相平衡の熱力学 - 熱力学体系の理解のために -
平衡状態として物体の相平衡に注目し,第一法則と第二法則に基づいた熱力学体系教科書。
- 発行年月日
- 2021/07/02
- 判型
- A5
- ページ数
- 198ページ
- ISBN
- 978-4-339-06656-2
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
物体の平衡状態は,熱力学の第一法則と第二法則に支配されて決まる。第一法則は,熱,仕事および内部エネルギーの定量的な関係を表すエネルギー保存則である。これに対し,第二法則は,熱,温度およびエントロピーの関係を介して反応の非対称性を表すエントロピー非保存則である。熱力学の重要な関係式は,第一法則と第二法則に基づき導出することができる。本書は,平衡状態として物体の相平衡に注目し,熱力学の体系をわかりやすく説明した入門書である。
第一法則と可逆過程に対する第二法則を結合すると,内部エネルギーやエントロピーに対する数学的な解析が可能になる。この解析によると,内部エネルギーやエントロピーは,示量変数を固有な独立変数とする基本関係式であることが知られる。これらの基本関係式に対し,任意の示量変数を共役な示強変数に置き換えるルジャンドル変換を行うと,固有な独立変数の異なる有用な基本関係式を導出することができる。特に,内部エネルギーに対するルジャンドル変換によって得られるHelmholtzエネルギーやグランドポテンシャルは,上記のエントロピーと同様に,熱力学と統計力学の橋渡しの役割を担う重要な基本関係式である。また,Gibbsエネルギーは,実験科学との整合性の高い基本関係式である。一方,これらのエネルギー系基本関係式の固有な独立変数を全て一定に保つと,平衡状態において広義のエネルギー最小則が成立する。
前述の数学的な手法は,電気的エネルギーや磁気的エネルギーの関与する平衡状態に拡張することができる。ここで,電気的エネルギーに関する示量変数および示強変数は,それぞれ電気モーメントおよび電場である。また,磁気的エネルギーに関する示量変数および示強変数は,それぞれ磁気モーメントおよび磁場である。このような平衡状態に対する実験科学との整合性の高い基本関係式は,上記のGibbsエネルギーではなく,電気的Gibbsポテンシャルや磁気的Gibbsポテンシャルである。
ルジャンドル変換された種々の基本関係式に対し,可逆過程における第一・二法則結合形を適用すると,異なる熱力学量の間の等価性を表すマクスウェルの関係式を求めることができる。また,ヤコビアンによる変換法を活用すると,測定可能な物性値を用いて任意の熱力学量を記述することができる。このような変換法は,熱力学や統計力学の理論と実験を結びつける関係式を得るための有用な数学的技法である。
熱力学の体系を理解するためには,上述のように,ある程度の数学の素養が必要である。しかし,本書の理解には,偏微分と行列式に関する基礎的な知識があれば十分である。特に,数式の導出過程は,可能なかぎり詳細に記述している。また,いくつかの節の最後には,演習を設定している。節末の演習を解くことにより,当該の節の内容に対する理解がさらに深まるものと期待される。
科学は,再現性の高い観察実験によって得られた信頼できる経験的知見に基づき,当該の現象を支配する法則を見つけ出す学問である。この手法の最高の成功例が,自然科学である。自然科学を構成する熱力学は,巨視的な平衡状態を対象としている。これに対し,統計力学は,微視的な物理状態の集合を対象としている。巨視的な平衡状態は,熱力学の第一法則と第二法則に支配されて決まる。第一法則は,熱,仕事および内部エネルギーの定量的な関係を表すエネルギー保存則である。一方,第二法則は,熱,温度およびエントロピーの関係を介して反応の非対称性を表すエントロピー非保存則である。第一法則と第二法則によると,平衡状態の物体は,内部エネルギーが最小となり,エントロピーが最大となる。平衡状態を規定するこれらの関係は,エネルギー最小則およびエントロピー最大則と呼ばれる。
第一法則と可逆過程に対する第二法則を結合すると,内部エネルギーやエントロピーに対する数学的な解析が可能になる。この解析によると,内部エネルギーやエントロピーは,示量変数を固有な独立変数とする基本関係式であることが知られる。これらの基本関係式に対し,任意の示量変数を共役な示強変数に置き換えるルジャンドル変換を行うと,固有な独立変数の異なる有用な基本関係式を導出することができる。特に,内部エネルギーに対するルジャンドル変換によって得られるHelmholtzエネルギーやグランドポテンシャルは,上記のエントロピーと同様に,熱力学と統計力学の橋渡しの役割を担う重要な基本関係式である。また,Gibbsエネルギーは,実験科学との整合性の高い基本関係式である。一方,これらのエネルギー系基本関係式の固有な独立変数をすべて一定に保つと,平衡状態において広義のエネルギー最小則が成立する。
ルジャンドル変換された種々の基本関係式に対し,可逆過程における第一法則と第二法則の結合形を適用すると,異なる熱力学量の間の等価性を表すマクスウェルの関係式を求めることができる。また,ヤコビアンによる変換法を活用すると,測定可能な物性値を用いて任意の熱力学量を記述することができる。このような変換法は,熱力学や統計力学の理論と実験を結び付ける関係式を得るための有用な数学的技法である。
このように,熱力学は,巨視的な平衡状態を対象とする体系的な学問である。本書は,平衡状態として物体の相平衡に注目し,熱力学の体系をわかりやすく説明した入門書である。熱力学の体系を理解するためには,上述のように,ある程度の数学の素養が必要である。しかし,本書の理解には,偏微分と行列式に関する基礎的な知識があれば十分である。特に,数式の導出過程は,可能なかぎり詳細に記述している。また,いくつかの節の最後に,簡単な演習を設定している(解答は特に用意していない)。この演習を解くことにより,当該の節の内容に対する理解がさらに深まるものと期待される。本書が,熱力学の体系に対する理解の一助となれば幸いである。
2021年5月
梶原 正憲
1.熱力学の法則と基本関係式
1.1 第一法則
1.2 第二法則
1.3 第一法則と第二法則の結合形
1.4 内部エネルギーの独立変数と多成分系への拡張
1.5 エントロピーに対する基本関係式
2.さまざまな束縛条件に対する平衡状態
2.1 平衡状態の束縛条件
2.2 熱的な平衡状態
2.3 機械的な平衡状態
2.4 化学的な平衡状態
2.5 Eulerの一次形式
3.基本関係式とルジャンドル変換
3.1 ルジャンドル変換
3.2 Helmholtzエネルギー
3.3 エンタルピー
3.4 Gibbsエネルギー
3.5 グランドポテンシャル
3.6 ゼロポテンシャル
4.極値原理と可逆仕事
4.1 Helmholtzエネルギー
4.2 エンタルピー
4.3 Gibbsエネルギー
4.4 第一法則と二法則の結合形による極値原理の導出
5.熱力学関係式の導出
5.1 マクスウェルの関係式
5.2 ヤコビアンによる変換法
5.2.1 断熱圧縮による温度変化
5.2.2 定積モル熱容量と定圧モル熱容量の関係
5.2.3 Gibbs-Helmholtzの関係式
5.2.4 定積モル熱容量の定義式
5.2.5 定圧モル熱容量の定義式
6.平衡状態図と熱力学関係式
6.1 単一成分系の平衡状態図
6.2 クラウジウス・クラペイロンの関係式
6.3 平衡相の安定性
6.4 熱力学的安定性
7.多成分系の相平衡
7.1 モルGibbsエネルギーと化学ポテンシャル
7.2 二元系の二相平衡
7.3 三元系の化学ポテンシャル
7.4 活量
7.5 Gibbsの相律
7.6 平衡状態図の計算法
8.溶体の熱力学モデル
8.1 理想溶体モデル
8.1.1 化学ポテンシャル
8.1.2 二相平衡
8.2 正則溶体モデル
8.2.1 化学ポテンシャル
8.2.2 Darkenの二乗形式
8.2.3 二相平衡
8.2.4 二相分離曲線とスピノーダル曲線
8.2.5 相互拡散係数
8.3 ライン化合物
9.析出反応
9.1 析出反応の駆動力
9.2 核生成の駆動力
9.3 準安定相の生成
10.電気的エネルギー
10.1 電気モーメントに対する基本関係式
10.2 電場に対する基本関係式
10.3 マクスウェルの関係式
10.4 クラウジウス・クラペイロンの関係式
11.磁気的エネルギー
11.1 磁気モーメントに対する基本関係式
11.2 磁場に対する基本関係式
11.3 マクスウェルの関係式
11.4 クラウジウス・クラペイロンの関係式
引用・参考文献
索引
「現代化学」2021年10月号(東京化学同人) 掲載日:2021/09/16
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掲載日:2023/03/10
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掲載日:2022/11/04
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掲載日:2022/03/01
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掲載日:2022/01/06
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掲載日:2021/12/02
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掲載日:2021/10/04
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掲載日:2021/09/01