土木・環境系コアテキストシリーズ E-7
公共事業評価のための経済学
土木技術者のための経済学を根本となるものの考え方から導入し,各種経済理論から公共経済政策など具体的な事例を易しく解説した
- 発行年月日
- 2013/06/07
- 判型
- A5
- ページ数
- 238ページ
- ISBN
- 978-4-339-05640-2
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
なぜ土木技術者が経済学を学ぶ必要があるのか?経済分析は土木計画策定におけるいかなる段階で必要となるのか?など,根本となるものの考え方から導入し,各種経済理論から公共経済政策など具体的な事例をもとに易しく解説している。
本書の大部分は経済学の理論に依拠する内容であるが,想定している読者層は,経済学部の学生や経済学者ではなく,土木工学・環境工学およびこれらに関連する学部に所属する学部上級生,大学院生や,公共事業評価に携わる実務者などである。本書は,経済学部のテキストとして一般的な“公共経済学” とは内容が異なり,経済学の一応用分野としてではなく「社会基盤政策≒公共政策」という視点から,工学的に経済分析の応用を必要とする場面,特に社会基盤政策の計画と評価の場面において必要とされる知識と技術を学ぶという立場に立っている。
まず,これらの想定読者層が直面している,あるいは卒業後に直面するであろう実務的状況について説明しよう。土木(社会基盤)分野に関連する公共投資プロジェクトの実施に際して,事業の是非や必要性に対する社会からの視線は厳しさを増している。プロジェクトの計画においては,プロジェクトがもたらす効果の評価もあわせて提示することが要求されるようになり,費用対効果分析,費用便益分析は,計画のプロセスに組み込まれつつある。このため,土木分野における公共投資プロジェクトに携わる者にとって,プロジェクト評価に関する知識の重要性が高まっている。そして,投資評価のために必須ともいえる知識が経済学の理論である。以上を踏まえ,本書は,土木分野における公共事業評価において要求される知識や技術を学ぶことを基本的な目的としている。
また,経済学と土木工学は,どちらも人間社会を支えるための学問である点と,どちらも資源や技術の制約がある中での最適化を考えるという数理的基礎を土台にしている点において共通している。したがって,土木技術者が土木工学を修めるために経済学を学ぶことは自然な道筋ともいえる。
本書は大きく分けて,基礎的なミクロ経済学の理論,費用便益分析の理論と手法,費用便益分析の周辺領域をなす経済分析手法という三つの部分から構成されている。経済学の専門書では,ミクロ経済理論のテキスト,費用便益分析のテキスト,公共経済学のテキストなど,それぞれ専門の内容に特化したものが標準的である。大学での講義科目を考えると,経済学部や経済学専攻では,例えば,ミクロ経済学,マクロ経済学,計量経済学,公共経済学などのように,経済学の中での専門分野ごとに科目が提供される。ところが,土木工学・環境工学の学部,大学院においては,経済学の知識を提供する講義科目数は専門課程内で多くても2 科目であり,土木計画学や交通計画などの講義科目内での一部内容として取り扱われることや,場合によっては卒業・修了までいっさい経済学に触れることがないという状況すらありうるのである。そして,公共投資プロジェクト評価に関する実務に携わったときに,いきなり経済学の理解を要求されるという場面に遭遇する。このような背景があるため,土木工学・環境工学出身の人には,経済学とはハードルが高いもの,なにやらよくわからない理論を振りかざすもの,といった認識を持つ人がいることは否定できない。
そこで本書は,大学での1 学期の講義期間において,公共投資プロジェクト評価に必要となる最小限の知識を提供できるよう,実際の公共投資評価に密接に関連する内容に絞り込むことを心がけた。また,実務者にとっても,数冊の専門的テキストを読破するよりも容易に,費用便益分析などの公共投資評価に直結する内容を学べるような入門書となることを意識した。もちろんその代償として,経済学をより深く理解したい方にとって,各章の内容が“薄い” ものになっていることは否めない。幸いなことに,前述のように経済学のテキストには各専門分野に特化した多くの良書が存在し,本書でも適宜参照している。さらに高度な知識を習得したい読者は,本書のレベルを飛び越えて,ぜひチャレンジしていただきたい。
最後に,本書執筆の機会を与えてくださった京都大学・小林潔司先生,辛抱強く編集にご尽力いただいたコロナ社の皆様に心よりの感謝の意を表します。
2013 年4 月
石倉智樹,横松宗太
1.社会基盤政策と経済学
1.1 なぜ土木技術者が経済学を学ぶのか
1.2 本書が扱う範囲
2.消費者行動
2.1 家計の選好
2.2 効用最大化問題
2.3 支出最小化問題
2.4 需要関数の性質
演習問題
3.生産者行動
3.1 企業活動の目的と制約
3.2 生産関数と限界生産性
3.3 利潤最大化問題
3.4 費用最小化問題
3.5 費用関数の性質
3.6 固定費用,サンク費用と供給関数
演習問題
4.完全競争市場
4.1 完全競争市場の均衡
4.2 純粋交換経済における均衡
4.3 生産経済における均衡
4.4 パレート効率性
4.5 厚生経済学の基本定理
演習問題
5.不完全競争市場
5.1 独占と寡占
5.2 独占市場の均衡
5.3 独占の要因と規制
5.4 寡占市場の均衡
5.5 製品差別化と独占的競争
演習問題
6.公共プロジェクトの必要性
6.1 市場の失敗と公共プロジェクト
6.2 公共財の概念
6.3 公共財の供給
6.4 大規模性と長期性
6.5 政府の失敗と公共プロジェクト評価
演習問題
7.経済評価の指標
7.1 評価指標の合理性
7.2 便益の定義:等価変分と補償変分
7.2.1 等価変分と補償変分の定義
7.2.2 等価変分と補償変分の関係
7.3 消費者余剰
演習問題
8.費用便益分析の基礎
8.1 費用便益分析の基本的な考え方
8.2 便益の発生と帰着,効率性と公平性
8.2.1 発生ベースの評価手法
8.2.2 帰着ベースの評価手法
8.3 パレート効率性と補償原理
8.4 割引率と現在価値
8.5 費用便益分析の指標
8.5.1 便益と費用の現在価値
8.5.2 純現在価値法
8.5.3 内部収益率法
8.5.4 費用便益比
演習問題
9.費用便益分析の実践と応用
9.1 費用便益分析の実践
9.2 二重計測の問題と直接・間接効果
9.3 需要予測
9.4 費用便益分析のマニュアル
9.5 非市場財の便益計測手法
9.5.1 CVM
9.5.2 旅行費用法
9.5.3 ヘドニックアプローチ
演習問題
10.不確実性
10.1 土木計画と不確実性
10.2 ベイズの定理
10.3 期待値原理
10.4 期待効用理論
10.5 プロジェクトの便益指標
10.6 リアルオプションアプローチ
演習問題
11.長期の社会基盤政策
11.1 社会基盤の長期的特性
11.2 アセットマネジメント
11.3 社会資本の生産性
11.4 経済成長理論と社会基盤
11.4.1 ソローモデル
11.4.2 最適成長モデル
11.4.3 内生的成長理論と社会資本のマネジメント
演習問題
12.国民経済計算と産業連関表
12.1 国民経済計算の役割と体系
12.1.1 SNA 体系
12.1.2 生産勘定
12.1.3 所得支出勘定
12.1.4 蓄積勘定
12.1.5 勘定行列形式
12.2 産業連関表
12.3 地域と地域間の産業連関表
演習問題
13.産業連関分析と応用一般均衡分析
13.1 産業連関分析の基礎
13.1.1 産業連関分析の考え方と基本的なモデル
13.1.2 レオンチェフ逆行列の意味
13.1.3 輸入を考慮した産業連関モデル
13.1.4 産業連関分析の課題
13.2 応用一般均衡分析
13.2.1 応用一般均衡モデルの理論と定式化
13.2.2 応用一般均衡分析の適用
演習問題
14.さらに進んで勉強する人のために
14.1 外部性
14.2 公共財の私的供給
14.3 世代重複モデルと動学的効率性
14.4 おわりに─ 土木エンジニアによる経済分析
演習問題
引用・参考文献
演習問題解答
索引
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掲載日:2024/11/05
-
掲載日:2023/09/29
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掲載日:2022/11/01
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掲載日:2021/11/01
-
掲載日:2020/10/30
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掲載日:2019/11/15