2026
06/25

コヒーレント光通信とは?仕組みからメリット、最新動向まで図解で解説

コヒーレント光通信は、5GやAI、IoTの普及によって爆発的に増加するデータ通信量を支える次世代の光伝送技術です。
本記事では、コヒーレント光通信の基本的な仕組みから、従来の通信方式との違い、導入のメリット・デメリット、そしてAIデータセンターを支える最新動向までを網羅的に解説します。
コヒーレント光通信については「コヒーレント光通信」で詳しく紹介しています。


コヒーレント光通信とは?急増する通信量を支える次世代技術


コヒーレント光通信とは、光の波としての性質を最大限に活用し、大容量のデータを長距離にわたって伝送する技術です。
具体的には、光の波が持つ振幅(強さ)、位相(波のタイミング)、偏波(波の振動方向)という3つの要素を制御して情報を乗せます。
これにより、従来の光通信方式に比べて格段に多くの情報を一度に送ることができ、現代社会の膨大な通信需要に応える基幹技術として位置づけられています。



なぜ今コヒーレント光通信が注目されるのか?従来の通信方式の限界


現在、コヒーレント光通信が注目されている背景には、従来のIM-DD(光強度変調・直接検波)方式の限界があります。
IM-DD方式は、光のオン・オフ(明暗)のみで情報を伝えるシンプルな仕組みですが、伝送できる情報量に限りがありました。
動画配信サービスやクラウド、AIの利用が急拡大し、データトラフィックが指数関数的に増加する中で、IM-DD方式だけでは通信速度の向上に限界が見え始めました。
この「伝送容量の壁」を打ち破る技術として、より効率的に情報を送れるコヒーレント光通信に再び注目が集まっています。



コヒーレント光通信の基本的な仕組みを3ステップで解説


コヒーレント光通信システムは、送信側で光に多くの情報を乗せ、伝送路で劣化した信号を受信側で正確に復元するというプロセスで成り立っています。
この複雑なプロセスは、大きく分けて「情報の多重化」「波形歪みの補正」「信号の復元」という3つのステップで実現されます。
各ステップで高度なデジタル技術と光技術が連携し、大容量・長距離伝送を可能にしています。



ステップ1:光の「振幅・位相・偏波」の3要素で情報を多重化する


まず送信側では、伝えるべきデジタル信号を光の波の3つの要素(振幅・位相・偏波)に割り当てます。
これは、光の明るさだけでなく、波のタイミングや振動方向を細かく変化させることで、1つの光信号に複数の情報を同時に乗せる「多重化」の技術です。
例えば、位相を4段階に変化させるQPSKや、振幅と位相をさらに多段階に組み合わせるQAMといったデジタル変調方式が用いられます。
これにより、従来の方式よりも飛躍的に多くの情報を効率よく伝送することが可能になります。


ステップ2:デジタル信号処理(DSP)で波形の歪みを補正する


光信号が数千kmにも及ぶ光ファイバーを伝送する過程では、「波長分散」や「偏波モード分散」といった現象により、波形に歪みが生じます。
この歪みは通信品質を著しく低下させる原因となります。
コヒーレント光通信では、受信側に搭載されたDSP(Digital Signal Processor)という高性能なデジタル信号処理チップが、この伝送路で生じた歪みを計算によって正確に補正します。
この補正機能があるおかげで、信号は長距離を伝送しても品質を維持できます。


ステップ3:局部発振光を使って元の信号を正確に復元する


受信側では、伝送されてきた微弱な信号光を正確に検出するために、「局部発振光(LO)」と呼ばれる非常に安定した基準光を用います。
この局部発振光と受信した信号光を干渉させる(重ね合わせる)ことで、元の信号が持つ微細な振幅や位相の変化を増幅して捉えることが可能です。
この仕組みにより、受信感度が大幅に向上し、雑音に埋もれてしまうような弱い信号からも、元の情報を正確に復号できます。


従来方式(IM-DD)とコヒーレント光通信の決定的な違い


従来のIM-DD方式と光コヒーレント通信の決定的な違いは、情報を「どのように光に乗せ、どのように読み取るか」にあります。
IM-DDが光の「強度」という1つの情報しか利用しないのに対し、コヒーレント通信は光の「振幅・位相・偏波」という複数の性質を利用します。
この根本的な仕組みの違いが、伝送できる情報量や距離に大きな差を生み出しています。



伝送できる情報量の比較


伝送できる情報量において、両者には圧倒的な差があります。
IM-DD方式は光のオン・オフで「0」と「1」を表現するため、一度に送れる情報量は限られます。
一方、コヒーレント光通信では、振幅・位相・偏波を組み合わせた多値変調を利用できます。
例えば、16QAMでは一度に4ビットの情報を送れるため、単純なオン・オフ方式に比べて原理的に4倍の情報量を伝送可能です。
これにより、1本の光ファイバーで扱えるデータ容量が飛躍的に向上します。


伝送できる距離の比較


伝送距離においてもコヒーレント光通信が優れています。
IM-DD方式は、長距離になると信号の歪みや減衰が大きくなり、頻繁に信号を増幅・再生する中継器が必要でした。
対してコヒーレント光通信は、受信感度が非常に高く、DSPによる波形歪みの補正能力も備えています。
このため信号の劣化に強く、中継器の設置を大幅に削減しながら、数千kmに及ぶ大陸横断や海底ケーブルでの超長距離伝送を実現できます。


コヒーレント光通信を導入する3つのメリット


コヒーレント光通信の導入は、現代の通信インフラが抱える課題を解決するための多くの利点をもたらします。
特に「大容量化」「長距離化」「高品質化」の3点が、通信事業者やデータセンター事業者にとって大きなメリットとなります。



メリット1:通信ネットワークの大容量化を実現できる


最大のメリットは、通信ネットワークの伝送容量を飛躍的に増大させられる点です。
光の振幅・位相・偏波を多重に利用する高度なデジタル変調技術により、同じ1本の光ファイバーで、従来の数十倍から数百倍のデータを伝送できます。
5Gの普及や高精細な動画配信、AIによるデータ処理などで急増するトラフィック需要に、既存の光ファイバーインフラを有効活用しながら応えることが可能になります。


メリット2:長距離伝送を可能にし中継器の数を削減できる


DSPによる歪み補正機能と高い受信感度により、信号を途中で増幅・再生する中継器(リピーター)を設置せずに伝送できる距離が格段に延びます。
従来方式では100km程度で中継が必要だったものが、コヒーレント光通信では数千kmの伝送が可能です。
これにより、大陸間を結ぶ海底ケーブルや広域な陸上幹線網の構築・運用コストを大幅に削減できます。


メリット3:信号の劣化に強く高品質な通信が可能になる


光ファイバー内での信号劣化は通信品質を低下させる主要因ですが、コヒーレント光通信に搭載されるDSPは、これらの劣化要因をリアルタイムで監視・補正する能力を持ちます。
伝送路の状況が変化しても、DSPが自動的に最適な補正を行うため、常に安定した高品質な通信を維持できます。
これにより、通信の信頼性が向上し、ミッションクリティカルなデータ伝送にも対応可能です。


コヒーレント光通信のデメリットと今後の課題


コヒーレント光通信は多くのメリットを持つ一方で、導入と普及にはいくつかのデメリットや技術的な課題も存在します。
主にコストと消費電力の面が、今後のさらなる発展に向けた重要なポイントとなります。



システム構成が複雑でコストが高い


コヒーレント光通信は、高精度な波長可変レーザーや光変調器、受信モジュール、そして最も重要なDSPなど、多数の高度な光・電子部品で構成されます。
これらの部品は製造技術の要求水準が高く、システム全体の構成も複雑になるため、従来のIM-DD方式に比べて初期導入コストが高くなる傾向があります。
技術の成熟とともにコストダウンは進んでいますが、依然として課題の一つです。


消費電力が大きくなる傾向がある


大容量のデータを高速で処理するため、特にDSPは多くの電力を消費します。
システムの高速化・大容量化が進むにつれて消費電力も増加する傾向にあり、装置の冷却や電力供給が大きな課題となります。
特に、大量の光トランシーバーが設置されるデータセンターでは、消費電力の抑制とそれに伴う運用コストの削減が不可欠であり、より低消費電力なDSPや関連デバイスの開発が求められています。


コヒーレント光通信の最新動向と将来性


コヒーレント光通信技術は、とどまることなく進化を続けています。
現在の主流である400G/800Gから、さらなる高速化・大容量化を目指す動きが活発化しており、AIデータセンターの通信インフラや次世代ネットワーク構想の中核として、その重要性はますます高まっています。



400G/800Gからテラビット級へ向かう高速化の潮流


現在、データセンター間接続などを中心に、1波長あたり400Gbpsや800Gbpsの伝送速度を持つコヒーレント光通信システムが商用化され、広く導入が進んでいます。
さらにその先を見据え、研究開発レベルでは1.6Tbps(テラビット毎秒)を超える伝送技術も登場しており、さらなる高速化に向けた競争が続いています。
OIF(Optical Internetworking Forum)などの業界団体で標準化が進められ、次世代の超高速ネットワークの実現が期待されます。


AIデータセンターの通信インフラとしての需要拡大


生成AIや大規模言語モデルの台頭により、データセンター内で処理されるデータ量は爆発的に増加しています。
多数のGPUサーバー間を遅延なく接続し、膨大な学習データを高速に伝送するため、データセンター内外のネットワークにはコヒーレント光通信技術の導入が不可欠です。
AIの性能向上を支える基盤技術として、その需要は今後も急速に拡大していくと予測されています。


次世代光ネットワーク構想における中心的な役割


NTTが提唱する「IOWN構想」のように、将来の通信ネットワークは、情報処理の大部分を光技術で行う「オールフォトニクス・ネットワーク」を目指しています。
この構想において、大容量・低遅延・低消費電力を実現するコヒーレント光通信は、ネットワークの末端から中枢までを支える中心的な役割を担います。
次世代宇宙ネットワークについては「コヒーレント宇宙光通信入門」で詳しく紹介しています。

さらなる高性能化と省電力化に向けた技術開発が進められ、未来の社会基盤を形成する上で欠かせない技術となっています。


コヒーレント光通信はどこで使われている?主な活用分野


コヒーレント光通信は、大量のデータを高速かつ安定して遠方まで届ける必要がある通信インフラで広く活用されています。代表的な用途としては、国と国、大陸と大陸を結ぶ海底ケーブルや、国内の主要都市・通信拠点をつなぐ基幹通信網が挙げられます。
もともとは長距離・大容量伝送が求められる基幹ネットワークを中心に導入されてきましたが、現在ではクラウドサービスや動画配信、生成AIの普及により、データセンター間を結ぶネットワークでも重要性が高まっています。膨大なデータを低遅延でやり取りするための技術として、コヒーレント光通信は現代のデジタルサービスを裏側から支えています。
さらに、5Gや将来の6G通信を支えるモバイルバックホール、企業や研究機関の大容量ネットワーク、NTTが提唱するIOWN構想のような次世代の情報通信基盤でも活用が期待されています。今後もコヒーレント光通信は、社会全体のデータ流通を支える中核技術として、活用範囲を広げていくと考えられます。



海底ケーブル:大陸間の大容量通信を支える


海底ケーブルは、国境や大陸を越えて世界中の情報を繋ぐ通信インフラの要です。この分野でコヒーレント光通信が不可欠な理由は、数千kmに及ぶ超長距離伝送と、爆発的に増加する国際トラフィックを支える圧倒的な大容量化を両立できる点にあります。
波形歪みをリアルタイムで補正するデジタル信号処理技術により、物理的な中継器の設置数を最小限に抑えつつ、光ファイバーの伝送能力を極限まで引き出すことが可能です。
現在は400Gbpsから800Gbpsへと高速化が進んでおり、将来的にはテラビット級の伝送も視野に入っています。グローバルなクラウドサービスやSNS、動画配信といった現代のインターネット社会は、この高度な光通信技術に支えられた海底ネットワークによって成り立っています。


基幹通信網:都市間・国際通信のバックボーンを担う


都市間を結ぶ国内の基幹通信網や国際的な通信バックボーンにおいて、コヒーレント光通信は中核的な役割を果たしています。この技術の最大の特徴は、光の振幅、位相、偏波を巧みに制御することで、一本の光ファイバーで伝送できる情報量を飛躍的に高められる点にあります。
また、デジタル信号処理技術によって、長距離伝送中に生じる複雑な波形歪みをリアルタイムで補正できるため、中継器の設置数を抑えた効率的なネットワーク構築が可能です。膨大なトラフィックが集中する都市間の幹線ルートにおいて、安定した超高速通信を維持し、現代の情報社会を支える強固な基盤として機能しています。


データセンター間接続:クラウドやAIサービスを高速につなぐ


クラウドサービスの普及やAI活用が進むなか、データセンター間を接続するネットワークの重要性はこれまで以上に高まっています。コヒーレント光通信は、分散したデータセンター同士を高速かつ低遅延でつなぐために不可欠な技術です。
複数の拠点をひとつの巨大なコンピューターのように機能させるためには、膨大なデータを瞬時に同期させる必要があり、従来の方式では帯域不足が課題でした。コヒーレント方式を採用することで、既存の光ファイバーを活かしたままテラビット級の超高速通信が可能となり、AIの学習やリアルタイムなデータ処理を強力にバックアップします。
また、高い受信感度と歪み補正能力により、都市部をまたぐような数十kmから数百kmの距離においても、安定した通信品質を維持できる点が大きな強みです。


5G・6Gネットワーク:モバイル通信の裏側を支える


5Gや将来の6Gネットワークにおいて、コヒーレント光通信はモバイル通信を根幹から支える不可欠な技術です。スマートフォンの普及や動画視聴の日常化により、基地局と基幹網を結ぶモバイルバックホールの通信量は増大し続けています。
この膨大なトラフィックを低遅延かつ大容量で伝送するために、コヒーレント方式の導入が加速しています。特に5Gの超高速通信を最大限に活用するには、無線区間だけでなく、その裏側にある有線ネットワークの高度化が欠かせません。
今後は、基地局がより高密度に設置される中で、限られた光ファイバー資源を有効活用しつつ、テラビット級の通信を実現する中心的な役割を担います。次世代のモバイル社会を実現するための、まさに生命線といえる技術です。


AIデータセンター:GPUサーバー間の大容量通信を支える


生成AIの急速な普及に伴い、AIデータセンター内部では膨大な計算処理を行うGPUサーバー同士を連携させるための超高速ネットワークが求められています。
コヒーレント光通信は、サーバー間やラック間を結ぶ通信において、テラビット級の圧倒的な伝送容量を提供し、データ処理のボトルネックを解消する鍵となります。

特に大規模言語モデルの学習では、複数のGPUが密接にデータをやり取りするため、低遅延かつ安定した帯域の確保が不可欠です。
デジタル信号処理技術によって波形の歪みを極限まで抑えることで、複雑な配線が入り混じるデータセンター内でも高い信頼性を維持したまま、効率的なデータ伝送を実現します。


まとめ


コヒーレント光通信は、光の振幅・位相・偏波を利用して情報を伝送する革新的な技術です。
従来のIM-DD方式の限界を克服し、通信ネットワークの大容量化、長距離化、高品質化を実現します。
システムコストや消費電力といった課題はあるものの、AIデータセンターの需要拡大や次世代ネットワーク構想の進展に伴い、その重要性は増す一方です。
今後も技術革新を通じて、私たちのデジタル社会を支える基幹インフラとして発展を続けていきます。



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