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量の理論とアナロジー

計測・制御セレクションシリーズ 3

量の理論とアナロジー

量の理論を系統立てるため,理論の出所を明らかにし,文献を適切に紹介した。数学的な厳密さよりも直観的な理解を重視し,量の理論に留まらず,横断型科学技術の基礎として,情報量や信号理論の構造,文学や生命学など多方面に言及。

発行年月日
2021/11/05
定価
4,400(本体4,000円+税)
ISBN
978-4-339-03383-0
在庫あり

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【書評】群馬大学 小林春夫先生

掲載日:2021/12/27

畏友 久保和良君の著書を評す

聖賢の書を空しく読むのみならば 人の剣術を傍観するも同じ ― 西郷南洲

単なる理工系のテキストにとどまらず、同君の研究者人生の凝縮の著である。もちろん教科書として使用できる内容・体裁を整えているが、長年同君を知っている者としてはこの書はそれ以上に同君の研究の集大成であるように感じる。

中では碩学の先達の学説を紹介しておりこの分野を俯瞰するのに有益である。が、百科事典的な羅列ではなく、真意は同君の考えを表現するために引用していると解釈できる。同君が文学と工学の関係を研究対象としていたときには 周りから理解を得られるのが難しかったとの話を聞いたことがある。その内容と自身の考えを本書での体系の中で簡潔に記している。負のエネルギーを抑えじっと耐えた表現には迫力を感じるのである。個別の内容、解釈にこれまで自分で気が付かなかったハッとするものがいくつもある。横断科学の視点で相互の内容の関連性の記述に、長年の同君の勉学・思索を行間に読むことができる。このような見方・考え方があったのかと気が付かされる。

不世出の大棋士 大山康晴 将棋名人曰く「アマチュアの方が本を読んで勉強するならば、昔から知られている定跡を編集したものではなく、一流棋士が自分の実戦をアレンジして解説した著書を読むと高段者を目指せる」。この言葉を思い出す。本書の読後には満足感を得られ、研究者としての力が一つついたように思う。ソニーOB、元群馬大学客員教授 萩原良昭氏「一流の研究者たらんとするなら一冊は著書を残せ」。蓋し至言であろう。この言葉も想起させられる。

玉石混交の情報が氾濫する中で本書は本物であるということを感じる。

洛陽の紙価を高めたらんことを。

読者モニターレビュー【 N/M 様(ご専門:総合情報学(情報科学))】

掲載日:2021/10/26

本書は,計測・制御セレクションシリーズの3巻目に位置する書籍で,「量の理論とアナロジー」についての記述がなされている.なお,本レビューを書いていている私自身,「計測・制御」系の専門的な知識は全くない,ド素人であることを予め断っておく.

まず,量の理論とアナロジーの分野を学ぶに当たり,本書において各種表記方針や準備として,第1章では,量の変数や定数,及び数の表記の仕方についての記述がなされている.

第2章では,「量」とは何かについての定義や,量と量との理論,量の表現・種類,そして,量と数との相違,アナロジーとデュアリティなど,本書のタイトルにもある用語がどのような意味を持つのかについての導入となる記述がなされている.個人的に興味を持ったのは,2.3節で取り上げられている,kgやl(リットル)などの補助単位を数字と一緒に使う際に[ ]や〔 〕などで囲んだり,囲まなかったりする書籍があったりとバラバラだったのは何でだろうと思っていたので,その謎が解明できたことが大変有益であった.

その後に引き続く,第3章〜第8章は,その量に関する各種多くの分野での事例を,さまざまな参考文献をベースに解説がなされている.

第3章では,数学および教育に関する量,第4章では,物理に関する量,第5章では,計測に関する量など,各種「量の理論」についての記述がなされている.

また,第6章では,分野横断的工学での量,第7章では,工学に現れる量,第8章では,量に関するいくつかの話題など,こちらは量の理論だけでなく,アナロジー(「類推」,「類比」とも呼ぶ;無関係な領域の構造が似ていることを利用した思考形式のこと)についても述べられている.

特に,第8章では,私の専門分野とも深く関連のある,「情報理論」,「信号理論(信号処理)」の分野での量に関する記述もあるので,情報科学系の方にもオススメである.他にも,理系人にはあまり関わろうとする人が少ないと思われる,文系領域の「文学」への応用についての可能性についても言及されているのは,変わったアプローチだなと個人的には感じた.

最後の第9章では,量の理論の総括として,量の理論について,アナロジーの根幹など,本書におけるまとめと今後の展望などについての記述がなされている.

最後に,本書は,計測・制御セレクションというシリーズの1つでありながら,多種多様な分野の「量の理論とアナロジー」について,基礎部分が概論的に述べてあるので,まえがきにもあるが,一種のガイドブックとして活用し,参考文献を活用して,更に各種分野について深く学ぶことができるだろうと思われる.