信号解析教科書 信号とシステム

信号解析教科書 - 信号とシステム -

確定信号を対象として,その性質を明らかにするとともに,関連するシステムの扱い方もわかりやすく解説した信号解析の教科書。

ジャンル
発行年月日
2018/03/23
判型
B5
ページ数
166ページ
ISBN
978-4-339-00907-1
  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介
  • 書籍紹介・書評掲載情報

本書は信号解析の教科書である。前半では連続信号と連続時間システムを,後半では離散時間信号と離散時間システムを扱い,確定信号を対象として,その性質を明らかにするとともに,関連するシステムの扱い方もわかりやすく解説した。

これはその名のとおり信号解析の教科書です。教科書ですから,講義で使用されることを想定していますが,独習書として読めるようにも配慮されています。その内容は,私自身が東京大学を定年退職するまで工学部の電気系学科の学生を対象として行った講義のノートがもとになっています。そのノートに基づいていますが,この教科書はもっと広い読者を想定しました。

この本を執筆するにあたって,私には悩みがありました。一つは,信号解析あるいは信号処理の教科書は,すでに多数執筆されていることです。私が存じ上げている先生が執筆された優れた解説書もあります。そこに,もう1冊さらに出版する意義はどこにあるのか,私自身納得できなければ,執筆する意欲もわきません。
一方で,これまでの教科書には少し不満がありました。信号解析でもっとも基本となる問いにわかりやすく答えていないように思えたからです。例えば,信号解析ではあたりまえのようにまず正弦波がでてきます。なぜなのでしょうか。そしてそれは万能なのでしょうか。そもそも正弦波は信号解析においてどのように位置づけられているのでしょうか。さらには信号解析では複素数を用いた解析が欠かせません。なぜ複素数なのでしょうか。

ここでは,そのような信号解析の全体像がつかめるように意識して執筆しました。信号解析にはきれいな体系があります。実は信号やシステムを複素数で扱わないと,きれいにはなりません。正弦波も実数のままでは,その本質が見えてきません。信号解析を単に信号を解析するテクニックとしてでなく,その全体の体系を理解しながら学習できる,そのような教科書を執筆できればと思いました。

そしてもう一つ,信号解析は物理現象と密接に関係した体系です。例えば正弦波を用いた信号解析の有力な手法としてフーリエ変換があります。フーリエ変換はもともとは数学的な概念ですが,信号解析の立場からは,その数式表現には物理的な意味があります。変換される関数x(t)の変数tは時間ですし,変換した後の関数X(f)の変数f は周波数(1秒間当りの振動数)です。フーリエ変換で成り立つさまざまな定理も,それぞれ物理的な意味があります。

ここでは,信号解析に登場するさまざまな数学的な手法を,単に数学としてでなく,できるだけその物理的な意味も含めて記述するようにつとめました。そのため,数学的な厳密性はあえて無視したところがあります。例えば,フーリエ級数展開やフーリエ変換の収束は数学的には大問題ですが,ここでは収束を前提として議論を進めました。実際の応用では収束することが大部分であるからです。

そして最後に,この本に信号解析に関連する話題をどこまでつめこむべきか悩みました。私が担当した東京大学の講義は,実は2科目ありました。「信号解析基礎」と「信号処理工学」です。これは教え方にもよると思いますが,信号解析全体を二つの講義で教えようとすると,次の二通りの分け方があります。
 1)連続時間の信号解析と(サンプルされた)離散時間の信号解析に分けて,それぞれの講義で扱う。前者をアナログ信号解析,後者をディジタル信号解析と呼ぶこともあります。
 2)確率的な変動のない信号(確定信号と呼ぶこともあります)の解析と変動のある信号(不規則信号と呼ぶこともあります)の解析に分けて,それぞれの講義で扱う。
 ここでは後者の立場から,確率的な変動がない信号解析のみに絞って,この教科書を執筆することにしました。確率的に変動する不規則信号も扱おうとすると,どうしても確率論や確率過程論がその予備知識として必要になってしまうからです。東京大学での講義も私が担当したときはこの分け方を採用しました。その意味では,この本は「確定信号を対象とした信号解析」の教科書という位置づけになっています。両方を含めると大部になってしまうという理由で,「不規則信号を扱う信号解析」は含まれていません。お許しいただければ幸いです。

最後に,ぜひとも御礼を申し上げたい人がいます。それは東京大学での私の講義に,それぞれの学期で熱心につきあっていただいた学生諸君です。君たちがいなければ,この本はありませんでした。ありがとうございました。

2018年1月 原島  博

第0章 プロローグ
0.1 いろいろな信号
0.2 信号の分類
0.3 システム
0.4 本書の構成

第1章 正弦波と線形システム
1.1 正弦波信号
  1. 正弦波信号とは
  2. 正弦波信号は円運動の見かけの姿である
  3. 正弦波は周期をもつ
  4. 正弦波信号の分解と合成
1.2 線形システム
  1. 線形システムとは
  2. 線形システムの表現
  3. 線形システムの例
  4. 線形システムの扱い方
1.3 線形システムの正弦波応答
1.4 線形システムのインパルス応答
  1. インパルス信号とは
  2. インパルス信号の性質
  3. 任意の信号波形のインパルス信号による表現
  4. 線形システムのインパルス応答
  5. 任意の信号に対する線形システムの応答
1.5 信号を正弦波の和で表す(フーリエ級数展開入門)
  1. 波形の正弦波による近似
  2. フーリエ級数展開
理解度チェック

第2章 信号とシステムの複素領域での扱い
2.1 複素数と複素平面
  1. 複素数の定義
  2. 複素数の演算
  3. 複素平面
  4. オイラーの公式
2.2 複素正弦波信号
  1. 複素平面の円運動と正弦波信号
  2. 複素正弦波信号の定義
  3. 一般の複素正弦波信号
  4. 実数の正弦波信号の複素正弦波信号による合成
2.3 複素伝達関数
  1. 伝達関数の定義
  2. 振幅伝達特性と位相伝達特性
理解度チェック

第3章 フーリエ級数展開とフーリエ変換
3.1 フーリエ級数展開
  1. フーリエ級数展開の定義
  2. 直交関数展開
  3. フーリエ係数
3.2 フーリエ変換
  1. フーリエ変換の導出
  2. フーリエ変換の定義
  3. フーリエ変換の周波数表示
  4. 双対性
3.3 フーリエ級数展開とフーリエ変換の収束
  1. フーリエ級数展開が収束するための条件
  2. フーリエ変換が収束するための条件
3.4 フーリエ変換の例
3.5 フーリエ級数展開の例
  1. フーリエ係数とフーリエ変換の関係
  2. フーリエ級数展開の例
理解度チェック

第4章 周波数スペクトルと線形システム
4.1 連続スペクトルと離散スペクトル
4.2 実数値をとる信号のスペクトル
4.3 周波数スペクトルの性質
4.4 パーセバルの等式
  1. フーリエ級数展開におけるパーセバルの等式
  2. フーリエ変換におけるパーセバルの等式
  3. パーセバルの等式の意味
4.5 時間幅と周波数幅
  1. 有限の時間幅,周波数幅の制限
  2. 実効時間幅と実効周波数幅
4.6 たたみこみ定理
  1. 時間軸上のたたみこみ定理
  2. 周波数軸上のたたみこみ定理
  3. 時間軸上の相関関数
4.7 線形システムの入出力特性
  1. 周波数領域における入出力特性
  2. 時間領域における入出力特性
  3. 二つの入出力特性の関係
4.8 線形システムの応答の求め方
理解度チェック

第5章 信号の標本化とそのスペクトル
5.1 信号の標本化
  1. 標本化とは
  2. 標本化された信号列の表現
5.2 変調
  1. 変調としての標本化
  2. 正弦波信号どうしの変調
  3. 複素正弦波信号どうしの変調
  4. 一般の信号の正弦波による変調
5.3 標本化された信号のスペクトル
5.4 標本化定理
  1. 標本化定理とは
  2. 標本化定理の直感的な証明
5.5 信号の補間
5.6 標本化定理の意味
  1. 標本化定理は何を意味するか
  2. 折り返し歪み
  3. 標本化定理の応用
5.7 信号とスペクトルのまとめ
5.8 離散フーリエ級数展開
  1. 離散フーリエ級数展開の定義
  2. 係数の周期性
理解度チェック

第6章 離散フーリエ変換と高速フーリエ変換
6.1 離散フーリエ変換
  1. 有限長の標本値列のフーリエ変換
  2. 離散フーリエ変換の定義
  3. 回転子WN
  4. 離散フーリエ変換の周期性
  5. 離散フーリエ逆変換
6.2 離散フーリエ変換の本質
6.3 離散フーリエ変換の性質
  1. 実数のデータのDFT
  2. パーセバルの等式
6.4 離散たたみこみ定理
  1. 直線たたみこみと循環たたみこみ
  2. 離散たたみこみ定理
6.5 離散フーリエ変換の行列表現
6.6 高速フーリエ変換
  1. 離散フーリエ変換の演算量
  2. 高速フーリエ変換の考え方
  3. 高速フーリエ変換アルゴリズム
6.7 高速フーリエ変換の性質
  1. バタフライ演算
  2. FFTアルゴリズムの特徴
  3. FFTの行列表示
理解度チェック

第7章 離散時間システム
7.1 線形で時不変な離散時間システム
  1. 離散時間システム
  2. 線形離散時間システム
  3. 時不変離散時間システム
7.2 離散時間システムの応答
  1. 単位パルス応答
  2. 一般の入力に対する応答
7.3 z変換
  1. z変換の定義
  2. フーリエ変換との関係
  3. z変換の例
  4. z変換の収束性
7.4 離散たたみこみ定理と伝達関数
  1. 離散たたみこみ定理
  2. z領域伝達関数
  3. 周波数特性
7.5 FIRシステムとIIRシステム
  1. FIRシステム
  2. IIRシステム
7.6 離散時間システムの回路構成
  1. リカーシブな構成とノンリカーシブな構成
  2. 伝達関数と回路構成の関係
  3. 回路の縦属型構成
  4. 二次のIIR回路による実現
理解度チェック

第8章 二次元信号とスペクトル
8.1 二次元フーリエ変換
  1. 二次元信号
  2. 二次元フーリエ変換
  3. 二次元フーリエ変換の意味
  4. 二次元正弦波信号
  5. 二次元スペクトル
8.2 二次元システム
  1. 二次元システム
  2. 入出力特性
8.3 モアレと変調
  1. モアレ
  2. 変調
8.4 走査と標本化
  1. 走査
  2. 二次元標本化
  3. 二次元標本化定理
  4. 三角形格子による標本化
8.5 二次元離散フーリエ変換
  1. 二次元離散フーリエ変換
  2. 一次元離散フーリエ変換との関係
  3. 二次元高速フーリエ変換
理解度チェック

第9章 エピローグ
9.1 この本のまとめ
9.2 信号解析の展開

付録
A.1 フーリエ変換の定義について
A.2 ラプラス変換

理解度チェックの解説
索引

原島 博(ハラシマ ヒロシ)

「電子情報通信学会誌」2018年12月号