コンバータ回路の応用 - PFC,LLC,PSFB,OBC -

シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用 5

コンバータ回路の応用 - PFC,LLC,PSFB,OBC -

エネルギー源として重要な交流電源のカーボンニュートラル社会実現に不可欠な技術を解説。

ジャンル
発行予定日
2025/05/下旬
判型
A5
ページ数
200ページ
ISBN
978-4-339-01455-6
コンバータ回路の応用 - PFC,LLC,PSFB,OBC -
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定価

3,410(本体3,100円+税)

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基礎学問の習得に重点を置いた勉強を通して,より高いレベルで議論できるパワエレ技術者を目指してほしいとの思いから「シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用」を刊行する運びとなった。本シリーズは,大学における工学教育と企業における実践教育の橋渡しを想定しており,物理現象のイメージをもとに理論面をやや重視した内容になっている。シリーズ全体を通した学習によってインバータやコンバータなどの設計はもちろん,機器の故障・動作不良に際して科学的な方法で原因を究明し,問題解決にあたる高度な技術者になることを期待している。

シリーズ5巻の本書では,1章でPFC(力率改善: power factor correction)回路を説明した後,スイッチングモード・パワー電源の電力損失低減法として,2章で共振型コンバータ回路,3章でLLC回路,4章でPSFB(位相シフトフルブリッジ)回路,5章でリチウムイオン電池とOBC(PSFB,DAB: dual active bridge),6章で超高速電流供給電源としての多相コンバータ,7章で共振型ゲート駆動回路について説明する。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

商用の交流電源は利便性の高いエネルギー源として現代社会の隅々にまで行き渡っているが,発電所で作られた高電圧の電力はそのままでは使い勝手が悪いため,ユーザーに届くまでにはさまざまな形態の電力に変換されている。この電力変換の際に使用されるスイッチモード電源(SMPS: switch mode power supply)では多量の高調波の発生が避けられない。接続された装置(負荷)から高調波が系統電源に流入すると

(1)トランスの銅損と鉄損の増加による電力変換効率の低下

(2)電磁干渉(EMI: electromagnetic interference)による電気機器の誤動作や装置の信頼性の低下

などの問題を引き起こす。

このため,商用の交流系統電源に接続する装置には,高調波電流を抑える力率補正回路(装置)の導入が義務付けられている。

また,カーボンニュートラル社会の実現には,高効率な発電はもちろんのこと,発電所からユースポイントに至るまでのすべての過程で電力損失を極力減らすべく,スイッチングモードのコンバータ/インバータの電力変換効率を限りなく100%に近づける必要がある。しかし,ハードスイッチング系のコンバータのスイッチング周波数を高くすると電力変換効率の低下は避けられない。このため,大電力用電源ではソフトスイッチングへの移行が進んでいる。LC共振を利用したソフトスイッチング・パワーコンバータでは電力損失の低減に加えて,スイッチング周波数を高くすることで使用部品を小型化できるメリットもある。

さらに,風力発電,太陽光発電などの余剰電力を二次電池に蓄えて,需給に合わせて電力を再利用する動きも加速している。自動車に搭載したバッテリーを利用する技術として,ソフトスイッチング系の双方向性OBC(on board charger)が注目されている。

また,データセンターなどでは,膨大な数の低電圧動作ICに断続的に大電流を供給する高速電源が必須になっている。最近まで,このような用途には,並列コンバータ方式のインターリーブ電源が使われてきたが,さらに結合型トランスを使用することで,各相のリップル電流を小さくして電力損失を低減することができる。今日のPOL(point of load)電源では,このような多相方式に結合トランスを組み合わせたスイッチング電源が使われ始めている。

また,ソフトスイッチングによる損失低減によって顕在化してきたゲート駆動回路の低損失技術の重要性にも注目されており,その技術開発も進んでいる。

本書では,1章でPFC(力率改善: power factor correction)回路を説明した後,スイッチングモード・パワー電源の電力損失低減法として,2章で共振型コンバータ回路,3章でLLC回路,4章でPSFB(位相シフトフルブリッジ)回路,5章でリチウムイオン電池とOBC(PSFB,DAB: dual active bridge),6章で超高速電流供給電源としての多相コンバータ,7章で共振型ゲート駆動回路について説明する。

2025年5月
谷口研二

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1. 力率改善回路
1.1 力率改善回路
 1.1.1 力率の定義
 1.1.2 力率改善回路の効用
1.2 力率改善回路の構成
 1.2.1 降圧コンバータ方式のPFC回路
 1.2.2 昇圧コンバータ方式のPFC回路
 1.2.3 PFC回路の制御帯域
1.3 PFC回路の動作
 1.3.1 臨界導通モード(CrCM)
 1.3.2 CCM-平均電流制御PFC
 1.3.3 CCM(連続伝導モード)-ピーク電流制御PFC
 1.3.4 CCM-PFC回路の電力損失
 1.3.5 PFC回路実装時の追加部品
1.4 インターリーブ方式のPFC
1.5 ブリッジレスPFC回路

2. 共振型ソフトスイッチ回路
2.1 ソフトスイッチの種類
2.2 共振スイッチ
 2.2.1 電流共振スイッチ
 2.2.2 電圧共振スイッチ
2.3 共振スイッチのコンバータ回路応用
 2.3.1 電流共振スイッチを用いた降圧コンバータ
 2.3.2 電圧共振スイッチを用いた降圧コンバータ
2.4 電流共振スイッチと電圧共振スイッチの使い分け
2.5 共振スイッチを用いたコンバータの制御
 2.5.1 電圧モード制御
 2.5.2 電流モード制御

3. LLC回路
3.1 LLC回路を構成する要素回路
 3.1.1 スイッチネットワーク
 3.1.2 共振タンク回路
 3.1.3 整流回路
3.2 LLC回路の基本回路動作(ω_s=ω_r_1)
3.3 LLC回路の基本回路動作(ω_s≠ω_r_1)
 3.3.1 基本動作ステージ
 3.3.2 動作ステージと共振周波数
 3.3.3 ωs<ω_r_1における動作モード
 3.3.4 ωs>ω_r_1における動作モード
3.4 基本波近似による動作解析
 3.4.1 換算負荷抵抗
 3.4.2 入出力伝達関数の計算
 3.4.3 入出力伝達関数の回路パラメータ依存性
3.5 電力損失のおもな要因
 3.5.1 パワーMOS素子のスイッチング損失
 3.5.2 循環電流による伝導損失
3.6 LLC回路の制御
3.7 同期整流方式のLLC回路

4. 位相シフト・フルブリッジ
4.1 PSFB回路の動作概要
 4.1.1 PAレグの遷移期間(t_0~t_1)
 4.1.2 電流反転期間(t_1~t_2)
 4.1.3 電力転送期間(t_2~t_4)
 4.1.4 APレグの遷移期間(t_3~t_4)
 4.1.5 電流循環期間(t_4~t_5)
4.2 デューティサイクル損失
4.3 整流ダイオード(二次側)のサージ電圧
4.4 カレントダブラー方式
4.5 PSFBのまとめ
 4.5.1 PSFB回路の課題
 4.5.2 LLC回路との比較

5. 車載充電器(OBC)
5.1 リチウムイオン電池:構造と性能
5.2 リチウムイオン電池の特性
 5.2.1 温度特性
 5.2.2 電池の劣化
 5.2.3 等価回路モデル
5.3 バッテリー充電器
 5.3.1 リチウムイオン電池の充電方法
 5.3.2 充放電保護回路
 5.3.3 セル電圧の均等化
5.4 電圧均等化回路の概要
 5.4.1 スイッチトキャパシタ方式
 5.4.2 フライングコンデンサ方式
 5.4.3 極性反転コンバータ方式
5.5 OBCとその動作
 5.5.1 充電専用OBC
 5.5.2 双方向OBC

6. 高速電圧レギュレータ
6.1 多相レギュレータ
 6.1.1 2相レギュレータのリップル電流
 6.1.2 多相レギュレータのリップル電流
6.2 結合型多相降圧レギュレータ
6.3 トランス・インダクタ電圧レギュレータ(TLVR)
 6.3.1 TLVRの動作原理
 6.3.2 補償インダクタL_cの役割
 6.3.3 TLVRの拡張性

7. 高速ゲート駆動回路
7.1 高速ゲート駆動回路の課題
7.2 電流源を用いたゲート駆動回路
 7.2.1 電流源ゲート駆動回路Ⅰ
 7.2.2 電流源ゲート駆動回路Ⅱ
7.3 LC共振型ゲート駆動回路
7.4 アクティブゲート駆動回路
 7.4.1 開ループのアクティブゲート駆動回路
 7.4.2 閉ループのアクティブゲート駆動回路

引用・参考文献
索引

谷口 研二

谷口 研二(タニグチ ケンジ)

学生時代、大学と大学院に8年間在学しましたが、そのうちの2年間は全く学校には行かず、冬はスキー三昧、それ以外の季節は学生割引を使って一人旅をしていました。その報いでしょうか大学院を中退することになって、あまり気乗りのしない社会人になりました。入社した(株)東芝では11年間勤務し、集積回路製造技術の開発に従事しました。その間、留学先のMITでは会社に縛られない自由を知り、チャンスがあれば会社を辞めようと考えていました。帰国後、(株)東芝超LSI研究所の製造ラインを立ち上げて、お世話になった(株)東芝に恩返しをした後、意を決して1986年に大阪大学工学部に籍を移しました。そこでの25年間、学生と一緒にプロセス/デバイスシミュレーション、半導体デバイス工学、アナログ回路設計などを気ままに研究し、議論を通して多くのことを学生から学びました。すべての公職を退いた現在は、これまでに得た知識を産業界の若手技術者に還元すべくパワエレ回路教育に専念しています。
今から60年前を思い起こすと、当時最先端のトランジスタラジオで使われてた部品は数十個程度であり、電子部品さえ手に入れば、子供でもラジオの作製が可能でした。しかし1980年代の後半からのCMOS集積回路の台頭により、多くの回路がデジタル化されたことで、ハードウエアに加えてソフトウエアも重要視される時代になってきました。
スイッチング電源回路でも、コンデンサ、コイル、スイッチで構成されるコア部を駆動するために集積回路が使われています。さらに制御系全体のデジタル化が進むと、システム全体の動作を理解することは難しく、パワエレシステムの開発・製造には数多くの技術者が関わることになるでしょう。これからの技術者は開発チームのメンバーの一員として、自己の専門性を高めながらも仲間の技術分野を補佐する能力が求められます。技術革新の激しい分野の技術者にとって、技術分野を横断する幅広い知識を獲得して、それを製品に具現化し続けることは、逃れようのない宿命なのかも知れません。積極的に他の技術分野に挑戦し、新産業の芽を創出されることを期待しています。