レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
-
-
本書では,ハプティクスという言葉は,感覚としての触覚,技術としての触覚,この双方が密接につながる横断的な学問領域を指している。さらに計測手段,提示手段について記し,周辺技術も含めたハプティクスの応用技術を解説する。
- 発行年月日
- 2026/08/21
- 定価
- 4,950円(本体4,500円+税)
- ISBN
- 978-4-339-02694-8
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
-
読者モニターレビュー【 N/M 様 (業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
掲載日:2026/08/24
本書は「バーチャルリアリティ学ライブラリ」の4巻目に位置する書籍である.本巻では,ハプティクス (Haptics; 触覚(学)) についての解説がなされている.
まず本巻は,ハプティクスに関する技術や応用研究の事例が多く記載されている.さらに,同シリーズの他の巻とは異なり,内容のカタマリごとに「部」という単位で分けられている.第Ⅰ部 触覚の基礎,第Ⅱ部 触覚の計測,第Ⅲ部 触覚の提示,第Ⅳ部 触覚の応用等のように分かれているのも特徴的である.
なお第Ⅱ部〜第Ⅳ部に関しては,それぞれの「部」内の最初の章で概論的に内容を説明しつつ,次章以降に詳細を述べていくというスタイルを採用している点が特徴的である.まずは概論の章を読み,その後で興味が湧いた章を読むという読書スタイルが良いのではないかと,私自身は感じられた.
今回のレビュにあたり,第1章,第15章,第16章,第18章〜第21章を中心に拝読した.その中で気になった点をいくつか以下に述べていく.
第1章では,触覚の基礎として,皮膚からの刺激がどのように神経系へ伝わるかという仕組みが生理学的な観点から丁寧に解説されている.高等学校の教科である「生物」で習う感覚器や神経伝達の知識と直接つながる内容となっており,高校生や大学の学部生の入門としても「生物」の発展としてスムーズに入り込める内容ではないかと思われる.
第16章,第18章〜第20章では,触感の設計,伝送,変容,触覚の代行等の応用的な事例が紹介されている.これらの章全体を通して,本シリーズは「バーチャルリアリティ学ライブラリ」とあることもあり,VRの分野だけだと思われがちだが,実は医療や介護等の分野での研究事例もあり,新たな知見と驚きの多い内容であった.
第21章では,触覚をエンタテイメントするという,エンタメ領域での応用事例について述べられている.その中でもiPhoneでのハプティクスについては,日常的に位置情報ゲームアプリでのモンスターとのエンカウント(遭遇)時にブルッと震えて触覚に訴えかける,あの仕組みこそがまさにそれであるということを改めて実感させられた.
引用・参考文献も豊富で,全体で620もの膨大な量が挙げられており,その多くが学術論文で占められている.こういったことから学術的にも価値が高く,ハプティクス分野のライブラリ・辞書のような活用方法もできるであろうと思われる.
今後も本シリーズでは,拡張認知インタフェースや3Dユーザインタフェース,メタバース等の多様なテーマで続刊が予定されているとのことだが,これからの展開がますます楽しみになるラインナップである.
-
読者モニターレビュー【 松岡 大輔 様 (業界・専門分野:プログラマー)】
掲載日:2026/08/19
本書はハプティクスについての体系的な概説書である。明確な構成と、個々のテーマへの具体的な記述が丁寧で、読んでいておもしろいと思う箇所がたくさんあった。また、数式に頼るところが少なく、自然言語での記述に重点が置かれているのも、この種の書籍としては特徴的だと思う。
第20章で感覚代行が取り上げられている。感覚代行は、「失われた、または機能が低下した感覚に対して、残存する別のモダリティを用いて情報を補完する」ものである(p.306)。触覚を用いた感覚代行の代表例は点字である。最近は電子化が進んでいて、センサーで取得した情報から特徴量を抽出し、それを触覚で知覚可能な信号に変換して、触覚ディスプレイで出力する、という形でモデル化できる。この形であれば、原理的にはあらゆる情報を触覚で感覚代行可能とも考えられる。ただし、代行された信号は、しばしば認知的な努力を要する「読み取り」に留まって、母国語的なモダリティのように透明化した知覚そのものにはなりきらないという指摘がある。
感覚モダリティは相互に影響を及ぼし合い、別のモダリティの入力が影響して他のモダリティの入力自体が変容するような、クロスモーダル性を持ったものである(p.55)。それゆえに、直感的には感覚は互いに分かちがたく、漠然とした総体として捉えないといけないような気がするものでもある。
また、クロスモーダル性を持った総体的なものである感覚モダリティをどのように数理的に表現するかというと、単純に各モダリティを加算して考えるのではなく、不確実性を取り入れて考える。つまり、各モダリティが確率分布として表現されると仮定して、分散に重み付けすることで統合された知覚を決定する(p.62)。
この相互に複雑に影響を及ぼし合っているという在り方(クロスモーダル性)と、なにかが欠けても他のなにかが補いうるという在り方(感覚代行)には、共通の背景がある。つまり、上記のような不確実性を取り入れた統合の考え方である。知覚を、複数のノイズを含むチャネルから、共通の外界の状態を推定すること、と考える。その推定の標的は個々のチャネルそのものではなく、その背後にある共有された外界の状態である。それゆえに、クロスモーダルも感覚代行も発生しうる。
個人的に興味深かったのは、2.5節の「触覚の言葉」である。感覚や情動を言葉で表現するには、カテゴリー化しなければならない。それによって個々の感覚が客観的に共有しうるという側面と、そうするとその感覚はすでに事前に想定された基準に従うものになるという側面が両方ある(p.77)。こういう話題は、言語表現に興味がある者としては大変興味深い。
感覚は生理学だけに帰せられるものではなく、心理学とも深く関係している。そして、それを言語的に表現するという話になるといっそう関係する範囲が広がる。本書はハプティクスに関する書籍だが、感覚の在り方への丁寧な解説を通じて、感覚全般をどう捉えるかという問いへと自然に関心がつながっていくものだった。








