分子シャペロン タンパク質に生涯寄り添い介助するタンパク質

分子シャペロン - タンパク質に生涯寄り添い介助するタンパク質 -

分子シャペロンという特殊なたんぱく質について,その発言調節,構造・機能,病気・創薬との関わりについて解説した入門書。

ジャンル
発行年月日
2019/09/10
判型
A5
ページ数
204ページ
ISBN
978-4-339-06759-0
分子シャペロン タンパク質に生涯寄り添い介助するタンパク質
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定価

3,300(本体3,000円+税)

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細胞の多くのタンパク質に付き添い,それらの機能を保証し,さらにはがんなどの多様な病気にも深く関わる分子シャペロンという特殊なタンパク質について,その発現調節,構造・機能,病気・創薬との関わりについて解説した入門書。

本書は,分子シャペロンの入門書である。分子シャペロンは,ほとんどの生物に存在する,起源の古いタンパク質である。異なる生物種に普遍的に見られるように,細胞の中でも,サイトゾルに加えて,核,ミトコンドリア,葉緑体, 小胞体,ペルオキシソームなどの細胞小器官に検出され,細胞の外にさえ存在する。分子シャペロンは,非常に多様なタンパク質と相互作用して,それらの折りたたみ(立体構造形成)の介助や安定性/機能の維持などの重要なはたらきをする。タンパク質の分解にも関与する。分子シャペロンは,細胞におけるタンパク質の恒常性を維持するために重要なはたらきをしているのである。

分子シャペロンは遍在し,多様な細胞機能に関与するため,その機能異常によって細胞におけるさまざまな障害が引き起こされる。分子シャペロンはがんや神経変性疾患などのさまざまな難病と関係しているので,分子シャペロンが標的となり薬剤の開発が進められている。また,分子シャペロンを(構成的/大量)発現させて植物に環境ストレス耐性を付与したという報告もある。大腸菌などで外来の組換えタンパク質を大量発現させると凝集してしまうことがあるが,分子シャペロンを共発現することにより,凝集を抑制する試みもなされている。タンパク質の構造形成などの基礎的研究から上記のような応用研究まで,分子シャペロンの研究は著しい広がりを見せている。

分子シャペロン研究の著しい発展と新しい情報の大量蓄積のため,これらを網羅することは不可能に近い。分担執筆による良書がすでに出版されているが,筆者が浅学非才を顧みず,この本を思い切って書いたのは,以下に述べるように分子シャペロン研究に偶然導かれ、その面白さや重要さを知ったからである。筆者はもともと光合成の研究をしていたが,研究室の学生が意図せずに,シアノバクテリアのgroEL遺伝子を単離したことがきっかけで分子シャペロンの研究を始めることになった。さらに,当時大学院学生の田中直樹氏が,目的とした分子シャペロンではなく,HtpG(Hsp90)をコードする遺伝子をPCRにより増幅し単離した。(すでに10年前に大腸菌のhtpG変異株の構築とその表現型が報告されていたので,「いまさらなぜ」といわれてもおかしくなかったが)この遺伝子を破壊し変異株を解析したところ,大腸菌や枯草菌htpG変異株とは異なり,著しい高温感受性を示すことがわかった。これは原核生物Hsp90の重要なはたらきを初めて明らかにしたものである。光合成研究の材料としてシアノバクテリアを用いていたために,Asadulghani氏や小島幸治氏らが,光や光合成電子伝達を介した新規な遺伝子発現調節機構を見つけることができた。大腸菌などの従属栄養生物を用いては、このような実験結果を得ることはできなかった。このように,好奇心をかき立てる偶然の発見,孤独な研究の旅を共に歩んでくれた埼玉大学代謝学研究室の学生たち,折に触れて励ましてくれたWolfgang Schumann教授やLászló Vígh教授ら海外の友人のおかげで研究を継続できた。いままでの研究を振り返ると,「神のなさることは,すべて時にかなって美しい。」という旧約聖書の言葉が迫ってくる。

本書の内容は,大きく二つに分かれている。編では,高等学校生物を履修していれば理解できるように,基本的なことを解説した。II編は,分子シャペロンの各論になっているが,大学院生や研究者も視野に入れた内容になっている。また,本書全体を通して,専門用語にはなるべく脚注などで説明を加えた。おわりに,原稿を読んで助言を与えてくださった坂田一郎氏(1.1節),金森正明氏(3.1節),宮田愛彦氏(9章のすべて),渡邉達郎氏(がんの記述部分),いくつかのタンパク質の構造図を作成してくれた小島幸治氏と研究室の片山裕生氏に感謝の意を表したい。また,2年半もの長い間,辛抱強く原稿の完成を待っていただいたコロナ社に深く感謝する。
 2019年7月 仲本  準

Ⅰ編 総論
〈プロローグ〉
1. ストレス
1.1 セリエとストレス
1.2 熱(高温)ストレス
 1.2.1 細胞の形態学的変化・異常
 1.2.2 呼吸と光合成機能の異常
1.3 Hspと獲得性熱耐性

2. 熱ショック応答
2.1 熱ショックパフと熱ショック応答の発見
2.2 Hspの発見
2.3 Hsp遺伝子のクローニングとHspの普遍性

3. 熱ショック応答の分子メカニズム
3.1 グラム陰性菌である大腸菌における熱ショック応答の正の調節―シグマ32レギュロン―
 3.1.1 シグマ32因子の発見
 3.1.2 シグマ32因子の細胞内濃度の調節
 3.1.3 シグマ32因子の活性調節
 3.1.4 熱ショックレギュロンの負のフィードバック制御機構
3.2 グラム陽性菌である枯草菌における熱ショック応答の負の調節―CIRCEレギュロン―
3.3 独立栄養生物であるシアノバクテリアにおける熱ショック応答の正と負の調節―K–boxレギュロン―
3.4 真核細胞における熱ショック応答の調節
 3.4.1 HSF1の構造
 3.4.2 HSF1のDNAへの結合
 3.4.3 HSF1の活性調節機構
3.5 高温の感知とタンパク質の安定性

4. タンパク質の形と折りたたみ
4.1 タンパク質の形と機能
4.2 タンパク質の変性・凝集
4.3 凝集しやすいタンパク質
4.4 タンパク質の折りたたみは容易ではない
4.5 タンパク質はそれ自身で正しく折りたたむ(アンフィンセンのドグマ)
4.6 細胞内で正しく折りたたむのはさらに難しい

5. 分子シャペロン
5.1 ルビスコ結合タンパク質の発見
5.2 細胞におけるタンパク質の構造形成を助けるタンパク質
5.3 分子シャペロン概念の提唱
5.4 さまざまな分子シャペロンと分子シャペロンの一般的な定義

6. 分子シャペロンはタンパク質の誕生から死まで関与する
6.1 タンパク質の合成(誕生)
6.2 タンパク質の適材適所配置(オルガネラ局在)
6.3 タンパク質の分解(死)

Ⅱ編 各論
〈プロローグ〉
7. Hsp60/シャペロニン/GroEL
7.1 生物種間分布,細胞内局在,二つのサブファミリー
7.2 基質
7.3 構造と機能
 7.3.1 研究の幕開け
 7.3.2 GroELの構造
 7.3.3 GroELのシャペロン作用機構
 7.3.4 TRiC(CCT)やthermosome
7.4 葉緑体シャペロニンCpn60
7.5 大腸菌以外のバクテリアのGroEL
7.6 進化と難病への関与
 7.6.1 進化分子工学
 7.6.2 難病

8. Hsp70/DnaK
8.1 研究の端緒
8.2 Hsp70/DnaKの生物種間分布,細胞内局在,必須性
8.3 Hsp70/DnaKの構造と機能
8.4 Jタンパク質/DnaJ/Hsp40
 8.4.1 構造の多様性・分類
 8.4.2 生物種における多様性
 8.4.3 生理学的・生化学的な機能
 8.4.4 Jドメイン依存および非依存のJタンパク質の機能
8.5 ヌクレオチド交換因子(NEF)/GrpE
 8.5.1 GrpEの構造と機能
 8.5.2 温度による機能調節
 8.5.3 さまざまなヌクレオチド交換因子(NEF)と機能
8.6 Hsp70/DnaKシャペロン系のシャペロン作用
 8.6.1 非天然構造タンパク質(基質)の折りたたみ機構
 8.6.2 複合体の会合や解離への関与
8.7 難病,阻害剤と薬
 8.7.1 がんのHallmarks,がんなどの難病への関与
 8.7.2 阻害剤と薬の探索や開発

9. Hsp90/HtpG
9.1 研究の端緒
9.2 生物種間分布,細胞内局在,必須性
9.3 構造
9.4 基質(クライアント)
 9.4.1 さまざまなクライアント
 9.4.2 Hsp90/HtpGとクライアントの相互作用
9.5 コシャペロン
 9.5.1 TPRドメインをもつコシャペロン
 9.5.2 TPRドメインを介さずに相互作用するコシャペロン
 9.5.3 種によるコシャペロンの違い
 9.5.4 小胞体Grp94/gp96のコシャペロンPRAT4A
9.6 進化への関与
9.7 難病への関与
 9.7.1 がん
 9.7.2 神経変性疾患
 9.7.3 嚢胞性線維症
9.8 阻害剤と薬

10. Hsp104/ClpB
10.1 研究の端緒
10.2 存在と必須性
10.3 構造
 10.3.1 AAA+ファミリー
 10.3.2 各ドメインと機能
 10.3.3 六量体構造
10.4 作用機構
 10.4.1 アンフォールディングと糸通し
 10.4.2 Hsp70/DnaKシャペロン系と連携したHsp104/ClpBの脱凝集メカニズム
10.5 細胞における機能
 10.5.1 タンパク質凝集塊の可溶化
 10.5.2 酵母プリオンの伝播
 10.5.3 核におけるmRNAスプライシング

11. 低分子量Hsp
11.1 研究の端緒
11.2 生物種間分布,細胞内局在
11.3 構造と機能
 11.3.1 構造的特徴
 11.3.2 シャペロン作用機構
 11.3.3 基質とその認識
11.4 sHspオリゴマーの解離・会合とシャペロン機能調節
 11.4.1 熱ショックによる調節
 11.4.2 sHspのリン酸化による調節
 11.4.3 ヘテロオリゴマー形成による調節
11.5 sHspのストレス耐性やさまざまな病気への関与
 11.5.1 ストレス耐性
 11.5.2 タンパク質分解や細胞死
 11.5.3 白内障
 11.5.4 がん
 11.5.5 筋疾患や神経変性難病

引用・参考文献
索引

仲本 準(ナカモト ヒトシ)

「化学」2019年11月号(化学同人)

「現代化学」2019年11月号(東京化学同人)

掲載日:2019/10/01

月刊「化学」2019年10月号広告