ケモインフォマティクス
化合物の化学構造データやオミクスデータを情報解析するケモインフォマティクスを解説。
- 発行予定日
- 2026/04/上旬
- 判型
- A5
- 予定ページ数
- 246ページ
- ISBN
- 978-4-339-02738-9
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
本書では,化合物の化学構造やオミクスデータを情報解析する広い意味でのケモインフォマティクスに着目し,分子・材料設計や新規物質創製,創薬などの化学的な課題を解決するための統合的なアプローチを紹介し,解説している。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
さまざまな生物種のゲノム情報をコンピュータで解析するための学問として始まったバイオインフォマティクスの役割は,大きな変化を遂げてきている。次世代シークエンサーやハイスループット測定技術の発展により,ゲノムだけでなく,トランスクリプトーム,プロテオーム,メタボローム,インタラクトームなど多階層オミクスデータが得られるようになり,さまざまな生体分子に対して網羅的な解析が可能になってきた。同時に,コンビナトリアルケミストリーやハイコンテンツスクリーニングなどの技術の発展によって,膨大な数の化合物に関するケミカル情報や生物活性情報も蓄積されてきている。個体差,シングルセル,時空間などを考慮した解析なども可能になり,データの巨大化だけでなく,多様化・複雑化に拍車がかかっている。これにより,バイオインフォマティクスが関わる研究領域は,生命科学や情報科学だけでなく,医学,薬学,化学,農学,環境学などさまざまな領域へと及んでいる。
バイオインフォマティクスと近い学問としてケモインフォマティクスがある。ケモインフォマティクスとは化学と情報科学の融合分野である。歴史そのものはバイオインフォマティクスよりも長く,ケモメトリックスとも呼ばれることもある。バイオインフォマティクスとの関係としては明確な境目はなく,化学物質にフォーカスするか,生命現象にフォーカスするかというところに依存する。例えば,遺伝子やタンパク質などの生体分子に関するデータを解析するときはバイオインフォマティクス,代謝産物や医薬品などの低分子・中分子の化合物に関するデータを解析するときはケモインフォマティクスと呼ばれることが多い。実際に,ケモインフォマティクスでは,低分子・中分子の化合物の化学構造(構造式)を情報解析することが主であった。近年は,化合物に対する生体応答を示すトランスクリプトームデータ(化合物応答遺伝子発現プロファイルなど)や膨大な代謝産物のメタボロームデータも大量に生まれてきており,化合物に関するオミクス情報を解析する必要性が高まっていることから,バイオインフォマティクスとケモインフォマティクスの垣根は非常に低くなってきている。本書籍では,化合物の化学構造データやオミクスデータを情報解析する広い意味でのケモインフォマティクスに注目する。
ケモインフォマティクスは学術研究だけでなく,産業応用においても期待されている。特に,医薬品開発や材料設計は,ケモインフォマティクスの力が最大限に発揮できる応用分野である。ここ数年の学術研究や産業界における大きな変化として,人工知能(AI)への期待の高まりが挙げられるが,この背後にはAI基盤である機械学習の発展がある。ケモインフォマティクスの分野でも機械学習は必須の技術であり,ニューラルネットワーク,カーネル法,ブースティング,スパースモデリングなどさまざまな手法が適用されてきている。データから有用な情報を効率的に抽出し,学術研究や産業応用につなげていくためにも,ケモインフォマティクスにおける各研究項目において機械学習はますます重要になってきている。
本書籍の各章は,ケモインフォマティクス分野で活躍している若手の研究者に執筆していただいた。産業技術総合研究所の海東和麻先生に1章「ケモインフォマティクスの基本的な考え方」,5章「構造生成器」,九州工業大学大学院情報工学研究院生命化学情報工学研究系の岩田通夫先生に2章「化合物・タンパク質間相互作用解析」,3章「化合物のオミクス解析」,明治大学理工学部応用化学科の金子弘昌先生に4章「分子設計」,6章「材料設計」,7章「スペクトル解析」,8章「ソフトセンサー」と付録について執筆していただいた。先生方には,本書籍の意義を考慮して,ケモインフォマティクスの基本や最新トピックを紹介していただいている。多忙な中,執筆していただいた先生方に深く感謝する。本書籍をきっかけに,我が国のケモインフォマティクスの研究が少しでも発展することにつながれば,望外の喜びである。
2026年3月
山西芳裕
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1.ケモインフォマティクスの基本的な考え方
1.1 ケモインフォマティクスとは
1.2 化合物の表現法
1.2.1 グラフ表現
1.2.2 文字列表現
1.2.3 記述子表現
1.2.4 化合物の命名法
1.2.5 その他の化合物の表記法
1.3 化合物データ
1.3.1 基本的なデータの形状
1.3.2 データベース
1.4 分子設計の指針と構造活性相関
1.4.1 構造活性相関の基本
1.4.2 活性に影響を与える化学構造
1.4.3 定量的構造活性相関と各種指標
1.5 シミュレーション
1.5.1 ドッキングシミュレーション
1.5.2 量子化学計算
1.6 機械学習
1.6.1 機械学習の分類
1.6.2 機械学習モデルの解釈性
1.7 ケミカルスペース
2.化合物・タンパク質間相互作用解析
2.1 化合物の標的タンパク質・オフターゲット予測
2.1.1 インシリコ創薬
2.1.2 薬のゲノムワイドなスクリーニングの枠組み
2.1.3 化合物の表現法
2.1.4 既知の化合物・タンパク質間相互作用
2.1.5 新たな化合物・タンパク質間相互作用の予測
2.2 化合物の効能予測
2.3 ドラッグリポジショニング
3.化合物のオミクス解析
3.1 トランスクリプトーム解析
3.1.1 トランスクリプトームとは
3.1.2 化合物応答トランスクリプトーム
3.1.3 化合物の標的タンパク質・オフターゲットの予測
3.1.4 化合物の標的タンパク質・オフターゲット予測の性能評価
3.1.5 疾患の治療候補薬の予測
3.1.6 欠損値の予測
3.1.7 欠損値補完の性能評価
3.1.8 疾患の治療候補薬の予測における欠損値補完の影響
3.2 ディジーゾーム解析
3.2.1 疾患を特徴づける遺伝子発現データ
3.2.2 遺伝子発現パターンを用いた疾患の共通性解析
3.2.3 疾患を特徴づける分子
3.3 レギュローム解析
3.3.1 レギュロームプロファイルの構築
3.3.2 レギュロームに基づく疾患の特徴づけ
3.3.3 疾患と承認薬の相関解析
3.3.4 疾患の治療候補薬の予測
3.3.5 予測された疾患治療候補薬の実験検証
3.4 パスウェイ創薬
3.4.1 パスウェイエンリッチメント解析
3.4.2 既知の抗がん剤のパスウェイレベルでの特性評価
3.4.3 抗がん作用が期待される新たな薬物の予測
3.4.4 パスウェイ創薬手法の性能
3.5 1細胞トランスクリプトーム解析
3.5.1 1細胞トランスクリプトーム
3.5.2 欠損値の予測
3.5.3 欠損値補完の性能評価
3.5.4 欠損値補完の応用―パスウェイ軌道解析―
4.分子設計
4.1 分子設計とは
4.2 構造活性相関・構造物性相関
4.2.1 化学構造の表現法
4.2.2 化合物データセットの表現方法
4.2.3 化学構造の数値化
4.2.4 回帰分析手法・クラス分類手法の選択
4.2.5 モデル構築時の注意点
4.2.6 構造活性相関・構造物性相関の例
4.3 化学構造生成
4.3.1 モデルの適用範囲
4.3.2 コンピュータによる自動的な化学構造生成
4.3.3 化学構造生成の例および活性・物性の推定
5.構造生成器
5.1 構造生成器とは
5.2 深層生成モデルの基本
5.2.1 全結合型ネットワーク
5.2.2 畳込みニューラルネットワーク
5.2.3 再帰的ニューラルネットワーク
5.2.4 注意機構とTransformer
5.2.5 深層生成モデル
5.3 深層生成モデルを用いた構造生成器
5.3.1 Chemical VAE
5.3.2 REINVENT
5.3.3 TRIOMPHE
5.3.4 EMPIRE
6.材料設計
6.1 材料設計とは
6.2 実験計画法・適応的実験計画法
6.3 ベイズ最適化
6.4 一般的なモデルの逆解析とベイズ最適化のそれぞれの特徴
7.スペクトル解析
7.1 スペクトル解析の活用例
7.2 スペクトルの前処理
7.3 スペクトルのモデリング例
8.ソフトセンサー
8.1 ソフトセンサーとは
8.2 時系列データの特徴
8.3 適応型ソフトセンサー
8.4 適応型ソフトセンサーによる解析例
8.5 プロセス管理
付録
A.1 データセットの表現
A.2 最小二乗法による線形重回帰分析
引用・参考文献
索引









