例題で学ぶ 建築構造力学2 - 不静定構造力学編 -
好評の1(静定構造力学編)に続く続刊。不静定構造を解くための方法を,ストーリー性をもたせて例題を通じて学べるように解説した。
- 発行年月日
- 2013/10/07
- 判型
- B5
- ページ数
- 192ページ
- ISBN
- 978-4-339-05237-4
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
好評の1(静定構造力学編)に続く続刊。不静定構造を解くための方法を,ストーリー性をもたせて,例題を通じて学べるように解説した。自習用としても使えるように,数式を並べるのではなく行間を埋めるような説明を加えている。
建築物には,住宅,事務所ビル,集会所などのさまざまな用途があり,それぞれの目的のために空間が計画され,設計される。古代ローマ時代の建築家であるウィトルウィウスが『建築十書』で述べたように,建築に要求される性能は,強(firmitas),用(utilitas),美(venustas)である。そのなかで,特に地震国であるわが国では,「強」がきわめて重要な役割を果たす。
建築学を学ぶ多くの学生は,「美」あるいは「用」に興味をもっているであろう。しかし,いくら美しく,使用性に優れた建物でも,地震や台風で損傷したり,人間に危害を与えるようでは,優れた建築とはいえない。また,欧米の国々とは異なり,日本では建築学は工学に含まれ,芸術家に近い建築家を目指す学生も,建築構造や建築環境など,工学を学ぶことが要求される。その意味でも,災害の多い国で,優れた建築が設計できる素養を身につけるためには,構造力学を学ぶことがきわめて重要である。特に,スタジアムやアリーナなどの大空間をデザインする際には,力学的な感覚が必要不可欠であり,力学的合理性や,スムーズな力の流れを表現することが,建築の美しさにつながる。
建築の設計と生産の過程の概要を図1に示す。小規模な建築物では,構造設計は意匠設計
(デザイン)と建築計画(室配置,動線計画など)の後に位置付けられる。しかし,大規模な建築物では,このような一方通行のプロセスではなく,意匠設計から生産までのすべてのプロセスの専門家が協調することが重要である。
構造設計は,建築計画によって決められた柱やはりなどの構造要素の配置に基づいて,その材料,剛性,強度などを決定する過程である。小規模の建築物では,機械的に構造計算を実行してさまざまな基・規準に適合することを示す手続きであるが,その判定に用いられる式の意味を理解することが重要である。また,大規模あるいは特殊な建築物では,この過程で,構造設計者の力学的知識と感覚に裏付けされた能力が発揮される。構造設計のためには,鉄骨構造や鉄筋コンクリート構造などの各種構造の知識が必要であり,構造力学は,それらの基本となる学問分野である。
構造力学には多くの教科書があり,基本的なことを簡明に説明したもの,高度な内容を説明することに重点を置いたものなど,それぞれ特徴をもっている。本書はそれらの中間的な難易度で,できるだけストーリー性をもたせて,例題を通じて学習することによって,講義の教科書としてだけではなく,自習書としても使用できるように執筆した。そのため,数式を並べるのではなく,行間を埋めるような説明を加えている。
本書では,おもに不静定構造を解くための方法を,仮想仕事の原理,エネルギー原理,応力法,剛性法,たわみ角法,固定法,塑性崩壊,座屈の順に学ぶ。これらは,力の釣合いや静定構造の解法に基づいているため,基礎事項の修得が不十分な読者は,『例題で学ぶ構造力学1─静定構造力学編─』を参照されたい。本書は将来構造を専門とする人や一級建築士を受験する人がマスターすべき内容をまとめているが,構造を専門としない人にとっても力学的合理性をもった建築を設計するために,本書の内容を理解することは重要である。
構造力学は数学と力学に基礎を置いているが,建築物という人工物を実際に解析したり設計することを目的としている。したがって,単位,次元,およびスケールの概念がきわめて重要である。表1に,本書で使われる力学量の次元と単位をまとめておく。また,構造力学ではいくつかのギリシャ文字を用いるため,なじみのない読者のためにそれらの読み方を表2にまとめておく。
2013年9月
大崎 純・本間俊雄
1. 仮想仕事の原理
1.1 質点と剛体の仮想仕事の原理
1.1.1 ひとつの質点に作用する力の仮想仕事の原理
1.1.2 剛体の仮想仕事の原理
1.2 棒の仮想仕事の原理
1.2.1 集中荷重を受ける棒の荷重作用点での釣合い式
1.2.2 分布荷重を受ける棒の釣合い微分方程式
1.3 はりの仮想仕事の原理
1.4 トラスの仮想仕事の原理
1.5 相反定理
1.6 補仮想仕事の原理
1.6.1 棒の補仮想仕事の原理
1.6.2 トラスの補仮想仕事の原理
1.6.3 はりの補仮想仕事の原理
1.7 単位仮想荷重法
1.7.1 軸方向荷重を受ける棒
1.7.2 トラス
1.7.3 片持ばり
1.7.4 静定ラーメン
演習問題
2. エネルギー原理
2.1 棒の全ポテンシャルエネルギー停留の原理
2.1.1 集中荷重を受ける棒
2.1.2 全ポテンシャルエネルギーの性質
2.1.3 分布荷重を受ける棒
2.2 はりとトラスの全ポテンシャルエネルギー停留の原理
2.2.1 節点に集中荷重と集中モーメントを受けるはり
2.2.2 節点荷重を受けるトラス
2.3 カスチリアーノの第1定理
2.4 コンプリメンタリエネルギー停留の原理
2.4.1 軸方向集中荷重を受ける棒
2.4.2 軸方向集中荷重と分布荷重を受ける棒
2.4.3 分布荷重と節点集中荷重を受けるはり
2.5 カスチリアーノの第2定理
演習問題
3. 不静定ばり
3.1 応力法
3.1.1 棒で構成された不静定構造
3.1.2 1次不静定ばり
3.2 剛性法
3.2.1 軸力を受ける棒
3.2.2 節点力を受けるはり
3.2.3 剛性行列の対称性と相反定理
演習問題
4. たわみ角法
4.1 たわみ角法の基本式
4.1.1 基本仮定
4.1.2 材端モーメントと回転角の定義
4.1.3 材端回転角に関する適合条件
4.1.4 基本式(要素方程式)の誘導
4.1.5 材端モーメントと材端せん断力の関係
4.1.6 部材角と固定端モーメントの関係
4.1.7 境界条件と対称・逆対称条件の利用
4.2 節点移動のないラーメンの解法
4.3 節点移動のあるラーメンの解法
4.3.1 部材角相互の関係
4.3.2 層方程式
4.4 異形ラーメン
4.4.1 節点移動のない台形ラーメン
4.4.2 節点移動のある台形ラーメン
4.4.3 山形ラーメン
演習問題
5. 固定法
5.1 固定法の原理と解法
5.1.1 基本原理
5.1.2 図上計算の準備
5.1.3 断面力を求める手順
5.1.4 固定端モーメントと有効剛比
5.2 節点移動のないラーメンの解法
5.2.1 節点移動のない場合の一般的な手順
5.2.2 節点移動のない多層多スパンのラーメン
5.3 節点移動のあるラーメンの解法
5.3.1 節点移動のある場合の一般的な手順
5.3.2 節点移動のある多層多スパンのラーメン
5.4 D値法
5.4.1 D値法の考え方
5.4.2 反曲点高さ比と柱の材端モーメント
5.4.3 はりの曲げモーメントとせん断力
演習問題
6. 不静定トラス・骨組
6.1 応力法(1次不静定)
6.1.1 外的不静定トラスの断面力
6.1.2 内的不静定トラスの断面力
6.1.3 不静定ラーメンの断面力
6.2 応力法(2次不静定)
6.2.1 2次の外的不静定トラス
6.2.2 2次の内的不静定トラス
6.3 応力法による合成骨組の解法
6.3.1 単純ばり+トラス
6.3.2 門形合成骨組
6.4 剛性法(変位法)
6.4.1 トラス
6.4.2 骨組構造
6.4.3 剛性法の利点
演習問題
7. 塑性解析と極限解析
7.1 応力-ひずみ関係の理想化
7.1.1 垂直応力と縦ひずみの関係
7.1.2 塑性ヒンジ
7.2 荷重増分法による極限解析
7.3 極限解析の基本定理
7.4 ラーメンの極限解析
演習問題
8. 柱と骨組の座屈
8.1 さまざまな座屈現象
8.2 圧縮軸力を受ける柱の座屈
8.2.1 釣合い微分方程式
8.2.2 オイラー座屈
8.2.3 さまざまな境界条件の柱の座屈荷重
8.3 骨組の座屈
8.4 飛移り座屈
演習問題
演習問題解答
索引