社会資本整備の空間経済分析 - 汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)による実証方法 -
著者らが開発した汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)を用いた実証分析を通じて空間的応用一般均衡解析を解説。
- 発行年月日
- 2019/01/21
- 判型
- A5
- ページ数
- 156ページ
- ISBN
- 978-4-339-05234-3
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
本書では,空間的応用一般均衡分析を社会基盤整備に適応する方法を,その基礎的理論モデル,Excelを用いた数値計算例そして著者らが開発した汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)の理論構造・応用例の説明を通じて解説する。また,内容は標準的なミクロ経済学の教科書を習得したことを前提としているが,経済学の専門用語には注釈をつけることで,ミクロ経済学になじみのない読者でも読み進められるように工夫している。
本書が社会資本整備に携わる多くの人にとって,空間的応用一般均衡分析の学術的発展だけでなく,実務に定着していくための契機となれば幸いである。そして,よりよい国土構造を実現すべく効果的な社会資本整備計画の策定に役立つことを期待している。
「ある社会資本整備が本当に必要かどうか?」という問いかけには,わが国では費用便益分析マニュアルの整備とともに,ある一定程度,定量的な判断が可能であるという認識が定着しつつあり,B/C(ビーバイシー,費用便益比)という用語が一般的になりつつある。しかし,この質問には「誰にとっての社会資本整備が必要なのか?」という部分が明確にされていないばかりに,社会資本整備の評価に関する議論の混乱を生んでいることも間違いのない事実である。つまり,効果的な社会資本整備の場合,その事業が完成のあかつきには利用者にとってはたいへん有意義であり,その地域の住民にも歓迎されるものであろう。一方で,その整備の費用負担者は彼らのみでないことを考えると,必ずしもこの社会資本整備が必要でない人々が存在する。もちろん,ここでは恩恵を受ける利用者は社会資本整備に賛成し,一方で費用負担のみを強いられる人は利己的に考えるならば整備に反対するであろう。通常のB/Cの議論ではこの個々人が社会資本整備に対する評価の部分を十分に説明することができず,整備が社会全体としてプラスかマイナスかを判断しているにすぎない。そこで,より高度な社会資本整備の妥当性,あるいは,計画・評価に際しては,社会資本整備により,どの地域のどのような人々がどの程度の効果を受けるのか,あるいは負担を強いられるのか,を定量的に知ることが,よりよい社会資本整備をはかるうえで重要になってきている。
このような疑問に対する学術的貢献が「社会資本整備の空間経済分析」である。そのなかでは,空間的応用一般均衡分析が主要な分析手法とされ,非常に高度な経済理論が応用されている。本書は,この空間的応用一般均衡分析の概要をなるべく簡単に解説するテキストとして,そして,われわれが開発した,汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)を用いた実証分析を通じて,土木計画学を学ぶ大学院生あるいは経験の浅い実務者でも簡単にこの手法が利用可能となるように解説したものである。このRAEM-Light は,オランダ応用科学研究機構(NEDERLANDSE ORGANISATIE VOOR TOEGEPAST NATUURWETENSCHAPPELIJK ONDERZOEK,TNO)が開発したRAEM2.0モデルをベースに,著者とデルフト工科大学Lori Tavasszy教授,RPB研究所MarkThissen博士が共同開発したモデルであり,名前をRAEM-Light とした。また,故 上田孝行先生(元東京大学教授)により汎用型空間的応用一般均衡モデルと命名していただいたものである。
本書が社会資本整備に携わる多くの人にとって,空間的応用一般均衡分析の学術的発展だけでなく,実務に定着していくための契機となれば幸いである。そして,よりよい国土構造を実現すべく効果的な社会資本整備計画の策定に役立つことを期待している。
本書を刊行するにあたり,復建調査設計株式会社の佐藤啓輔氏,三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の右近崇氏,株式会社日通総合研究所の川本信秀氏,一般社団法人システム科学研究所の片山慎太郎氏をはじめ,RAEM-Light Committeeのメンバーに多くの情報提供をいただいた。また,コロナ社の方々には忍耐強く心温かいご協力に支えられてきた。ここに記して感謝する次第である。
2018年11月 神戸大学大学院 小池淳司
1. 序章
1.1 はじめに
1.2 応用一般均衡分析の歴史と概要
1.3 空間的応用一般均衡分析の概要
1.3.1 家計の行動モデル
1.3.2 企業の行動モデル
1.3.3 市場均衡と計算アルゴリズム
1.4 経済均衡分析の利用可能性
2. 汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)
2.1 はじめに
2.2 RAEM-Lightの概要
2.2.1 モデルに用いる変数のリスト
2.2.2 モデルの前提条件
2.2.3 家計の行動モデル
2.2.4 企業の行動モデル
2.2.5 交易のモデル化
2.2.6 市場均衡条件
2.2.7 パラメータの設定
2.2.8 計算の手順
2.2.9 厚生分析の方法
2.3 ExcelによるRAEM-Lightの計算方法
2.3.1 Excelのファイルについて
2.3.2 RAEM-Light(簡易版)の想定する経済構造と前提条件
2.3.3 想定する政策シナリオ
2.3.4 Excelマクロ操作方法
2.4 実務レベルでのRAEM-Lightの計算方法
2.4.1 対象範囲と対象プロジェクト
2.4.2 交易パラメータの推定方法
2.4.3 現況再現性確認
2.4.4 算出結果
2.4.5 政策的インプリケーション
2.5 RAEM-Lightの特徴と注意点
3. 汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)の応用事例
3.1 地域経済への波及効果の分析
3.1.1 モデルの改良点
3.1.2 パラメータの設定・現況再現性
3.1.3 分析結果と政策的含意
3.2 道路料金を考慮したモデルの拡張
3.2.1 モデルの改良点
3.2.2 モデルの設定条件
3.2.3 分析結果と政策的含意
3.3 港湾整備を考慮したモデルの拡張
3.3.1 モデルの改良点(既存モデルに付加する構造)
3.3.2 道路整備・港湾整備を考慮したRAEM-Lightの全体構造
3.3.3 実証分析
3.3.4 分析結果と政策的含意
4. 汎用型空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)の拡張事例
4.1 より詳細な中間財構造の導入モデル
4.1.1 既存モデルにおける中間財構造の問題点
4.1.2 より詳細な中間財構造の導入
4.1.3 数値シミュレーション
4.2 その他のRAEM-Light拡張の可能性
4.2.1 本源的需要としての交通需要の導入
4.2.2 独占的競争に代表される不完全競争市場の導入
4.2.3 交通整備の生産性向上効果の導入
5. 空間的応用一般均衡分析の実用可能性
付録A:用語解説
付録B:RAEM-Light(簡易版)のモデルと計算フロー
引用・参考文献
索引
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掲載日:2019/11/15
関連資料(一般)
- RAEM-Light簡易計算マクロExcel