マネジメント技術の国際標準化と実践 - 建設プロジェクトの挑戦 -
PMBOK®をガイドとし、筆者の国内外での経験を踏まえ,国際標準化が進むマネジメント技術の知識体系や実践方法を解説
- 発行年月日
- 2018/11/02
- 判型
- A5
- ページ数
- 232ページ
- ISBN
- 978-4-339-05262-6
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
本書では,筆者の国内外におけるプロジェクトマネジメントの経験を踏まえ,国際標準化が進むマネジメント技術の知識体系や実践方法を解説する。プロジェクトを成功に導くために,マネジメントは,きわめて有効な技術や技能として実務者に認識されるようになった。プロジェクトマネジメントは,知識の総合的な体系化に伴い,標準化が進んでいる。欧米では,さまざまな分野から幅広く知識を集め,体系化し,科学的な手法も取り入れて国際標準化を進めている。例えば,アメリカのプロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute,PMI)が発行している『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド』(Project Management Body of Knowledge Guide,PMBOKガイド)は,2017年に第6版が出版された。本書では,『PMBOKガイド』を国際標準化されたプロジェクトマネジメントガイドとして扱っている。
1章「プロジェクトマネジメントの基礎知識」では,体系化・国際標準化が進むプロジェクトマネジメントの基礎知識を説明する。知識には,プロジェクトマネジメントの体系と,理論や経験から構築された内容が含まれる。
2章「日本の組織文化の影響」では,日本の組織文化が,マネジメントに及ぼす影響を述べる。日本の文化や思考は世界の中で特異性があり,国内での仕事やプロジェクトにおける日本人の常識は,世界では通じないことも多い。日本とは異なる文化的背景や組織的背景を有する多様な利害関係者が関わる国際的なプロジェクトに参加し,プロジェクトを成功させるには,まず,プロジェクトへの日本固有の環境要因を理解する必要がある。
3章「プロジェクトのマネジメント技術」では,国際標準化が進行するプロジェクトマネジメントに従って社会基盤プロジェクトを実施することを想定して,プロジェクトの立上げから終結までのマネジメント技術を説明する。プロジェクトマネジメントは,投入・工程(プロセス)・成果の流れで構成され,さまざまなツールや技法が工程に適用される。社会基盤プロジェクトは,国内外で日本の建設コンサルタントや建設会社によって実施されている。国内と海外では,用いる知識体系は似ていても,投入する情報や成果物としてのプロジェクトマネジメント計画書も異なる。国内で培ったマネジメントを海外でそのまま用いても,さまざまな変更要求やカントリーリスクには十分対応できない。これまでの国内外の建設プロジェクトやマネジメントを評価分析し,プロジェクトマネジメントの課題と対策も述べる。
4 章「建設プロジェクトの国際化」では,国内外の建設プロジェクトを取り巻く近年の状況変化を受けて,プロジェクトマネジメントの視点から,今後の建設や社会基盤整備の課題と対策を説明する。まず,日本の建設業の海外での受注や活動の実態を述べ,その課題を探った。
5章「プロジェクトの経済・財務分析」では,社会基盤整備への民間資本活用の課題を踏まえ,プロジェクトの経済・財務分析の手法を説明する。事業者や投資家は,プロジェクトファイナンスや会計法も理解し,経済・財務の視点からも事業が成立することを評価分析しなければならない。
本書は,筆者の国内外におけるプロジェクトマネジメントの経験を踏まえ国際標準化が進むマネジメント技術の知識体系や実践方法を解説する。プロジェクトを成功に導くために,マネジメントは,きわめて有効な技術や技能として実務者に認識されるようになった。さまざまな分野のグローバリゼーションが進行する中で,日本人が国内外で外国人とともに仕事をする機会は増えており,企業や組織はリスクをマネジメントしなければ存続できない状況になっている。しかし,多様な人々とチームを組んで,プロジェクトを問題なく実行することは,多くの日本人にとってそれほど簡単ではない。
具体的なプロジェクトとして,国内外の建設一般や社会基盤整備を取り上げる。社会基盤整備は,地域や国家の歴史や社会,経済,人々の生活,さらに自然環境に多大な影響を与えてきた。多くの社会基盤のプロジェクトは大規模かつ複雑であり,多くの人々が利害関係を有するために,これらのプロジェクトマネジメントが抱える課題も深く広い。社会基盤整備は,難しいプロジェクトの一つであり,適切なマネジメントを必要とする。国内外で社会基盤整備の手法や資金調達が変化する中で,海外のプロジェクトに日本人が参加し,プロジェクトを成功させるためには,マネジメントを十分理解した上で,実施しなければならない。
マネジメントは,社会で働いた経験がある人ならば,実務を通じて断片的ではあるが,その都度,必要な知識を身につけられる。しかし,マネジメントは,プロジェクトの経験や記録に基づく知識や方法論に限らず,きわめて幅広い知識分野を含んでいる。品質と原価だけを取り上げてバランスよく調整すれば,プロジェクトが成功するわけではない。成功するには,総合的なマネジメントが求められており,プロジェクトの期限や品質,予算を満足して,顧客の要求事項に答えなければならない。プロジェクト自体は,日常発生するものから宇宙開発まで非常に幅広いため,プロジェクトマネジメントは一律に扱えない要素を含んでいる。しかし,その技術や手法を理解し,それを自分の専門分野や仕事でのプロジェクトに適用すれば,新たな成果や価値を生み出すことができる。
プロジェクトマネジメントは,知識の総合的な体系化に伴い,標準化が進んでいる。欧米では,さまざまな分野から幅広く知識を集め,体系化し,科学的な手法も取り入れて国際標準化を進めている。例えば,アメリカのプロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute,PMI)が発行している『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド』(Project Management Body of Knowledge Guide,PMBOKガイド)は,2017年に第6版が出版された。欧州や国連などでは,イギリス政府が開発したPRINCE2が用いられている。PMIは,1969年に設立された非営利のプロジェクトマネジメントの組織であり, 世界各国でプロジェクトマネジメントの標準策定やPMP(Project Management Professional)資格認定,交流などを行っている。本書では,『PMBOKガイド』を国際標準化されたプロジェクトマネジメントガイドとして扱っている。
本書では,1章で,体系化・国際標準化が進むプロジェクトマネジメントの基礎知識を説明する。知識には,プロジェクトマネジメントの体系と,理論や経験から構築された内容が含まれる。
2章では,日本の組織文化が,マネジメントに及ぼす影響を述べる。日本の文化や思考は世界の中で特異性があり,国内での仕事やプロジェクトにおける日本人の常識は,世界では通じないことも多い。日本とは異なる文化的背景や組織的背景を有する多様な利害関係者が関わる国際的なプロジェクトに参加し,プロジェクトを成功させるには,まず,プロジェクトへの日本固有の環境要因を理解する必要がある。
3章では,国際標準化が進行するプロジェクトマネジメントに従って社会基盤プロジェクトを実施することを想定して,プロジェクトの立上げから終結までのマネジメント技術を説明する。プロジェクトマネジメントは,投入・工程(プロセス)・成果の流れで構成され,さまざまなツールや技法が工程に適用される。社会基盤プロジェクトは,国内外で日本の建設コンサルタントや建設会社によって実施されている。国内と海外では,用いる知識体系は似ていても,投入する情報や成果物としてのプロジェクトマネジメント計画書も異なる。国内で培ったマネジメントを海外でそのまま用いても,さまざまな変更要求やカントリーリスクには十分対応できない。これまでの国内外の建設プロジェクトやマネジメントを評価分析し,プロジェクトマネジメントの課題と対策も述べる。
4章では,国内外の建設プロジェクトを取り巻く近年の状況変化を受けて,プロジェクトマネジメントの視点から,今後の建設や社会基盤整備の課題と対策を説明する。まず,日本の建設業の海外での受注や活動の実態を述べ,その課題を探った。コミュニケーションや,契約などのリスクマネジメントに関する多くの課題が日本企業によって認識されている。近年,社会基盤は,各国政府の財政負担を軽減するために,民間資本も活用して開発するようになってきた。そのためにプロジェクトの調達や契約の方式が変化している。
社会基盤整備にとって環境社会配慮との協調は,長年の課題であり,課題解決のための国際援助機関の取組みも変化してきた。途上国の社会基盤整備では,経済性だけでなく,ビジネスとして収益も得られるように,官民で適切に役割とリスクを分担し,官民連携で取り組む新たな方式が求められている。 日本の政府開発援助による途上国の社会基盤整備の成果は,国内外で十分に理解されていない状況にある。プロジェクトの評価は公平に実施され,公開される必要がある。プロジェクト評価では,開発を支援する側だけでなく,支援される側の評価も求められている。
5章では,社会基盤整備への民間資本活用の課題を踏まえ,プロジェクトの経済・財務分析の手法を説明する。事業者や投資家は,プロジェクトファイナンスや会計法も理解し,経済・財務の視点からも事業が成立することを評価分析しなければならない。
本書は,筆者の限られた知識と経験による読本であり,国際標準化が進むプロジェクトマネジメントの直接の解説書ではないので,その詳細を理解するには,『PMBOKガイド』などを活用していただきたい。読者は,国内外で建設や社会基盤に関心のある学生や社会人に加えて,プロジェクトマネジメントを学習した経験はないが,マネジメントに関心のある方々も対象にしている。読者が理解を深められるように,また,アクティブラーニングなどの新しい教育方法にも対応するように,問題や演習問題を掲載した。本書の出版にあたり,コロナ社および株式会社熊谷組 神代直弘氏,合同会社石黒アソシエイツ石黒正康氏から多くの有益な示唆や協力をいただいた。ここに深く感謝いたします。
2018年8月 山岡 暁
1. プロジェクトマネジメントの基礎知識
1.1 プロジェクトとは
1.2 プロジェクトマネジメントとは
1.2.1 定義
1.2.2 ドラッカーのマネジメント
1.3 マネジメントは役に立つのか
1.3.1 職場での不平・不満
1.3.2 社会問題とマネジメント
1.4 プロジェクトマネジメントの進化
1.4.1 プロジェクトマネジメントの意義
1.4.2 プロジェクトマネジメントの体系
1.5 投入から成果まで
1.6 プロジェクト組織
1.7 プロジェクト・ライフサイクル
1.8 プロジェクト・マネジャーはスーパーマン
1.8.1 プロジェクト・マネジャーの役割
1.8.2 責任と能力
1.8.3 人間関係の技術
1.9 マネジメント用語
1.9.1 マネジメントとコントロール
1.9.2 専門用語
2. 日本の組織文化の影響
2.1 多様な国際社会
2.1.1 ホフステッド指数
2.1.2 日本の文化次元
2.1.3 日本の組織文化
2.2 人権と平等
2.2.1 人権の歴史
2.2.2 建設分野の契約と行動
2.3 外国人とのコミュニケーション
2.3.1 コミュニケーションの違い
2.3.2 文書と承認
2.4 プロセスよりも結果か
2.4.1 危うい品質管理
2.4.2 プロセスと結果
2.4.3 工程用資源
3. プロジェクトのマネジメント技術
3.1 プロジェクトの立上げ
3.1.1 全体の見通し
3.1.2 プロジェクト定款
3.1.3 利害関係者の特定
3.2 マネジメント計画書の作成
3.2.1 プロジェクトマネジメント計画書
3.2.2 スコープの確認
3.2.3 作業分解構成図の作成
3.2.4 スコープの妥当性検証
3.3 スケジュールの作成
3.3.1 スケジュールマネジメント
3.3.2 作業の分析
3.3.3 作業順序設定
3.3.4 スケジュール作成工程
3.4 費用の見積と管理
3.4.1 予算の作成
3.4.2 生産価値マネジメント(EVM)
3.5 品質マネジメント
3.5.1 品質マネジメントの取組み
3.5.2 計画作成の手法
3.5.3 品質の保証と管理
3.6 リスクの特定と分析
3.6.1 リスクマネジメントの基本と計画
3.6.2 リスク特定
3.6.3 リスク分析
3.6.4 リスク対応計画
3.6.5 リスク管理
3.7 チーム要員の計画と育成
3.7.1 計画作成の手法
3.7.2 チーム編成と育成
3.7.3 チームマネジメント
3.8 コミュニケーションもマネジメント
3.8.1 コミュニケーションの重要性
3.8.2 計画作成の手法
3.8.3 進捗報告
3.9 外部からの調達
3.10 変更管理と終結
3.10.1 統合変更管理
3.10.2 プロジェクトの終結
4. 建設プロジェクトの国際化
4.1 建設業の海外活動
4.1.1 社会基盤整備と経済成長
4.1.2 海外での受注
4.1.3 海外活動の課題
4.1.4 中小企業の課題
4.1.5 海外進出のリスクと対策
4.2 海外の社会基盤整備の変化
4.2.1 官から民へ
4.2.2 受注競争の激化
4.2.3 入札と契約
4.2.4 建設工事プロジェクトの国際標準契約
4.3 開発と環境
4.3.1 社会基盤と環境
4.3.2 環境社会配慮
4.3.3 国際的な環境社会配慮の方針
4.3.4 課題と解決策
4.4 官民連携による社会基盤整備
4.4.1 官民連携の現状と構造
4.4.2 プロジェクトファイナンス
4.4.3 事業可能性と経済・財務評価
4.4.4 リスク分析
4.4.5 グッドプラクティス
4.4.6 官民連携プロジェクトの海外展開
4.5 プロジェクト評価システム
4.5.1 プロジェクト評価の位置付け
4.5.2 DAC評価原則
4.5.3 援助機関の評価システム
4.5.4 評価システムの特徴と課題
4.5.5 評価システムの国際展開
5. プロジェクトの経済・財務分析
5.1 経済・財務分析の基礎知識
5.1.1 経済分析と財務分析の違い
5.1.2 機会費用
5.1.3 埋没費用
5.1.4 現在価値
5.1.5 費用と便益
5.1.6 内部収益率
5.1.7 減価償却費
5.2 分析手法
5.2.1 分析の選定
5.2.2 経済分析
5.2.3 財務分析
5.2.4 費用便益分析
5.3 演習問題
5.3.1 基礎知識
5.3.2 経済分析
5.3.3 財務分析
5.4 社会基盤プロジェクトへの投資
引用・参考文献
演習問題解答
索引
さっちゃん 様
米国のプロジェクトマネジメント協会(PMI)発行の『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド』(PMBOKガイド)は国際標準化されたプロジェクトマネジメントガイドブックで邦訳版も刊行されているが、英文マニュアルの翻訳版によく見られるように(例えば、ウィンドウズのガイドブック)、やや読みにくいのが難点である。
放送大学面接授業「生涯使えるマネジメント技術」テキストとして使用された本書は、『PMBOKガイド』をベースに、筆者の知識・経験に基づいて再構築されて読み易い上、演習問題が豊富なので自学自習に適している(ただし、回答は不十分)。『PMBOKガイド』に対する本書は、『マネジメント』(ドラッカー)に対する『もしドラ』のようなものかもしれない。
読者の批評を踏まえて本書が版を重ね、米国流のプロジェクトマネジメントの考え方が我が国でも広く普及することを切に願う。
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掲載日:2019/11/15