レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

サイン音の科学 - メッセージを伝える音のデザイン論 -

音響サイエンスシリーズ 5

サイン音の科学 - メッセージを伝える音のデザイン論 -

横断歩道や電車の発車ベル,電子レンジなど,身近な存在でありながら,大切な情報を伝えてくれるサイン音。その音に託されたメッセージについて,著者が事例をあげて解説する。今までになかった「サイン音」をテーマにした初の書籍。

発行年月日
2012/03/28
定価
3,080(本体2,800円+税)
ISBN
978-4-339-01325-2
品切・重版未定

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

amazonレビュー 978-4-339-01325-2 サイン音の科学

掲載日:2019/10/01

サウンドスケープデザイナー 武者圭 様

掲載日:2012/07/17

『サイン音の科学』は、おそらくサイン音(音サイン)の現状を1冊で概観できる初の書籍である。
「サイン音」という言葉は、聞いたことはあっても、特別な用語と感じられるかもしれない。
しかし、本書の目次を眺めただけで、電子レンジをはじめとする家電機器の報知音から、
自動車のクラクションや車内警報音、列車の発車メロディーや音響信号機まで、
生活に溶け込んだ大小さまざまな音が対象とされていることが分かる。

人が受け取る五感情報のうち、80%が視覚情報であり、10%ほどが聴覚情報だとされている。
極端な主張では、90%が視覚情報で3%ほどが聴覚情報だとする説もある。
これら数値の根拠は全く見出せないものの、現代が視覚優位社会であることに異論はない。

しかし、我々の日常生活を振り返ってみると、視覚情報を過信し過ぎている一方、聴覚情報を蔑ろにしていると思わざるを得ない。
例えば、デジタルカメラで写真を撮ってもらうとき、ATMのタッチパネルで暗証番号を入力するときを想像してほしい。
動作音が全くしないと、不安を覚えるのではないだろうか。視覚情報だけでは完結せず、音のフィードバックがあってこそ安心する場合がある。
聴覚と触覚で生活している全盲についても、日本で音のとらえ方や使い方の訓練が行われるようになったのはほんの数年のことである。
確かに、視力がない分、聴覚の使い方は経験則で洗練される。
しかし、誘導音設置でアドバイスを求めても、音量の上げ下げに対する希望と反響音についても不満に終止することが多い。

私は、サウンドスケープデザイナーとしてサイン音を制作・設置する立場にあり、同時に全盲の一人としてサイン音利用者でもある。
『サイン音の科学』に盛り込まれている知見があれば、視覚障害者がサイン音利用者として音量を上げてほしいという場合、必ずしもスピーカのボリュームを上げれば解決するとは限らないことがわかる。
むしろ、スピーカの設置位置や音質を変える方法が効果的で、騒音とならない意味でも有効なことが大半である。

一般的な音のデザインという点では、「音は好き嫌いの個人差が大きいから」という反応がよく聞かれる。
しかし、音の好き嫌いは個人差ではなく一定の共通項があることが、この本のなかで実験データとして明らかになる。
同時に、使うべきではない音質や音域も示されている。
音に興味がある人や仕事で係わる人はもちろん、空間デザインや設計に係わる人にも必ず一読して、手許に資料として備えてほしい1冊である。
常に音環境に係わっている身としても、この書籍は、頭の中を整理する素晴らしいきっかけとなった。
また、サイン音を一般に広め役立つものとするため、新たな可能性と展望を感じ取ることもできた。

視覚情報は、目をそむければ見ずにすませられる。
しかし、聴覚に異常がなければ、あらゆる方向からの音が聞こえ、耳栓をしたくらいでは防ぐことができない。
ところが、無造作に設置されたスピーカー付き掲示板や大音響の街頭テレビ、反響音で隣人の声も聞きづらい空間が散見される。
『サイン音の科学』が多くの人に読まれ、デザインに必須な哲学の感じられる音環境が広がれば嬉しい限りである。
そして、専門用語として「音サイン」が提唱されていることを、頭の隅に置いていただければ幸甚である。

最後に、書評を作成するにあたり、電子データを提供して下さったコロナ社の皆様に、この場を借りて心から御礼と感謝を表したい。

Universal Design Network Japan
サウンドスケープデザイナー 武者圭 武者様のプロフィールはこちらです

日刊工業新聞2012年4月24日 「技術科学図書」欄

掲載日:2012/04/24

日刊工業新聞2012年4月24日付「技術科学図書」欄に新刊情報が掲載されました。

「日刊工業新聞」Webページはこちら