レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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ゲームは,古くから人工知能,認知科学の中心的な研究テーマとして扱われてきた。本書では,まずこの研究分野の基礎的な知識と歴史を押さえ,それを支える重要な理論について述べ,デジタルゲームの応用分野まで概観する。
- 発行年月日
- 2018/05/18
- 定価
- 3,300円(本体3,000円+税)
- ISBN
- 978-4-339-02885-0
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書評
掲載日:2018/05/25
ゲーム情報学というのはゲームを対象とした(広い意味での)情報処理の研究領域である。「ゲーム情報学」という名称ができたのは1999年に情報処理学会で研究会を立ち上げたときなので、まだ20年程度しか経っていない若い領域である。人工知能のスタートはチェスの研究から始まりチェスを対象として数多くの貴重な成果が得られマッカーシーは「チェスは人工知能のハエ」と言った。ハエを対象とした研究で遺伝学が格段に進歩したように人工知能もチェスを対象とした研究で各段に進歩したということである。しかし日本ではゲームは遊びと見なされてゲームを対象とした研究が疎外される時期が長く続いた。日本は人工知能の研究で世界に出遅れたのだが、その理由の一つにゲーム研究の軽視があったのである。
日本には将棋と囲碁(囲碁は中国発祥のゲームだが今のように発展したのは日本である)という貴重なゲームがあるので、それを対象とした研究をしない手はないということで遅ればせながらゲーム情報学という名称を冠した研究領域を立ち上げた(もっともらしい学問の名前をつけないと認められなかった)。それから20年でようやく体系化にこぎつけることができたのが本書である。伊藤氏が思考ゲームの認知科学的な側面を、保木氏が思考ゲームの情報科学的な側面を、そして三宅氏が最近日本でも盛んになってきたデジタルゲームへの応用を説明している。これまで日本でゲームを研究対象としたくても基本文献が存在しなかったのだが、これからは本書を推薦できる。ゲームの研究を進める上での基礎を本書でぜひ学んでほしい。たとえば意外と敷居が高いゲーム理論(たとえば「ナッシュ均衡」など)の基礎についても学ぶことができる。本書が出版されたことは今後のゲーム情報学の発展のためにとてもうれしいことである。ゲームのプログラムに興味をもったらぜひ最初にこの本を手に取ってほしい。
松原 仁(公立はこだて未来大学)