レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
-
-
発想を設計工学の観点から概観し,発想の性質を認知心理学や認知神経科学の知見,技術者やデザイナーの経験則などに基づき概観した。本書における発想法の分類を提示し,思考の内容や構造化,解候補の生成による設計法を紹介した。
- 発行年月日
- 2026/08/03
- 定価
- 3,300円(本体3,000円+税)
- ISBN
- 978-4-339-04711-0
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
-
読者モニターレビュー【 masa 様 (業界・専門分野:機械工学)】
掲載日:2026/07/27
〇実務と教育の架け橋となる必読の一冊
優れた設計を生み出す「発想のメカニズム」と「価値創出」の本質
長年企業で設計開発に携わり、現在は大学で学生の発想力・実践力を高めるPBL(課題解決型学習)教育に従事している立場から、本書を強く推薦したい。
本書は、単なるアイデア出しのテクニック集ではない。「設計とは、人間の目的を果たす製品や仕組みを考案・計画することである」という本質に立ち返り、アイデアが生まれるメカニズムから、それを社会的な「価値」へと昇華させるプロセスまでを体系的に解き明かした一冊である。
1. 優れたアイデアを生み出し、実社会の「価値」に変えるプロセス
アイデアは決して無から生まれるのではなく、過去の知識や体験の「結合・再結合」から生み出される。例えば、板チョコの折筋と割れたガラスの鋭利さを結合して生まれた「折るカッター刃」のように、既存の知の組み合わせこそがイノベーションの正体である。しかし、素晴らしいアイデア(発想力)を持つだけでは意味がない。本書が説くように、それをいかに産業や社会に活かすかという「実現力(計画力・実行力)」が揃って初めて創造力となる。また、真の「価値」とは人に満ち足りる感情をもたらす効果である。自前でタクシーを保有せずとも「配車・位置把握・決済」の利便性でタクシー問題を解決したUberや、人々の生活観察から新たな音楽体験を生み出したSONYのWalkmanのように、「正しい問題発見」こそが優れた製品と価値を生み出すのだ。
2. 思考の枠組みを揺さぶる「リフレーミング」と「概念空間の変換」
設計において特に陥りがちなのが、目先の手段に捕らわれて目的を見失うことである。例えば「切符の販売や改札」という手段に捉われず、「乗降と運賃の管理」という上位概念にリフレーミングできたからこそ、現在の運賃・乗降管理システムが存在する。
エンジニアにとっても重要なのが「概念空間の変換」だ。エレベーターや手荷物の待ち時間問題に対し、設備増設というハードウェア的解決だけでなく、「人を飽きさせない心理的アプローチ」をとることで課題を解決できる場合もある。そして何より「設計者は人間の良き理解者でなければならない」という教訓は、モノがあふれる現代の「提案型デザイン」において極めて示唆に富んでいる。
HondaJetが従来のエンジン配置の制約を破ったような、絶対的な制約と打ち破るべき制約を見極める力、これは現代に非常に必要な力と感じる。常に常識を疑いながらも、技術理論をしっかり学んでいなければ、論理が破綻してしまう。しかし、昔の制約というのは一度疑ってみると、新しい視点が得られるのは確実なので、ネットの情報ばかりを信じるのではなく、一度自分で腑に落ちるまで確認していく作業は、これからの新しい設計開発にとても重要な視点が得られるものと思われる。
3. 経営論・発想法から見る設計論の深遠さ
本書の面白さは、技術論にとどまらず「深化と探索(両利きの経営)」といった経営論・組織論の視点を取り入れている点にもある。既存技術の深化によるコスト削減や安定だけでなく、不確実性の高い探索(イノベーション)に挑戦する思考法は、現代の設計論にも不可欠である。カワセミのくちばしを模した新幹線500系に見られる「類推法(アナロジー)」や、金出武雄氏の「素人発想、玄人実行」に通ずる直観と論理のバランスなど、実践的な発想法の示唆も豊富だ。
本書は、日々の設計業務で問題整理や壁にぶつかっている企業のエンジニアにとって、思考の視座を上げる最高のバイブルとなるだろう。また同時に、教育者が「学生の設計力・発想力をいかに引き出し、育成するか」を考える上での明確な指針にもなっている。
実務家にも教育者にも、そしてこれからモノづくりやコトづくりに挑むすべての学生に、自信を持って薦められる著である。
-
読者モニターレビュー【 moka 様 (業界・専門分野:設計・品質工学)】
掲載日:2026/07/21
本書は、発想力を単なる才能やひらめきとして扱うのではなく、設計工学、認知心理学、認知神経科学の知見を統合しながら、そのメカニズムと向上方法を体系的に説明したものである。著者は発想力を「潜在的発想力」と「発想顕在化力」に分けて捉え、「what is(発想とは何か)」と「how to(どう高めるか)」の両面から論じている。
まず、「アイデアは過去の知識や情報から生み出される」という認知神経科学の文献をもとに、情報や知識が蓄積され、それに対し問題の文脈に合わせて意識的あるいは無意識的に想起、変形、組合せなどの操作がなされ、元の記憶とは異なるアイデアが発現するという説明は、非常に分かりやすい。
また、本書は設計工学フロンティアシリーズの一冊であることから、ものづくりや製品開発に携わる人を主要読者として、機能、形状・構造、材料、加工法という設計の基本要素ごとに発想事例を紹介しているため、技術者が自身の業務へ直接結び付けて理解できる点が「設計に活かす創造性の教科書」となっている。
発想法に関しても、アナロジーやチェックリスト、ブレインストーミング、ブレインライティング、TRIZ、KJ法、マインドマップなど、創造工学に用いられる代表的手法が体系的に解説され、「なぜその方法が有効なのか」を認知モデルとの関連で説明している点が学術的でありながら実務的と思われる。
生成AIを設計支援ツールとして用いるにあたっても、効果や効率、リスクなど、ユーザビリティの観点から分析しており、AIと人間の創造性の関係を分析している。
発想法の代表的手法を活用したことのある方は、「発想法は知識・経験・情報を活用するための装置であり、材料が乏しいと効果が限定される」ことに共感してもらえると思う。ここで、興味深い指摘は、知識が多いほど良いとも限らないということである。専門家はしばしば固定観念(制約)を持ちやすく、誤った制約や時代遅れの制約が創造性を阻害する場合もあることなどを分かりやすい事例で示してくれている。優れた発想は、「専門知識の豊富さ×固定観念の少なさ」のバランスから生まれることに気づかされる。
結論として、人はなぜ発想できるのか、発想力はどのように育つのか、設計において創造性はどのように発揮されるのか、という根本的な問いに正面から向き合った、設計工学と認知心理学を橋渡しする秀逸の書籍である。
-
読者モニターレビュー【 北山 匡史 様 (業界・専門分野:電力システム)】
掲載日:2026/07/21
複雑化する社会課題を解決し、新たな価値を提供する人工物やサービスを創造するために、今や「発想力」は最大の原動力である。本書は、設計やデザインにおける創造的思考のメカニズムを解き明かし、その能力をいかに高め、発揮すべきかという実践論へと落とし込んだ一冊である。
著者は発想力を「潜在的発想力」と「発想顕在化力」という二つの要素でモデル化し、発想という複雑な思考活動の本質を解き明かそうと試みる。その議論は設計工学にとどまらず、認知心理学・認知神経科学・デザイン思考など幅広い分野の知見を総合しており、学際的な視野の広さが本書の大きな魅力となっている。
本書が特に優れているのは、抽象的な理論を具体的な事例で丁寧に補っている点だ。「9点問題」「天秤分銅問題」「エレベータの待ち時間短縮」など、専門知識がなくても理解できる事例を通じて、発想の性質や思考の仕組みが生き生きと描かれる。工学系ならではの「棒立てかけ問題」などの事例が随所に織り込まれているのもよい。また、意識と無意識、論理と直感という二項対立を超えた発想のメカニズムを、脳科学の最新知見と実践者の経験則の両面から照らし合わせる試みは、従来の発想論にはない説得力をもたらしている。
実践的な「how to」としての充実度も特筆に値する。アナロジー、ブレインストーミング、KJ法、マインドマップ、TRIZといった主要な発想法を体系的に分類・解説するだけでなく、生成AIを設計ツールとして捉え、効果・効率・満足・利用状況といったユーザビリティの観点から多角的に考察している。AI技術が急速に普及する現代において、この視点は極めて時宜を得たものといえる。
さらに、発想力の涵養を目的とした教育における試行やSTEAM教育の新たな意義についても実践例に基づいて論じており、教育者にとっても示唆に富む内容となっている。設計・デザインに携わる研究者・技術者・学生はもちろん、創造的思考を深めたいあらゆる分野の読者に広く推薦できる一冊である。








