次世代生命情報医学
医療ビッグ・データ時代の未来の医学・医療のあり方を提言
- 発行年月日
- 2023/02/28
- 判型
- B5
- ページ数
- 318ページ
- ISBN
- 978-4-339-07279-2
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
本書は、近年開始された「ビッグデータ・AI」時代の未来の医学・医療について、これからの方向を展望したものである。著者は、医学・医療の「ビッグデータ・AI」時代は、ここ2~3年のブームではなくて、今後、何十年と続き、医学・医療の基本的枠組みを変える大変革と考えている。それは、戦後始まった「抗生物質」の登場による「化学的治療医学」の第1次変革、次には「分子生命科学」の目覚ましい発展によって駆動された、分子標的医薬や抗体医薬の登場による「分子医学」の第2次変革、そして、これらに匹敵する「第3次医学・医療革命」と呼ぶべき変革である。
この変革は、ゲノムをはじめとする網羅的分子情報の発展という「生命情報ビッグデータ」と、スマートメディアをはじめとする「情報革命(DX :digital transformation)」を両輪として駆動されている。この2つの駆動力の発展は、とどまることを知らない。この2つの力に駆動されて、未来の医学・医療は、どのような体制で「最も優れた医学・医療のあり方」を実現すべきか、本書はそれを論じるものである。ここで、「深い生命情報」の知識を広く臨床医療に浸透させる「情報基盤」の確立と普及―――「次世代生命情報医学」が、その基軸となる。
本書の第一部は、次世代生命情報医学の、1つの柱である「生命情報」、すなわちゲノム情報などの網羅的分子情報が切り開きつつある「ゲノム・オミックス」医学について論じた部分である。
まず、第1章は、これまで情報システムに関与されてきた研究者・技術者の読者に、次世代情報医学の一つの柱である網羅的分子情報、すなわちゲノムなどの基礎知識を提供する目的の章で、以後の展開に必要な知識をまとめてある。ゲノムの知識をすでにお持ちの読者や早く「次世代生命情報医学」の内実を学びたい読者は、飛ばしてもよい。
第2章は、次世代シーケンサの登場によって始まった「ゲノム医学」について述べた章である。2010年米国より開始された次世代シーケンサを先天的稀少疾患の原因遺伝子を探索するのに使用するゲノム医学は瞬く間に米国全般に波及し、薬物代謝酵素の同定による薬害の防止、がん関連遺伝子のパネル診断による分子標的抗がん剤の決定へと、「ゲノム医学」の範囲を拡張し、怒涛の如く発展した。また欧州では多数の被検者を長年にわたって、ゲノム情報、生活習慣などを追跡するpopulation準拠前向きゲノムコホート(バイオバンク)が250以上も構築さえ、慢性疾患の疾病発症機構の解明に迫っている。第2章はこれらの現状と動向を記載した。
第3章は、ゲノム以外の網羅的分子情報、すなわち遺伝子発現プロファイル(トランスクリプトーム)や、プロテオーム、メタボロームなどの「分子表現型」と呼ばれるオミックス情報と、疾患を分子ネットワークの調節異常ととらえる「システム分子医学」について論じた。トランスクリプトームなどのオミックス情報は、疾患の進行動態を示すものであり、疾患の予測や予後推定に役立つ。また、疾患を「分子ネットワークの調節不全」としてとらえる「システム分子医学」は、とくにがんなどの解明に力があり、今後のがんの疾病機序の理解、治療戦略の基礎を切り開くものである。
第4章から始まる第二部は、近年、驚くほど発展した医療DX(情報変革)について紹介し、未来の医学がどのように生命情報、すなわち、ゲノム・オミックス情報などの「次世代生命情報」を活用して、ゲノム医学や精密がん治療など臨床医学の質的向上に具現化する「仕方」について論じた部分である。
第4章は、これまでの臨床医学を支えた情報システムについて、「医療情報学」の発展と全容、今後の発展を論じたものである。医療情報学の淵源から、医療情報のセキュリティ、標準化、EHRや地域医療情報連携にいたる歴史を論じた。
第5章とそれに続く第6章は、本書の中心部ともいうべき部分で、「ビッグデータ・AI時代」の医学・医療の具体的定在である「次世代生命情報医学」がどうあるべきかを論じた部分である。時間のない読者は、5・6章、とくに6章だけでも通読することを勧める。
第5章は、生命情報の飛躍的な発展を迎えて、これまでの臨床医学を支えていた「電子カルテ」がどう発展しなければいけないかを論じた。まずは、米国の「電子カルテ+ゲノム学」の融合を図った「eMerge計画」について詳しく紹介し、将来の臨床情報システムのプラットホームを意図した米国のi2b2,さらに我々のゲノム・オミックス情報と臨床情報の統合を目指したiCODデータベース、さらにはその流れに属しゲノム情報と生活習慣情報の統合を図った、東北メディカル・メガバンクの統合データベースを紹介した。さらに、米国において、生命情報と臨床情報を統合する、「ゲノム電子カルテ」や「精密がん治療電子カルテ」の現状を解説し、がん治療のcommunity oncologyという米国の体制とそれを支える精密がん治療電子カルテの意義について論じた。
また、最後に今後、医療情報の構造的とり扱いに重要な情報学であるオントロジーについて招請に説明し、臨床表現型の構造的記述法としてのHPOについて論じた。
第6章は、本書の結論部ともいえる章で、「ビッグデータ・AI」時代にとくに、発展の著しいビッグデータとして、「モバイルヘルス」と「リアルワールド・データ」を取り上げ、その現状と発展の方向を論じた。この時代の医学・医療を「データ駆動型」医学・医療と捉え、従来の「仮説駆動型」医学・医療との違いを論じた。さらにdeep learningをはじめとする現在の人工知能の特徴を論じ、医療人工知能の将来を描いた。そして未来の医療を、とどまることを知らない生命情報収集技術の発展と、スマートメディアなどのDX(情報変革)の高速化を融合する医学・医療と捉え、発展著しい生命情報を臨床医学に融和・適用する全国的な診療支援情報システムの構築の必要性を叫ぶと同時に、未来医療のスローガンを「生命情報を十全に活用した精密医療」の(診療所レベルまでの)大衆化基盤の創出と結論付けた。
医療ビッグデータ時代が来た
最近は,次世代シークエンサーの驚異的な発展もあり,臨床現場で患者のゲノム配列を解読して,治療に役立てるゲノム医療が実践できるようになった。また一方では,生体に常時装着するウェアラブルセンサーとスマートフォンが連携して,行動変容や生活習慣の変容を助言して,日常的治療を支援するモバイルヘルスの進展も目覚ましい。いまや,医療は,最新の大量の生命情報,いわゆるビッグデータに囲まれて,これらの情報をどのような方式で活用して,未来の医療,健康・寿命の延伸などに役立てるか,少々混迷している時代である。
一方,厚生労働省を始めとする政府はデータヘルス改革計画を提唱し,健康医療データの共有化と価値のある利用を検討している。未来の医学・医療が,これら豊富に産出されるビッグデータを有効利用して,構築されることは確かであろう。しかし,データヘルスあるいはディジタルヘルスケアといわれても,どのように生命情報データを利用し,未来の医療に活用するか,その構築体制,真に有効な方式について誰も明確なビジョンを持っていない。
医学・医療を取り巻くビッグデータといっても,ゲノムや精密がん治療から臨床的な医師のメモまで,さまざまなレベルのビッグデータが氾濫し,医療を真に変革し,新しい医療の実践を支えるビッグデータをどのように収集し,それをどのように活用する体制を作ればよいのか,未来の医学・医療の在り方を真剣に検討する時期に来ている。
本書は医療ビッグデータ時代の未来の医学・医療の在り方を提言するものである。
本書は,未来の医学・医療を「データ駆動型」医学・医療と捉え,未来の医学・医療が健康管理・疾病管理・寿命延伸にインパクトを与えるような,生命情報の収集方式およびそれを有効に活用できる医療の在り方,実践体制について考察したものである。
著者は,生命科学,特に生命情報学の研究が専門であるが,教官人生のある時期,病院の医療情報システムの開発責任者を務めたことがある。そのおかげで日本医療情報学会の理事長兼学会長にも就任し活動した。そのような経歴から,臨床医が使う電子カルテのような実践的な医療情報システムと,ゲノム情報・精密がん治療情報のような網羅的分子情報を,統合した次世代の臨床医療支援システムを構想し,導く主導者としての役割を期待されることが多かった。
巷でいわれているようにディジタルヘルスというと,すぐに電子カルテの情報の共有やそれを大規模に集積し,データベース化する方式を指すことが多いが,著者にいわせれば,従来型の電子カルテの医療情報を共有化が拓くディジタルヘルスは,それなりに価値があるが,「底が浅く」未来医学のパラダイムをもたらすだけのインパクトはない。
近年,ゲノムなどの網羅的分子情報が臨床の現場でも収集できるようになり,疾患の「深い機序」に関するデータとして利用できるようになった。米国では,まだ数は少ないが,これらの網羅的分子情報と従来の臨床情報を統合して患者の病態・治療方針を提示する電子カルテ,すなわちゲノム電子カルテや精密がん治療電子カルテが出現・普及しており,それらを大規模に集積したデータベースも出現している。これらは,オバマ元米国大統領が,2015年に宣言した分子情報に基づく医療,すなわち精密医療(precision medicine)を支える電子カルテである。
未来の医学・医療の目的は,「精密医療」の医療の基底層への全般的な普及,「精密医療の大衆化」である。
未来の医学・医療が,ゲノム情報や精密がん治療情報によって支えられる「精密医学」の時代になるであろうと思われるが,大学病院や高度な医療センターだけで精密医療が実践可能ならば,未来の医療としてのインパクトは低い,と著者はかねがね考えていた。そんなときに著者は,米国のがん医療を支える体制として,“community oncology”なる体制が活動しているのを発見した。
米国には,スローンケタリングやMDアンダーソンなど著名ながんセンターが存在する。しかし,がん治療は病態や治療効果の変化をタイムリーに発見して治療法を随時変更するなど,密な診療行為が要請される医療である。1000kmも離れた高度がんセンターに通院するわけにはいかない。そこで,通院範囲内に存在し,最新のレベルのがん治療が受けられる医療施設が必要とされる。community oncologyとは,まさにこれに対するがん治療体制で,一般診療所のように身近にあり,専門のがんセンターと変わらないレベルのがん治療を受けられる医療施設である。
米国では,55%のがん患者がcommunity oncology体制で治療を受けており,テキサス州では,400人のcommunity oncologistが,25のofficeで診療を行っている。そして,これらのcommunity oncologistのがん治療を支えているのが,精密がん治療電子カルテOnco EMRである。community oncologistにがん治療の最新の専門知識を供給し,高度ながん治療を支える情報環境が提供しているのがOnco EMRである。例えば,先に述べたスローンケタリングやMDアンダーソンなどの米国の31の著名ながんセンターが協力してがん患者のケア,研究,教育に従事するNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインや化学療法標準方式(NCCN templates),また,ASCO(American Society of Clinical Oncology)など米国の20のがん関連学会が連携したAJCC(American Joint Committee on Cancer)が,公表しているがんのstage分類法(AJCC stage)などがすぐ参照できる。そのほかにがん治療のワークフローのわかりやすい表示,種々のテンプレート,さまざまな指標やマーカーの表示などが充実している。
精密がん治療電子カルテの使用を通したがん治療過程の情報を集約し,大規模なデータベースにして診療に利用する試みも進展している。これは,実際の最先端のがん治療の実相を映したものとして,最新の抗がん剤治療の実態を記録したPM(precision medicine)リアルワールドデータベースともいうべき大規模データベースである。FDAが症例数の少ない抗がん剤の対照群をがん電子カルテのPMリアルワールドデータベースから抽出して構成したデータを用いることを承認したりしている(6.3.2項参照)。
「精密医療の大衆化」を実現するためには,高度な生命情報の臨床的意義を解説し,診療意思決定を支援する,基盤的情報システムの構築が要望される。
網羅的分子情報のビッグデータや診療支援を行う人工知能が実現すべき未来の医学・医療の在り方・目標は,ゲノム情報や精密がん治療情報に基づいた精密医学の均てん化・医療の基底層での普及,思い切っていってみれば,精密医療の大衆化ではないか。従来の医療情報の共有化のディジタルヘルスケアだけでは,生涯を通した健康・疾病の管理などいくつかの効果もあるが,それだけでは,「底の浅い」医療しか実現できない。といって,大学病院や高度な医療センターだけが,ゲノム情報や精密がん医療情報による分子情報医学を実行できる状態では,輝かしい未来の医療・医学の姿とはいえないだろう。
国民が,どこにいようが高度なゲノム医療,精密がん治療を受けられることを可能にする「情報基盤の形成」と,それに基づいた「ゲノム医療・精密がん治療の均てん化」,「医療の基底層における広範囲な普及」こそが,ディジタルヘルスケアが成功した未来の医療の姿ではないか。
そのためには,疾患の深いところの機序を表すゲノム情報や精密がん治療の情報を,臨床の現場で一般臨床医でも活用できる,診療支援機能―すなわち,最先端生命情報を適時提供して臨床意思決定を支援する,ゲノム電子カルテ,精密がん治療電子カルテが必要である。ここに,人工知能を使った分子情報の臨床的意義の解釈といった機能が必要とされよう。
ビッグデータ医療のもう一つの領域である,モバイルヘルスもメンタルヘルスや慢性疾患の治療など,日常生活圏が治療の場である疾患に関しては,定期的な外来受診より,治療効果があることが判明しており,これらの種類の疾患の治療の「本道」として,従来の医療に取って代わる可能性がある。しかし,いまのままの種類の生体量を測るレベルでは,未来の医療とはいえないだろう。ウェアラブルセンサーで,分子情報を連続測定するところまで計測技術が発展する段階になってこそ,未来の医療としての期待が持てる。リクイッドバイオプシーやSnyderのiPOP(integrated personal omics profile)が安価・連続に実践できる段階,いうなればPMモバイルヘルスに達してこそ,未来の医療といえるだろう。
そのような未来の医学・医療を表す言葉について,ゲノム情報医学あるいは精密がん治療情報医学などと呼ぶ方法,あるいは両者を表す概念として「PM(精密医療)情報医学」という呼び名も考えたが,精密医療という言葉はわが国ではまだ浸透していない。ゲノム情報も精密がん治療情報も,「深い生命情報」の活用であることには変わりがないので,著者は,未来の医療・医学を「〈生命情報〉医学」と総称することにした。その真意は,「精密医療の均化」の実現にある。精密医療が当たり前の医療として,どこにおいても実践可能な状態にするための,それを支える情報環境,ゲノム情報や精密がん治療情報を日常実践で提示し,臨床意思決定を支援するPM電子カルテ,およびそれらの診療情報を大規模に記録し,精密医療の診療遂行に役立てるPMリアルワールドデータベース―これらが整備された情報環境の上での医療・医学を,「生命情報医学」の実現と考える。情報による医療の構造変換,すなわち,医療のdigital transformation(DX)と,ゲノム情報・精密がん治療情報という「深い知識(deep knowledge)」の「精密医療」への臨床意思決定支援が,医療の基底層において普及する状態を実現すること―これが未来の医学・医療が成し遂げる目標としての医療である。
本書は以上の構想の下で準備された。そのために,1章から4章までは著者の構想を理解するための基礎知識を配した。ゲノム・オミックスの基礎知識は,1章から3章に記述し,医療情報学の基礎知識は4章に,それらを融合した,生命情報医学の展開については5章に,そして未来の医学・医療については6章に展開した。特に,著者の考える未来の医学・医療を迅速に知りたい読者は,5章,6章を読むことを勧める。
本書の企画はかなり前からあった。ただ,ビッグデータ,AIと,情報医学を取り巻く環境の変化に合わせて,本書の執筆は何度も練り直された。現在,このような形で出版できる段階に至ったことは喜びに堪えない。この間,長期にわたって忍耐強く本書の完成に付き合っていただいたコロナ社に感謝の意を表明します。
2022年12月
田中 博
第Ⅰ部 ゲノム・オミックス医療概論
1.ゲノム医学の基礎知識
1.1 ゲノムの分子生物学的基礎
1.1.1 ヒトゲノムとは
1.1.2 ゲノム科学の前史
1.1.3 DNAの二重らせん構造の発見
1.1.4 自己複製する情報マクロ分子としてのDNA
1.1.5 DNAからmRNAへの転写
1.1.6 セントラルドグマと逆転写酵素
1.2 ヒトゲノム解読計画
1.2.1 疾患原因遺伝子の探求のためのDNAマーカー
1.2.2 ヒトゲノム解読計画の進行
1.3 ヒトゲノムの構造
1.3.1 ヒトゲノムのいくつかの特徴
1.3.2 ヒトゲノムの大域的な構造
1.4 ヒトゲノムの遺伝学
1.4.1 ヒトゲノム遺伝学の基礎としてのメンデルの法則
1.4.2 減数分裂と組換え
1.4.3 ゲノムの連鎖構造
1.5 ヒトゲノムの多様性
2.第一世代の網羅的分子医学としてのゲノム医療
2.1 ゲノム医療の概念
2.1.1 ゲノム医療
2.1.2 単因子性遺伝病の疾患原因遺伝子の同定
2.1.3 遺伝子多型性と疾患感受性・薬剤代謝
2.2 疾患関連遺伝子の探求
2.2.1 原因遺伝子と連鎖解析
2.2.2 一塩基多型性とゲノムワイド関連分析の波及
2.3 次世代シークエンスの急速な発展―「シークエンス革命」の到来―
2.3.1 従来のDNAシークエンス方法
2.3.2 次世代シークエンサーの登場
2.3.3 第三世代シークエンサー
2.3.4 「シークエンス革命」と高速シークエンサーの飛躍的発展
2.3.5 次世代シークエンサーの基本的情報処理
2.4 ゲノム医療の到来―米国での臨床実装の過程と政策展開―
2.4.1 米国でのゲノム医療の臨床実装の世代的推移
2.4.2 ゲノム医療のearly adopterの時代
2.4.3 国家プロジェクト/コンソーシアム(Big Dataand Nation-wide Policy/Consortium)の時代(2013~2016年)
2.4.4 新たな国家政策:オバマ元大統領のPrecision Medicine Initiative(PMI)
2.5 欧州における大規模ゲノムコホートの普及
2.5.1 バイオバンクの概念
2.5.2 「大規模前向きpopulation準拠型ゲノムコホート」型バイオバンクの発展の歴史
2.5.3 疾患バイオバンクの現状
2.6 ゲノム・オミックス医療の残された課題
2.6.1 未発見の遺伝性
2.6.2 epistaticな(システム分子医学的な)機構
2.6.3 exposomicな(遺伝子環境相互作用)機構
2.7 ゲノム医学の最近の発展
2.7.1 PRS
2.7.2 SNPの疾患発症へのメカニズムの解明に向けた進歩
3.ゲノム情報以降の網羅的分子医療―オミックス医療とシステム分子医学―
3.1 概要
3.2 オミックス医療の概念
3.2.1 網羅的分子情報からの生命全体の把握
3.2.2 オミックス医療の特徴
3.3 オミックス情報とは―各種のオミックス情報とhigh-throughput測定法―
3.3.1 オミックス情報の種類
3.3.2 後天的ゲノム情報
3.3.3 エピゲノム情報
3.3.4 トランスクリプトーム情報
3.3.5 プロテオーム情報
3.3.6 メタボローム情報
3.3.7 オミックス情報の公的データベースの利用
3.3.8 マルチオミックス解析へ
3.3.9 疾患プロテオームプロファイリング
3.4 オミックス医療と疾患予測バイオマーカーの研究例―われわれの研究室での成果―
3.4.1 がんとオミックス医療
3.4.2 オミックス情報に基づくがんのバイオマーカー探索
3.5 オミックス医療の残された課題と未来のオミックス医学
3.5.1 環境との相互作用の情報を含むメタオミックスの探求
3.5.2 メタオミックス情報を基盤にした「未来のオミックス医学」
3.6 システム分子医学の概念
3.6.1 システム分子医学が登場した背景―細胞分子ネットワークの知識の増大と蓄積―
3.6.2 システム分子医学がもたらす網羅的分子医学の革新―データ単独準拠型の解析からモデル準拠型解析との融合的解析へ―
3.6.3 「分子ネットワーク病態学」の基礎―疾患の「座」としての意義―
3.6.4 疾患機序のシステム的特徴を示すいくつかの例
3.6.5 疾患形成の階層的なメカニズム
3.6.6 「ありふれた病気」における自己維持機構と長期的「偽平衡」
3.7 システム分子医学の基本戦略
3.7.1 システム分子医学の基本方向―「患者特異的ネットワークの病態」の認識を基盤とする医療―
3.7.2 「統合オミックス・マルチオミックスによる分子ネットワーク同定」戦略
3.7.3 システム分子医学の治療戦略
3.8 システム分子医学のこれからの展開
3.8.1 複雑系疾患論によるアプローチ
3.8.2 転移過程における上皮間葉転換のシステム的展開
3.8.3 システム的がん治療法としての「複合免疫療法」
第Ⅱ部 次世代生命情報医学の展開
4.次世代生命情報医学の基礎としての医療情報学
4.1 医療情報学の歴史と体系
4.1.1 臨床実践の情報支援としての「医療情報学」の発展の経緯
4.1.2 医療情報学の現在の体系
4.2 電子カルテの発展と情報化政策
4.2.1 わが国の電子カルテの発展
4.2.2 米国の医療ICTの現状
4.3 医療情報のプライバシー・セキュリティーの課題と対策
4.3.1 米国での情勢
4.3.2 欧州での情勢
4.3.3 英国での情勢
4.3.4 わが国での情勢
4.4 医療情報の標準化の展開
4.4.1 医療情報標準化の現状
4.4.2 現行の標準化コード体系
4.4.3 今後の医療情報の標準化―FHIR―
4.5 EHR(生涯健康医療記録)運動の国際的展開
4.5.1 2002年から始まった「国際的EHR運動」のてん末を顧みる
4.5.2 国家集中管理型EHRの失敗・遅滞の理由―集中の範囲と分散化の必要性;参加型医療の興隆―
4.6 地域医療情報連携の発展
5.次世代生命情報医学への展開
5.1 生命情報医学の電子カルテの情報
5.2 米国のeMERGE計画
5.2.1 第1期eMERGE(2007~2011年)
5.2.2 第2期eMERGE(2011~2015年)
5.2.3 電子カルテとゲノム計画(eMERGEⅢ)
5.2.4 フェノタイプ知識ベース
5.3 臨床情報と分子情報の統合のための情報プラットフォーム
5.3.1 i2b2とは
5.3.2 i2b2における臨床情報の研究利用
5.3.3 その他の診療データプラットフォーム
5.4 臨床統合データベース
5.4.1 iCODデータベースの特徴
5.4.2 iCODデータベースの持つ情報
5.4.3 公開されている情報
5.4.4 臨床統合データベースのユーザーインターフェース
5.4.5 ケースデータの閲覧と検索
5.5 東北メディカル・メガバンク計画における統合データベース
5.5.1 ゲノム医療の研究開発のための新しいバイオバンク
5.5.2 東北メディカル・メガバンク計画―統合データベースdbTMM―
5.6 米国における生命情報医学のための電子カルテの運用例―ゲノム電子カルテ,精密がん診療電子カルテの具体例―
5.7 医療におけるオントロジー
5.7.1 ゲノム研究とオントロジー
5.7.2 オントロジー
5.7.3 バイオバンクのオントロジー
5.7.4 Human Phenotype Ontology
6.ビッグデータ・AIによる医学・医療の第三次革命と未来の医学
6.1 医療ビッグデータ時代の到来
6.1.1 医療ビッグデータのおもな種類
6.1.2 「新しい生命医療情報のビッグデータ」と「従来の医療情報のビッグデータ」の違い
6.2 モバイルヘルスと患者参加型医療
6.2.1 生理的変量の連続測定とモバイルヘルス
6.2.2 「情報による治療」の普及
6.2.3 患者団体の興隆
6.2.4 モバイルヘルス方式の厳密な方法論の発展
6.2.5 患者参加型医療から患者主体型医療へ
6.3 電子カルテによる「リアルワールドデータ」
6.3.1 ランダム化比較試験への批判
6.3.2 FDAのリアルワールドエビデンスに対するガイドラインと治験でのリアルワールドデータの利用
6.3.3 疾患レジストリーを使用した臨床治験
6.4 医療人工知能とその発展の歴史
6.4.11 980年代の医療人工知能の興隆
6.4.2 ニューラルネットワーク―期待と失望の反復―
6.5 ディープラーニングの革命性
6.5.1 ディープラーニングによるビッグデータからの「教師なし学習」
6.5.2 内在的特徴を自ら学ぶオートエンコーダー方式の発明
6.6 ディープラーニングによる医療のAIの応用
6.7 AI医療の未来
6.7.1 医療に応用される人工知能の今後の発展
6.7.2 医療AIは医師を無用にするのか
6.8 ビッグデータ・AI時代における医学・医療の第三次変革
6.8.1 医学研究におけるビッグデータ・AIによる大変革―ビッグデータ医療時代の「データ駆動」型医学―
6.8.2 ビッグデータ・AIがもたらす次世代医療のパラダイム
6.9 未来の医療に向けて
6.9.1 未来の医療への新しい傾向
6.9.2 ビッグデータ・AI時代における未来の医療―医療の真のDX化―
付録
A.1 ヒトの生命情報のデータベース概要
A.1.1 基本的な公共バイオデータベース
A.1.2 よく言及されるバイオデータ関連サイト
A.2 次世代シークエンサーの基本的情報処理
A.2.1 基本的情報処理過程で産出される各種ファイル
A.2.2 参照配列へのリード配列のマッピング
A.3 遺伝統計学の実際
A.3.1 パラメトリック連鎖解析
A.3.2 ノンパラメトリック連鎖解析
A.4 「網羅的分子表現型」とeQTL解析
A.5 遺伝子発現プロファイルから生体分子ネットワークの推定法
A.5.1 遺伝子間制御ネットワーク
A.5.2 その他の統計的手法に基づく遺伝子調節ネットワークの推定アルゴリズムと
アルゴリズムの精度の比較
A.5.3 偽相関によるfalse positiveな制御関係の除去を行う手法
A.5.4 より網羅的でかつ高精度な遺伝子調節ネットワークの推定をするための方法
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【 tom 様(専門分野:生命医科学、ゲノム解析)】
ヒトゲノム解析やオミックス解析の研究分野は急速に進歩していますが、この分野に関する体系的な書籍は限定的でした。
本書はゲノム・オミックス解析の分野について理解するために必要な背景知識をわかりやすくまとめ、分野が発展した歴史や研究手法についても触れています。また、著者の研究室での研究成果を例に挙げ、新規標的因子の発見や治療法の開発といった、オミックス情報解析が実臨床に応用されるまでの筋道が解説されていることで、当研究分野が目指すゴールを具体的に把握でき、内容理解の一助となりました。
診療情報とオミックス情報を結びつける医療情報学については本書の半分以上の紙面を使って詳説されているので、生命情報解析が臨床医学や医療情報学にブレイクスルーをもたらしうることが理解できます。
本書はゲノム科学の基礎から医療情報学といった幅広い分野をまとめた書籍なので、これらの分野に興味がある人にとっても読みやすく、興味深い内容となっています。
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