もう一歩先へ進みたい人の 化学でつかえる線形代数

もう一歩先へ進みたい人の 化学でつかえる線形代数

化学分野の諸問題に潜む線形代数の要素を,化学専攻の目線から解体・解説する。

ジャンル
発行予定日
2025/06/中旬
判型
A5
ページ数
224ページ
ISBN
978-4-339-06133-8
もう一歩先へ進みたい人の 化学でつかえる線形代数
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定価

3,740(本体3,400円+税)

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  • 内容紹介
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  • 広告掲載情報

学生:「これって『化学で使える線形代数』なんですか?」
教授:「ええ,でも『化学で閊(つか)える線形代数』ともかけてるんですよ」
学生:「あー,ダジャレなんですね。それにしても“閊える”ってすごい字ですね,門の中に山って」
教授:「しかも,困難を乗り越える“Hurdling”と,使いこなす“Handling”もかけてるんです」
学生:「あー,はいはい。でも線形代数って化学に必要なんですか?」
教授:「話すと長くなるけれども,・・・(以下略)」

本書は化学を専攻している人の視点で書いた線形代数の本です。化学ではいろいろな問題に出会いますが,その中には線形代数的な要素を隠しもったものがたくさんあります(特に化学系の学生にとって,量子化学のつまづきは,ほぼ線形代数部分でのつまづきです)。本書ではその中から代表的なものを拾いあげ,線形代数の顔をあらわにしながら,あわせて線形代数の用語やルールを説明していこうと考えました。

本書の構成は,以下の通りです。
はじめに: 代数とは? 線形とは? の問に始まり,線形代数の主役である行列を紹介します。線形代数がわかると何がうれしいか,その入り口を少しだけ案内します。
第1章 分子構造: 直交座標軸上に表した原子位置の移動(並進・回転)を通じて,行列計算のルールや逆行列の意味がわかります。
第2章 結晶格子: 斜交座標系の具体例として結晶格子を扱い,結晶格子のいろいろな変形を通じて行列式の意味がわかります。結晶学で必須の逆格子から,反変成分,共変成分,計量テンソルにまで話は広がります。
第3章 対称性と群論: 分子や結晶の対称性を記述する群論について解説します。指標表や既約表現が使いこなせるようになります。壁紙群や空間群を数学的に表現するアフィンという考え方も紹介します。
第4章 分子力学: 分子の回転運動を通じて,固有値と固有ベクトルの意味がわかります。テンソルの考え方を紹介し,これを使って分子内部の変形について考えます。分子の基準振動から,基底の直交化にまで話は広がります。
第5章 多変量解析: データやスペクトルの処理を例にとり,最小二乗法や相関係数などを線形代数のことばで解説します。主成分分析による次元削減の操作を通じて,固有値分解や特異値分解の意味がわかります。
第6章 量子化学: ベクトルの抽象化を通じて,なぜ波動関数の二乗が存在確率を表すのかがわかります。分子軌道理論が線形代数のことばで語られ,計算結果の意味がわかるようになります。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます


本書は化学を専攻している人の視点で書いた線形代数の本です。線形代数は数学の一分野ですが,大学の化学系学科でも1年次に必修となっているところが少なくありません。線形代数は化学を専攻する人にとって必要なのでしょうか?私は,「絶対に必要」というわけではないと思いますが,線形代数を知ることによって化学を理解したり,研究したりするためのツールが増えることは確かです。本書の目的の一つは,そうした「化学で使える線形代数」を紹介することです。一方で,数学が不得手なばかりに肝心の化学の理解や研究に支障をきたすケースも多々あるのではないかと感じています。そういう意味で本書のもう一つの目的は「化学でつかえる線形代数」を攻略することにあります。線形代数とはどんな数学で,化学とどのようなつながりがあるのでしょうか?そもそも「線形」や「代数」とは何なのでしょうか?
 
■代数とは?
代数とは,数の代わりに文字式を使って計算を行う学問のことです。代数を利用したものに,誕生日を当てるマジックというのがあります。まず相手に誕生日などの4桁の数字を思い浮かべてもらいます。「月の数字を2倍して」などと言葉巧みにいっていくつかの暗算をしてもらい,最後の答えを聞きます。バリエーションは無数にありますが,最後の答えは最初の数字に250を足したもの,など単純になるように仕掛けがあります。種を知らない相手は一見無意味な計算を繰り返しさせられることですっかり煙に巻かれてしまいますが,一連の手続きを文字式で書けば
4桁の数字(100x+y)⇒月の数字を2倍する(2x)
⇒それに5を足す(2x+5)⇒それに25をかける(50x+125)
⇒それに日の数字を足す(50x+125+y)
⇒それを2倍する(100x+250+2y)
⇒日の数字を引く(100x+y+250)
という具合に明快です。いちいち実際の数を使って計算しなくても,その数の間にある関係を浮かび上がらせ,構造を明らかにする力が代数にはあります。
 
■「線形」とは?(ショートアンサー)
一方,「線形」の説明としてつぎのような例を挙げましょう。Xさんが青果店でみかんをx個買うとします。みかんの単価がaであればXさんが支払う額yは

y=ax(0.1)

で求められます。式(0.1)は正比例の式でもあります。みかんの個数が多くなればなるほど,それに比例して支払額は増加します。正比例のグラフは直線なので,ここでいう個数と総額のような関係を「線形である」といいます。

(中略)

化学ではいろいろな問題がありますが,その中には線形代数的な要素を隠しもったものがたくさんあります。本書ではその中から代表的なものを拾いあげ,線形代数の顔をあらわにしながら,あわせて線形代数の用語やルールを説明していこうと考えました。そういう点で,この本はほかの多くの線形代数の本とは構成が大きく異なります。化学者の目線を優先し,あえて既存の教科書の構造を解体してみようと試みた結果です。線形代数学としての体系が分断されてわかりにくいと感じる人もいるかもしれませんが,体系化された線形代数の良書は数多く出ていますから,そちらもあわせてご参照されるとよいと思います。
 
本書執筆にあたり,元産業技術総合研究所(現東京大学上席研究員)・都築誠二氏,東京大学准教授・南豪氏,東京大学講師・中川慎太郎氏には原稿を通読していただき多くの有益なご指摘をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 
2025年5月
北條博彦

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1.分子構造
1.1 分子の形を数値で表す
 1.1.1 座標軸と基底
 1.1.2 ベクトルの計算規則
1.2 平面分子の並進と回転
 1.2.1 分子の並進
 1.2.2 分子の回転
 1.2.3 座標軸の回転
1.3 行列計算のルール
 1.3.1 行列の積
 1.3.2 逆行列
 1.3.3 移動と逆移動
1.4 非平面分子の並進と回転
 1.4.1 三次元の並進と回転
 1.4.2 鏡映
 1.4.3 反転
1.5 移動操作の線形性
 1.5.1 線形変換
 1.5.2 線形変換の性質

2.結晶格子
2.1 二次元の結晶格子
 2.1.1 二次元の格子ベクトル
 2.1.2 分率座標
2.2 逆行列と行列式
 2.2.1 逆行列の形
 2.2.2 行列式の形
 2.2.3 行列式の意味
2.3 三次元の結晶格子
 2.3.1 三次元の格子ベクトル
 2.3.2 晶系の変換
 2.3.3 7種の晶系
2.4 いろいろな変形操作
 2.4.1 拡縮・せん断
 2.4.2 射影
 2.4.3 変形と行列式
2.5 実格子と逆格子
 2.5.1 ベクトルの内積
 2.5.2 転置行列
 2.5.3 双対基底
2.6 反変成分と共変成分
 2.6.1 座標変換と成分
 2.6.2 計量テンソル

3.対称性と群論
3.1 対称性と点群
 3.1.1 対称操作の群
 3.1.2 点群の要素
3.2 指標表と既約表現
 3.2.1 指標と群の表現
 3.2.2 既約表現
 3.2.3 対称操作の類
3.3 アフィン変換
 3.3.1 並進対称性
 3.3.2 アフィン代数
3.4 壁紙群(文様群)
 3.4.1 二次元の並進と回転
 3.4.2 分子座標系における対称操作
 3.4.3 鏡映と映進
3.5 空間群
 3.5.1 三次元の並進対称性
 3.5.2 三次元特有の対称操作

4.分子力学
4.1 分子の並進と回転
 4.1.1 並進運動
 4.1.2 回転運動
 4.1.3 慣性テンソル
4.2 行列の対角化と固有値
 4.2.1 慣性主値
 4.2.2 行列の対角化
 4.2.3 固有値の意味
4.3 行列とテンソル
 4.3.1 直積集合
 4.3.2 テンソルの代数
 4.3.3 独立変量のテンソル表記
4.4 分子内部の変形と振動
 4.4.1 分子力学法
 4.4.2 分子の振動
4.5 基準振動と対称性
 4.5.1 質量加重座標系
 4.5.2 基準振動解析
4.6 基底の直交化
 4.6.1 座標軸の回転
 4.6.2 直交化の方法

5.多変量解析
5.1 データの統計値
 5.1.1 データの平均
 5.1.2 データの分散
 5.1.3 共分散行列
5.2 最小二乗法と相関係数
 5.2.1 最小二乗法
 5.2.2 相関係数
5.3 多重線形回帰
 5.3.1 行列型データ
 5.3.2 回帰式の意味
5.4 主成分分析
 5.4.1 行列の因数分解
 5.4.2 次元削減
 5.4.3 主成分分析
5.5 固有値分解と特異値分解
 5.5.1 固有値分解
 5.5.2 特異値分解
5.6 連立一次方程式の解
 5.6.1 一意解と不定解
 5.6.2 最小二乗解
 5.6.3 分子構造への応用

6.量子化学
6.1 ベクトルの抽象化
 6.1.1 基底と成分表示
 6.1.2 ブラケット記法
 6.1.3 行列の抽象化
6.2 状態をベクトルで表す
 6.2.1 状態と確率
 6.2.2 状態の観測
 6.2.3 独立系のテンソル表記
6.3 シュレディンガー方程式
 6.3.1 離散から連続へ
 6.3.2 波動関数
6.4 分子軌道理論とLCAO近似
 6.4.1 分子軌道理論
 6.4.2 LCAO近似
 6.4.3 永年方程式
6.5 永年方程式の解の意味
 6.5.1 ヒュッケル近似
 6.5.2 電子密度と結合次数
 6.5.3 分子軌道と対称性

付録
付録1 壁紙群の一覧表
付録2 慣性テンソルの導出
付録3 Z-マトリクスから直交座標への変換

参考文献
索引

北條 博彦

北條 博彦(ホウジョウ ヒロヒコ)

大学卒業後,一度は某繊維メーカーの分析センターに勤務するも,一念発起して大学院に再入学。量子化学計算によるタンパク質の機能解明に関わる研究で学位を取得した。その後,工業技術院(当時)の研究所では超分子化学や分子認識の研究に携わり,有機合成やX線構造解析,スペクトルデータの解析などの技術を身に着けた。工業技術院が産業技術総合研究所に改組されたのを機に,研究テーマはより材料開発寄りにシフトし,金属錯体をもちいた高分子材料などを手がけた。東京大学に異動後は,それまでの経験をすべて生かしたテーマで研究しようと紆余曲折し,有機分子の結晶工学にたどり着いた。

これまでに携わったどの分野にも,数学(特に線形代数)はいつも顔を出してきました。深入りしなければそれで済むことも事実ですが,付き合ってみるとそれなりに面白くなってきて,ついには本を執筆して他のひとにも伝えたいという気持ちにまでなってしまいました。興味を惹かれた方はお手に取っていただければ嬉しく思います。

掲載日:2025/06/01

「化学と工業」2025年6月号 書籍ガイド