地盤技術概論 - 新しい地盤の工学への序論 -
- 発行予定日
- 2026/10/上旬
- 判型
- B5
- 予定ページ数
- 296ページ
- ISBN
- 978-4-339-05286-2
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
地盤技術は,土木・建築技術の根幹をなす技術でありながら,その全体像が体系的に語られることはほとんどありませんでした。本書では,地盤技術の現場で長年問題解決に携わってきた実務技術者たちが,地盤技術の歴史的変遷をたどりながら,基礎学問である地盤力学(土質力学,岩盤力学など)や応用地質学との関係も含めて根本から見つめ直し,「地盤技術とは何か」を明らかにしています。
地盤分野の技術や学問を学ぶ学生や若手技術者にとって優れた入門書であることはもちろん,第一線で活躍する実務者や研究者にとっても,自らの知識と経験を再整理し,未来を展望するための格好の指針となるでしょう。
本書は,あなたの地盤技術観のみならず,土木工学観・地盤工学観・地質工学観を確実にアップデートしてくれるに違いありません。
■地盤技術の本質を体系的かつ実務的に描き出した書籍
本書の新しさは,これまで明確でなかった地盤技術,とくに地盤構造物とその設計の方法を明確にし,それに沿って既往のさまざまな技術基準,経験則,基礎学問の知識などを編集し,技術体系として再構築している点です。特に,地盤力学と応用地質学という対照的な学問の関係性を,現場の視点から丁寧に紐解いている点は圧巻です。地盤力学は因果関係を重視する説明的科学,応用地質学は観察と分類を重視する記述的科学。本書はこの二つを対立ではなく補完関係として捉え,地盤調査から設計・施工に至るまでの一連のプロセスである地盤技術を統合的に理解できるよう導きます。
■現場技術者の地盤を読む総合的な力を与える書籍
地盤技術は,自然地盤を扱う技術と,採取した土や岩石を材料として構造物を造成する技術という,性質の異なる二つの領域を内包しています。また対象となる地盤は「土砂地盤」と「岩石地盤」に大別され,それぞれに必要な知識体系や設計思想が異なります。
本書は,これまで明確にされてこなかった,この複雑な内容を持つ地盤技術を実務者が迷わず使える“地盤技術の地図”として提示しています。
■地盤技術の基礎学問の未来を示す書籍
今日,社会資本の老朽化対策,防災・減災への対応,激甚化する自然災害への備えなど,地盤技術が果たすべき役割はますます重要になっています。そのような時代において,本書が提唱する「地盤工学」と「地質工学」の枠組みを超えた「新たな地盤の工学」の構築という視点は,1948年にカール・テルツァーギが展望した”Geotechnology”の理念を現代的な形で受け継いで,地盤分野の学問の今後の発展方向を示唆する貴重な提言となっています。
【本書を特に読んでほしい読者】
地盤調査に従事している地質技術者,地盤構造物の設計に従事している土木技術者など,地盤技術の本質を深く理解したい技術者,体系的な知識を求める若手技術者,そして土木・建築関係の官民のインハウスエンジニア。また地盤力学・地盤工学・応用地質学・土木工学を学んでいる高専生・大学学部生・大学院生やその教育者など。
【本書を読む前にあると望ましい前提知識】
初心者でも理解できるように書かれていますが,地盤力学,応用地質学,土木工学の基礎的な知識を持っていれば,より理解が深まります。
【本書を読むことで得られる知識・できるようになること】
実際の地盤に根差した地盤調査や地盤構造物の設計・施工のあり方,勘所を理解出来るようになります。
【本書の特徴・工夫した点】
地盤技術の具体的な内容は国や公共・民間団体の技術基準として流布していますが,地盤技術の基礎学問である地盤力学や応用地質学,あるいは地盤工学や地質工学などのように,教科書的な本が出版されるということもありません。そこで本書は,土木・建築構造物の建設や保全に関わろうとしている,あるいはすでに関わっている若手技術者のために,地盤技術がどういうものかを理解してもらうための教科書として執筆したものです。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
「地」という字には,さまざまな読み方と意味があります。「ち」と読めば,天に対して地上のことですし,海に対して陸地のことです。「じ」と読めば,土台,もともと備わっているもの,あるがままの状態などという意味になります。さらに「つち」と読むと,岩石が分解した土ということになります。つまり「地」は,さまざまな構造物を支える土台であり,それらの材料となる土であり,また植物を育てる土でもあります。まさに人間にとって恵みをもたらす「大地」です。
この「地」に係わる「土工」という言葉があります。「土工」とは,土木・建築構造物を建設する際の工事で,土を掘削したり,運んだり,盛ったり,固めたりすること,また必要な土を補って,計画的に地形を整える基礎的な作業のことです。さらにそういう作業をする労働者をいう言葉でもあります。
この「土」と「工」という字について,飯田賢一という技術史家がつぎのような興味深いことを述べています。(飯田賢一:技術史-人間と技術のふれあい-,放送大学教材 261A,pp.8–9,1990)
『字源辞典』によると,土という象形文字は,土を盛ったかたち,また地中から植物が押し出るかたちからきている。これに対し,ものをつくること,ものをつくる人を意味する工という字は,斧のかたちが原始形である。斧という道具がもととなって,「工」という文字と,つくることの思想を生み出したことになる。
この土と工の文字の違いは,土の字の上に出た部分が削りとられているだけですが,ここには,“「工」=「つくること」は,「土」つまり大地をもとにしてこそ初めて成り立つ,という人間の知恵が示されていると言えないだろうか”というのです。
“「工」=「技術」と受けとめてみると,技術を考えるうえで大切なことは,その大地に生活する人々にとって,どういうやり方が最も好ましいか,その大地の諸条件に適っているか,つまり「土」と「工」とのバランスにある”と飯田はいう。まさに卓見です。
古来,人間は,農業用水を確保するために「地=大地」を掘って灌漑水路やため池をつくり,また鉱石を得るために「地=大地」の中に坑道を掘り,あるいは墳墓や祭祀施設をつくるために「地=大地」の上に土や石を盛り,さらには神殿を建てるため石積みや盛り土の構造物を立ち上げてきました。そこに用いられたのが,技術としての「土工」です。
大地は,地球上の地域によって,地形や地質が違ううえ,気象も違うわけで,そこに住む人々は,大地をその諸条件に合わせて,農業,鉱業,土木・建築事業の場として組織的に利活用し,さまざまな構造物を築いてきましたが,そこには地域による大地の違いを反映した“独自性”とともに,技術というものが持つ本来的な性質を反映していると思われる“共通性”がみられるのは,歴史が示すところです。
この技術としての「土工」,すなわち「地=大地」に直接働きかける技術は,長い間,土木・建築技術の中に未分化のまま含まれて,その経験が人から人へ受け継がれてきましたが,現在では,経験的な知識に加えて,土や岩石さらには「地=大地」についての学問の知識なども取り入れて,土木・建築技術の中でも独自性を持った専門技術として発展しています。本書では,この専門技術を“地盤技術”と称し,『地盤技術概論』というタイトルが示すように,その内容について概略の説明を試みています。
しかしこの地盤技術という言葉は,まだ世の中にそれほど広く認知されているわけではありません。事実,ネット検索をしてみても,地盤技術がどういう技術かを説明してくれる情報は出てきません。それどころか,地盤技術と密接な関係を持つ学問である地盤工学や地質工学においても,地盤技術についての明確な説明はされていません。
詳しくは第 1 章で述べますが,本書では,土木・建築構造物が地盤と直接関わる部分のことを「地盤構造物」,その調査・設計・施工・維持管理の方法を「地盤技術」と定義しています。ちなみに「地盤」とは,「構造物の設置又は掘削の対象となる地球表層部分」(JIS A 0207:2018 番号 0101)のことです。
本書では,地盤技術のすべてについて取り上げているわけではありませんが,「地盤技術とはどういうものか」を理解してもらうことを優先する立場から,代表的な地盤構造物の調査から設計のプロセスについて体系的に記述しています。
本書は,地盤技術を総括的に扱った初めての本です。本書を通して,地盤技術についての理解が広まるとともに深まることを願っています。
本書の執筆にあたっては,原案の一部執筆,査読,助言,資料提供などについて,谷本親伯(大阪大学名誉教授),龍岡文夫(東京大学・東京理科大学名誉教授),中井照夫(名古屋工業大学名誉教授),中井健太郎(名古屋大学准教授),田代むつみ(名古屋大学講師),堀越研一(成和コンサルタント),中野正晴(大成建設),長尾俊昌(大成建設),綱井裕史(ソニー),誉田孝宏(地域地盤環境研究所),稲垣祐輔(同左),奥園誠之(NEXCO 西日本エンジニアリング中国),佐藤修治(基礎地盤コンサルタンツ),福井謙三(同左),川井田実(同左),海瀬忍(NEXCO 中日本),稲垣太浩(土木研究センター),横田聖哉(NEXCO 東日本),中野清人(同左),中村洋丈(NEXCO 総合技術研究所)の方々にご尽力いただきました。ここに深甚なる謝意を表します。
2026 年 9 月
栗原 則夫・末岡 徹+今村 遼平・上野 将司
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
本書を読むにあたって
序章.地盤技術の歴史
0.1 人間は地盤をどのように利活用してきたか
0.1.1 知恵と人力による技術の時代
0.1.2 科学と機械力による技術の時代
0.2 地盤技術とその基礎学問の変遷
0.2.1 地盤技術の変遷
0.2.2 基礎学問の変遷
1.地盤技術の概要
1.1 地盤技術とは何か
1.2 地盤構造物
1.2.1 地盤構造物と土木・建築構造物
1.2.2 地盤構造物の分類
1.2.3 地盤構造物の仕組み
1.2.4 地盤構造物の定義
1.3 地盤構造物の設計法
1.3.1 人工物の設計
1.3.2 地盤構造物の設計の留意点
1.3.3 地盤構造物の設計フロー
1.3.4 実際の設計のポイント
2.地盤の形成と構造
2.1 地盤は地殻の表層部
2.2 地盤はどのようにして形成されたか
2.2.1 地殻とマントル
2.2.2 プレートテクトニクス
2.2.3 地盤を形成する営力
2.2.4 地質学の基本的な法則・原理
2.3 日本の地盤の成り立ち
2.3.1 地質年代
2.3.2 日本列島の地史
2.3.3 現在の日本の地盤の姿
2.4 地盤を構成する物質
2.4.1 土と岩石
2.4.2 水
2.5 地盤の分類と構造
2.5.1 地盤の分類
2.5.2 土砂地盤
2.5.3 岩石地盤
3.地盤の構造の調査
3.1 地盤調査の意義
3.1.1 地盤調査の目的
3.1.2 地盤調査の基本
3.1.3 地盤調査の進め方
3.1.4 おもな地盤調査
3.1.5 設計・施工上見落としてはならない地形
3.2 地盤の構造の表現
3.2.1 土質柱状図と地質柱状図
3.2.2 地質図
3.2.3 工学地質図
3.2.4 地盤調査報告書
3.3 地盤の構造が影響する現象
3.3.1 地盤の構造の影響
3.3.2 土の骨格構造の影響
4.地盤構造物の設計
4.1 一般的事項
4.1.1 技術基準など
4.1.2 要求機能,要求性能
4.1.3 設計の基本方針
4.1.4 設計代替案の作成の留意点
4.1.5 観測施工の意義
4.1.6 その他の共通事項
4.2 盛土構造物(盛土)
4.2.1 盛土構造物と盛土の概念
4.2.2 盛土の設計の考え方
4.2.3 盛土の設計の手順
4.2.4 盛土の品質管理の方法
4.2.5 設計・施工上注意を要する盛土
4.2.6 トラブルが発生した設計・施工事例
4.3 軟弱地盤における盛土構造物
4.3.1 軟弱地盤における盛土構造物の概念
4.3.2 軟弱地盤における盛土構造物の設計の考え方
4.3.3 軟弱地盤における盛土構造物の設計の手順
4.3.4 最近の設計・施工事例
4.4 切土構造物
4.4.1 切土構造物の概念
4.4.2 切土構造物の設計の考え方
4.4.3 切土構造物の設計の手順
4.4.4 特殊な地山箇所での安定のり面勾配の設計のポイント
4.4.5 特殊な地山における設計・施工事例
4.5 斜面安定構造物
4.5.1 斜面安定構造物の概念
4.5.2 斜面安定構造物の設計の考え方
4.5.3 斜面安定構造物の設計の手順
4.5.4 地すべり地における設計・施工事例
4.6 トンネル構造物
4.6.1 トンネル構造物の概念
4.6.2 トンネル構造物の設計の考え方
4.6.3 トンネル構造物の設計の手順
4.6.4 坑口部における設計
4.6.5 特殊な地山における設計・施工事例
4.7 基礎構造物(建築基礎)
4.7.1 基礎構造物(建築基礎)の概念
4.7.2 基礎構造物(建築基礎)の設計の考え方
4.7.3 基礎構造物(建築基礎)の設計の手順
4.7.4 根切り・山留めの設計
4.7.5 地盤の変形に関わる施工トラブル・解析の事例
5.これからの地盤技術
5.1 信頼性の高い設計
5.1.1 BIM/CIM
5.1.2 三次元地盤モデル
5.1.3 深層学習
5.2 信頼性の高い安全・安心な施工
5.2.1 情報化施工
5.2.2 ICT施工
5.2.3 無人化施工
5.2.4 自動化施工
5.3 月の地盤の利活用
5.3.1 地形と地質および地史
5.3.2 月のレゴリス
5.3.3 月における土質力学
5.3.4 月の縦孔と溶岩チューブ
5.3.5 月における基地建設の検討
索引








