電子物性の基礎とその応用

電子物性の基礎とその応用

電子物性に関する理解はエレクトロニクス技術にたずさわる人々の基礎的な知識で,本書ではその応用面とともに初歩の知識で理解できるよう記述した。

ジャンル
発行年月日
1963/05/30
判型
A5
ページ数
342ページ
ISBN
978-4-339-00468-7
電子物性の基礎とその応用
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定価

3,135(本体2,850円+税)

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電子物性に関する理解はエレクトロニクス技術にたずさわる人々の基礎的な知識で,本書ではその応用面とともに初歩の知識で理解できるよう記述した。

補訂に際して

この書が誕生してから,時めぐり版を重ねて,今回第33版を迎える. それは,ひとえに,読者や出版社をはじめ数多くの方々の,この小著への恵愛の賜物に他ならない. ここに,かつて本書を読まれ,技術者としてすでに活躍されている方々への祝福と,著者の心からの感謝を捧げて,この文の始めとしたい.

初版よりこのかた,本書の取扱ってきた物性工学も,かねては若い学問であったが,いまは一大分野に成熟した. その歴史をふまえて,この版では,不易な基礎にも,いささかの新しい成果を加え,電子物性の清新ないざないに努めることとした.

この四半世紀には,科学技術に著しい発展があった. 端的に世の中を豊かに便利にしたが,最も大きな変化は,リアルタイム,つまり即応性である. スーパーコンビュータからマイクロプロセッサに至るコンビュータの成果である.

いわば,それは満開の桜花であるが,これを支え,養分を送り,花を咲せているのは,幹と根である. トランジスタ・ICなどデバイスと,電子物性がそれに当たる. 大樹に成長した根は広く深くなっている. 物性エレクトロニクスの諸原理は,その意義を増したわけである. 本書はささやかな入門書であるが,初学者になお御益するところがあれば,著者として至上の幸せである.

本書が縁満ちて成書以来,時代の進展に応ずべく,すでに若干の加筆を経ているが,今回の補訂も,当初の方針に基いた. 詳しくは,はしがき(特に1~5)を参照されたい. なお今後も,十全を期したく,読者の方々の忌慢ないご叱正をお願いしておきたい.

この書の誕生に際し,それぞれの立場から有益なご助言,ご援助を賜った両恩師には,すでに他方世界に往かれた. 改めて,その学恩を深謝し,謹んでご冥福をお祈りする次第である.

今回の版においても,コロナ社関係各位,とりわけ編集部,出版部の方々には絶大なご尽力を戴いた. ここに,深甚の謝意を表し,この文を撤筆したい.

平成8年5月
著者しるす




最近の電気工学,中でもエレクトロエクスの分野では,物性論的な考え方をいくらかでも身につけていないと,不便を感じることが多い.

しかし,物性論の書物は,かなり程度の高い専門的なものか,そうでないと通俗的なお話が多く,手ごろな入門書の必要が感じられる.

この書は,執筆を担当された下村君の努力によって,物理的意味をやさしく解説するのに,かなりよく成功しており,電子物性への入門書として好適ではないかと思う.

本書が多くの人に読まれ,電気工学の進歩にいくらかでも寄与するであろうことを願うものである.

昭和38年5月
犬石嘉雄
(元電気学会副会長)


はしがき

トランジスタの発明と物性論の進歩によって,電気工学の中に新しい分野が付け加えられるとともに,電気材料学が大きな改変を受けねばならなくなった. そのために,電気技術者にとって,物質の電磁気的性質に関する物性論の知識は,電磁気学と同様に,欠くことのできない基礎知識の一つとなってきた.

この点は初学者についてもほとんど変わらないはずにも拘わらず,適当な書物がないために学習上かなりの不便があった.

本警は,このような立場に立って,物性論の基礎知識とその電気工学への応用について,高校上級ないし大学初年程度で理解できることを目標に執筆されたものである. したがって,この程度に属する工業高校,工業高専,さらに用い方によっては工業短大などの諸学校の電気・電子関係、学科学生のための教科書・参考書,または一般電気技術者の物性論への入門書としていささかでもお役に立てば誠に幸いであると考えている.

執筆に当たって心がけた諸点は,
1. むずかしい数式を避け,物理的機構の本質を説明することを第一のねらいとした.そのため,図解と比喩をできるだけ採り入れるように努めた.
2. 初歩の電磁気学と力学の知識があれば,他の参考書を見る必要もなく,本書だけでー賞して物性を一通り理解できるよう目ざした(したがって,原子物理から書き始めてあるので,すでに学んだ方は途中から読み始められてもよい).
3. 単位系はMKS有理化系で統一した.
4. 内容の程度を示すため,基機的かつ高校程度で理解可能な部分を大きな活字で記述し,それを越えるものを小活字で示した(したがって,程度および必要に応じて読み分けていただきたい).
5. 物理的基礎と応用との結びつきを密にして理解を助けるため,一般には同じ章の中で,これらを取り扱うようにしたが,半導体の応用は,かなりの量があり,かつ重要なので,変則的ではあるが,別の章とした.

以上のような目標と方針で執筆したが,著者の浅学非才によって,それらが必ずしもじゅうぶん達成されていないこと,および説明がゆきとどかないために理解しがたい所のあることを恐れる. 読者の方々の御指摘によって,後日補足してゆきたいと考えている.

なお,本書の執筆に際しては,内外多数の著書論文を参照させていただいた. 巻末に,これらの主なるものに学習上よき参考書となるものを加えて掲げ,著者への謝意を捧げるとともに,読者の便宜を計った.

末筆ながら,拙稿の御校聞を賜った阪大教授犬石嘉雄先生,ならびに,いろいろと執筆上の御教示をいただいた成城工高長中野次男先生の両恩師に厚くお礼申し上げたい. また,本書の出版に際して,著者の無理な注文を快く受け入れ,図版の入れ替えや組み変えを何回となく繰り返しながらも,短い期間に,ここまで仕上げていただいたコロナ社編集部の御好意に心から感謝するしだいである.

昭和38年春
大阪育和の自宅にて著者しるす


第五版に寄せて

初版が出てから4年余りの歳月が経過し,幸いにも大方の好評を得て4版を重ねてきた. しかし,この間,物性工学の分野は長足の進歩を遂げ,基礎を扱った本書ですら新しい進歩をいくらか取り入れる必要を感じるに至ったので,今回主として第5章および第7章の一部を書き換え,読者の御期待にいささかでも沿えるように努めた.

最後に,ミスプリントの指摘などこれまでに読者諸氏より受けた御助言に対し厚く御礼申し上げる.

昭和42年7月
著者しるす

1.序説
1.1 電気工学と物性論
1.2 物性論の考え方

2.物性論の基礎知識
2.1 電子とその性質
 2.1.1 陰極線
 2.1.2 電子の比電荷
 2.1.3 電子の電荷と質量
 2.1.4 相対性理論と電子の質量
 2.1.5 電子ボルト
2.2 原子の構造
 2.2.1 水素原子のスペクトル
 2.2.2 長岡-ラザフォードの原子模型
 2.2.3 量子論の誕生
 2.2.4 ボーアの水素原子理論
 2.2.5 励起現象とイオン化現象
 2.2.6 エネルギー準位
 2.2.7 ゾンマフェルトの長円軌道
 2.2.8 パウリの排他原理と周期率
 2.2.9 ドブロイの波
 2.2.10 波動力学から見た電子のふるまい
2.3 分子の構造
 2.3.1 分子について
 2.3.2 イオン結合
 2.3.3 共有結合
2.4 熱エネルギーと分子運動
 2.4.1 ブラウン運動
 2.4.2 気体における分子運動
 2.4.3 拡散現象
2.5 固体の構造
 2.5.1 固体と結晶
 2.5.2 X線回折と結晶構造
 2.5.3 結合力による結晶の分類
 2.5.4 不完全な結晶と固体における熱運動
 2.5.5 固体内の電子の状態
演習問題

3.金属の電気的性質と応用
3.1 金属の導電現象と応用
 3.1.1 金属の電気抵抗
 3.1.2 自由電子とオームの法則
 3.1.3 抵抗率と絶対温度
 3.1.4 電子の衝突とジュールの法則
 3.1.5 金属の導電性の応用
 3.1.6 超導電現象と応用
3.2 電子放出と応用
 3.2.1 金属の箱形模型と電子放出
 3.2.2 熱電子放出と応用
 3.2.3 光電子放出と応用
 3.2.4 二次電子放出と応用
 3.2.5 電界放出と応用
演習問題

4.半導体の物理現象
4.1 半導体とは
4.2 半導体の導電現象
 4.2.1 純粋な半導体の電気伝導
 4.2.2 不純物を含む半導体の電気伝導
 4.2.3 半導体のフェルミ準位
 4.2.4 拡散電流
4.3 ホール効果
4.4 p-n接合とそのはたらき
 4.4.1 p-n接合とは
 4.4.2 p-n接合の整流作用
 4.4.3 p-n接合の降伏現象
 4.4.4 注入されたキャリアのふるまい
4.5 トランジスタ作用
4.6 半導体と金属の接続
4.7 半導体における光電効果
 4.7.1 光導電(内部光電効果)
 4.7.2 光起電効果
4.8 化合物半導体
演習問題

5.半導体の応用
5.1 整流器
 5.1.1 点接触ダイオード
 5.1.2 金属整流器
 5.1.3 p-n接合整流器
5.2 p-n接合コンデンサ(可変容量ダイオード)
5.3 トランジスタ
 5.3.1 点接触トランジスタ
 5.3.2 接合トランジスタ
 5.3.3 トランジスタの特性
 5.3.4 トランジスタの接続法
 5.3.5 トランジスタの等価回路
 5.3.6 トランジスタ回路
 5.3.7 真空管との対応および比較
 5.3.8 高周波トランジスタ
 5.3.9 高出力トランジスタ
 5.3.10 電界効果トランジスタ
 5.3.11 スイッチ用トランジスタ
5.4 半導体抵抗器
 5.4.1 サーミスタ
 5.4.2 バリスタ
5.5 光電効果の応用
 5.5.1 光電池 
 5.5.2 光電池セル
 5.5.3 光トランジスタ
5.6 ホール効果
 5.6.1 ホール発電器
5.7 その他の半導体応用
 5.7.1 エサキダイオード
 5.7.2 プレーナ技術と集積回路
 5.7.3 電界発光とその応用
 5.7.4 熱電直接変換器と電子冷却
 5.7.5 電子写真

6.誘電体と応用
6.1 絶縁体の電気的性質
 6.1.1 絶縁体の導電現象
 6.1.2 絶縁破壊
6.2 静電界における誘電体
 6.2.1 誘電現象
 6.2.2 電気分極の機構
 6.2.3 内部電界
6.3 交番電界における誘電体
 6.3.1 誘電損失と損失角
 6.3.2 交番電界における電気分極
6.4 誘電体の応用
 6.4.1 絶縁材料
 6.4.2 コンデンサ用誘電体
6.5 強誘電体
 6.5.1 強誘電体とは
 6.5.2 自発分極の発生
 6.5.3 強誘電体の性質
 6.5.4 強誘電体のいろいろ
6.6 強誘電体の応用
 6.6.1 高誘電率の応用
 6.6.2 圧電的性質の応用
 6.6.3 非直線性の応用
 6.6.4 残留分極の応用
 6.6.5 パイロ電気効果の応用
演習問題

7.磁性体と応用
7.1 静磁界
 7.1.1 磁界の強さ
 7.1.2 磁気モーメント
 7.1.3 磁気双極子による磁界
7.2 物質の磁化現象
7.3 原子の磁気モーメント
 7.3.1 磁気のにない手
 7.3.2 電子の磁気モーメントと原子の永久磁気双極子モーメント
7.4 磁気分極の機構(1)ー反磁性と常磁性
 7.4.1 磁気分極と原子の磁気モーメント
 7.4.2 原子の誘導磁気モーメントー反磁性
 7.4.3 永久磁気双極子の配向ー常磁性
7.5 磁気分極の機構(2)ー強磁性
 7.5.1 強磁性体の磁化現象
 7.5.2 自発分極と磁気分域の発生
 7.5.3 金属の強磁性
 7.5.4 反強磁性およびフェリ磁性
 7.5.5 磁気ひずみ
7.6 交番磁界における磁性体
 7.6.1 交番磁界と常磁性
 7.6.2 交番磁界と強磁性
7.7 強磁性体の応用
 7.7.1 高透磁率の応用
 7.7.2 残留分極の応用
 7.7.3 非直線性の応用
 7.7.4 磁気ひずみの応用
 7.7.5 スピンの歳差運動の応用ージャイレーター
7.8 常磁性体の応用ーメーザー
演習問題

付録
(1)アインシュタインの関係式
(2)pn接合における静電容量
(3)イオン分極および電子分極における共鳴分散
(4)強誘電体および強磁性体におけるキュリー-ワイスの法則と自発分極の温度特性
(5)結晶系
(6)反磁性体の感受率
(7)物理定数表
(8)元素の電子殻構造

演習問題解答
文献および参考書
索引

amazonレビュー

下村 武(シモムラ タケシ)