
発変電工学
概念と知識の定着を重視。充実したサポートページで理解不足をなくす。大学生向け教科書
- 発行予定日
- 2025/07/下旬
- 判型
- A5
- 予定ページ数
- 192ページ
- ISBN
- 978-4-339-00997-2

- 内容紹介
- まえがき
- 目次
大学学部での講義を想定した教科書。重要な概念と知識を深く理解させ,演習などを通してそれらを定着させることに主眼を置いた。各種機器のカラー画像や,問題の解説動画,用語の解説記事などを設けたサポートページが利用可能。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
発電と変電では,電力を生み出し伝送に適した状態に調整する。発電所・変電所はネットワークを介して電力を放射状に送り出す拠点,つまり扇の要に相当し,電力システム全体において重要である。本書では,現在の標準的な大学学部での半年分の講義を想定して,発変電工学が説明されている。
まず発電について見てみよう。電気はほかのエネルギーと比較すると歴史が浅く,人類は長い間静電気,すなわち電荷の形でしか電気現象を知らなかった。静電気は苦労して蓄えても一瞬の放電で使い切ってしまい,連続的に使用できない。社会で電気を役立てるには電流という形態が必要であり,これが可能となったのは,1836年にジョン・フレデリック・ダニエルがボルタの電池の分極の問題を解決しダニエル電池を発明してからと思われる(直流電流の実用化)。一方,交流電流はマイケル・ファラデーによる電磁誘導の発見後も,長い間直流に整流して利用するのが主流であり,あまり使われなかった。その後,高圧長距離送電における優位性もあって,19世紀末,約50年遅れて交流電流は実用化される。このように,これまでわれわれが電気を実用に供するために用いられてきたのは,直流には電池,交流には発電機であり,これはいまもほぼ変わらない。両者に共通して,発電とは電気エネルギーを電気以外のエネルギーから生み出す技術である。
これに対して変電とは,電気エネルギーどうしのエネルギー変換である。例えば変圧器の場合,入力となるエネルギーも電気,出力も電気である。違いは入力と出力の電圧・電流であり,周波数は変わらない。一方,半導体電力変換では入力と出力の周波数が異なる場合があり,例えばインバータでは,直流の入力に対して出力される電力は交流である。
以上より,発変電工学とは電気エネルギー変換に関する工学であるといってよい。ただし,一口に電気エネルギー変換といってもその内容は多種多様であり,大学の講義でそれらを網羅的に取り扱うことは不可能である。コロナ禍を経た現在,大学学部レベルの学習者にはインターネット動画投稿サイトをはじめ,多くの発変電技術に関する情報に触れる機会がある。したがって,本書のような書籍の役割は多くの知識を網羅するよりも,根底に流れる重要な概念を理解させることと考えられる。この観点より,本書では多くの発変電工学の教科書にあるような具体的な写真や図表の掲載ではなく,重要な概念と知識を深く理解させ,それらを実用に耐えるところまで演習等を通じて定着させることを主眼に置いた。ただし,発変電工学において大学の講義では,現実の電気所の機器の正確なイメージを持たせることが重要である。そこで現在,読者のほとんどすべてが身の周りにインターネット接続環境をお持ちであることを前提に,あらかじめインターネット上に公開した写真や図面,動画などと連携させて,こうした面を補完することにした。この新しい試みにより,読者が理解度に不足をきたすことがなくなるよう願っている。
また,本書は大学の講義で教科書として用いることを想定して執筆したので,標準的な使用法についても述べておきたい。本文をよく読んでいただくことに加えて,内容の理解を深めるため,動画・写真や精密な図を収集もしくは作成した。それらはQRコードから本書のサポートページにアクセスすることで閲覧できる。よって,本書はインターネットを利用可能な環境で読み進めていただきたい。加えて,各章末には簡単な演習問題が用意されている。これらについても上記サポートページより参考情報や解答・補足を利用できるため,ご活用願いたい。なお,インターネット上に掲出する情報は読者の理解を図るうえで役立つと判断した際には更新する場合があるので,ご了承されたい。
2025年6月
熊野照久
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1. 電力系統と発電・変電
1.1 電力系統
1.1.1 発電費用
1.1.2 電圧制御
1.2 発電
1.3 変電
演習問題
2. 水力発電
2.1 水力発電とは
2.2 水車と水路系
2.2.1 水路系
2.2.2 水車
2.3 水車発電機
2.3.1 構造と基本的動作
2.3.2 水車発電機の特性
2.3.3 発電電動機と可変速揚水運転
2.4 資源としての水
演習問題
3. 火力発電
3.1 燃焼とエネルギー
3.2 熱力学
3.2.1 ボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式
3.2.2 熱機関
3.2.3 熱力学第一法則と内部エネルギー
3.2.4 熱力学的過程
3.2.5 カルノーサイクル
3.2.6 定圧・定積過程とランキンサイクル
3.2.7 再生サイクル・再熱サイクル
3.2.8 ブレイトンサイクル
3.3 タービンと発電機
3.3.1 衝動タービンと反動タービン
3.3.2 火力発電ユニットの軸系
3.3.3 発電機
3.4 そのほかの火力発電設備
3.4.1 ボイラ
3.4.2 復水器
3.4.3 給水ポンプ
3.4.4 給水加熱器
3.4.5 節炭器
3.4.6 空気予熱器
3.4.7 集塵機
3.4.8 コンバインドサイクル関連設備
3.5 火力発電所の運転
3.5.1 起動・停止操作
3.5.2 出力の調整と過負荷・最低出力運転
3.5.3 電圧・無効電力の調整
3.5.4 事故時解列
演習問題
4.原子力発電
4.1 質量欠損
4.2 核分裂と連鎖反応
4.3 原子力発電所の基本的な構造
4.4 原子力発電において鍵となる技術
4.4.1 中性子反応断面積と中性子束
4.4.2 減速材
4.4.3 制御材
4.4.4 冷却材
4.4.5 反射材
4.4.6 燃料
4.4.7 毒作用とキセノンオーバーライド
4.5 加圧水型原子炉
4.6 沸騰水型原子炉
4.7 そのほかの原子力発電設備
4.7.1 発電ユニット
4.7.2 原子炉圧力容器と原子炉格納容器
4.7.3 非常用炉心冷却システム:ECCS
4.8 事故と不具合事象
演習問題
5.発電機とその制御系
5.1 発電機の形態と構造
5.2 出力と安定性
5.3 励磁制御
5.3.1 励磁制御系の構造
5.3.2 AVRによる効果と電力動揺への影響
5.3.3 励磁制御における電力動揺の安定化
5.4 調速機
5.4.1 調速機の構造
5.4.2 調速機の効果とその限界
5.4.3 負荷周波数制御
5.4.4 発電機の慣性とRoCoF
演習問題
6.太陽光発電
6.1 光起電力効果
6.2 太陽光発電システム
6.2.1 太陽光発電システムの構造
6.2.2 昇圧チョッパの動作
6.2.3 インバータの動作
6.3 太陽光発電の独立運転
6.3.1 蓄電池の必要性
6.3.2 蓄電池の容量
6.4 太陽光発電の系統連系
6.4.1 パワーコンディショナ
6.4.2 保護機能
6.4.3 単独運転検出
6.4.4 太陽光発電連系に関わる技術的課題
演習問題
7.風力発電
7.1 風車
7.1.1 風車の概要
7.1.2 種々の風車
7.1.3 風車の特性
7.2 風力発電機
7.2.1 定速型
7.2.2 DFIG型
7.2.3 PMSG型
7.3 風力発電の系統連系
7.3.1 太陽光発電との相違点
7.3.2 計算例
演習問題
8.変電
8.1 変電の役割
8.1.1 変電の持つ意義
8.1.2 変電所の構成
8.1.3 変電所の機能
8.2 変圧器
8.2.1 主要変圧器の概要
8.2.2 変圧器の動作原理と簡易等価回路
8.2.3 実際の変圧器の特性
8.3 変圧器の試験
8.3.1 無負荷飽和特性
8.3.2 短絡特性
8.4 計器用変成器
8.4.1 本書で述べる範囲
8.4.2 計器用変圧器:VT
8.4.3 計器用変流器:CT
8.5 負荷時タップ切替器
8.5.1 負荷時タップ切替器の概要
8.5.2 負荷時タップ切替器の構造
8.5.3 特性と現象
8.6 調相設備と同期調相機
8.6.1 調相設備と同期調相機の概要
8.6.2 系統電圧特性
8.6.3 調相設備投入時の系統状態の簡易計算法
8.7 避雷器・遮断器・断路器
8.7.1 避雷器・遮断器・断路器の概要
8.7.2 避雷器
8.7.3 遮断器
8.7.4 断路器
8.8 ガス絶縁開閉装置
8.8.1 ガス絶縁開閉装置の概要
8.8.2 気体の絶縁特性
8.9 保護リレー
8.9.1 電力系統の外乱とその対処
8.9.2 過電流リレーと過電圧リレー
8.9.3 距離リレー
8.9.4 回線選択リレー
8.9.5 電流差動リレー
8.9.6 系統安定化装置
8.9.7 変圧器保護
演習問題
9.電力貯蔵
9.1 揚水発電所
9.1.1 エネルギー保存則と電力貯蔵
9.1.2 揚水発電所の構成
9.1.3 揚水発電所における電力貯蔵
9.2 電池電力貯蔵
9.2.1 蓄電池の概要
9.2.2 各種の蓄電池の原理と特徴
9.2.3 系統連系システム
9.3 電気自動車
9.3.1 電気自動車の概要
9.3.2 電気自動車のエネルギー収支と環境負荷
9.3.3 V2G:vehicle-to-grid
9.3.4 系統貢献
9.4 フライホイール
9.4.1 フライホイールの概要
9.4.2 フライホイールの特徴
9.4.3 系統連系システム
9.5 超電導磁気エネルギー貯蔵:SMES
9.5.1 SMESの概要
9.5.2 SMESの構造と特性
9.5.3 SMESの系統特性
9.6 圧縮空気エネルギー貯蔵:CAES
9.6.1 CAESの概要
9.6.2 CAESの特性
演習問題
引用・参考文献
あとがき
索引