レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

責任ある人工知能ロボット - 倫理・法・社会的観点から考える未来 -

シリーズ システム・制御のニューフロンティア D-2

責任ある人工知能ロボット - 倫理・法・社会的観点から考える未来 -

AIに対する倫理的・社会的課題への対応が急務となる中,AI倫理原則と社会実装の間には大きな隔たりがある。本書では人を幸せにするAI社会を造るため,AIロボット開発における倫理的・法的・社会的課題についてアプローチ。

発行年月日
2026/06/30
定価
3,630(本体3,300円+税)
ISBN
978-4-339-03405-9
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 mgm 様 (業界・専門分野:出版業/法学・STS)】

掲載日:2026/07/07

■本書について
コロナ社といえば、主に理工書出版で有名だが、同社は学際分野においても質の高い書籍を多数刊行している。その中でも本書籍『責任ある人工知能ロボット――倫理・法・社会的観点から考える未来』は、現代社会におけるシステムを構成する要素の多様さに鑑み、物理モデルによる古典的制御を超克した新たなシステム・制御の体系を構築することを目指す「シリーズ システム・制御のニューフロンティア」の1冊として編まれている(p.i)。同シリーズのカテゴリD「人間社会におけるシステム・制御」は、社会科学や経済学、心理学など人文社会系の視点を取り入れた、人間社会におけるシステムの解析や設計について最新の理論を紹介することを目的としている(p.ii)。
■レビュー作成にあたって
さて、本レビュー作成者がこのような学際分野を扱う本を読むときに常に心がけているのは、どのような問題意識で、どのような執筆陣が、どのようなプロジェクトの一環で、どのような対象に、どのようなアプローチで臨んでいるかといった、いわば「外枠」を、時間をかけて確認することである。そこで、本レビューは、①レビュワーが本書収録論文の「外枠」をどのように認識したか、②感想、の2点によって主に構成される(よってネタバレ的ではない)。なお、レビュワーは非専門家であり、またレビュー依頼期間が2週間前後という短期間であったため、内容に対する誤解が多く含まれていることが考えられる。ご容赦願いたい。
■各章についての認識と感想
〇原島大輔「人の暮らしとスマートロボット」
基礎情報学の見地から、スマートロボットの社会実装の上で課題となる“ヒューマン・ファースト・イノベーション”に求められる「人間観」について考察したもの。具体的には、西垣のHACSの捉えなおしという形で行われている。ムーンショットという長期研究に相応しい広がりがある形で論が進められている。
〇河島茂生「技術倫理の構築:AIロボットを中心に」
倫理学から技術倫理、AI倫理を概観し、スマートロボットについても、筆者らの議論の中で練り上げられた(p.68)問題となりうる諸領域(8項目)について指摘するもの。8項目のうち、特に大きく取り上げられている“漸進性”については、すべてのイノベーション政策に通じるところがある。
〇成原慧「スマートロボットの規制とガバナンス」
AIRECが利用される場面を念頭に、スマートロボットの規制を考える上で問題となりうる項目をもれなく整理し、また国内外で先行する取り組みを概観した上で、多層的ガバナンスの必要性を訴えるもの。「3.3.4地域社会におけるガバナンス」「3.3.5企業におけるガバナンス」「3.3.6スマートロボットのガバナンスにおけるデザインの役割と限界」などは、特に今後議論が発展する余地を感じた。
〇板倉陽一郎「スマートロボットの法的問題」
AIRECについて、ESLI上の検討として、国内法規範に関するケーススタディを行うとともに、欧州AI Actの条文への網羅的な当てはめを行うもの。実際に起こりそうな事例を挙げて法的に検討する過程を示す書き方は独自性があり面白い。こうした形で、論者ごとのアプローチの違いを見ることができるのは、本書を読んでよかったと思える点のひとつである。
〇河井大介「AIロボットへの理解とリスク認知:日英米の比較から」
日・英・米の10代、20代の若者がAIロボットのリスクをどのように捉えているかについて、インターネットを用いた質問紙調査(2022)から得られたデータを分析したもの。この調査はムーンショット型研究開発事業【JPMJMS2031】の支援を受けて実施したものである(p.126注2)。質問調査項目については、研究代表者である高橋利枝が作成し、河井は分析を担当したとのことである(p.126注2、p.127)。興味深いのは、「5.3 AIロボットのリスク認知×理解と具体的ケース」にて、各国の若者の具体的なAI利活用場面における意識がその理解やリスク認知と併せて分析されていることである。
〇高橋利枝「ヒューマン・ファースト・イノベーション:人を幸せにするAI社会の創造に向けて」
本章は、①AIがもたらす社会的インパクトを捉える理論枠組みとしての「コミュニケーションの複雑性モデル」の紹介、②国際プロジェクト「プロジェクトGenZAI」の紹介、③若者に対する、AIロボットの社会的受容性についての国際比較調査、④「人を幸せにするAI社会」創造のための鍵概念「自己創造(self-creation)」の考察という4つの節によって構成されている。ただ、これらの各節で行われている考察の内容のいくつかは、厳密な学術的論証を経ると1冊の本になるようなテーマを含み、やや詰め込みの感が否めなかった。特に「コミュニケーションの複雑性モデル」は執筆者の独自概念であり、詳しくは引用されている著書を確認する必要があろうが、本章の説明のみでは理解が難しかった。調査については、実際の若者のコメントを多く紹介しており、将来世代への期待が感じ取れた。
■学際研究について
一般的な学際研究は、それぞれの学問的バックグラウンドを持った研究者たちが、定められた対象について、自分のフィールドに引き込んで解釈し分析するというのが一般的な構成であるように思う。しかしそのような研究は、読者としては、通読しても、それぞれの研究がバラバラに存在しており「色んなアプローチがあるのだな」以上の感想がなくなってしまう。私としては、学際研究とは、(1)それぞれの研究が、他分野の研究の入り込む余地を作っているもの、(2)それぞれの研究が、統一テーマに対する応用や他分野の研究との対話を通じて、自らのメジャーとしてきた概念や方法にフィードバックをもたらすもの、であってほしい気持ちがある。
本書については、倫理を取り扱った2章では議論が行われたことが認められるものの、他の研究の相互の対話可能性やそれぞれのメジャー分野の諸概念のフィードバックについても、今後より踏み込んでほしいと期待している。
■構成上の特徴点:注のデザインについて
本書では、本文の注と章末の注の併用という、社会科学分野の書籍では珍しい方式が使われている。これは本文が注で圧迫されると読みにくい・参考文献は一覧で見たいという読者の要望に応えた編集上の工夫であるように見受けられ、大変面白いと思う反面、本文-注間の検索性はやや劣るものとなっており、難しいところである。この方式を採用するための校正の努力も感じられ、他の読者の反応が待たれる。

読者モニターレビュー【 N/M 様 (業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】

掲載日:2026/06/25

本書は「シリーズ システム・制御のニューフロンティア」のカテゴリーD(人間社会におけるシステム・制御)の2巻目に位置する書籍である.本巻では,人工知能ロボットの技術的な内容をさまざまな理論や数式を用いた数学モデルを扱うのではなく,近い将来,人工知能ロボットを人間社会に導入する際に関わりが出てくるであろう倫理や法など社会的観点からの解説がなされている.

1章では,人間の暮らしとスマートロボットとの関係性について述べられている.ただ,私自身の読解力の問題もあり大変恐縮だが,図や表,箇条書きによる整理がなく,何ページにもわたって文章が延々と続くため,冗長で論点がやや掴みにくかった,というのが正直な感想である.まるで学生時代の現代文の評論文を読んでいるかのような錯覚さえ覚えた.

まえがきの執筆分担や巻末を拝見すると,著者の方々は理系ではなく文系寄りのようで,急に登場するカタカナ用語や海外の思想家や学者が随所に記述されていることと,一部のページの脚注が全体の3分の2くらいもあり,所謂,文系のお作法(分かっていることは全部,詳細に文献をあげて書く)みたいなものが,残念ながら私には合わなかったようだ.

4章では,スマートロボットであるAIRECが将来,人間社会に浸透していく際に必要な法的な問題についての考察がなされている.

具体的には,AIRECのようなスマートロボットが広く国内・海外問わず流通し,利活用されていく際を想定したケーススタディを,主に日本のAI法と欧州AI法(AI Act)に当てはめて,さまざまな観点から考えうる法的な問題点の検討がなされている.

単にスマートロボットを導入すると便利だといっても,2章や3章にある倫理や規制・ガバナンス,そして,4章にある法的な問題,まえがきや6章にある「ヒューマン・ファースト・イノベーション」などといった,現実的な問題,法整備など解決しないといけないことや,考慮するべき課題がまだまだ山積みであるという認識が少しでも得られたことが本書を読んでの大きな収穫である.

読者モニターレビュー【 namamugi 様 (業界・専門分野:電気電子工学)】

掲載日:2026/06/24

【具体例を用いた実践的な内容で分かりやすい一冊】
工学を学ぶ学生として、AIを利用したものづくりにおいて、どのような点に気をつけるべきか、ということが知りたくて読み始めました。倫理学の本と聞くと抽象的で分かりにくい、浮世離れしたイメージを抱くかもしれませんが、本書は具体的な法令やケーススタディを用いた、非常に実践的な内容となっています。この本の読者層としては大学院生も想定されているようで、確かに高度な部分も多いのですが、決して理解できない訳ではなく、むしろ具体例を交えてかなり分かりやすく書いてくれているように感じました。
特に面白かったのが4章で、スマートロボット「AIREC」を元に、起こりうる事例を(1)物理的リスク、(2)心理的リスク、(3)プライバシーとセキュリティのリスク、(4)環境リスクの4つの視点から分析していきます。実際の日本の法律を挙げながら、具体的な数値・データを元に、スマートロボットの製造においてどのような点に留意すべきかということを紐解いていくのは、非常に実践的で参考になりました。
これからの時代、AI技術が進歩していくなかで、工学やものづくりに携わる人がそれらに関わらずにいることはほとんど不可能だと思います。一度、本書のような本で工学の倫理について考えておくことは、ある種の責任ともいえるのではないでしょうか。