レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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物理的実体と環境との相互作用である身体性に立脚した知能のコンセプトを平易に紹介しつつ,生物やロボットの移動運動や知覚認知といった具体的な事例からさまざまな知能に通底する身体性の輪郭を浮かび上がらせることを試みた。
- 発行年月日
- 2025/10/06
- 定価
- 5,940円(本体5,400円+税)
- ISBN
- 978-4-339-03401-1
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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読者モニターレビュー【 佐藤 希美 様 浜松未来総合専門学校 (業界・専門分野:ロボティクス,自律移動ロボット)】
掲載日:2025/10/07
この書籍は「知能は脳の中だけに存在する」という従来の考え方とは異なり,身体と環境の相互作用を含めた知能のあり方を示している.ロボットの歩行運動や群行動,力覚制御の設計に至るまで,身体構造や環境との相互作用が生み出す知能を数理モデルを通して論理的に掘り下げている.
特に「身体性」という概念は抽象的であり,初学者にはやや難解に感じられるかもしれない.しかし,本書の関連リンクには丁寧な説明が用意されている.概念のイメージが掴めない場合は,事前にそちらを確認することを強く勧めたい.
内容は大学から大学院レベルを想定しており,数式やシミュレーションを通して理論と実装の両面を学べる点が良い.各章の終わりには章末問題が充実しており,自分自身が理解をしているか確認する機会としても活用ができそうだ.
第2章の歩行現象のモデル化や第4章のホッピングロボットの手ごたえ制御シミュレーターなど,理論を実際の動きに落とし込むことが理解を深める助けとなるだろう.付録も充実しており,概念整理の面でも非常に有用である.
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読者モニターレビュー【 あまさん 様 (業界・専門分野:制御工学)】
掲載日:2025/10/06
この書籍では、実在の動物の動作を制御工学的に解析し、その動作を模倣するロボットの実現方法について主に解説されています。
各章では、筋肉単位の局所的な動作の解析から始まり、全身の動作、さらには群れとしての行動まで幅広く取り上げられており、入門者でも大きな視野を得られる内容となっています。
ただし、数式の理解には制御工学や力学の基礎知識が前提となっているため、それらを身につけた上で読み進めるのが望ましいでしょう。
制御工学の一般的な視点では、ロボットは剛性を高めて外部からの影響をできる限り減らすことが重視されます。
しかし本書では、あえて剛性を低くすることで、環境からの影響を利用し、より少ない知能リソースで効率的に制御できるという興味深い知見を得ることができます。
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読者モニターレビュー【 yk 様 (業界・専門分野:臨床医療, 神経科学)】
掲載日:2025/10/02
エージェントと環境の相互作用により知能的な振る舞いが創発するという考え方は、なるほど確かにそうだと思う反面、これだけではやや抽象的に過ぎる。それをどうやって定式化し検証し得るのだろうか、という疑問が真っ先に生じるのである。本書は歩行運動や群知能など具体的な問題に焦点を当て、その問いにいくつかの答えを与えてくれる。
特に印象的だったのが、純粋な力学現象として一様重力場のもとで斜面を“歩く”脚のモデル=受動歩行モデルである。運動方程式の導出からその数値積分に至るまで非常に丁寧な解説が与えられており、公開されている数値積分のpythonコードを用いて遊ぶことで身体性知能の一例を深く掘り下げることが出来る。目的の運動を得るためには初期値の微調整が必要であるという微妙な問題を実感することもできるだろう。付け加えるなら、受動歩行は力学の応用問題として非常に味わい深いものであり、物理学を専攻する学生にとっても一読する価値がある。
本書で扱われる身体性知能は、誤解を恐れずに言えば、脊髄反射により表現される類の知能なのであって、いわゆる脳の高次機能における知能とは言えない。個人的には、学習や他者とのコミュニケーションも含めた脳の高次機能を実現するロボットを作ろうと思ったときに本書の知見をどのように組み込めるだろうか、という点が気になった。中でも、本書では軽く触れるに留められているが、フリストンの自由エネルギー原理との接続がどう構成できるのか、興味あるところである。
以上は私が興味をかき立てられた事柄であるが、同様のことは全ての読者について言えるだろう。すなわち、読者は自身の専門によってそれぞれ思う所が出て来るはずであり、それは新しい研究の萌芽であり得る。本書はそれだけ多くの示唆を内包しているのであり、とりわけ境界領域に身を置く者にとって貴重な書籍であると思う。