レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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HCIやHIの初学者に向け,「人間に関すること」,「HCIの基礎知識」,「HCIの評価方法」について丁寧に説明している。実際に手を動かし,穴埋め欄に書き込むことで,効率的にHCIやHIについて学び,整理することができる。
- 発行年月日
- 2022/04/11
- 定価
- 2,860円(本体2,600円+税)
- ISBN
- 978-4-339-02927-7
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読者モニターレビュー【N/M 様(ご専門:総合情報学(情報科学))】
掲載日:2022/04/05
本書は,ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI: Human Computer Interaction)やヒューマンインタフェース(HI: Human Interface)についての入門的な基礎についての記述がなされている.
まず,本書の大きな特徴として,PowerPointのスライド画像をベースに解説していくという形式で記述されている.所々に重要な定義や用語等の重要なキーワードや数式が空欄になっており,それらを穴埋めしていくワークシート(ワークブック)のような形式になっている.個人で自習される方,及び講義・セミナー等で学ぶ方のどちらの立場においても,読んだり,話を聞いているだけでは,学習が単調になり,途中で飽きてしまう可能性もあるので,少しでも記憶に残るように手を動かしながら学べるという趣向の少し変わった書籍である.あまりこういった類の書籍は見かけないので,斬新ではないだろうか?[とは書いたが,私自身,学生時代にオペレーションズ・リサーチ(OR)の書籍で,演習問題の部分が誘導式の空欄になったものを見かけたことがある(担当者自身が書かれた書籍なので,今回の書籍のようにPowerPointが存在したし,更にORの書籍の場合,PowerPointをHTML形式として保存したものが,eラーニングで閲覧できた記憶が・・・)]また,解説の文章自体も,論文や専門書でよく見かける,所謂「である調」ではなく,著者の講義を受けているような話し言葉で解説されているので,親近感のようなものが湧きやすいのも本書の特徴である.
それに加えて,1テーマごとに,それほどページ数も多くなく内容量も適切なので,例えば,寝る前の数十分で学習したり,予習・復習するなど,空き時間で気楽に学習できるのも,本書の特徴として挙げることができるだろう.また,Memo欄も適宜用意されているので,書籍内に「調べてみてください」と記載があるものや,本書をベースにして自身で更に調べたこと,先生やセミナー担当者が補足で話されたり,説明されたこと等を書き留めて,「世界で一つだけの自身専用の参考書」として逐一アップデートしていくことにより,実りの多い参考書(というか,ノートと呼ぶ方が適切かもしれない)になるだろうと思われる.なお,採用される教員・指導者向けに,講義・セミナー等で教える際の空欄部分に回答が記入されたPowerPointファイル(pptx形式,全12ファイル)を,本書籍のWebページ(https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339029277/)から申し込めるので,昨今(2022年3〜4月現在)の疫病に際して,(コロナ社や著者に許諾の上で)オンライン講義等でも活用できるのではないかと思われる.
他にも,コロナ社の他の書籍である『データベースの基礎(改訂版)- MariaDB/MySQL対応-』(https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339029192/)のように,YouTubeなどの動画配信サービスにて,PowerPointを用いた講義形式の動画を用意するなど,講義と動画との複数のメディアを組み合わせたブレンディッドラーニング(ハイブリッド型学習)への応用も可能ではないだろうか.
内容としては,大きく分けて全部で3つのカテゴリーに分類されており,「人間に関すること」,「HCIの基礎知識」,「HCIの評価方法」という構成になっている.以下にいくつかのテーマについて,感じた点を中心に述べていく.
テーマ1では,人間の構造や機能,各器官系に関する知識として,生物学や人間工学をベースに解説されている.具体的には,高等学校の生物や保健でよく見かける骨,筋肉,目,耳などの構造を中心に記述されているので,これらの科目で習ったことを忘れていたりする方には,復習にもなるのではないかと思う.ただ,錐体細胞と桿体細胞や,神経系については,図があるとより理解しやすいように思えた.
テーマ3では,色と人間として,人間が色を感じる仕組みや,色に関する分類・属性・混合,色の視覚効果・心理効果,そして,色を意識した設計というテーマで解説されている.具体的には,「色」と言うと,中学校での美術で習う「明度・彩度・色相」,「マンセルの色立体」等から基礎的な知識が無理なく理解できるように解説されている.
テーマ11では,Webヒューリスティクスとして,Webの基礎知識から始まり,インタラクションデザインにおけるWeb特有のポイントを抑えつつ,ヒューリスティクス(経験則)から,Webサイトを制作する際,HCIを考える上で,どのように考慮しないといけないかといったことが解説されている.
テーマ12では,ユーザテストについて解説されている.ここで登場する「プロトタイピング」の手法は,HI評価だけではなく,ソフトウエア工学との関連性もあるので,これらの分野の方にも参考になるのではないだろうか.
それに加えて,PowerPointスライド部分が,デザイン面で若干,統一性(x.x節の配置や左揃え)がないのと,文章が冗長であり,区切りが中途半端に改行されていて少し残念であった.また,使用フォントも解説部分のように少し柔らかいフォントを,スライド部分でも使う方が良かったのでは,と思った次第である(ゴシック体で,かた苦しさや威圧感を少し感じる).スライド部分では,デザイン面での改良の余地が残されていると正直思った次第である.
最後に,各章末には,演習課題が用意されている.これらの演習課題に諦めずにチャレンジすることによって,各テーマの内容を深く理解できるだろうと思われるので,時間がかかっても,納得のいく読者自身の回答が出せるように,じっくりと考えると良いのではないかと思った次第である.