生物機械工学 - 数理モデルで生物の不思議に迫る -
工学的視点から見えてくる生物特有の興味深い特徴を紹介することを主眼に,大学初学年でも学べるように平易に解説した入門書である。
- 発行年月日
- 2018/11/16
- 判型
- A5
- ページ数
- 190ページ
- ISBN
- 978-4-339-06757-6
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
「生物機械工学」は,生物の形や動きについて機械工学的な観点から調べる学問である。本書は,工学的視点から見えてくる生物特有の興味深い特徴を紹介することを主眼に,大学初学年でも学べるように平易に解説した入門書である。
「生物機械工学」は,生物の形や動きについて機械工学的な観点から調べる学問である。魚の遊泳や鳥の飛翔は,じつに魅力的である。なぜ,あのように華麗に泳いだり飛んだりできるのだろうか。魚や鳥の巧みな動きを人工的に実現できたら,さぞかし楽しいに違いない。このような素朴な好奇心や夢が「生物機械工学」の原点といえる。
その意味でレオナルド・ダ・ヴィンチは,生物の仕組みを機械工学の視点で捉えた先駆者である。彼の描いた人間や動物の解剖図には,生物を力学的に捉える発想が見て取れる。レオナルドの時代から500年の月日が流れた。工学技術は飛躍的に発展し,われわれの生活はすこぶる便利になった。生物の形や機能はミクロレベルでの議論が可能になった。細胞一つひとつの挙動も調べられるようになった。
しかし,われわれが暮らしているマクロレベルの世界に立ち返ってみると,説明が難しい事柄もたくさん残っている。例えば,本書で紹介する基礎代謝率の法則性も十分な説明ができていない。生物を総合的に理解するには,ミクロレベルとマクロレベルの二つの方向の探求が必要であると考えている。
本書は,生物機械工学の入門書ではあるが,工学的視点から見えてくる生物特有の特徴を紹介することを主眼に置いた。解析的な記述では,大学初学年でも学べるようにできるだけ平易に説明することを心がけた。また,本書で扱う内容は生物機械工学の原点に戻って「おもしろい」と感じる事項を先人達の研究報告を中心に筆者の判断で選んだ。このため,読者によっては内容に偏りがあると感じるかもしれないが,この点はお許しいただきたい。生物を機械工学的観点から眺めてみるという,楽しさと難しさを味わっていただけたら幸いである。
2018年9月 伊能教夫
1. 概論
1.1 生物機械工学が扱う研究対象
1.2 数理モデルについて
1.3 生物機械工学で扱う具体例
1.3.1 樹木の枝分かれ
[参考]1.1:はりの材料力学
1.3.2 動物の跳躍高さ
1.3.3 馬の歩行
[コラム]生物に学ぶことは役に立つか?
[植物の七不思議]その1:枝の断面形状
演習問題
引用・参考文献
2. スケーリングと次元解析
2.1 スケーリングとアロメトリー
2.2 骨の長さと直径のスケーリング
2.3 基礎代謝率
2.4 鼓動のスケーリング
2.5 寿命のスケーリング
2.6 次元解析
[植物の七不思議]その2:枝の形状
演習問題
引用・参考文献
3. 0.75乗則をめぐる議論
3.1 弾性相似則モデルによる0.75乗則の導出
3.2 生体組織の自己相似性に着目した学説
[参考]3.1:オイラーの座屈条件について
[参考]3.2:フラクタルについて
[参考]3.3:式(3.20)の説明
演習問題
引用・参考文献
4. 血管の分岐
4.1 血管の3乗則
4.2 血管の分岐角度
4.3 血管の適応フィードバック
[参考]4.1:Pm=Δpfと表せる理由
[参考]4.2:ハーゲン・ポアズイユ流れの導出
[植物の七不思議]その3:樹皮の修復
演習問題
引用・参考文献
5. 長骨の厚さに関する最適性
5.1 長骨の幾何学的関係
5.2 骨強度を基準にした最適値
5.3 たわみ量を基準にした最適値
5.4 衝撃荷重を基準にした最適値
[植物の七不思議]その4:根の力学的適応
演習問題
引用・参考文献
6. 生体組織のリモデリングと数理モデル
6.1 生体組織のリモデリング
6.1.1 骨のリモデリング
6.1.2 血管,筋肉,神経,樹木のリモデリング
6.1.3 リモデリングのまとめ
6.2 生体組織のリモデリングに着目した数理モデル
6.2.1 骨に学んだモデル
6.2.2 シミュレーション手法
6.2.3 ローカルルールによるシステムの挙動
6.2.4 位相構造の生成シミュレーション
[植物の七不思議]その5:太陽光への適応
演習問題
引用・参考文献
7. 筋肉の力学特性
7.1 筋肉の種類
[参考]7.1:速筋と遅筋
7.2 筋肉の力学特性
7.3 筋肉が発揮するパワー
7.4 筋肉の効率について
7.5 DCモータとの特性比較
演習問題
引用・参考文献
8. 生物の移動
8.1 移動仕事率
8.2 移動仕事率の簡単な計算例
8.3 歩行時の消費エネルギーを決める二つの要素
8.4 実験に基づく歩行時の移動仕事率
8.5 なぜ最適な速度が存在するのか
8.6 実験式の妥当性の検討
[参考]8.1:慣性モーメント
[植物の七不思議]その6:頂上の覇権争い
演習問題
引用・参考文献
9. 生物の感覚器官
9.1 感覚器とセンサ
9.2 光と音の物理量について
9.2.1 光に関する単位
9.2.2 音に関する単位
9.3 人間の感覚器官
9.3.1 人間の視覚
9.3.2 人間の聴覚
9.3.3 人間の触覚
9.4 昆虫の感覚器官
9.4.1 昆虫の視覚
9.4.2 昆虫の聴覚
[植物の七不思議]その7:隣り合う樹木
演習問題
引用・参考文献
10. 個体数の増減
10.1 1種類の生物の増減を表すモデル(ロジスティック方程式)
10.2 差分化されたロジスティック方程式の挙動
10.3 2種類の生物の増減を表すモデル(Lotka-Volterra方程式)
10.4 Lotka-Volterra方程式の挙動
10.5 Lotka-Volterra方程式の数値計算
演習問題
引用・参考文献
11. 生物の形づくり
11.1 タンパク質の生成
11.2 チューリングとノイマン
11.2.1 チューリングマシン
11.2.2 チューリングモデル
11.2.3 ノイマンの自己複製機械
11.3 セルオートマトン
11.3.1 1次元セルオートマトンの例
11.3.2 2次元セルオートマトンの例:ライフゲーム
11.4 Lシステム
[植物の七不思議]番外編:黄金比
演習問題
引用・参考文献
あとがき
演習問題の解答
索引