ベイズ画像処理の基礎
マルコフ確率場と呼ばれる確率的グラフィカルモデルに基づく画像処理の入門書
- 発行予定日
- 2025/12/下旬
- 判型
- A5
- ページ数
- 292ページ
- ISBN
- 978-4-339-02955-0
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
【読者対象】
・線形代数学や微積分学を学んだ確率的画像処理に興味を持つ学部生
・画像処理を学んだ工学部生,大学院生
【書籍の特徴】
本書はマルコフ確率場と呼ばれる確率モデルを用いた画像処理に関する入門書である.グラフ理論,確率分布といったマルコフ確率場へとつながる基礎的内容から始め,ベイズ推定に基づく画像処理の方法であるベイズ画像処理の基本的な方法論について解説している.
【各章について】
1章:画像処理の基本的な事項について解説している.本章の内容は通常の画像処理の授業でも扱われる内容と思われる.
2章と3章:以降の章で必要となるグラフ理論と数値最適化の基礎的な内容を紹介している.
4章と5章:ベイズ画像処理の基礎となる確率モデルの扱い方について解説する.確率分布の扱い方と様々な有名な確率分布を紹介し,事後分布を用いたベイズ推定の方法について解説している.
6章:ベイズ画像処理でよく用いられる確率的グラフィカルモデル,特にマルコフ確率場について扱う.無向グラフ表現をもつ確率分布であるマルコフ確率場を定義し,ポテンシャル関数を用いたマルコフ確率場の構成法について解説している.
7章:マルコフ確率場に対する確率的近似計算法である平均場近似と確率伝搬法について解説している.カルバック-ライブラ情報量を導入し,確率分布の置き換えによる近似計算法を導出している.
8章:二値画像という簡単な画像形式を題材としてベイズ画像処理の基本的な流れを解説する.ベイズの定理を用いた事後分布の導出法を紹介し,事後分布に基づいてどのように画像処理を行うのかを解説している.
9章:画像処理問題におけるパラメータの扱い方について扱う.確率モデルを用いた場合に観測画像から直接パラメータを推定する方法について解説している.
10章と11章:一般的な画像形式に対する応用である.8章と9章で扱った内容を用いて,一般的な形式の画像に対してベイズ画像処理を行う場合にどのような方針があるのか,その一例を紹介している.
【著者からのメッセージ】
確率モデルを用いた画像処理の方法は画像処理,グラフ理論,確率分布等様々な分野の知識を必要とし,初学者には学習しづらい面があります.本書ではベイズ画像処理の方法を学習するのに必要と思われる各分野の基礎部分はできるだけ盛り込むように心がけました.本書が画像処理を学ぶ全ての方々の一助になれば幸いです.
【キーワード】
確率モデル,画像処理,ベイズ推定,マルコフ確率場
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
世の中は不確実なことがたくさんある.むしろ不確実であることが当たり前ともいえる.われわれは不確実性によるさまざまな可能性を考慮しながら物事を判断しなければならない.不確実性の存在は画像処理の分野に限っても同様であり,画像処理を数理的に扱うためには,ノイズや類似物体の存在といったさまざまな不確実性を正しく扱わなければならない.
本書は,マルコフ確率場と呼ばれる確率的グラフィカルモデルに基づく画像処理の入門書である.確率モデルに基づく画像処理の方法は,確率・統計のほかにグラフ理論や数値最適化等のさまざまな知識を必要とし,一般的な画像処理の書籍では扱われる機会が少ない方法論である.そのため,本書ではマルコフ確率場に基づく画像処理の方法について,必要となる基礎知識をできるだけ網羅することを意識して執筆を行った.大学初年度で学ぶ微積分と線形代数の知識を仮定して,本分野を勉強していくのに必要な最低限の内容をできるだけまとめたつもりである.扱った内容にはできるだけ具体例を紹介するように心がけたつもりである.これらが読者の理解に少しでも役立てば幸いである.
本書は全部で11章からなっている.まず,1章では画像処理についてごく簡単に説明している.2章から5章ではマルコフ確率場を用いた画像処理法を理解するのに必要となるグラフ理論や数値最適化法,確率分布とベイズ推論といったさまざまな分野の基礎的内容について順番に解説している.6章と7章では確率モデルを用いたモデリング法である確率的グラフィカルモデルについてその基礎部分を解説している.以降の章では,本書のメイン内容となるマルコフ確率場に基づく画像処理の方法について,ノイズ除去問題を題材にして解説している.8章でマルコフ確率場のモデリング技術を応用したベイズ画像処理の基礎について解説し,9章ではパラメータの扱い方を,10章と11章ではより現実的な設定でのノイズ除去問題を扱っている.
時間的問題や分量的な問題により,本書では画像処理の問題としてノイズ除去問題しか扱うことができなかった.ベイズ的扱いについても,半ベイズ的な扱いにとどめ,完全なベイズ的扱いまでを紹介するには至らなかった.マルコフ確率場に基づく画像処理の方法はさまざまな画像処理問題に応用されており,その多くを紹介することができなかったのは心残りである.その他の画像処理問題への応用については,巻末の引用・参考文献にその一部を挙げている.本書がこの分野を学ぼうとする人たちに少しでも理解の助けとなれば幸いである.
最後に,本書を執筆する機会をくださったコロナ社を始め,関係者の方々に心から感謝申し上げます.
2025年8月
片岡 駿
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1.画像処理
1.1 画像の数値表現
1.2 画像数値の管理
1.3 画像処理
1.4 畳み込みとフィルタ
1.5 平滑化フィルタ
1.6 画像処理結果の評価
2.グラフ理論
2.1 グラフ
2.2 部分グラフと誘導部分グラフ
2.3 無向グラフ
2.4 有向グラフ
2.5 重み付きグラフ
2.6 最大流問題
2.7 残容量グラフ
2.8 プリフロープッシュ法
2.9 最小カット問題
3.数値最適化法
3.1 非線形計画問題
3.2 凸計画問題
3.3 関数の勾配
3.4 ヘッセ行列
3.5 最急降下法と最急上昇法
3.6 共役勾配法
3.7 ヤコビ法とガウス・ザイデル法
3.8 反復法と縮小写像
4.確率分布
4.1 確率質量関数と確率密度関数
4.2 確率質量関数と確率密度関数
4.3 周辺分布と和の規則
4.4 条件付き分布と積の規則
4.5 ベイズの定理
4.6 期待値
4.7 確率変数の変数変換
4.8 カテゴリカル分布
4.9 正規分布
4.10 多次元正規分布
4.11 ガンマ分布
4.12 ベータ分布
4.13 スチューデントのt分布
4.14 混合分布
5.ベイズ推定
5.1 ベイズ推定
5.2 事後分布の設計
5.3 共役事前分布
5.4 正規分布の平均に関する共役事前分布
5.5 正規分布の精度に関する共役事前分布
5.6 正規分布の平均と精度に関する共役事前分布
5.7 混合正規分布と正規分布,カテゴリカル分布との関係
5.8 t分布と正規分布,ガンマ分布との関係
6.確率的グラフィカルモデル
6.1 条件付き独立性
6.2 無向グラフの分離
6.3 確率分布の無向グラフ表現とマルコフ性
6.4 マルコフ確率場
6.5 ギブス確率場
6.6 マルコフ確率場とギブス確率場の等価性
6.7 ベイジアンネットワーク
7.確率分布の近似計算法
7.1 カルバック・ライブラ情報量
7.2 確率分布の因子グラフ表現
7.3 変分自由エネルギー
7.4 平均場近似
7.5 確率伝搬法
7.6 因子グラフと確率伝搬法
8.ベイズ画像処理の基礎
8.1 ベイズ推定と画像処理
8.2 二値画像処理の例:問題設定
8.3 二値画像処理の例:ノイズ過程のモデル化
8.4 二値画像処理の例:事前分布のモデル化
8.5 二値画像処理の例:事後分布の導出
8.6 二値画像処理の例:平均場近似による推定
8.7 二値画像処理の例:確率伝搬法による推定
8.8 二値画像処理の例:グラフカット
9.パラメータの扱い
9.1 パラメータ設定の影響
9.2 最尤推定
9.3 正規分布に対する最尤推定
9.4 EMアルゴリズム
9.5 混合正規分布に対するEMアルゴリズム
9.6 画像処理モデルのパラメータ推定
10.離散マルコフ確率場を用いた確率的ノイズ除去モデル
10.1 8bit画像に対する確率的ノイズ除去モデル
10.2 確率伝搬法によるMPM推定
10.3 EMアルゴリズムによるパラメータ推定
10.4 8bit画像に対する確率的ノイズ除去アルゴリズム
11.ガウシアングラフィカルモデルを用いた確率的ノイズ除去モデル
11.1 連続的な実現値を持つ確率的ノイズ除去モデル
11.2 事後分布からのMAP推定
11.3 EMアルゴリズムによるパラメータ推定
11.4 ガウシアングラフィカルモデルを用いた確率的ノイズ除去アルゴリズム
付録
A.1 本書でおもに使用する表記
A.1.1 集合に関する表記
A.1.2 関数の最大・最小に関する表記
A.2 ベクトル・行列の微分と積分
A.2.1 ベクトル・行列の微分
A.2.2 ベクトル・行列の積分
A.3 ガンマ関数とベータ関数
A.3.1 ガンマ関数
A.3.2 ガンマ分布の平均と分散
A.3.3 ガンマ関数とベータ関数の関係
A.3.4 ベータ分布の平均と分散
A.4 正規分布とガウス積分
A.4.1 一変数のガウス積分
A.4.2 正規分布の平均と分散
A.4.3 コレスキー分解
A.4.4 多次元ガウス積分
A.4.5 多次元正規分布の平均と分散
A.5 多次元正規分布の周辺分布と条件付き分布
A.5.1 シューア補行列と逆行列の関係
A.5.2 多次元正規分布の周辺分布
A.5.3 多次元正規分布の条件付き分布
A.6 定理6.4の証明
A.6.1 マルコフ確率場の大域的グローバル性
A.7 定理6.6の証明
A.7.1 Hammersley-Cliffordの定理
A.8 ラグランジュの未定乗数法
A.8.1 線形等式制約に対するラグランジュの未定乗数法
A.9 確率伝搬法の導出
A.9.1 ベーテ自由エネルギーと確率伝搬法
A.10 グラフラプラシアンの対角化
A.10.1 一次元離散フーリエ変換
A.10.2 一次元鎖のグラフラプラシアン
A.10.3 二次元離散フーリエ変換
A.10.4 正方格子のグラフラプラシアン
A.10.5 ガウシアングラフィカルモデルへの応用
引用・参考文献
索引








