細胞の特性計測・操作と応用

組織工学ライブラリ-マイクロロボティクスとバイオの融合- 1

細胞の特性計測・操作と応用

生体から取り出した単一細胞や細胞群が組織構築に使えるかを判断し,有用なものをより分ける技術を細胞ソート工学と位置付けて解説。

  • 口絵
ジャンル
発行年月日
2016/12/22
判型
B5
ページ数
270ページ
ISBN
978-4-339-07261-7
細胞の特性計測・操作と応用
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定価

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  • 計測自動制御学会賞著述賞を受賞いたしました。
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バイオアセンブラにおいて,生体から取り出した単一細胞や細胞群が組織構築に使えるかどうかを短時間で判断し,有用なものを高速により分ける技術は,大変重要な技術である。本書では,それを細胞ソート工学と位置付けて解説する。

2011年7月から2016年3月までの約5年をかけて,文部科学省科学研究費補助金新学術領域「超高速バイオアセンブラ(略称:バイオアセンブラ)」が実施されました。本プロジェクトは,人工の3次元組織を生体外で構築し,生体としての機能を発現させるという革新的な取組みであります。作られた人工組織は,再生医療や薬剤アッセイ,組織を対象とする試験や検査などに応用することを狙っています。このバイオアセンブラには三つの重要な柱があります。一番目は,人工組織を構成するための細胞の特性を計測してその特性を見きわめ,組織構築に使う細胞だけを分離することです。二番目は,単一細胞からさまざまな形状と機能を持つ3次元組織を組み立てるプロセスです。三番目は,人工的に作成した組織が,組織としての機能や性質を発揮することができるか,あるいはどのような条件で発現するかを見きわめることです。

本書では,特に一番目の細胞の特性を計測し,細胞を分離する点に焦点を当てています。ここでは細胞の特性に応じて特定の細胞を分離することを目的とした学問を「細胞ソート工学」として位置づけることとします。本書は,まず細胞を測るための計測技術をいくつか紹介し,つぎに細胞を分離するために適用可能なさまざまな操作技術を紹介します。そして,細胞の特性に応じて特定の細胞を分ける細胞分離技術を紹介します。

まず,細胞のどのような特性をどのように測るかですが,近年,顕微鏡の進歩とともに,細胞の特性を測る試みは数多くなされてきました。特に蛍光色素による染色技術の発展や超高解像度のイメージング技術の発展は目覚ましく,また,走査型プローブ顕微鏡による表面形状の計測技術の進歩も目覚ましいといえます。これらに関してはすでに多くの成書が出版されていますので,本書では,特にこれまであまり議論がされていない細胞の力学的特性や環境との力学的相互作用の計測に着目しました。ここでは,細胞の力学的特性は浮遊細胞と接着細胞に分けて計測手法を紹介します。また,細胞の電気的特徴量の計測についても紹介し,さらに,蛍光色素を用いて細胞の局所環境状態(pH,温度,酸素濃度など)を計測する方法を紹介します。

つぎに,細胞の分離に必要となる細胞の操作技術について紹介します。細胞の計測結果や特性に基づいて,目的とする細胞もしくは目的としない細胞だけに力を加えることができれば細胞分離が達成できます。つまり,細胞の操作技術が細胞分離の基盤となるわけです。細胞操作技術にはさまざまな原理,方式があり,本書では非接触で細胞を操作する方式や,機械式マイクロマニピュレータを用いる方式を紹介します。非接触で細胞を操作するための原理としては,光(レーザ)トラップ,磁場,音響流れ,誘電泳動,超音波などがあります。これらは直接的に細胞に力を加えることが可能ですが,人工的に製作した微小なツールに力を加えて,このツールを介して細胞を間接的に操作する方式もあります。これらは力の発生方式の違いで位置決め分解能や力の発生レンジ,発生範囲,さらには細胞への影響(ダメージ)が異なるため,目的に応じて適切な方式を用いることが必要です。

最後に,細胞の特性に応じて特定の細胞を分離する細胞分離技術の例をいくつか紹介します。細胞を分離する方式としては,以下の二つの方式に大別できます。
(1)細胞を一つずつ個別に計測し,その計測結果に基づいて分離する方式
(2)細胞の特性(細胞の免疫特性,力学的特性,電気的特性など)に応じて,特定の細胞だけを捕捉したり,特定の細胞だけに力を加えて操作することで分離する方式
ただし,(1)と(2)の組み合わせも考えられ,例えば,まず(2)によって分離もしくは固定したあとに(1)によって細胞を一つずつ計測し,ターゲットを絞り込むこともあります。どの分離手法も計測・操作の原理に由来して一長一短があるため,実際は目的に応じて適切な方式を選択することになります。ここで,(1)の方式は,なにをどう計測するかとか,計測パラメータの数が増えるほど計測の速度が鍵となります。(2)の方式は,特定の細胞だけをいかに捕捉もしくは操作するかが鍵となります。どちらの技術にも共通して重要な点は,組織構築に使う分離細胞にダメージがないことといえます。

作られた人工組織を,再生医療や薬剤アッセイ,組織を対象とする試験や検査などに応用するには,人工組織を構成するための部品としての細胞の選択はきわめて重要であり,細胞の特性に応じて特定の細胞を分離することを目的とした「細胞ソート工学」が重要となります。本書では,細胞を測るための計測技術,細胞を分離するために適用可能なさまざまな操作技術,そして,細胞の特性に応じて特定の細胞を分ける細胞分離技術を紹介し,体系的にまとめました。また,これらの技術は多くの応用例が考えられており,適宜紹介しました。本書が今後の組織構築と再生医療の発展に資することを執筆者一同が願っています。

2016年10月 編者 新井 史人 

1. 細胞の特性を測る
1.1 マイクロ流体チップによる浮遊細胞の力学特性の精密計測
 1.1.1 ハイスループットを可能とするマイクロ流体チップ
 1.1.2 マイクロ流体チップを用いた細胞の力学特性計測
 1.1.3 細胞の力学特性の精密計測のためには
 1.1.4 ロボット統合型マイクロ流体チップを用いた浮遊細胞計測
 1.1.5 おわりに
 引用・参考文献
1.2 浮遊細胞の力学的指標の高速計測
 1.2.1 はじめに
 1.2.2 パッシブ計測手法
 1.2.3 アクティブ手法による細胞疲労試験
 1.2.4 考察
 1.2.5 おわりに
 引用・参考文献
1.3 原子間力顕微鏡を用いた細胞の力学特性計測
 1.3.1 原子間力顕微鏡
 1.3.2 AFMを用いた細胞の力学特性計測
 1.3.3 ソフトガラスレオロジー理論
 1.3.4 多数細胞間レオロジーのばらつき
 1.3.5 細胞内レオロジーの空間分布
 引用・参考文献
1.4 牽引力顕微鏡法を用いた細胞と基質の界面における力の計測
 1.4.1 はじめに
 1.4.2 シリコーン基質を用いた計測
 1.4.3 マイクロピラーアレイによる計測
 1.4.4 ポリアクリルアミドゲルを用いた計測
 1.4.5 生体高分子ゲルを用いた計測
 1.4.6 おわりに
 引用・参考文献
1.5 浮遊細胞の電気的特徴量の計測
 1.5.1 はじめに
 1.5.2 細胞の誘電特性の計測
 1.5.3 流れ場における細胞の分布計測
 1.5.4 おわりに
 引用・参考文献
1.6 細胞の蛍光計測
 1.6.1 はじめに
 1.6.2 蛍光の原理
 1.6.3 蛍光に影響を及ぼす要因
 1.6.4 蛍光計測法の分類
 1.6.5 マルチパラメータ計測用蛍光センサビーズ
 1.6.6 マウス卵子酸素消費速度の蛍光計測チップ
 1.6.7 おわりに
 引用・参考文献

2. 細胞を操作する
2.1 光による操作
 2.1.1 はじめに
 2.1.2 光による細胞操作の分類
 2.1.3 光圧による細胞操作
 2.1.4 そのほかの操作
 2.1.5 おわりに
 引用・参考文献
2.2 磁気駆動マイクロロボットによる操作
 2.2.1 はじめに
 2.2.2 駆動方式による分類
 2.2.3 磁気駆動ロボットの駆動性能向上のための方策
 2.2.4 細胞操作への応用
 2.2.5 おわりに
 引用・参考文献
2.3 音響流れによる操作
 2.3.1 はじめに
 2.3.2 定常表面弾性波(SSAW)による操作
 2.3.3 進行表面弾性波(TSAW)による操作
 2.3.4 一軸振動誘起流れによる操作
 2.3.5 多軸振動誘起流れによる操作
 2.3.6 おわりに
 引用・参考文献
2.4 誘電泳動による操作
 2.4.1 はじめに
 2.4.2 誘電泳動の原理
 2.4.3 誘電泳動デバイスの作製技術
 2.4.4 細胞操作のための誘電泳動デバイス
 2.4.5 3次元電極を用いた細胞操作の拡張
 2.4.6 おわりに
 引用・参考文献
2.5 超音波による操作
 2.5.1 はじめに
 2.5.2 超音波音場
 2.5.3 定在波音場中での微小物体の捕捉
 2.5.4 超音波マニピュレーション
 2.5.5 おわりに
 引用・参考文献
2.6 機械式マイクロマニピュレータによる操作
 2.6.1 はじめに
 2.6.2 二本指マイクロハンドの概要
 2.6.3 マイクロハンド設計・開発
 2.6.4 振動解析
 2.6.5 可動範囲評価
 2.6.6 おわりに
 引用・参考文献

3. 細胞分離への応用
3.1 気液界面を用いた細胞分離
 3.1.1 はじめに
 3.1.2 移流集積法
 3.1.3 移流集積による微粒子配列
 3.1.4 気液界面を利用したパターン配列
 3.1.5 気液界面を利用した希少細胞の分離
 3.1.6 おわりに
 引用・参考文献
3.2 閉鎖系高速細胞解析分離
 3.2.1 はじめに
 3.2.2 循環がん細胞
 3.2.3 出生前診断による胎児の染色体異常の検出
 3.2.4 血液中希少細胞の検出の問題点と解決策
 3.2.5 マイクロ流路と超高速画像処理システムを用いた血液細胞の物性解析
 3.2.6 おわりに
 引用・参考文献
3.3 マイクロ流体チップを用いた細胞カプセルの分離
 3.3.1 はじめに
 3.3.2 ビーズ表面を利用した細胞培養とセンシング
 3.3.3 細胞のカプセル化培養技術
 3.3.4 マイクロ流路型セルソーター
 3.3.5 cellballソーティング
 引用・参考文献
3.4 流体力を利用した細胞のソーティング
 3.4.1 はじめに
 3.4.2 大きさを利用した細胞の選抜
 3.4.3 水力学的フィルトレーション
 3.4.4 格子状流路の利用
 3.4.5 表面マーカーを利用した細胞の選抜
 3.4.6 おわりに
 引用・参考文献
3.5 電場を利用した細胞分離
 3.5.1 はじめに
 3.5.2 誘電泳動ピンセット
 3.5.3 マイクロ流路システムに誘電泳動を組み込んだ細胞分離
 3.5.4 免疫反応を利用した細胞分離
 引用・参考文献

索引

高橋 亮輔(タカハシ リョウスケ)

山口 智之(ヤマグチ トモユキ)

鈴木 郁郎(スズキ イクロウ)

日刊工業新聞2017年2月24日 「技術科学図書」欄 掲載日:2017/04/14

掲載日:2020/05/08

「日本機械学会誌」2020年5月号広告