ネットワーク・カオス 非線形ダイナミクス,複雑系と情報ネットワーク

情報ネットワーク科学シリーズ 4

ネットワーク・カオス - 非線形ダイナミクス,複雑系と情報ネットワーク -

ネットワークに現れるカオスの特性,その応用面での多様性や重要性,工学的情報ネットワークの可能性を探索する為の数理的基盤を解説

ジャンル
発行年月日
2018/01/15
判型
A5
ページ数
262ページ
ISBN
978-4-339-02804-1
ネットワーク・カオス 非線形ダイナミクス,複雑系と情報ネットワーク
在庫あり

定価

3,740(本体3,400円+税)

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本書は,カオスを含む複雑系としての非線形ネットワークを対象とし,ネットワークに現れるカオスの特性と,その応用面での多様性や重要性,新しい工学的情報ネットワークの可能性を探索するための数理的基盤を解説するものである。

人々の日々の暮らしは,多様な工学的情報ネットワークによって支えられている.そして,これらの工学的情報ネットワークは,人々もその構成要素として組み込んで相互に結合し,地球全体に広がる巨大な情報ネットワークとして機能している.人々を含むこの巨大な情報ネットワークは,いわば地球にとっての脳や神経系であるといえよう.

このように地球全体の情報ネットワークをとらえたときに,それでは生物の脳や神経系自体はどのような情報ネットワークとして見ることができるのかという興味が湧く.そして,これらの生物の中で,特に大脳皮質が発達して高度な思考が可能になったのが人間の脳であり,その工学的実現を目指しているのが人工知能研究である.

脳や神経系は,解剖学的には多数の神経細胞(ニューロン)が結合したネットワークである.この神経細胞は,一種の非線形素子である.神経細胞の主要な機能は,活動電位と呼ばれるパルス幅約1ms,パルス振幅約100mVの電気パルスを生成して伝播させることであるが,神経細胞の非線形ダイナミクスがこのことを可能にしている.この神経細胞の非線形ダイナミクスの数理研究には,100年以上の歴史があり,さまざまな数理モデルが提案されている.そのため,神経細胞に関しては,生物系分野では珍しいことであるが,実験研究と数理モデルを用いた理論研究の両面からのアプローチが可能である.このような背景もあって,神経細胞固有の非線形ダイナミクスは詳しく研究されてきている.例えば,本書で解説するアトラクタに関しても,神経細胞外液に対して細胞内部の電位を安定に負の電位(約−60mV)に保つ固定点(静止状態と呼ばれる),活動電位を周期的に生成するリミットサイクル,振幅の異なる活動電位を非周期的でかつ不規則に生成するカオスなども,実際に神経細胞から観測され,その数理構造もよく理解されている.更に,多数の神経細胞(人間の脳の場合は1000億個近い神経細胞)が複雑に結合して,脳や神経系が構築されている.このように,神経細胞というさまざまなアトラクタを持つ非線形素子からなる複雑なネットワークである脳や神経系は,大規模な非線形非平衡系であり,複雑系の典型例と考えられている.
この意味で,複雑系としてとらえられる情報ネットワークが,人間を含む生物の脳や神経系を構成している.すなわち,そのような情報ネットワークが地球上に満ちているのである.

本書は,このようなカオスを含むアトラクタを持つ動的構成要素から成る複雑系としての非線形ネットワークを対象とする.書名の「ネットワーク・カオス」は,このような対象を象徴的に表す用語である.そして本書は,新しい工学的情報ネットワークの可能性を探索するために,このネットワーク・カオスを理解するための数理的基盤を解説するものである.

なお,1章を合原が,2~5章,6.1~6.4節,7章を中尾が,6.5節,8~10章を長谷川が執筆し,2~5,9,10章については合原が調整を行った.
本書の章末問題の解答はコロナ社のweb ページからダウンロードできるので,ぜひ章末問題にも取り組んでいただきたい.

現時点では情報ネットワークとしての有用性が十分明らかになっているとはいえないが,筆者らには深い思い入れのあるこのようなテーマでの執筆をお勧めいただいた,本情報ネットワーク科学シリーズの編集委員長の村田正幸氏,編集委員の会田雅樹氏,成瀬誠氏,また,本書出版のためにご尽力いただいたコロナ社のみなさんに心から感謝申し上げる.

本書の内容が,将来の工学的情報ネットワークを考えるにあたって,読者の皆さんに何らかの有益な示唆を与えることができれば,筆者らにとってこれ以上の喜びはない.

2018年1月筆者一同

1. 序論
1.1 力学系の非線形ダイナミクス
1.2 非線形ネットワークとしての複雑系

2. 離散時間力学系とカオス
2.1 1次元写像
2.2 固定点と周期軌道の線形安定性
2.3 テント写像と初期条件への鋭敏な依存性
2.4 リアプノフ指数
2.5 カオスを示す写像の例
 2.5.1 ベルヌーイ写像
 2.5.2 ロジスティック写像
 2.5.3 サークル写像
2.6 自己相関関数とパワースペクトル
2.7 状態の不変密度とフロベニウス-ペロン方程式
章末問題

3. 連続時間力学系とカオス
3.1 相空間
3.2 常微分方程式
3.3 散逸系
3.4 1次元系
 3.4.1 実軸上の系
 3.4.2 分岐
 3.4.3 円周上の系
3.5 2次元系
 3.5.1 平面上のベクトル場
 3.5.2 固定点の安定性
 3.5.3 線形系
 3.5.4 自励振動の発生
 3.5.5 リミットサイクルを生じる分岐
 3.5.6 FitzHugh-南雲モデル
3.6 3次元系とカオス
 3.6.1 ローレンツモデル
 3.6.2 レスラーモデル
3.7 軌道の安定性
 3.7.1 周期軌道の安定性
 3.7.2 ポアンカレ写像
 3.7.3 リアプノフ指数
章末問題

4. ネットワーク
4.1 ネットワーク(グラフ)
 4.1.1 用語
 4.1.2 隣接行列と次数
 4.1.3 最短経路と直径
 4.1.4 複雑ネットワーク
4.2 ランダムネットワークの生成モデル
 4.2.1 エルデシュ-レニーの単純ランダムネットワークモデル
 4.2.2 ワッツ-ストロガッツのスモールワールドネットワークモデル
 4.2.3 バラバシ-アルバートのスケールフリーネットワークモデル
4.3 ネットワーク上の拡散とラプラシアン行列
 4.3.1 ラプラシアン行列
 4.3.2 ラプラシアン行列の固有値と固有ベクトル
 4.3.3 ネットワーク上の拡散方程式の解
章末問題

5. リミットサイクル振動子の位相縮約と同期現象
5.1 リミットサイクル振動子の位相縮約
 5.1.1 リミットサイクル上の状態点の位相
 5.1.2 リミットサイクルの吸引領域内にある状態点の位相
 5.1.3 位相応答関数と位相感受関数
 5.1.4 位相応答関数と位相感受関数の例
 5.1.5 位相応答関数及び位相感受関数の測定
5.2 周期パルス刺激を受ける振動子の位相縮約と同期現象
5.3 弱い摂動を受けるリミットサイクルの位相縮約と同期現象
 5.3.1 位相方程式
 5.3.2 弱い周期外力によるリミットサイクル振動子の同期
 5.3.3 相互作用する二つのリミットサイクル振動子の同期
 5.3.4 結合振動子ネットワークの位相方程式
章末問題

6. リミットサイクル振動子の共通ノイズ同期現象
6.1 共通ノイズ同期現象
6.2 共通ランダムパルスを受ける振動子間の同期
 6.2.1 モデル
 6.2.2 位相縮約
 6.2.3 同期状態の線形安定性
 6.2.4 FitzHugh-南雲モデルとLED点滅回路の例
6.3 共通ガウスノイズに駆動される振動子間の同期
 6.3.1 モデル
 6.3.2 位相縮約
 6.3.3 同期状態の線形安定性
 6.3.4 FitzHugh-南雲モデルの例
6.4 共通ガウスノイズによる同期現象の平均化法による解析
 6.4.1 モデル
 6.4.2 位相の結合確率密度関数とフォッカー-プランク方程式
 6.4.3 フォッカー-プランク方程式の平均化近似
 6.4.4 位相差の確率密度関数
 6.4.5 FitzHugh-南雲モデルの例
6.5 環境ノイズによるデバイス間同期
章末問題

7. カオス同期現象
7.1 カオス素子の示す同期現象
7.2 拡散結合した二つのカオス素子の同期
 7.2.1 結合カオス写像の完全同期
 7.2.2 オンオフ間欠性
 7.2.3 連続時間力学系の結合カオス素子の完全同期
7.3 信号の置換えによる二つのカオス素子の同期
 7.3.1 信号の置換えによる完全同期現象
 7.3.2 リアプノフ関数による大域的な安定性解析と秘匿通信のアイデア
7.4 カオス素子の一般化同期と共通ノイズ同期
 7.4.1 カオス素子の一般化同期
 7.4.2 一般化同期の生じる条件
 7.4.3 一般化同期の検出法
 7.4.4 カオス素子の共通ノイズ同期
7.5 振動性の強いカオス素子の位相同期
 7.5.1 レスラー系のカオス位相同期現象
 7.5.2 振動的な観測信号に対する位相の定義
7.6 ネットワークを介して拡散結合するカオス素子系の完全同期とMSF
章末問題

8. カオスと通信
8.1 カオス同期通信
 8.1.1 ディジタル通信と変調技術
 8.1.2 カオス同期を用いたディジタル通信方式
 8.1.3 二つのカオスを用いたカオスシフトキーイング方式
 8.1.4 DCSK方式
 8.1.5 カオス同期通信の応用例
8.2 カオスCDMA
 8.2.1 DS/CDMA方式
 8.2.2 DS/CDMAにおける最適な相関関数の導出
 8.2.3 カオス写像による最適な符号の生成
章末問題

9. カオスニューラルネットワーク
9.1 ニューラルネットワーク
9.2 不応性を持つニューロンモデル
 9.2.1 カイアニエロニューロンモデル
 9.2.2 南雲-佐藤ニューロン
9.3 カオスニューロンモデル
9.4 カオスニューラルネットワーク
 9.4.1 カオスニューラルネットワークのダイナミクス
 9.4.2 カオスニューラルネットワークの応用
章末問題

10. カオスと組合せ最適化
10.1 相互結合型ニューラルネットワークを用いた組合せ最適化
 10.1.1 相互結合型ニューラルネットワークのエネルギー関数
 10.1.2 相互結合型ニューラルネットワークを用いた巡回セールスマン問題の解法
10.2 相互結合型ニューラルネットワークにおけるカオスノイズの有効性
10.3 相互結合型カオスニューラルネットワークによる組合せ最適化
10.4 ヒューリスティックスをカオスで駆動する解法
 10.4.1 タブーサーチ
 10.4.2 タブーサーチニューラルネットワーク
 10.4.3 カオスタブーサーチ
 10.4.4 カオスタブーサーチの巡回セールスマン問題への適用例
章末問題

付録:確率微分方程式の基礎事項
 付.1 ランジュバン方程式と確率微分方程式
 付.2 伊藤の確率積分
 付.3 伊藤の公式
 付.4 フォッカー-プランク方程式
 付.5 有色ノイズの白色極限とストラトノビッチ型確率微分方程式
 付.6 多次元の場合
 付.7 確率微分方程式の数値計算法

引用・参考文献
索引

合原 一幸(アイハラ カズユキ)

「電子情報通信学会誌」2018年12月号

掲載日:2020/03/02

「電子情報通信学会誌」2020年3月号広告

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