レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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音響学講座 4
騒音・振動は,音響学の中でも広汎な学問分野を包含しており,現在もさらなる広がりを見せている。本書は大学院生および社会人向けの教科書として,大きく騒音,振動,低周波音の3分野に分け,それぞれ解説を行った。
- 発行年月日
- 2020/04/13
- 定価
- 5,280円(本体4,800円+税)
- ISBN
- 978-4-339-01364-1
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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騒音制御Vol.44,No.6,2020.12(日本騒音制御工学会)
掲載日:2020/12/16
書評を掲載いただきました。
書評誌面PDFをこちらからご覧いただけます。
出典元:日本騒音制御工学会『騒音制御』Vol.44,No.6,2020.12,p.334
【以下,出典元より転載】
本書は,騒音・振動・低周波音の3分野の基礎知識および最新の研究成果を,大学院や社会人向けの教科書として利用できるよう,ある程度学説的に固まった内容について記述することとして出版された書籍である。本書の章立ては,3 分野の大分類のもと,国際会議などで使われるセッションの区分を参考にして構成してあり,本学会会員にも馴染みやすいものになっている。本書は総勢20名ほどの共著者により執筆された本であるが,編著者を始め大半の方が本学会の活動をリードしている方々でもあるので本書の内容の充実や記述の確かさは言うまでもない。本書の各章の冒頭にその章の内容を示すテーマとキーワードを並べてあり,読者が利用しやすいよう工夫してあるのも好ましい。
騒音・振動は,工学のみならず,医学や理学,社会科学まで含めた広範な分野にまたがる複合的な学問である。わが国における騒音・振動の研究は日本音響学会における活動を端緒とするが,日本音響学会は,騒音・振動の制御を学会名に持ち,産官学の方々を会員とする本学会の出身母体でもある。日本音響学会は,1977年以来,音響工学講座全8巻を刊行し,音響学の発展に貢献してきた。だが,近年の急速な技術革新や分野拡大に必ずしも追従できなくなっているため,新たに音響学講座全10巻を発行することにしたという。本書は,その第4巻として出版されたものである。以前の音響工学講座は,その当時社会問題にもなっていた騒音・振動に2巻を割り当てていたが,昨今の学会における研究発表の状況等をみて1巻にまとめることになったそうだ。騒音・振動の制御技術を主たる研究対象とする本学会としてはいささか寂しいことであるが,これから展開が期待される分野,話題を取りまとめた第10巻「音響学の展開」を新たに刊行するということなので期待したい。
ところで,本学会の刊行物は,実務者らに向けたハンドブックや手引き書と広く一般の方々を対象に騒音振動問題を分かりやすく解説する啓発的な読む本であるおはなしシリーズが主である。本年10月,本学会から,おはなしシリーズの一冊「低周波音のはなし」が出版されたところであるが,その著者の一人は,この書評で紹介している「騒音・振動」の低周波音の章の執筆者でもある。同じ素材も視点と書き方を変えて料理をすれば風味も滋養も変わる。会員の皆様には是非,両書を手に取り,読み比べていただきたい。本学会の出版物には教科書としての活用を念頭においた書籍は少ないと思われるので,本書「騒音・振動」を基盤的な書物として活用していただきたい。本書は,常々の研究や仕事においておおいに参考になる内容を持った有用な一冊であることを確信している。
(名誉会員・リオン山田一郎)