レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

音楽音響

音響学講座 9

音楽音響

本書は,学説的に固まった音楽音響の内容を5つの章に分けて記述した。楽器に関する音響学,音楽の心理学,音楽演奏の科学,情報処理技術を音楽分野に適用した音楽情報処理,そして音楽や音響技術と社会との関係である。

発行年月日
2023/03/06
定価
5,170(本体4,700円+税)
ISBN
978-4-339-01369-6
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 竹内 朗 様 Rochester Institute of Technology(専門分野:音楽音響、音響心理、立体音響、楽器音響)】

掲載日:2023/07/24

本書の第一印象は「読みやすい」である。「音楽音響」という広範な学際的分野を扱っているため、このような書籍は内容が多くなりがちだが、本書は限られた文章の中で最低限の語彙や概念が提供されており、非常にテンポ良く読み進め流ことができた。入門者は広い枠組みから学ぶことができるし、専門知識を深めたい方はそれらのアイデアを基に参考文献を辿ることができる仕組みになっており、幅広い層の読者にお勧めしたい。

また、各章においても単なるオムニバス形式ではなく、題目ごとに読みやすさを考慮した工夫が感じられる。例えば、第1章の楽器音響では、各楽器についての項目が分類に沿って独立しており、自分の目的の項目だけ”つまみ読み”しても十分に理解できる構成になっている。一方、第4章の音楽情報処理では、一つの課題に対して複数のアプローチの有効性や長所短所を比較しながら進んでいく構成になっており、非常に理解が深まると感じた。各章の題目を読み進む際に非常に効率的な構成になっている。

これから専門の道に進もうとする学生はもちろん、ある程度経験を積んだ研究者にも、基本事項を振り返ったり、時折自分の研究分野から少し視野を広げてみたりしたい時に是非手に取ってみてほしい一冊である。

読者モニターレビュー【 ミヤザキリョウ 様(専門分野:音楽アート・商業音楽・ソフトウエア開発)】

掲載日:2023/03/06

令和今日において、音楽制作に携わる者にとって、「音楽音響」という学際的なまとまりをもった書籍が発行されることは有難い。
例えば、バンドアンサンブルの楽曲を世の中にリリースすることを考えるとする。作曲・編曲・MIDIプログラミング・演奏・録音・サウンドエディット・ミキシング・マスタリング などと多くの専門的な工程が必要になる。
また、必携となるDAWやプラグインは豊富な機能を有している。高クオリティな楽器の物理モデリング技術、人工知能によるマスタリングアシスト機能、読み込んだ楽曲のコードの分析、MIDIフレーズの自動生成(プロ演奏家の演奏を再現したもの)などが挙げられる。
上述の通り、魅力的な音楽・音響を作るために、「やるべきこと・やれること」はとても多い。
その反面、これらの学際性を適切に捉えた学術書は今まで存在していなかったように思える。
そういった意味でも、本書籍が残した功績は非常に大きいものではないだろうか。
本書籍「音楽音響」では、「楽器の音響学」、「音楽の心理学」、「音楽演奏の科学 」、「音楽情報処理 」、「音楽・音響技術と社会 」の5つの章により構成されている。
ひとつひとつの章で独立したテーマを持ち、気になる章から読み進めることができる。
章扉には、その章の概要だけでなくキーワードがまとまっており、内容の俯瞰を助けてくれる。
章の中では多くの引用論文・文献を参照しながら、様々なトピックについて解説されている。
美しくまとまっている書籍であるが、難しく感じられるポイントが2点あった。個人的な「読むコツ」とともに挙げてみる。
1点目は、基礎となる学問分野がとても広く、学際的であることだ(この書籍の長所でもある部分)。各トピックを読み進めるには、それぞれの基礎知識や分析手法への理解が必要である。(例. 振動と音波に関する物理学、室内音響学、聴覚生理・心理学、フーリエ解析、音楽学、信号・情報処理工学など)
「読むコツ」としては、焦らずに、引用元や別の書籍を活用し、知識を補填しながら進めるとよいと感じた。数式を用いた解説も多いので、ゆっくりと途中式を補完しながら読み解いていくと良いだろう。
2点目は、対象トピックに関する体験を一度もしたことがない場合(例えば「その楽器を触ったことがない」など)、どうにもしっくりこないときがあった。
「読むコツ」としては、取り扱われている楽器を鳴らしたり、実験を再現することが、効果的だった。しかし、すべてを実施するのは現実的ではない。動画投稿サービス等で、構造や音声がわかる映像を視聴し、理解を助けるとよいだろう。
本書籍を手に取ることで、音楽音響の研究者たちが積み上げた「知の結晶」にアクセスすることができる。
研究者だけでなく、私のような作曲家・エンジニアにとっても、興味深い内容で溢れている。是非、手に取り、読んでみることをお勧めする。

読者モニターレビュー【 山口直彦 先生(東京国際工科専門職大学 助手,専門:情報学)】

掲載日:2023/02/24

日本音響学会がとりまとめた『音楽音響』というタイトルの本なので、主に音楽物理学に関する内容が中心と思っていたのですが、いざ開いてみると「楽器物理」「音響心理」「音楽情報処理」がおよそ1/3ページずつ割り当てられており、大変バランス良い内容構成と感じました。古典的な情報だけでなく比較的新しい研究成果も触れられており、音楽に関する科学的分析や研究を始めたいという人が最初におさえておきたいキーワードを概観するために有用な本と思います。

たくさんのキーワードが入っていますが、幅広い内容をぎゅっとコンパクトな1冊にまとめているため、個々の説明は少なめです。特に数式に関しては結果のみが示されていて、細かい数式変形手順などは示されていません。その代わり参考文献は豊富に示されていますので、「初学者はまずこの本を(理解できる・できないに関わらず)ざっと通読する」「経験者は興味関心のある部分を開いて辞書的に使う」ようにして、さらに深堀りして理解したい部分は本書を足掛かりに参考文献へ進むと良いでしょう。

音楽研究をする人の疑問を解消したり、研究のヒントを得るための便利な「ハンドブック」として、一冊手元に置いておくと便利な本であると思います。

読者モニターレビュー【 牧野 裕介 様 京都大学工学研究科(専門分野:騒音・振動)】

掲載日:2023/02/21

楽器の物理的メカニズムから音楽に関連する心理学、また音楽に関係する情報処理まで、音楽音響に分類される研究分野の基礎的な内容が一通り網羅的に解説されていることに驚嘆しました。
趣味で音楽に長いこと触れてきた自分でもとても新しく勉強になることがたくさん記されていてとても読みごたえがあったと感じました。
他の研究分野での知見を応用することで音楽音響が発展していることもあり、それらとの関連についてもいくつか記述がみられることも魅力に感じました。
また、文章に留まらず、具体的な図表や数式もふんだんに掲載されていることで、専門的な難しい事柄を直感的に理解しやすくなっていると思います。