農産物性科学(1) - 構造的特性と熱・力学的特性 -
農産物のプリ・ポストハーベストで用いられる各種加工処理・品質評価システムの開発にはその物性の把握が必要である。本書では,農産物の植物組織構造,基礎的物性,熱的・力学的特性に関する定義と計測方法等を中心にまとめた。
- 発行年月日
- 2011/09/30
- 判型
- B5
- ページ数
- 164ページ
- ISBN
- 978-4-339-05229-9
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
農産物のプリ・ポストハーベストで用いられる各種加工処理・品質評価システムの開発にはその物性の把握が必要である。本書では,農産物の植物組織構造,基礎的物性,熱的・力学的特性に関する定義と計測方法等を中心にまとめた。
はじめに
農産物の収穫後操作,すなわちポストハーベストにおける処理装置・システムの開発や性能評価において,対象となる農産物の各種物性,例えば,サイズ,形,重さ,比熱,固さ,凍結温度,穀粒の通気抵抗―これを物性と呼ぶかどうかはともかく,あるいはそれらに付随するさまざまな情報が必要となる。しかし,工業製品とは異なり,農産物はーつとして同じものが存在しないうえに,生物学的もしくは化学的な変化や劣化により,その特性が時間とともに変わってしまうという特徴があるため,データベースとしてまとめることは容易ではない。これまで多くの研究者が従事してきた農産物性研究はこうした特徴をもつ「物性」をなんとか体系づけたいという願望が原動力となって発展してきた。
さて,「農産物性科学」という本書名は一般化されたものでもオーソライスされたものでもない。本書の刊行にあたり,編者の間で協議のうえ作り出した言葉である。前述のように農産物性は農産物利用と切っても切れない関係にある。農産物を材料とみればそのアプローチはおのずと工学的なものになる。工学では事象の共通点を見出し極力単純化・一般化した形式にして考察を進めていくのが定石である。一方,ここで対象としている農産物は生物体であり,種類も豊富であるため,共通項を見出し,一般化して把握するにしても,種による固有の事情に依拠した方法を取らざるをえない。
この異なる二つのアプローチをどのように融合するかについて,本書の企画段階で議論を重ねた。最終的に,くくりとして物性の立場,つまり工学的なくくりでまとめることに落ち着いた。しかし,その対象はまぎれもなく植物(体)であり,そうした視点から物性を眺める試みも極力取り入れる工夫―例えば2章も併せて行うこととした。本書名をつけるにあたり,農産物性工学ではなく農産物性科学としたのは,工学と植物学,生物学の融合―と言い切るのはおこがましいが―を意識して,工学以外の言葉を当てたかったためである。「科学」が適切かどうかについては意見の分かれるところであり読者諸氏の批判を仰ぎたい。
本書は主として大学の農学部,環境学部,工学部等の農産物やその加工技術に関連する学科,専攻の学生,ならびに農産加工,食品加工関連メーカの技術者を対象とし,農産物性科学への理解に必要な基本的知識と農産物性測定技術についてわかり易く解説することを編集方針とした。またどの章から読み始めても理解できるように,各章独立した内容となっている。それぞれの章は,基礎学・理論の概説,物性値の定義と測定方法の解説,物性の利用例が記述されている。章末には演習問題を数問設けておいた。内容の理解に大いに助けとなるので是非とも活用して欲しい。
1章では,農産物性の定義と物性の表記に関する基礎的事項を概説した。2章では,農産物に特有の物性を発現させる植物組織構造について解説した。これは農産物性に関する他の類書にはない特徴である。3章では,農産物性の把握に必要な農産物の基礎的な属性(形,大きさなど)について解説した。4章では,乾燥や加熱など農産物の基本的な加工処理プロセスに関係のある熱特性について解説した。5章では,貯蔵・追熟施設や流通の現場で重要な農産物の力学的特性について解説した。
執筆に際しては,日頃から教育研究の一線で活躍されている専門家にご協力を賜った。紙数の都合で執筆者の方々にはご無理をお願いしたが,基本的な内容がコンパクトにまとめられているため,初学者には取り組み易いものになったと思う。また2章のイラストは,中嶋江美理さん(近畿大学学生)に作成していただいた。この場をかりて厚くお礼申し上げる。
本書を企画した当初は,1冊の予定であったが,内容が多岐にわたることから,企画段階から関わってきた6名の編者の間で議論を行い,結局2分冊で刊行することにした。編者が担当した章,節については編者一覧を見ていただきたい。最後に,本書の刊行にあたり,終始ご尽力いただいたコロナ社の各位に深く感謝の意を表する次第である。
2011年7月
西津貴久
1.農産物性について
1.1 農産物性とは
1.1.1 農産物性を知ることの意義
1.1.2 農産物性の特殊性
1.2 農産物性の表し方
1.2.1 農産物性と関数
1.2.2 農産物性を表す量
演習問題
2.物性にかかわる構造的特性
2.1 植物体と収穫物の構造
2.1.1 植物の基本構造:根・茎・葉
2.1.2 植物の分枝パターン
2.1.3 葉序
2.1.4 生殖器官である花および花序の形態
2.1.5 貯蔵器官としての根と茎
2.1.6 形態モデルによる植物体の単純化
2.2 収穫物の構造
2.2.1 穀類
2.2.2 マメ類
2.2.3 果実(果樹・果菜類)
2.2.4 葉菜類
2.2.5 根菜類・イモ類
2.2.6 花き・工芸作物類
2.3 植物の構造・含有物と物性のかかわり
2.3.1 構造と機能
2.3.2 システム論
2.3.3 表皮系
2.3.4 基本組織系
2.3.5 維管束系
2.3.6 細胞内含有物
演習問題
3.基本的な物理特性
3.1 基本的な物理特性
3.1.1 寸法・形状
3.1.2 体積・密度
3.2 計測方法
3.2.1 寸法・形状
3.2.2 体積・密度
3.3 利用例
3.3.1 輪郭形状によるコメの銘柄判別
3.3.2 果実類の選果基準
3.3.3 茶葉の遺伝資源の管理
演習問題
4.熱特性
4.1 熱的操作の特徴
4.2 伝熱の形態と関連物性値
4.2.1 伝導伝熱
4.2.2 非定常伝導伝熱
4.2.3 対流伝熱
4.2.4 放射伝熱
4.2.5 熱特性値ニーズの特色
4.3 比熱
4.3.1 定義
4.3.2 計測方法
4.3.3 推算法と利用法
4.4 熱伝導率
4.4.1 定義
4.4.2 計測方法
4.4.3 代表的なモデル
4.4.4 各種材料の熱伝導率
4.5 熱拡散率
4.5.1 定義
4.5.2 計測方法
4.5.3 各種材料の熱拡散率
4.5.4 まとめ
演習問題
5.力学的特性
5.1 材料力学
5.1.1 応力とひずみ
5.1.2 せん断応力とせん断ひずみ
5.1.3 応力とひずみの関係
5.2 弾性係数
5.2.1 縦弾性係数と横弾性係数
5.2.2 衝撃応力
5.2.3 粘性
5.3 農産物の力学的特性
5.3.1 試験方法
5.3.2 応力─ひずみ線図
5.3.3 果皮の影響
5.3.4 載荷速度の影響
5.4 粘弾性
5.4.1 レオロジーとは
5.4.2 粘度の測定
5.4.3 農産物への応用
5.5 摩擦
5.5.1 定義
5.5.2 摩擦特性値の計測方法と計測例
演習問題
付録
1.Bitmap(BMP)画像ファイルのフォーマット
2.SI接頭語
3.単位換算表
参考文献
演習問題解答
索引
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掲載日:2021/06/01
-
掲載日:2021/02/03