機械工学のための数理モデリングと現象解析入門
機械工学の基礎科目の知識を応用数学との関係の中で創造的に再配置して現象をモデリング
- 発行年月日
- 2026/09/25
- 判型
- A5
- ページ数
- 232ページ
- ISBN
- 978-4-339-06137-6
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
体系化された学問は,基礎を確実に身につけるうえで大切であり,そのために多くの優れた教科書が書かれ,講義の方法も整えられてきました。一方,身につけた知識を応用し,工夫し,既存の枠組みを越えて新しい考え方や体系を組み立てていく学びには,従来の教育方法に加えて,別の工夫も必要になります。PBL(課題解決型学習)やSTEAM教育は,こうした学びを促す有力な取り組みですが,単なる調べ学習や自由研究に終わらせないためには,課題に取り組む過程に意図的な学習目標を組み込むことが必要とされます。
卒業研究や修士論文研究は,このような学びを高い水準で実現しやすい教育の一例とみなすことができます。指導する側が,自らの研究を通して培った知識や経験を踏まえて学習目標を設定し,要所で学習者の状況に応じたきめ細かな支援や助言を行うことができるからです。しかし,こうした支援を前提としない状況では,基礎的な体系を十分に理解していても,それを応用し,工夫し,自立して問題に取り組めるとは限りません。また,技術の進歩や社会からの要請が急速に変化する現在では,長い経験の蓄積やOJTを通して徐々に身につける方法だけで,こうした力を養うことにも難しさがあります。
本書は,機械工学の基礎科目を一通り学んだ理工系大学の学部高学年以降の読者を想定し,「数理モデリングと現象解析」を,いわば基礎科目を横断する課題として設定しています。既習の知識を応用し,組み合わせ,工夫しながら,現象から何を取り出してモデル化し,そのモデルから何を読み取るかを考える過程で,読者自身の気づきを促すことを目指しています。同時に,「偏微分方程式の基礎」と「数値計算・計算機シミュレーションの基礎」の習得を意図的な学習目標として組み込み,これらを機械工学の具体的な問題との関わりのなかで自然に学べるよう構成しています。
知識を応用して新たな問題を捉えるための方法を単純な手順として示すことには限界もあるため,個々の専門分野を深く掘り下げることよりも,分野を横断して現象を俯瞰し,何を知りたいのか,どこまで知りたいのか,得られた結果をどのように解釈するのかを考えることを重視しています。数理モデリングや現象解析そのものを学びたい読者はもちろん,偏微分方程式や数値計算・計算機シミュレーションを教育課程に取り入れている大学の授業にも活用できます。
また,本書のコラム「コーヒーブレイク」として構想していた内容の一部をもとに,読み物『力学をつくる眼 ― 数理モデリングと現象解析から読む応用力学小史 ―』を準備しました。新しい問題を捉え,理論を組み立てるための決まった道筋があるわけではありません。しかし,今日では完成された体系として学ぶ理論も,先人たちが現象と向き合い,何を取り出してモデルとし,そこから何を読み取るかを試行錯誤するなかで形づくられてきました。この読み物では,その過程をたどることによって,数理モデリングと現象解析を学ぶための一つの手掛かりを示しています。本書とあわせてご活用ください。
【読者対象】
工学系の大学学部生,大学院生,高専専攻科生,研究者,企業技術者,設計・開発担当者,講義で学ぶ方。
【望ましい前提知識】
大学初年級の数学(線形代数,微分積分),機械工学の基礎。調べる手掛かりとなる用語などを具体的に記していますので,未習の内容があっても,必要に応じて調べながら読み進めることができます。
【書籍の特徴】
機械工学の具体的な問題との関わりのなかで,「数理モデリングと現象解析」そのものを学びたい読者はもちろん,「偏微分方程式の基礎」と「数値計算・計算機シミュレーションの基礎」の習得を意図的な学習目標として組み込んでおり,それらの知識が自然と身につくように配慮しています。
【本書から得られる知識】
数理モデリング,現象解析,偏微分方程式,数値計算,計算機シミュレーションの基礎を理解できます。また,体系化された学問の根底にあるつながりに気づき,既習の知識を応用し,組み合わせ,工夫しながら問題を考えるための視点を身につけることができます。
【授業・講義での使用】
工学部高学年,高専専攻科の「偏微分方程式」「数学解析」「応用数学」「応用解析」「工業数学」などの講義科目。また,課題解決型学習(PBL),STEAM教育に関する実習科目において,基礎となる考え方から学ぶための教科書・参考書として活用いただけることを想定しています。
【実務で役立つ点】
個別の手順やノウハウを直接取り扱うものではありませんが,直面している課題をどのようにコンピューターで取り扱うか,課題解決においてどのように方法を選べばよいかを考えるための基礎知識を,技術者としての教養として身につけることができます。自学自習や技術者のリカレント教育にも活用できます。
【本書キーワード】
数理モデリング,現象解析,次元解析,シミュレーション,偏微分方程式,変分法,応用数学,課題解決型学習(PBL),STEAM教育
自然科学を教養として学び身につけ,自然の中に生きるひとや社会と自然科学の関係を考えることは,工学の一つの役割である。機械は,道具を起源とし,自動化・自律化を追求し続けることによって発達してきた。しかし,科学技術が急速に進歩する中で,機械に関連する諸問題を扱う工学である機械工学の概念も,大きく変化しているように思われる。自然の摂理は普遍的であるかもしれないが,自然法則の表現や自然観が時代とともに変化してきたのと同様に,ひととの関わりの中で見出される現象の捉え方もまた,時代とともに変化する。したがって,機械工学を教える者にも,学ぶ者にも,その変容に応じた姿勢が求められる。
一方,モデリングや現象解析の根底にある多様な方法論の基本は,昔も今も大きく変わらないように思われる。レオナルド・ダ・ビンチが「力学は数理科学の楽園である」と記しているように,応用力学の先達は,貪欲ともいえる好奇心と,あらゆる現象は数学モデルによって表現できるはずだという信念に基づき,対象を選り好みせず探究してきたように思える。そうした探求心が,いつの時代にも学問を発展させてきた。
本書は,変革の時代にあっても機械工学に携わる技術者・研究者が教養として知っておきたい応用数学の基礎を,応用力学との関係の中で学ぶための教科書として,教室での経験に基づいて講義資料を書き改めたものである。微積分学,線形代数学,連続体力学,熱・流体・固体・機械力学,設計・生産・制御工学など,機械工学の基礎科目を一通り学んだ理工系大学の学部高学年以降の読者を想定し,各科目の中で深めてきた知識を創造的に再配置する一助となることを期待している。
まず,数理モデルとは何かという問いからスタートし,現象をよく表す方程式をいかに見出すかというモデリングの基本的な考え方を述べる。つぎに,現象を理解するには多変数の関係を捉えることが不可欠であること,また,見通しのよいモデルによって複雑な現象を表現できることを踏まえ,偏微分方程式を中心に述べる。その際,1階の偏微分方程式の基礎から始め,発展的な内容を,静的・定常的な現象,時間発展する動的な現象,およびその安定性という観点で整理している。また,数理現象解析に欠かせないコンピューターシミュレーションについては,簡単な計算コードを例示し,計算力学への入門として理解しやすいよう配慮している。
クーラン・ヒルベルト『数理物理学の方法』(1924),カルマン・ビオ『工学における数学的方法』(1940),『ソビエト科学アカデミー版数学通論―数学:その内容,方法,意義―』(1956) といった不朽の名著がある中で,新たに書を著す意義は何かと自問するとき,ありきたりではあるが,21世紀の今日,コンピューターの発達を中心に私達を取り巻く環境が当時とは本質的に異なっている,というもっともらしい理由をまず思いつく。もう一つは,著者自身がこれらの知の巨人の肩どころか足元にも及ばず,むしろ不器用で人一倍努力して勉強しても理解の不足を思うように補えない苦い経験ばかりをしてきたことである。工学教育の現場では,むしろこのような経験をもつ者からの応援メッセージも,学生諸氏のモチベーションを高め,未来を担う若い世代の奮起を促す一助となるのではないかと考える。
本書は入門書ではあるが,卒業研究・高専専攻科特別研究・修士論文・博士論文研究を行う際,あるいは技術者のリカレント教育などの場面で,ガイドブック・読本としても手にとっていただけるよう,広範性と啓発性を意識している。数学が持つ厳密性の記述を省略して話を進めているところは多く,また著者の浅学から考察に至らない点もあることは承知している。言い訳が過ぎるかもしれないが,歴史的に見れば誤謬は大切なプロセスであり,矛盾点の考察を経て,多様な価値観を尊重した包括的な理解が進むことによって学問は発展してきたことを励みにさせていただきたい。昨今は,よく知られた定理の証明であればAIを用いることで理解の手がかりを得られる時代であることを踏まえ,検索のきっかけが知識の引き出しや伏線になるように留意するとともに,随想に近い著者の直感や独自の価値観に基づいた内容もなるべく記している。さまざまな読み方を通して,能動的な考察の動機づけ,将来の課題発見につながる思考力の育成,未来の技術者の知的生産活動の契機として役立てていただけるならば,本書の執筆目的に適うものである。
また,理工系の学生向けの偏微分方程式の教科書や参考書として活用していただけることを念頭に,基礎的な事項を丁寧に記すよう心がけたが,例題や章末問題は材料力学や計算力学に関係する内容に偏ってしまっている。もし工学教育にご関係の先生方にお願いできるのであれば,講義や研究指導では,参考文献に挙げさせていただいている多くの良書をご紹介いただくとともに,必要に応じて数学的な厳密性を補っていただき,ご自身の見識に基づく良問に置き換えて活用いただければ幸いである。
なお,付録に「ギリシア文字」「接頭辞」「無次元量」の表を示している。ギリシア文字については,ネット検索やAI活用が身近になった時代とはいえ,早見表として役立てていただければと,読み方や綴り方の一覧を記した。接頭辞は用語の性質や概念を豊かに表現する修辞の魔法であり,無次元数はゆかりの科学者の名とともに変化を見極める現象解析の羅針盤となる。これらの表には,未来を担う若者たちが新しい理論や用語の名付け親になるような活躍をしてほしい,との願いも込めている。
末筆になりましたが,本書の執筆の機会を下さり,企画段階から辛抱強く激励下さいましたコロナ社の関係各位に深く御礼申し上げます。
2026年7月
中谷彰宏
1.数理モデリングとは何か—現象解析序論—
1.1 序説—ひと・物理機械・情報機械の共存の時代の機械工学—
1.2 数理モデルを通して「もの」を見る
1.3 モデリングと現象解析の役割と分類
1.4 モデリングのフィロソフィー
1.4.1 オッカムの剃刀でシンプルに
1.4.2 内と外の境界をどこに設けるか
1.4.3 不完全な外延/内包としてのモデル
1.4.4 物理量・局所モデルと大域モデル
1.4.5 モデリングに方法論はあるのか
1.4.6 モデリングの検証と妥当性確認
1.5 数式モデルとデータ科学
1.5.1 数式モデルによる関数近似
1.5.2 データによる関数近似として見た機械学習
1.6 物理法則と構成関係のモデリング
1.6.1 力学現象を扱う学問体系—運動学と力学—
1.6.2 連続体モデルの保存則を基礎とする輸送現象論
1.6.3 構成関係式—システムの固有の特性を表すモデル—
章末問題
2.物理量の関係性—次元解析と無次元数—
2.1 物理量の次元と次元解析:次元で見る物理量の関係性
2.1.1 知識の共有のための物理量
2.1.2 次元・単位と次元解析によるモデルの精緻化
2.1.3 テンソルの不変量で普遍的な法則を見つける
2.2 無次元化によって本質を見つけ出す
2.2.1 バッキンガムのπ定理と無次元数
2.2.2 減衰振り子の問題に現れる時間の定数
章末問題
3.システムの状態の偏微分方程式による記述
3.1 システムの状態を表現する変数の空間
3.2 偏微分と偏微分方程式
3.2.1 偏微分と変数空間の幾何
3.2.2 偏微分方程式
3.3 1階偏微分方程式の特徴と物理的意味
3.3.1 準線形方程式の特性曲線と一般解—曲線の集まりとしての曲面—
3.3.2 一般的な非線形方程式と完全解
3.4 多様な現象を記述する2階偏微分方程式
3.4.1 解の存在と一意性
3.4.2 線形方程式の重ね合わせの原理
3.4.3 2階線形偏微分方程式の分類と標準形
3.5 ラプラス方程式
3.5.1 ラプラス方程式とその境界値問題
3.5.2 2次元ラプラス方程式と解析関数
章末問題
4.発展方程式による未来予想
4.1 時間の矢と先読み未来予想のためのモデル
4.2 力学系の発展方程式と偏微分方程式の関係
4.2.1 力学系と常微分方程式の初期値問題
4.2.2 相空間の時間発展とハミルトン系の性質
4.2.3 力学系の背後にある偏微分方程式
4.3 波動伝ぱの問題
4.3.1 運動学的波動方程式
4.3.2 交通流と交通渋滞の問題
4.3.3 衝撃波とランキン・ユゴニオ条件
4.4 波動方程式
4.4.1 波動方程式の導出
4.4.2 ダランベールの解とストークスの公式
4.4.3 依存領域と影響範囲
4.5 熱伝導・拡散方程式
4.5.1 熱伝導・拡散方程式
4.5.2 無次元化と相似解
4.6 フーリエの方法
4.6.1 波動方程式についてのフーリエの方法
4.6.2 熱伝導方程式についてのフーリエの方法
4.7 積分変換による解法
章末問題
5.隠れた系の存在と力学の安定性問題
5.1 エネルギー地形と配置力と現象解析の関係性
5.1.1 現象の駆動力とエネルギー地形
5.1.2 汎関数の停留問題
5.1.3 特異点の運動—結晶体の格子欠陥から台風の目まで—
5.1.4 移動界面のフェーズフィールドモデル
5.1.5 マルチスケールモデリング
5.2 グリーン関数
5.2.1 線形演算子と随伴演算子
5.2.2 線形演算子のグリーン関数
5.2.3 グリーン関数と行列の対比
5.2.4 偏微分方程式のグリーン関数法
5.2.5 偏微分方程式の基本解
5.3 ルジャンドル変換・ラグランジュ関数法と双対性
5.3.1 ルジャンドル変換と双対性
5.3.2 熱力学ポテンシャルと駆動力
5.3.3 ラグランジュ関数法
5.4 不安定現象のモデリングと解析
5.4.1 力学系の安定性
5.4.2 周期解の安定性と積分可能性
5.4.3 非保存系の安定性
5.4.4 構造不安定性と材料不安定性
5.4.5 カタストロフ理論による不安定性の分類
5.4.6 不安定現象を積極的に利用する技術
章末問題
6.コンピューターによる現象解析
6.1 時間発展方程式の数値計算
6.1.1 差分と差分商
6.1.2 時間積分器
6.1.3 熱伝導・拡散方程式の解
6.1.4 波動方程式の解
6.2 2次元ラプラス方程式の数値計算
6.2.1 離散化による解法
6.2.2 離散ラプラシアンと差分法
6.2.3 ランダムウォーク—モンテカルロ法—
6.2.4 有限要素法
6.2.5 境界要素法
6.2.6 解法の適用と結果の可視化
6.3 AI共生時代のモデリングと現象解析の未来
付録
引用・参考文献
章末問題解答
索引
読者モニターレビュー【 Odachan 様 (業界・専門分野:機械工学専攻)】
本書は理工系の大学生に向けた、機械工学の研究に用いる応用数学の基礎に関する教科書です。数学を工学の道具として利用することに慣れていない学生にも理解できるよう、基礎的な事項が丁寧に解説されています。
1章では数理モデルという概念について述べられており、用語の説明や具体例が充実しているため、初学者でもつまずくことなく学習を進められます。2章では、数理モデルの共通の表現である物理量について学びます。これらを踏まえた3章では、現象をモデル化するための偏微分方程式の物理的意味と解法を扱っており、基礎的な用語や演算子に関する丁寧な記述からは、数学が苦手な学生に対する配慮が感じられます。さらに4・5章では発展的な内容として波動方程式、熱伝導・拡散方程式、現象の安定性を取り上げ、最後の6章ではプログラミングコードを例示しながら、コンピュータシミュレーションを用いた解析方法を分かりやすく説明しています。
本書を読むことで、これまで座学の数学と実際の専門科目との間に感じていた壁が解消され、機械工学における「数学の役割」を再認識できます。これから機械工学を学ぶ理工系の学生にとって、大きな助けとなる一冊であると確信しています。
読者モニターレビュー【 たか 様 (業界・専門分野:制御工学(産業応用))】
物理現象のモデリングは、シミュレーションや制御系の設計など、多くの場面で必要となる手法である。近年、デジタルツインやサイバーフィジカルなどの分野が注目されているように、学術分野の研究者のみならず、産業界の大多数の人が触れたことがあるであろう。このモデリングには、物理現象や対象システムの挙動を数式で表現するための数学的知識が必須である。本書は、それに必要な応用数学の基礎を、実例を交えて学ぶことのできる参考書である。
第1章は、「数理モデリングとは何か」という章題で始まる。哲学的な内容もあるが、リザバーコンピューティングやAIなど最近の話題にも触れられており、「数理モデルとは何か」という知識を俯瞰的に習得できる。第3章では、以降の内容の準備的な内容として、偏微分方程式の基礎的な数学知識が述べられる。丁寧な数式展開の説明、豊富な例題と解説があり、基礎的な内容から復習したい社会人技術者にもおすすめである。こうした準備を経て、第4章以降にて発展方程式や力学の安定性など、モデリングの内容に展開されていく。制御工学の分野でよく目にする自律系や、波動方程式、熱伝導方程式のみならず、例題4.1で触れられるSIRモデルなど、多くの物理現象を例にして、どのようにモデルを構成していくかが丁寧に論述されている。また、安定性についても、説明に沿った章構成や丁寧な解説がなされており、スムーズに読み進めることができた。
本書は、モデリングに興味があり、数学的知識を習得したい学生や社会人技術者に薦めたいと思う。前半の数学的準備を踏まえて、いくつもの例を交えながらモデリングや現象解析が説明される構成となっているため、知識を習得しつつ、この数学的知識がどのようにモデリングへ結び付くのかと理解を深めながら読み進めることができるであろう。
関連資料(一般)
- 読み物『力学をつくる眼 ― 数理モデリングと現象解析から読む応用力学小史 ―』








