生活の中にみる機械工学
身の回りの道具や仕組みを解き明かすことで,機械工学の考え方を身に着ける。機械工学を通して,世界が生き生きと見えてくる一冊。
- 発行年月日
- 2018/10/22
- 判型
- A5
- ページ数
- 168ページ
- ISBN
- 978-4-339-04657-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
機械工学は,社会から必要とされるものを提供する総合プロデューサーである。本書では身の回りの道具や仕組みを解き明かすことで,機械工学の考え方を身に付けられる。機械工学を通して,身の回りが生き生きとして見えてくる一冊。
私たちは世の中にあるものが事前にできあがっていて,当然最初からそこにあるものだと思って使っています。ある日,あるものが必要になったときにそれを探しにお店に行くと,たいていのものはありますが同じような性能で見た目のあまり変わらないようなものが並んでいて迷うことがあります。その中から自分に気にいるものを探すわけですが,なにを基準に選んでよいかわからなくなり,結局値段で選ぶということになります。しかし,値段が違うことはなにか性能で違いがあるのではないかと疑うこともしばしばです。
さて,どんなものでもお店に並んでいる以上,だれかが,それが必要とされているから苦労して作っています。例えば,身の回りにあるスプーンはどうやってできあがっているのだろうといったことを考えてみてください。金属だということは触ったり持ったりするとわかりますが,なんの金属だろう,どうやってこの形にしているのだろう,どうやってこのツヤを出しているのだろう,口に入れるときの安全性はどうなっているのだろう,この値段で作り手はどのくらい儲かるのだろう,などといったいろいろな疑問が湧いてきます。社会の仕組みの中でスプーン1本がどういう価値を生み出しているのかということに関わっているのが機械工学なのです。工学というと,ものを製造するということしか頭に浮かばないものですが,じつは社会が,人が必要としているものを提供するための総合プロデューサーなのです。したがって,機械工学は一つの分野ではなく多種多様な分野の総合されたものなのです。
私たちの身の回りにあるものに目を配ってみましょう。多くのものがありますが,それらを作る際に,使いやすくするには,思ったとおりの動きをするのか,原材料費を抑えるには,人々に受け入れてもらえるのか,もしなにかが起こったときに安全側に動作するのか,メンテナンスする際に分解しやすいのか,組み立てやすいのか,使用環境が異なっても大丈夫かなどといったことも考えながら設計・製作しています。例えば,車のハンドルを回せば車はその方向に旋回していきます。これを当然のごとくなにも考えずに受け入れて運転しています。しかし,その昔,左右の車輪が同じ回転をしていると曲がれないことにだれかが気が付いて,そうならない工夫をしてそれに関連する部品を作っていまに至っています。こういった気付きの方法を身の回りの道具や仕組みを通じて知ってもらいたく本書を発行しました。
このため,これまでの機械工学の本では表舞台に出てこないものでも,こういうことを考えられて作られているということを紹介しています。気付きのきっかけとして読んでいただき,もっと知りたいというときに他の専門書で勉強していただけるとよいと思います。本書は五つの章からなっています。1章は車に関する内容です。2章はエネルギー,3章は水,4章は食事,5章はスポーツです。どの章から読み始めても結構です。身の回りのものが生き生きとして見えてくると思います。
本書の刊行に関しては,コロナ社に多大なご協力をいただきました。感謝の意を表します。
2018年8月 望月 修
1. 車のスペックから見る機械工学
1.1 エネルギー・仕事・パワー・力
1.1.1 質量
1.1.2 力
1.1.3 仕事とエネルギー
1.2 まっすぐ走る,カーブを曲がる
1.3 省エネのための空気抵抗低減
1.4 電気自動車
1.5 乗りごこち
2. 生活で使うエネルギー
2.1 エネルギーとは
2.2 発電
2.2.1 火力発電
2.2.2 水力発電
2.2.3 風力発電
2.2.4 太陽光発電
2.2.5 その他の発電
2.3 エネルギーの取り出し方
2.4 ガスを使って温める
2.5 エネルギーの伝え方
2.5.1 熱伝導
2.5.2 熱対流
2.5.3 放射
2.6 食品のもつエネルギー
2.7 梅雨前線の雨がもつエネルギー
2.8 日本の電力事情とこれから
3. 水の利用
3.1 流れを表す二つの法則
3.1.1 質量保存則
3.1.2 エネルギー保存則
3.2 水の流れを作るポンプ
3.2.1 ポンプの種類とその使い方
3.2.2 上水場・下水処理場
3.3 水圧の怖さ
3.4 浮力
3.5 水の力
4. 食卓を支える機械工学
4.1 ペットボトルやプラスチックキャップの製造
4.1.1 ペットボトル
4.1.2 プラスチック
4.2 金属製品
4.2.1 鋳鉄
4.2.2 鋼鉄
4.2.3 アルミニウム
4.2.4 銅
4.3 冷凍,解凍に関する技術
4.3.1 冷凍機
4.3.2 解凍
4.4 食品加工から販売店に出るまで
4.4.1 牛乳
4.4.2 植物工場
4.5 食べることに関わる物理
4.5.1 振動学の考察からはねを飛ばさずうどんをすする方法
4.5.2 うなぎの秘伝のタレに関わる数学
4.5.3 ソフトクリームの断面が星型をしている材料力学的理由
5. スポーツに関わる機械工学
5.1 走る物理
5.1.1 100mを9秒で走る計画
5.1.2 ウサイン・ボルトの走りに学ぶ
5.2 綱引きの力学
5.3 泳ぐ物理
5.3.1 選手にかかる力
5.3.2 抵抗低減の仕方
5.3.3 手のかきによる推進力
5.4 自転車を使う
5.5 釣りの機械工学
5.5.1 ロッド
5.5.2 リール
索引
読売新聞夕刊12月4日付けのREAD&LEADコーナーにて書籍紹介が掲載致しました。