システムとサイバネティクスの思想

シリーズ システム・制御のニューフロンティア A-1

システムとサイバネティクスの思想

サイバネティクスと呼ばれるシステム論とそれにまつわる思想を扱う。

ジャンル
発行予定日
2026/02/中旬
判型
A5
ページ数
288ページ
ISBN
978-4-339-03403-5
システムとサイバネティクスの思想
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定価

5,280(本体4,800円+税)

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本書はサイバネティクスと呼ばれるシステム論とそれにまつわる思想を扱う。理工系分野では最新の知見が重視されることが多いが,その背景にある思想や歴史からそれらを捉え返すことで読者の視界を広げ,思考を深めることを企図した。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

「シリーズ システム・制御のニューフロンティア」の一巻として編まれている本書は,1940年代に成立した「サイバネティクス」と呼ばれるシステム論と,それにまつわる思想を中心的テーマとして扱っている。サイバネティクスという学問は,現代の読者にとってあまり馴染みのある学問とはいえないかもしれないが,対象を「システム」として捉える思考や,システムの制御に関する各種の理論,それらに伴って発展した情報技術や通信技術など,その現代への影響は計り知れないものがある。サイバネティクスは,今日のAIやロボットといった技術の基盤となった学問でもあり,現代の我々の人間観や世界観とも深く関わっている。他方,このサイバネティクスの一派は,1970年代に従来の思想から大きく転換しており,それは新しいサイバネティクス,「ネオ・サイバネティクス」として一部で注目されるパラダイムともなっている。

一般に理工系分野では,最新の知見が重視されることが多いが,本書はその背景にある思想や歴史からそれらを捉え返すことで,読者の視界を広げ,思考を深める一助となることを企図している。また,近年のネオ・サイバネティックな議論の一端を紹介し,その先の思考を促す意図もある。既存の理工学的思考の枠組みを超えて,システムやその制御について新たに考えるヒントとしてほしい。

本書前半(1章から4章)では,サイバネティクスからネオ・サイバネティクスへの転回を確認した後,近年のネオ・サイバネティックな議論として,オートポイエーシス論とその応用としてのエナクティヴな認知理論を紹介する。特に後者は,身体性を重視する立場の認知科学において近年注目されており,急速に台頭するAIとの関連でも興味深い,貴重な論考となっている。

本書後半(5章から7章)では,歴史的観点を重視し,サイバネティクスが出現した社会的背景や,サイバネティクスやネオ・サイバネティクスの社会的実践として探求されてきた応用領域の議論を扱う。サイバネティクスが,理論のための理論ではなく,実践的な問題意識と強く結びついた学問であることを示す狙いもある。

各章のより詳しい概要は,以下のようになっている。

1章「システムとサイバネティクスの思想」では,サイバネティクスという学問について改めて簡単に確認した後,新しい機械論としてのその思想的側面を概観する。システムとその制御にまつわる機械論としてのサイバネティクスは,情報という概念と密接に関連する二つの相反するパラダイムと通じている。一方は他律システムの理論である従来のサイバネティクスの思考的枠組みに,もう一方は自律システムの理論であるネオ・サイバネティクスの思考的枠組みに相当する。あまり知られていない後者については,セカンド・オーダー・サイバネティクス,オートポイエーシス論,ラディカル構成主義という三つの中核理論の概要もここで示しておく。

2章「制御の思想とその「転回」」では,制御という観点に着目しつつ,サイバネティクスからセカンド・オーダー・サイバネティクスへと至るフォン・フェルスターの議論を跡づける。これにより,システムの制御に関する理論として始まったサイバネティクスから,反制御の理論ともいえる自律システムの理論がいかに出現したかを明らかにする。そうして現れてきたネオ・サイバネティクスという潮流は,システム論としてのサイバネティクスに定められた必然的な転回として成立していると同時に,我々の人間観や世界観の「コペルニクス的転回」を促すものでもある。知的機械としてのAIが存在感を増す今日だからこそ,この「転回」が思想的に大きな意味を持つことを示す。

3章「生命が呼ぶ意識,意識が還る生命」では,オートポイエーシス論の提唱者の一人であるフランシスコ・ヴァレラの後年の思想と研究が,自己生成論として読み解かれる。自律システムである生命は,自己生成によって自己と世界の区別を不断に行い,認知という領域を不可避的に生み出している。後年のヴァレラの思想を特徴づける「エナクション」という概念は,こうした自己生成する生命の行為的認知や,それを通じた意味的世界の創出を意味している。近年,認知科学やAI研究の分野で「身体性」が注目されているが,しばしばそれは単に物理的な身体や,環境情報を取り込むセンサーの必要性としてのみ理解されてしまっている。生命と意識の連続性を語るヴァレラの思想は,そうした理解の問題点を照らし出すだろう。

4章では,「エナクティヴ・アプローチの現在」として,ヴァレラに端を発する上記のようなエナクティヴな議論のその後の展開が論じられる。晩年のヴァレラから,ディ・パオロを中心とした後継者らによる近年の議論まで,認知科学や人工生命の方面へと展開されてきたエナクティヴ・アプローチの現在が示される。近年の議論では,オートポイエーシスの概念が自己区別性と自己生産性として捉え直され,主体性の議論へと接続されている。細胞の自律性から社会の自律性までを射程とするこのアプローチの方法論的原理として「媒介」の概念を提示している点も,4章の特徴となっている。

一転して5章では,歴史を大きく遡り,「サイバネティクス以前の制御」と題して,サイバネティクスの前史としての制御技術とその社会学的背景が論じられている。理工系の読者にとっては最も馴染みの薄い議論となるかもしれないが,現代社会とそれを支えるもろもろの技術を「制御」という観点から再考する眼差しを得ることができるだろう。タイプライターのような具体的機械もさることながら,マーケティングやマネジメント,標準化や形式化,情報化といったレベルの制御技術とも深く関わる議論である。現代社会を特徴づける制御技術の可能性と限界を見定めることは,これからの技術と人間,社会との関係を批判的かつ創造的に捉え直していく契機となるはずである。

続く6章では,「思想としてのオートメーションと自由」として,サイバネティクス以後の技術と社会の関係がテーマとなっている。前半は,オートメーションに焦点が当てられ,人間を解放する技術であるはずのそれが抱える矛盾が示される。後半は,この問題への一つの対処法として,スタッフォード・ビーアが構想したマネジメント・サイバネティクスと,その組織モデルである「存続可能システムモデル(VSM)」の解説と思想的評価がなされている。ビーアは,企業組織や社会の存続可能性を高めるために,自由や多様性の確保が重要であると考えた。そのために求められるのが反省作用を持つメタシステムやそのデザインで,これは現代の社会問題にも通じる論点である。こうしたビーアの議論は,ネオ・サイバネティクスへと連なるものとしても位置づけられている。

最後の7章では,「ネオ・サイバネティクスに基づくデザイン論」として,クラウス・クリッペンドルフとラヌルフ・グランヴィルによってそれぞれ展開さ
れた,ネオ・サイバネティックなデザイン論を扱っている。両者には力点の違いはあれど,人間による創造行為の裏にあるデザインという営みの中心に,関係者らにとっての(主観的な)「意味」を置き,さらにそうした関係者間の関係性を「コミュニケーション」を通じて制御するという観点を共有している。これは,関連データを網羅的に収集し,その計算処理を通じて客観的な最適解を得ようとするコンピューティング・パラダイムの発想とは対照的である。こうした発想を相対化する概念として「人間中心のデザイン」が近年注目されているが,本章で示される基礎情報学的な情報の捉え直しがなければ,より深刻な問題を生む可能性がある。

本書は以上の全7章構成となっているが,各章の間に六つのコラムも配置している。いずれもサイバネティクスの思想史にまつわるコンパクトな論考で,各章で扱いきれなかったサイバネティクスの別側面を照らし出したり,補足したりする役割を担っている。各章の内容との関係を考慮して配置してあるが,基本的には独立の論考として自由に読むことができる。
 
2025年12月
西田洋平

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1.システムとサイバネティクスの思想
1.1 原点としてのサイバネティクス 
1.2 サイバネティクスの二つのパラダイム 
 1.2.1 コンピューティング・パラダイム 
 1.2.2 サイバネティック・パラダイム 
1.3 ネオ・サイバネティクス:自律システムの諸理論 
 1.3.1 セカンド・オーダー・サイバネティクス 
 1.3.2 オートポイエーシス論 
 1.3.3 ラディカル構成主義 
引用・参考文献 
コラム1 マカロックの両義性 

2.制御の思想とその「転回」:サイバネティクスからセカンド・オーダー・サイバネティクスへ
2.1 サイバネティクスの起源 
 2.1.1 フィードバック制御モデル 
 2.1.2 マカロック‒ピッツモデル 
 2.1.3 制御の思想 
2.2 フォン・フェルスターの記憶研究 
 2.2.1 忘却の理論 
 2.2.2 記憶研究における意味論的問題 
 2.2.3 有限状態機械,あるいはノントリビアル・マシン 
 2.2.4 有限状態機械から有限関数機械へ 
2.3 サイバネティクスのコペルニクス的転回 
 2.3.1 再帰汎関数論 
 2.3.2 セカンド・オーダーへの移行 
 2.3.3 認識論的転回 
引用・参考文献 
コラム2 機械論と目的論の融合 

3.生命が呼ぶ意識,意識が還る生命:フランシスコ・ヴァレラの自己生成論
3.1 生命と自己 
 3.1.1 時間の向き 
 3.1.2 構造の発生 
 3.1.3 自己生成 
3.2 生命的自己に伴う認知 
 3.2.1 原初的な認知 
 3.2.2 生命の認知と志向性 
3.3 意識とは何か:志向性・感覚運動・生命 
 3.3.1 志向性 
 3.3.2 感覚運動志向性 
 3.3.3 生命,ふたたび 
3.4 人生と科学:フランシスコ・ヴァレラの身体と意識 
引用・参考文献 
コラム3 ネオ・サイバネティクスは構成主義なのか? 

4.エナクティヴ・アプローチの現在:その原理と展開
4.1 オートポイエーシスから「意味生成」へ 
 4.1.1 オートポイエーシスと自律性 
 4.1.2 オートポイエーシスを超えて 
 4.1.3 生命の不安定性と「意味生成」 
 4.1.4 オートポイエーシス+適応性 
4.2 主体性を定義する 
 4.2.1 個体性 
 4.2.2 相互作用の非対称性 
 4.2.3 規範性 
 4.2.4 自律性と主体性 
 4.2.5 一でもなく二でもない:媒介論的思考へ 
4.3 感覚運動系の自律性と社会的相互作用の自律性 
 4.3.1 行為のパターンの自律性 
 4.3.2 社会的相互作用の自律性 
 4.3.3 身体性の三つの次元の「もつれ」 
4.4 結び 
引用・参考文献 
コラム4 メイシー会議とレイシオ・クラブ 

5.サイバネティクス以前の制御:大量生産,事務機械,軍事技術
5.1 「制御」の社会学的探究 
 5.1.1 現代社会論の問い 
 5.1.2 100年前の日本社会 
 5.1.3 「制御」というキーワード 
5.2 管理社会 
 5.2.1 ドゥルーズの「管理社会」論 
 5.2.2 管理社会とはいうけれど 
5.3 フォード社とGM社 
 5.3.1 見田宗介の現代社会論 
 5.3.2 制御の技術:マーケティングとマネジメント 
5.4 ベニガーの「制御革命」の議論 
 5.4.1 制御革命 
 5.4.2 生産,流通,消費の制御技術 
5.5 事務機械と制御技術 
 5.5.1 企業の拡大とコミュニケーションを通じた制御 
 5.5.2 コミュニケーションの技術と形式の発達 
5.6 戦争と制御技術:ミンデル 
 5.6.1 海軍とスペリー・ジャイロスコープ社 
 5.6.2 ベル研究所とMIT 
5.7 制御と統治 
 5.7.1 人間-機械関係の社会史 
 5.7.2 「統治」の社会史:標準化と事務機械 
 5.7.3 制御の社会史的探究へ 
引用・参考文献 
コラム5 観察者概念の萌芽 

6.思想としてのオートメーションと自由:VSM(存続可能システムモデル)における多様性工学とメタデザイン
6.1 オートメーション思想の展開と想像力 
6.2 日本における自動制御とオートメーション論の受容 
6.3 オートメーションとサイバネティクスの原景 
6.4 「オートメーションのオートメーション」のパラドックス 
6.5 バイオテクニクスとヴァイアブル・テクノロジー 
6.6 VSMとメタシステム論 
6.7 三項図式によるVSMの構造的理解 
 6.7.1 三項図式の基本構造と意義 
 6.7.2 メタシステムと必要多様性の法則 
 6.7.3 VSMの応用とサイバーシン・プロジェクト 
 6.7.4 VSMにおける「システム1~5」とα項,β項の対応関係 
6.8 VSMの理論的革新とセカンド・オーダー・サイバネティクス 
6.9 VSMからメタデザイン論へ 
6.10 VSMによる現代社会の診断 
引用・参考文献 
コラム6 ゴードン・パスクの会話理論 

7.ネオ・サイバネティクスに基づくデザイン論:コミュニケーションを通した関係性の制御としてのデザイン
7.1 「物ならぬモノ」:情報技術とデザインをめぐる問い 
7.2 ネオ・サイバネティクス誕生の実践的契機 
7.3 デザインについての探求とネオ・サイバネティクスとの出会い 
7.4 ネオ・サイバネティクスの「会話」理論とデザイン論 
7.5 ネオ・サイバネティクスによるデザイン論の「意味論的転回」 
7.6 「情報の時代」の到来に向き合ったデザイン論 
7.7 「情報技術が全面化した時代」以後の可能性へ向けて 
7.8 デジタル情報の時代のコミュニケーションとアーカイブのデザインへ向けて 
引用・参考文献 

索引

西田 洋平(ニシダ ヨウヘイ)

下西 風澄(シモニシ カゼト)

廣田 隆造(ヒロタ リュウゾウ)

新倉 貴仁(ニイクラ タカヒト)

河井 延晃(カワイ ノブアキ)

椋本 輔(ムクモト タスク)

橋本 渉(ハシモト ワタル)