材料の熱力学 入門

材料の熱力学 入門

材料工学系大学生向けの化学熱力学教科書。高校の物理と化学から大学の化学熱力学の統一した考え方へスムーズに移行できるよう配慮。

ジャンル
発行年月日
2019/01/11
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-06648-7
材料の熱力学 入門
在庫あり

定価

3,520(本体3,200円+税)

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材料工学系大学生向けの化学熱力学教科書。高校の物理と化学から大学の化学熱力学の統一した考え方(特に相平衡,化学平衡,溶液の考え方)への移行が,スムーズに行えるように配慮した。また,考え方の図形的イメージ化にも努めた。

本書は,物質科学や材料工学を選択した大学生へ向けて,高校の物理や化学における物質・物性に関わる教科から,大学で教える化学熱力学(特に相平衡,化学平衡,溶液)への移行ができるだけなめらかに行えるように意識して執筆したものである。

高校の物理や化学の教科書を見ると,熱力学に関連する事項が一部重複しながら物理と化学の随所にちりばめられている。筆者が高校生だったころのおぼろげな記憶として,理想気体の状態方程式が物理でも化学でも繰り返し教えられたことに対して,若干の違和感があったことを覚えている。大学の専門課程において化学熱力学の講義を受け,すべてが物質とエネルギーの関係に由来することを理解して初めて,その違和感は解消したのである。

高校や大学の初等教育において,物理と化学にそれぞれどのような項目が含まれているか挙げてみよう。
 物理:仕事とエネルギー(サイクルを含む),理想気体の状態方程式
 化学:理想気体と実在気体,物質の相変化,化学平衡
これらは,熱力学を物理と化学に分けたことにより必然的に発生したことであるが,本来はどちらも熱力学(より具体的には化学熱力学)に内包されるべき内容である。大学における化学熱力学の講義は,それまで二つの場所に分けられていた知識が統合され,新たに壮大かつ精微な世界が再構築されるという興奮を経験する機会の一つであり,おそらく多くの理工系の学生にとってその最初の機会であろう。筆者は大学1 年生向けの熱力学の講義を担当しているが,その講義の中で「これはドラマや映画で例えれば,生き別れになった家族や恋人が再び出会うクライマックスシーンだ!」と力説することがあるが,話術に乏しいためか学生への"うけ"は今一つのようである。
熱力学のよいところは,取り扱う内容のほとんどが日常の経験に基づいている点であり,理工系にかぎらずすべての学生にとってきわめてなじみ深い内容である点にある。加えて,多変数の関数を抽象的に取り扱う方法にさえ慣れてしまえば,それ以降の計算は掛け算と足し算(と1/x の積分)を組み合わせることでほとんどの答えが導けてしまう。また,得られた結果は,化学物質の合成や合金など工業製品の生産現場においてつねに考えなければならない事柄である。

ここまでは大学で講義をする側の視点であるが,大学に入学して講義を受ける側,すなわち学生の側に視点を移してみよう。大学生として新たな世界に胸を膨らませた理工系の学生が最初に直面するのは,記憶を主体とした高校の理科から定義と論理展開を主体とした大学の科学へのパラダイム変換を強制されることである。このストレスを切り抜けるための一助となるべく,数式を用いた論理の展開についてできるだけ丁寧な記載をするとともに,できるかぎり数式をグラフ化し,図形的なイメージをもてるように心掛けた。また,(筆者もそうなのだが)文章を読みながら話を追っているときにページをさかのぼって前出の数式を探すのはそれなりのストレスとなるので,数式の重複を嫌わずにできるだけ読んでいるページの中で理解が進むように心掛けた。その一方で,厚い本は学生の意欲をはじめからそいでしまうので,全体としては薄く短くなるように心掛けた。その相反の結果として内容を絞らざるを得なくなり,化学熱力学の必須項目として説明すべき内容(特に電気化学や速度論など)の多くを割愛せざるを得なかった。それらのより進んだ内容を知る際には巻末の参考書をはじめ,多くの良書が出版されているのでそちらをおすすめする。

読者が最も頭を悩ます演習問題はなにかといえば,それは答えのない問題である。その観点から,各章の章末にはあえて明確な答えの出ない問題をいくつか挙げている。それらの完全な正解は存在しないので,自分の解答が正しいかどうか確認するのは解答者の仕事である。

熱力学で取り扱うほとんどの関数は多変数の関数である。そのことが数式の取扱いを難しくしているが,その一方で熱力学の関数の多くは(モル数を一定にするなどの工夫はいるが)3次元の曲面として表すことができる。したがって,熱力学の計算は,ある関数を表す曲面の傾きが別の熱力学量に置き換わる,ということに対応する。物理や化学における数式を理解する際に,自分自身でその数式をグラフに置き直してみるのが一番の近道である。本書のグラフ多くを誰もが入手可能なフリーウェアのgnuplot(version 5. 2)を用いて作成した。出版社のご好意により,図を作る際のスクリプトをダウンロードできるようにしていただいたので,図を眺めるだけでなく自分自身でそのグラフを作成し,数式の定数や変数を変えたときにそれがどのように変わっていくのかをぜひ試みていただきたい。また,いくつかの章末問題にも挙げたが,3次元の曲面として表した熱力学の関数については,解答例の一つとして紙製の模型の展開図を作成し,このデータもダウンロードできるようにした。少々細かい作業が必要となるが,作成していろいろな角度からその曲面を眺めれば,思わぬ発見がそこからあるかもしれない。

本書の内容はオーソドックスな熱力学に基づいているため,特定のデータなどを除き出典の引用をしなかった。その代わりとして,巻末には本書を書く際に参考とした書籍を記載させていただいた。

最後に,本書を出版する機会を与えていただき,また筆者の遅筆を辛抱強く待っていただいたコロナ社に深く感謝する。また,3次元模型の動作試験と耐久試験を自発的に行ってくれた娘と息子,本書の最初の読者となってくれた私の研究室の学生たち,そして,いつも支えてくれている妻に心から感謝する。

2018年11月 正木 匡彦 

1. 物理の復習
1.1 物質とエネルギー
1.2 仕事とエネルギー
1.3 経験的な熱力学量
 1.3.1 温度
 1.3.2 圧力
 1.3.3 体積
 1.3.4 物質の量(モル数)
 1.3.5 示量性と示強性
1.4 理想気体
 1.4.1 ボイル・シャルルの法則
 1.4.2 理想気体の状態方程式
1.5 気体分子の運動
1.6 熱力学第一法則と熱機関
1.7 物理から熱力学へ
章末問題

2. 化学の復習
2.1 物質の三態と状態変化
2.2 理想気体と実在気体
2.3 液体と固体
2.4 溶液
2.5 化学反応とエネルギー
2.6 化学平衡
2.7 金属元素の性質
 2.7.1 アルミニウム
 2.7.2 スズ,鉛
 2.7.3 鉄
 2.7.4 銅,銀
 2.7.5 ケイ素
2.8 化学から化学熱力学へ
章末問題

3. 熱力学で使用する数学の準備
3.1 微分と導関数
3.2 定積分と不定積分
3.3 微分・積分の公式
 3.3.1 自然対数と1/xの積分
 3.3.2 部分積分
 3.3.3 合成関数の積分
 3.3.4 導関数の積分
3.4 偏微分と全微分
3.5 完全微分の公式
章末問題

4. 内部エネルギーと熱力学第一法則
4.1 系と外界
4.2 熱と温度
4.3 熱容量と比熱
4.4 物質に対する仕事
4.5 熱力学第一法則
 4.5.1 体積一定のときのエネルギーの変化
 4.5.2 圧力一定のときのエネルギーの変化
 4.5.3 温度一定のときのエネルギーの変化
4.6 状態量としての内部エネルギー
4.7 平衡状態と状態量
4.8 ⊿とδとd
章末問題

5. エントロピーと熱力学第二法則
5.1 理想気体の断熱可逆変化
5.2 理想気体のカルノーサイクル
5.3 エントロピー
5.4 熱力学第二法則
5.5 外界との熱のやり取りとクラウジウスの不等式
5.6 熱力学第二法則と平衡条件
5.7 理想気体の断熱自由膨張
5.8 理想気体の混合のエントロピー
章末問題

6. 化学ポテンシャル
6.1 開放系の内部エネルギーと化学ポテンシャル
6.2 開放系の平衡条件
6.3 示量性状態量と示強性状態量
6.4 独立変数と従属変数
6.5 ギブス・デュエムの関係
6.6 ギブスの相律
6.7 基本方程式
章末問題

7. 自由エネルギー
7.1 内部エネルギーとエンタルピー
7.2 自由エネルギー
7.3 熱力学関数と平衡条件
7.4 マクスウェルの関係式
7.5 ギブス・ヘルムホルツの関係
7.6 多成分系への拡張
7.7 理想気体U,H,F,G
章末問題

8. 相平衡
8.1 純物質の相平衡
8.2 ファンデルワールス状態方程式と気相―液相平衡
8.3 多成分系の相平衡
8.4 準安定と過冷却
章末問題

9. 化学平衡
9.1 キルヒホッフの法則
9.2 標準生成ギブス自由エネルギー
9.3 理想気体の化学ポテンシャル
9.4 化学平衡と平衡定数
9.5 異相の混在する化学平衡
9.6 自由エネルギー温度図
章末問題

10. 溶液
10.1 非理想気体の化学ポテンシャル
10.2 溶液の化学ポテンシャル
10.3 ラウール則とヘンリー則
10.4 沸点上昇と凝固点降下
10.5 浸透圧
10.6 部分モル量
10.7 理想溶液と過剰量
10.8 合金状態図と正則溶液モデル
章末問題

参考文献
索引

正木 匡彦(マサキ タダヒコ)

掲載日:2019/10/01

月刊「化学」2019年10月号広告

初版1刷の間違い

以下の間違いが発見されました。
p.14 図1.6グラフの縦軸
50→0.05  100→0.1  150→0.15  200→0.2