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マルチメディアシステム概論 - 基礎技術から実用システム,VR・XR まで -

マルチメディアシステム概論 - 基礎技術から実用システム,VR・XR まで -

マルチメディア(文字,音声,音楽,画像,映像などの情報)を伝達・記録するシステムの重要な要素技術群の基礎を広くしっかりと習得できるよう意図し,アナログ技術からディジタル技術,インタフェースについて記述した。

発行年月日
2024/10/11
定価
3,080(本体2,800円+税)
ISBN
978-4-339-02947-5
在庫あり

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読者モニターレビュー【 山口 直彦 様 東京国際工科専門職大学(業界・専門分野:情報学)】

掲載日:2024/10/01

まず目を引くのは第1章の冒頭でいきなり「メディアの定義」と「コンテンツとメディアの相対性」に関する解説から始まる部分です。これはどちらかというと文化論(メディア論・メディアスタディーズ)的な手法の書き出しのように感じます。メディアの定義を通信媒体や記録媒体のような固定的な概念とするのではなく、コンテンツとの相対関係に依るものと考え定義することで、メディア(あるいはコンテンツ)研究の幅は大幅に広がるため、大変良い書き出しであると感じました。

第1章から第2章ではメディアからの情報を受け取る人間側の問題、すなわち人間の感性と感覚器官に関する、大変コンパクトによくまとまった解説が書かれています。メディアに関する学習を始めたい初学者がまず押さえておくべきポイントが整理されているので、まずここを読んでから、自分が関心のある分野についてはさらに別の本で深堀りして学んでいくのがよいでしょう。

第3章から第5章で各論に入っていきます。本書はマルチメディアシステムを「取り扱う信号の性質によって整理する」という編集方針を選んだようで、第3章が「アナログ信号技術」第4章が「基本~中級のディジタル信号技術」第5章で「より発展的なディジタル信号技術」という大きな流れを作り、その中で具体的な事例を出して解説するという整理方法になっています。今の学生はディジタルネイティブで生まれたときからディジタル信号に囲まれて生活していますから、前提となるアナログ信号技術をしっかり解説することが必要です…とはいえ、ラジオ・テレビの電波技術や、磁気テープ記録技術に関する解説は全体のバランスを考えるともう少し減らしても良いのではと感じました。

最後の第6章では「ヒューマンマシンインタラクションとVR」に関する記述があり、今マルチメディアシステムを学び研究しようとする人が最も興味を持つであろう内容に入ります。ところがこの章は正直言って、書籍の副題に「VR・XRまで」と書きたかったためだけにこの章を書き足したのでは?と思うくらい内容が薄く、不満が残ります。ヒューマンマシンインタラクションの導入にCUI/GUIの違いやWYSIWYGの解説から入るのはいいとして、VR・AR・XRなどはほぼ概念説明と数個の事例紹介だけで終わり、VR・AR・XRを実現するためのセンシング技術などの話はありません。VR元年から8年も経った2024年に刊行された教科書なのですから、ここはしっかりと充実させて欲しかった所です。