に寄与することを願うものである。
ここに,本研究の一部は,JST【ムーンショット型研究開発事業】グラント番号【JPMJMS2031】の支援を受けたものである。
2026年4月
高橋利枝
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1.人の暮らしとスマートロボット
1.1 人の暮らしから技術を考える
1.1.1 未来の技術を考える
1.1.2 暮らしの中から惑星的に考える
1.2 情報学的転回
1.2.1 生命情報・社会情報・機械情報
1.2.2 技術哲学
1.2.3 情報学的人間観
1.3 ネオ・サイバネティクス
1.3.1 古典サイバネティクスとネオ・サイバネティクス
1.3.2 生物と機械のシステム論的差異:オートポイエーシス
1.4 階層的自律コミュニケーション・システム
1.4.1 人間社会のシステム論的モデル
1.4.2 HACS
1.4.3 HACSにおける機械の位置づけ
1.5 メディア・アプローチ
1.5.1 基礎情報学におけるメディア概念:伝播メディアと成果メディア
1.5.2 人間の自律性と技術的人工物の道徳的行為者性・被行為者性
引用・参考文献
2.技術倫理の構築:AIロボットを中心に
2.1 倫理の基礎
2.1.1 倫理
2.1.2 倫理理論の立場
2.2 技術倫理
2.2.1 技術倫理の重要性
2.2.2 ELSI・RRI
2.3 AI倫理
2.3.1 AI倫理の共通点
2.3.2 AI倫理の特徴
2.3.3 生成AIが引き起こした議論
2.4 スマートロボット倫理
2.4.1 スマートロボット倫理の指針
2.4.2 スマートロボットで特に重視すべき点
2.5 まとめ
引用・参考文献
3.スマートロボットの規制とガバナンス
3.1 はじめに
3.2 スマートロボットのソフト面の規制とハード面の規制
3.2.1 スマートロボットのソフトウェアとハードウェア
3.2.2 スマートロボットのソフト面の規制
3.2.3 スマートロボットのハード面の規制
3.3 スマートロボットのガバナンス
3.3.1 スマートロボットのネットワークと多層的なガバナンスの必要性
3.3.2 グローバル・ガバナンス
3.3.3 国家・国家連合のレベルでのガバナンス
3.3.4 地域社会にけるガバナンス
3.3.5 企業におけるガバナンス
3.3.6 スマートロボットのガバナンスにおけるデザインの役割と限界
3.4 おわりに
引用・参考文献
4.スマートロボットの法的問題
4.1 スマートロボット「AIREC」
4.2 AIRECについての国内法規範に関するケーススタディ
4.2.1 法規範の概要
4.2.2 行政法規
4.2.3 民事法
4.2.4 刑事法
4.2.5 ケーススタディ
4.3 AIRECと欧州AI Act
4.3.1 AIRECの当てはめ
4.3.2 今後の課題など
4.4 求められる法的検討の深化
引用・参考文献
5.AIロボットへの理解とリスク認知:日英米の比較から
5.1 若者はAI・ロボットのリスクをどう捉えているのか
5.1.1 データ
5.1.2 AIのリスク認知は3国でどう違うのか
5.1.3 だれがAIを恐れているのか
5.1.4 AIの仕組みの理解とリスク認知
5.2 AI・ロボットのリスク認知×理解とイメージ・態度
5.2.1 AIのリスク認知×理解と全般的な印象
5.2.2 AIのリスク認知×理解とイメージ
5.2.3 AIのリスク認知×理解と具体的な課題・問題への態度
5.3 AI・ロボットのリスク認知×理解と具体的ケース
5.3.1 仕事におけるAI・ロボットの利活用に対する意識
5.3.2 家庭や評価などでのAI・ロボットの利活用に対する意識
5.3.3 医療におけるAI・ロボットの利活用に対する意識
5.3.4 政治的な意思決定への利活用
5.4 AI・ロボットのリスク認知と理解
引用・参考文献
6.ヒューマン・ファースト・イノベーション:人を幸せにするAI社会の創造に向けて
6.1 コミュニケーションの複雑性モデル:AIがもたらす社会的インパクトを捉える理論枠組み
6.1.1 複雑系のパラダイム
6.1.2 AI社会と「コミュニケーションの複雑性モデル」
6.1.3 個人の相互作用とAIエンゲージメントの概念
6.2 AIがもたらす新たなチャンスとリスク(AIエンゲージメントに関する国際プロジェクトより)
6.2.1 プロジェクトGenZAI
6.2.2 個人のレベル:AIナラティブと日常生活における個人とAIロボットとの相互作用
6.2.3 社会集団のレベル
6.2.4 社会・世界のレベル
6.3 ヒューマン・ファースト・イノベーション:人を幸せにするAI社会の創造に向けて
6.3.1 2050年理想の社会
6.3.2 AIロボットの社会的役割と開発における留意点
6.3.3 自己創造
引用・参考文献
索引
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