COMSOL Multiphysics®ではじめる工学シミュレーション
「マルチフィジックス」を最大の強みとしたシミュレーションソフトウェアを一般ユーザーが容易に活用できるよう書かれた入門書。
- 発行年月日
- 2017/03/23
- 判型
- B5
- ページ数
- 254ページ
- ISBN
- 978-4-339-02868-3
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
複数の物理現象を同時に取り扱う「マルチフィジックス」を強みとするシミュレーションソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを一般ユーザーが容易に活用できるよう,ユーザー視点のノウハウやモデル事例を紹介する。
推薦のことば
COMSOL MultiphysicsⓇは,その名の通り,さまざまな物理現象をモデル化し,連成して現象を予測・可視化できるツールである。恐らく,そのことは,本書を手に取った読者はよくご存知のことと思う。モデルが単純で,支配方程式も少なければ,解析解により現象の予測や理解も可能であるが,現在の技術開発においては,そのような単純なものでは処理しきれない事象が多くなっている。
例えば,自分が手掛けているCVD(Chemical Vapor Deposition,化学気相成長法)やALD(Atomic Layer Deposition,原子層成長)などのプロセス開発においても,COMSOL MultiphysicsⓇによるシミュレーションや現象理解はきわめて有用である。これらのプロセスは,半導体集積回路(ULSI)製造工程において,半導体,絶縁体や金属薄膜を平坦な基板上や数十nm幅の隙間・細溝に均一に形成することができるため,最先端デバイスの製造に不可欠な技術となっている。また,ULSIの製造歩留りを高いレベルで確保するには,直径300mm(近い将来には450mm)のシリコンウェハ上で,このような極薄膜を±0.1%以内の均一性で作製する必要がある。そのためには,薄膜が形成される化学反応のメカニズムと,拡散や流れによる物質移動を連成してシミュレーションすることが,プロセス開発手段として有用となる。このようなモデル立案,それに基づくシミュレーションによる予測,実験との比較を繰り返し,効率良く帰納的に現象の理解を深めれば,試行錯誤的な装置・プロセス開発と比較して,大幅にコストを削減することが可能となる。
以前は風洞内で実物大の模型を用いて行っていた自動車の流体抵抗低減なども,CFDの導入によりかなりの部分がCAE化されていると聞く。近い将来に実現されるエクサスケールコンピューティングでは,さらに大規模,複雑形状の計算も容易となり,CAEの有用性は飛躍的に高まることが見込まれる。COMSOL MultiphysicsⓇは,そのような時代の必須ツールとして活用されるであろう。
しかし,COMSOL MultiphysicsⓇはその習得が容易ではないことも事実である。汎用的であるが故に,このソフトウェアで何ができるのかを俯瞰するのは難しい。例えば,表計算ソフトの使い方を習得した際,最初はきわめて基本的なことから始めて,必要に応じてより高度な機能を習得したように,最初の導入障壁を下げて,ステップアップする手段が必要となってくる。本書はまさにそのような目的に適った入門書として最適ではないだろうか。みずほ情報総研株式会社の皆様のご経験を基に,短期間にCOMSOL MultiphysicsⓇに習熟できるように工夫されており,学生や技術者をはじめ,多くの皆様の指南書としてお勧めする。
2017年1月 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 教授 霜垣幸浩
はじめに
コンピュータ上で仮想的にモノをつくり,シミュレーション技術を活かして製品の設計や製造の事前検討支援を行うCAE(computer aided engineering)は,その重要性がますます増している。CAE は当初,自動車産業や航空宇宙産業などの大規模で試作や実験を行うことが困難な製品から適用が始まり,その後ソフトウェア,ハードウェアの性能向上や低価格化に伴い,現在では多くの製造業で欠かせないツールとなっている。また,活用当初は構造解析や流体解析といった単一現象の解析に特化した取組みだったが,実現象や現実の製品開発で遭遇する問題は,構造や流体だけといった特定の分野に閉じたものであるとは限らず,電磁場や光,音響などのさまざまな現象の影響を受けていることから,複数の物理現象を同時に取り扱う枠組み(マルチフィジックス)が近年特に注目されている。
本書で紹介するCOMSOL MultiphysicsⓇは,スウェーデンのCOMSOL AB社により開発された,マルチフィジックス解析を前提として設計されている有限要素法ベースの汎用工学シミュレーションソフトウェアである。COMSOL MultiphysicsⓇの最大の特徴は,「さまざまなプログラムやソフトウェア間でデータを行き来させることなく,一つのソフトウェア上で実現象と同等のマルチフィジックス解析が迅速かつ容易に可能」なことである。また,通常ソフトウェアの内部,特に数理モデルの部分はブラックボックス化されていることが常であるが,COMSOL MultiphysicsⓇでは物理モデルや方程式などの内部情報を編集することもでき,この高いオープン性も大きな特徴の一つとなっている。これらの機能を用いることによって実現象に則した高精度のシミュレーションが再現できるため,設計・開発現場で活用できれば強力な設計支援ツールとなる。
著者らが所属しているみずほ情報総研株式会社では,COMSOL MultiphysicsⓇの販売,保守,および解析コンサルティングサービスを提供している。したがって,著者らはユーザーとしてCOMSOL MultiphysicsⓇを活用しているが,その経験からCOMSOL MultiphysicsⓇによる解析モデル作成には,COMSOL MultiphysicsⓇの操作に関する知識とともに形状作成やメッシュ生成を含むモデル作成のプランニング力が必要であると言える。これらの力を身につけるためには,数多くのモデル作成を経験することが一番の近道であるが,モデル作成の手助けとなるはずのマニュアルは膨大な量であると同時にすべて英語で記述されている(2016年12月現在)ことから,習熟には多大な労力を要してしまう。実際に,さまざまな企業のCOMSOL MultiphysicsⓇユーザーからも「日本語で記述されたマニュアルはないのか」,「まとまった解説資料はないのか」といった問い合わせを多数受けており,これらの要望を受けて本書を執筆するに至っている。
前述したように,CAEがより身近になった昨今では,解析専任者ではない,たとえば設計・開発部門の担当者が解析を担当することも考えられる。また,近年は大学などで学生が数値シミュレーションを学ぶうえでも,COMSOL MultiphysicsⓇのような汎用シミュレータを利用する機会が増えている。本書は,このような解析や数値計算を専門としない企業のユーザーや,数値計算を学び始める学生でもCOMSOL MultiphysicsⓇを容易に利用できるようにするための支援を目的としている。例題によるチュートリアルや個別の機能説明はもちろんのこと,著者らもCOMSOL MultiphysicsⓇのユーザーであることから,ユーザー目線を重視したノウハウやテクニックを交えてCOMSOL MultiphysicsⓇを紹介している。本書が読者諸氏のCOMSOL MultiphysicsⓇ活用の一助となれば幸いである。
本書は全部で4章の構成となっている。まず,第1章では本書の狙いとともに本書の利用手順を示したため,まずはこの第1章を読んで本書の利用方法を検討してもらいたい。次に,第2章ではCOMSOL MultiphysicsⓇの特徴と基本機能を解説する。第3章では複数の例題を取り上げ,チュートリアル形式でCOMSOL MultiphysicsⓇにおける解析モデル作成方法から計算の実行,結果の分析方法までの一連の手順を説明する。最後に,第4章では第3章のチュートリアルで使用された機能を中心に,個別機能の使用方法を説明する。本書で書ききれなかった内容の一部は,みずほ情報総研のWeb ページ に記載するので,興味があれば参照いただきたい。また,本書ではCOMSOL 社が提供するアプリケーションギャラリーの結果例を引用させていただいており,ここに記して感謝したい。なお,COMSOL 社ではすべての機能を評価することが可能な無料トライアルライセンス(有効期間30日)を発行している。無料トライアルライセンスの発行方法に関しては,次ページの「COMSOL MultiphysicsⓇの利用について」を参照していただきたい。おわりに,本書の出版に際してはCOMSOL社および計測エンジニアリングシステム株式会社には多大なご便宜をいただいており,各社に感謝の意を表したい。
2017年1月著者一同
1. 本書でわかること
2. COMSOL Multiphysicsとは
2.1 COMSOL Multiphysicsの特徴を知ろう
2.2 COMSOL Multiphysicsを使ってみよう
2.2.1 COMSOL Multiphysicsの起動方法と初期設定について
2.2.2 COMSOL Desktopの基本操作
3. COMSOL Multiphysicsを用いた解析事例集
3.1 熱伝導解析 ─―圧縮成形時の金型加熱を評価
3.2 気液2相流解析 ─―スロッシング現象の再現
3.3 電磁波解析 ─―波動光学を用いた有機EL内部の光伝搬を再現
3.4 流体・構造連成解析 ─―人工弁の開閉問題の再現
3.5 電気化学解析① ─―電気めっきによるバンプ内の膜成長を予測
3.6 電気化学解析② ─―蓄電池の発熱特性を評価
4. さまざまな機能の使い方
4.1 さまざまな機能の定義方法
4.1.1 パラメーターの定義方法
4.1.2 変数の定義方法
4.1.3 関数の設定方法
4.1.4 プローブの設定方法
4.1.5 コンポーネントカップリングの設定方法
4.1.6 選択の作成方法
4.1.7 無限領域の設定方法
4.2 形状モデルの作成方法
4.2.1 共通機能
4.2.2 ジオメトリの作成機能
4.2.3 仮想操作機能
4.2.4 ジオメトリのインポート/エクスポート機能
4.2.5 計測機能
4.3 材料設定の方法
4.3.1 材料データの設定
4.3.2 ユーザー定義材料の作成
4.3.3 材料リンク機能の設定
4.3.4 材料データの利用に関して
4.4 メッシュ生成の方法
4.4.1 共通機能
4.4.2 メッシュ生成機能
4.4.3 その他機能
4.4.4 メッシュのインポート/エクスポート機能
4.4.5 メッシュサイズのコントロール方法
4.5 解析の実行方法
4.5.1 スタディノードの構成
4.5.2 スタディステップ
4.5.3 スイープ計算
4.5.4 ソルバーコンフィギュレーション
4.5.5 ソルバーの動作確認
4.6 計算結果の分析方法
4.6.1 データセット
4.6.2 計算値
4.6.3 テーブル設定
4.6.4 3D/2Dプロットグループ
4.6.5 1Dプロットグループ
参考文献
索引
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掲載日:2021/05/06