バイオミメティクスから学ぶ有機エレクトロニクス

バイオミメティクスから学ぶ有機エレクトロニクス

有機エレクトロニクスで,特にバイオミメティクスに重点を置いての基礎理解を目標とした。

ジャンル
発行年月日
2019/11/22
判型
A5
ページ数
170ページ
ISBN
978-4-339-00928-6
バイオミメティクスから学ぶ有機エレクトロニクス
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定価

2,530(本体2,300円+税)

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【書籍の特徴】
私たちの日常生活でも役立つ新製品は,意外にも生体の優れた機能を模範,模倣することから,もしくは生体機能にヒントを得て発案されたものが多い。何万年,何億年と絶滅の危機を回避して生き延び,進化の一途を経て来た生体の機能にはわれわれ人間が学ぶべきもとがあまりに多い。それがバイオミメティクス(生体模倣)であり,特に生体機能こそわれわれの学ぶべき老師であるともいえる。
近年著しい進展を遂げているエレクトロニクスには,有機物が積極的に活用されている。コガネムシの美しさやホタルの発光は昔から人々を魅了してきた。スマホやパソコンの表面では, 液晶や有機ELが次々に開発され, 近年目覚ましい進展を遂げている。しかしながら,ヘルスケア用や香料, 製品の管理用の匂いセンサとなるとまだまだであり,犬や多くの動物の嗅覚にまさる製品がなく,今後の研究開発が期待されている。太陽電池もだいぶ普及してきたが,植物の光合成に見習うべきところがまだまだありそうである。
こうした有機薄膜表面の機能の発現,制御には顕微鏡による直接観察がきわめて有用であった。これからも,マイクロメートルオーダー,ナノメートルオーダーの観察や制御に顕微鏡がますます活躍するであろう。そのため,本書では電子顕微鏡やプローブ顕微鏡をはじめ薄膜のおもな評価方法もまとめた。

【著者からのメッセージ】
著者らも,ハスの葉がコロコロと雨水を弾く様子に魅了され,「バイオミメティックス」によって,その機能を自動車用の汚れ防止として撥水コーティングやヨーグルトが付着しない容器の蓋材などの開発,製品化を進めてきた。ハスの葉そのものはヨーグルトを弾けるが,生クリームは付着してしまう。それでも原理を追求し続けると,生クリームの付着しない表面も製品化でき,実際にクリスマスケーキのフィルム用に製品化された。「表面・界面」において、生体の優れた機能からの発想がとても有効であることを実感している。
本書では,植物,動物のバイオミメティクスからはじめ,特に生体の表面に直目する。また,生体の特徴的な構造を形成する生体分子の自己組織化について述べた。そして,この自己組織化から発現するさまざまな機能を調べ,こうした機能性を発現する特徴的な構造を模倣したさまざまな薄膜形成技術を学習し,それを用いた電子デバイスへの展開を紹介する。
特に,有機エレクトロニクスの中で,バイオミメティクスに重点を置き,材料科学,界面物理・界面化学に関する基礎的な理解,電気・電子デバイス,光学デバイスに関する基礎理解や新しい発想の習得を目標として,大学生・大学院生の教科書・参考図書とすることをめざした。実践的な薄膜の製造方法や評価方法についても紙面の許す範囲で記述したため,民間・産業界での研究・開発の一助にもなれば幸いである。

白川教授の導電性高分子のノーベル賞受賞,液晶ディスプレイの普及,進むEL素子の実用化,携帯情報端末機の普及,有機太陽電池への期待からもうなずけるように有機エレクトロニクスは,物理的にも化学的にも実社会に必要不可欠な学問分野となっている。また,山中教授のiPS細胞ノーベル賞受賞から,バイオテクノロジーの医療応用に関する期待がますます高まってきており,生物学的なアプローチの重要性が認識されている。こうした産業界および学問分野の急激な進展を予測するかのように,すでに応用物理学会では「有機分子・バイオエレクトロニクス」分野が設立され25 年以上が経過している。この間の急速な変化は大学や学界に留まらず,企業・産業界でもさまざまな製品開発にこの分野の基礎知識や考え方が必要不可欠となっている。

ここで,学界や産業界における新規なアプローチといっても,意外にも生物の優れた機能を模範,模倣することから発案されたものが多い。また,生物の機能にヒントを得て開発されたものも多い。何万年,何億年と絶滅の危機を回避して生き延び,進化の一途を経て来た生物の機能にはわれわれ人間が学ぶべきことがあまりに多い。それがバイオミメティクス(生物模倣)であり,特に生体機能こそわれわれの学ぶべき老師であるともいえる。

著者らも,ハスの葉がコロコロと雨水を弾く様子に魅了され,その機能を自動車用の汚れ防止としての撥水コーティングやヨーグルトが付着しない容器の蓋材などの開発,製品化を進めてきた。ハスの葉そのものはヨーグルトを弾くが,生クリームは付着してしまう。それでも原理を追求し続けると,生クリームの付着しない表面も製品化でき,実際にクリスマスケーキのフィルムに用いられている。これらのことから生物の優れた機能からの発想がとても有効であることを実感している。

近年著しい進展を遂げているエレクトロニクスには,有機物が積極的に活用されている。コガネムシの美しさやホタルの発光は昔から人々を魅了してきた。スマホやパソコンの表面では,液晶や有機ELが次々に開発され,近年目覚ましい進展を遂げている。しかしながら,ヘルスケア用や香料,製品の管理用のにおいセンサとなるとまだまだであり,現状では犬や多くの動物の嗅覚にまさる製品がないため,今後の研究開発が期待されている。太陽電池もだいぶ普及してきたが,植物の光合成に見習うべきところがまだまだありそうである。こうした有機薄膜表面の機能の発現,制御には顕微鏡による直接観察がきわめて有用であった。これからも,nmレベル,nmレベルの観察や制御に顕微鏡がますます活躍するであろう。そのため,本書では電子顕微鏡やプローブ顕微鏡をはじめとする薄膜のおもな評価方法をまとめた。

本書は有機エレクトロニクスの中で,特に,バイオミメティクスに重点を置き,材料科学,界面物理・界面化学に関する基礎理解,電気・電子デバイス,光学デバイスに関する基礎理解や新しい発想の習得を目標として,大学生・大学院生の教科書・参考図書とすることをめざした。実践的な薄膜の製造方法や評価方法についても紙面の許す範囲で記述したため,民間・産業界での研究・開発の一助にもなれば幸いである。
2019年9月
白鳥世明

1. バイオミメティクスとは

2. 生物模倣と表面
2.1 植物
2.2 動物
章末問題

3. 固体表面構造と濡れの関係
3.1 接触角
3.2 撥水性と超撥水性の分類
3.3 超撥水性発現のためには
 3.3.1 化学的要因
 3.3.2 幾何学的要因
3.4 撥水性が要求される用途および現状と課題
3.5 平ら面上での濡れ現象
3.6 凹凸面上での濡れ現象
3.7 複合表面上での濡れ現象
章末問題

4. 導電性高分子とデバイス
4.1 電気ウナギの発電メカニズム
4.2 電気を使う神経線維
4.3 電線を流れる電気
4.4 導電性高分子の発明
章末問題

5. 水晶振動子マイクロバランス
5.1 人の五感とセンシング
5.2 水晶振動子
5.3 水晶の圧電効果
5.4 質量付加効果
5.5 液中での質量付加効果
5.6 水晶振動子の等価回路および発振回路
5.7 水晶振動子式センサの感度
章末問題

6. 顕微鏡の原理と利用法
6.1 光学顕微鏡
6.2 電子顕微鏡
 6.2.1 走査型電子顕微鏡
 6.2.2 透過型電子顕微鏡
6.3 走査型プローブ顕微鏡(SPM)
 6.3.1 走査型プローブ顕微鏡の原理
 6.3.2 走査型トンネル顕微鏡(STM)
 6.3.3 原子間力顕微鏡(AFM)
 6.3.4 SPMによる観察・評価
6.4 X線回折法
6.5 赤外分光分析法
6.6 紫外可視吸光度測定法
6.7 エリプソメトリー法
章末問題

7. 動画表示素子,ディスプレイ
7.1 液晶
7.2 生物発光
7.3 有機EL
章末問題

8. 光学多層膜の原理と応用
8.1 フレネルの透過と反射
8.2 多層膜の透過と反射
8.3 有機高分子の屈折率
章末問題

9. コーティング技術
9.1 コーティング技術の利用
9.2 ドライコーティング技術
 9.2.1 真空蒸着法
 9.2.2 スパッタリング法
 9.2.3 イオンプレーティング法
 9.2.4 化学気相反応法
 9.2.5 分子線エピタキシー法
 9.2.6 静電塗装
9.3 ウェットコーティング技術
 9.3.1 ディップコート
 9.3.2 スピンコート
 9.3.3 グラビアコート
 9.3.4 スロットオリフィスコート
 9.3.5 スプレーコート
 9.3.6 ビードコート
 9.3.7 メッキ技術
 9.3.8 LB法
9.4 次世代コーティング技術
9.5 交互吸着法
 9.5.1 交互吸着法の原理
 9.5.2 交互吸着法の報告例
 9.5.3 光学薄膜作製技術としての交互吸着法
章末問題

10. 有機薄膜太陽電池
10.1 有機薄膜太陽電池の原理
10.2 有機薄膜太陽電池の構造
10.3 有機半導体活性層
 10.3.1 半導体
 10.3.2 有機半導体と活性層
 10.3.3 太陽電池特性
10.4 最近の研究動向
 10.4.1 低バンドギャップポリマーへの取組み
 10.4.2 光吸収領域の長波長化への取組み
 10.4.3 界面構造に関する取組み
 10.4.4 半透明太陽電池の開発
 10.4.5 ウェットプロセスでの有機薄膜太陽電池
章末問題

11. 電磁気学と有機エレクトロニクス
11.1 非接触IC
11.2 フレキシブルエレクトロニクス
11.3 ウェアラブルエレクトロニクス
11.4 IoTセンサデバイスシステム
章末問題

引用・参考文献
章末問題略解
索引

白鳥 世明

白鳥 世明(シラトリ セイメイ)

【略歴】
1992年 東京工業大学大学院博士課程修了 (博士(工学))
1992年 千葉大学機能材料工学科助手
1994年 慶應義塾大学計測工学科助手
1995年 慶應義塾大学物理情報工学科助手
1997年 同物理情報工学科専任講師
1997年~1998年 米国マサチューセッツ工科大学物質科学科客員研究員
2000年 慶應義塾大学物理情報工学科 准教授
2014年 同大学教授、現在に至る

【受賞歴】
1999年2月 電気学会論文賞 受賞
2002年8月 日本経済新聞 優秀製品サービス賞 受賞
2002年2月 慶應義塾大学 知的資産センター賞 受賞
2003年6月 文部科学大臣賞 受賞 (産学連携の功労)