情報系のための電気回路
「なぜ」を理解して,情報技術に繋がる基礎を身につけられる,新しい電気回路の教科書
- 発行予定日
- 2026/11/上旬
- 判型
- B5
- 予定ページ数
- 134ページ
- ISBN
- 978-4-339-01508-9
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
「なぜこの定理が成り立つのか?」「この回路がなにに役立つのか?」などの疑問から丁寧に解説。高校物理と大学の電気回路を接続し,情報通信やデジタル回路に繋がる,情報系学生のための新しい電気回路の教科書。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
本書は,電気の基礎知識を習得したい学生(特に大学低学年)を対象に執筆した,電気回路の教科書である。特に将来,情報・通信機器を含むシステムに関わる情報系学生を対象としている。近年の情報技術に対する関心の高さから,高校で物理を履修していない学生にも需要があると考え,非常に基礎的な事項を含めている。それと同時に,基礎を理解済みの学生に対しては,その背後にある「基礎的な定理はなぜ成立するのか」「その定理はなんの役に立つのか」の説明を充実させることを基本方針として執筆している。
筆者は大学時代に電気工学を専攻しており,卒業後は25年間光通信の研究に従事していた。その後,大学で電気回路の授業を担当した際に,高校物理と大学の電気回路の間のギャップが大きく,学生が基礎事項ですら十分に理解できない状況を目の当たりにした。そのため,学生が理解しやすいように説明方法を変更したり,電気回路の技術が日常生活に応用されている場面を紹介したりするなど,授業内容を毎年バージョンアップして現在に至っている。その結果が本書となった次第である。
上記の経緯のため本書は従来の電気回路の書籍では扱っていないことを含み,逆に従来扱っていた内容が省略されているなど,本流の電気回路の専門家から見ると道を外れたように感じるかもしれない。しかしながら,情報系学生は本業である情報系の講義が多く,電気関係のほかの講義を履修することは難しいため,電気回路以外の電気関係の重要点を盛り込まざるを得ない状況があり,このような構成となった。また,情報分野の専門家を目指す学生を対象としていることに加え,筆者はCMOS集積回路の講義と実験も担当しており,MOSFETの動作を説明する際に電気回路の講義内容を引用する機会が多いことから,本書はデジタル回路やデジタル信号を理解するための第一歩であるという意識も持って書かれている。各章の特徴は以下のとおりである。
第1章では基本中の基本であるオームの法則が成立する理由を学ぶため,法則の導出過程を説明するとともに,「なぜ電圧が電圧と呼ばれるのか」「なぜ電流は電子(電荷)の単位時間当り移動量であるのに電子の移動速度とは異なるのか」「なぜ電圧と電流をかけると単位時間当りのエネルギー(電力)になるのか」を詳細に説明する。
第2章ではキルヒホッフの法則の説明と,回路方程式(節点方程式と網路方程式)を用いて回路の各所における電流や電圧の導出方法を説明し,任意の抵抗数・任意の接続状況に対しても機械的に行列形式の回路方程式を立てる方法も紹介する。これを応用して,抵抗数が10個以上の複雑な回路でもコンピュータプログラムにより簡単に解ける方法を紹介し,情報系学生が興味を持てるよう配慮している。
第3章では「なぜ重ね合わせの原理が成立するのか」「なぜ原理適用の際に電圧源をOFFと仮定する場合は短絡状態,電流源をOFFと仮定する場合は断線状態となるのか」を説明し,両者を取り違えないよう配慮している。可逆定理についてはその基本である二端子対網の理論そのものの理解に時間がかかるため,受動回路においては入力・出力の入れ替えが可能という最も有用な使い方のみを説明する。
第4章および第5章では交流回路について,インピーダンス(複素数化した抵抗値)が必要な理由をオームの法則にからめて説明し,複素数の重要性を解説することで読者の理解を深める。その際に,正弦波振動の振幅が複素振幅(極座標表示で半径と偏角のペア)であるという考え方を取る。複素振幅の表記法は電磁気学(およびその応用先の電波工学,光学)で用いられ,V = Va cos(ωt + φ)の交流電圧に対して複素振幅を = Va ejφと定義する。ここでVaは振幅(ピーク値)であり,実効電圧ではない。一方,多くの電気回路の教科書では実効電圧Veを用いて = Ve ejφと定義する。そのため,実際の電圧は√2を付してV = √2 Ve cos(ωt + φ)とする必要がある。これは直流と同様の式「電力 = 電圧 × 電流」で電力を計算可能にするためと思われる。
一方,電磁気学においてはインピーダンスが伝搬媒体の特性インピーダンスに固定されるケースがほとんどであり,磁界値(電流に相当)は電界値(電気回路の電圧に相当)から一意に決定されるので,電界だけの議論で十分である。そのため√2を付す,取るの事前処理や事後処理を必要とする面倒な実効電圧は使用されない。本書はデジタル信号の取り扱いを想定しており,電圧波形を議論するため計算結果が実効電圧ではなく電圧そのもののほうが便利であることから複素振幅を採用した。交流の複素計算において実効電圧を使わないこと,フェーザという名称を使用しないことに関してはご意見もあると思われるが,説明を簡素にすることで理解度を高める観点からであり,ご理解いただければ幸いである。
また,インピーダンスを用いた回路の計算例においては,同調回路や微分回路,積分回路など使用目的がはっきりしている回路を採用し,単なる解法の練習に留まらないようにした。さらに,交流計算の応用の一環として伝達関数や周波数応答の意味や計算手法を説明し,信号処理などの専門講義を履修しなくても,将来の情報処理技術者として知っておくべきデジタル機器のハードウェアの基礎知識が得られるようにした。
第6章および第7章の過渡応答においては,ラプラス変換を用いてさまざまな回路の過渡応答を求める練習をするのではなく,RC回路,RL回路,RLC回路の微分方程式を一般解と初期条件から解く方法を採用した。その際に,R,L,Cが過渡応答に影響を与える影響を理解するため,その数値と応答曲線の形状や時定数の関係を詳しく説明し,回路におけるコイルやコンデンサの挙動を再認識できるようにした。また,微分方程式を解く数学の練習で終わるのではなく,物理現象を理解しながら曲線を描くための手順も説明するととも,曲線における初期傾斜やピーク値,ピーク時間など特徴的な数値を導出する手順も示した。この導出過程は非常に複雑で数学的な難易度もやや高いが是非理解してほしい。過渡応答の説明が詳しいのは,デジタル信号(矩形パルス)の波形劣化は回路中のキャパシタンス成分やインダクタンス成分による過渡応答が原因であり,その時定数がコンピュータなどの論理回路の計算速度を律速していることを学んでほしいからである。
情報通信工学を専門とし,電気回路に関しては利用者の立場である筆者が,大学での講義経験をもとに学生と同じ目線で見てわかりやすく執筆したつもりであるが,浅学であるがゆえ,厳密さを欠く記述や不測の誤りもあるかと思われる。お気づきの点があればご指摘いただければ幸いである。本書の出版においてはコロナ社の関係各位に多大なるご協力をいただいた。この場を借りて感謝申し上げる。
2026年10月
高橋 浩
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1.電気回路の基本
1.1 オームの法則
1.2 電力の意味
1.3 直流電源
電源圧と内部抵抗
電流源
1.4 電圧降下と分圧・分流
演習問題
2.キルヒホッフの法則と回路方程式
2.1 用語の定義
2.2 キルヒホッフの電流則
2.3 節点方程式を用いる解法
2.4 行列形式を用いた節点方程式
2.5 キルヒホッフの電圧則
2.6 網路方程式を用いる解法
2.7 行列形式を用いた網路方程式
演習問題
3.線形回路における有用な定理
3.1 電源がOFFの状態
電源圧の場合
電流源の場合
3.2 重ね合わせの原理
3.3 開放電圧と内部抵抗
解法電圧
内部抵抗
3.4 テブナンの定理
3.5 可逆定理
演習問題
4.交流回路の基礎と表記法
4.1 交流電源
4.2 コンデンサ
4.3 複素数の導入とインピーダンス
4.4 コイル
4.5 複素振幅を用いた計算方法のまとめ
4.6 交流電圧印加時の消費電力
演習問題
5.交流回路の計算方法と活用
5.1 素子の接続
コンデンサの接続
コイルの接続
異種部品からなる回路の合成インピーダンス
5.2 交流回路の容量性・誘導性と周波数特性
5.3 特徴的な交流回路
定抵抗回路
電流45度位相シフト回路
RC微分回路
RC積分回路
5.4 伝達関数の概念と利用方法
5.5 スペクトルと周波数応答
RC微分回路の周波数応答
RC積分回路の周波数応答
同調回路の周波数応答
5.6 複素振幅の取り扱いに関するまとめと注意点
演習問題
6.過渡現象の基本
6.1 過渡現象の概要
6.2 過渡現象計算の基本手順
6.3 過渡現象の一般的な解法と特性方程式
解法手順のまとめ
6.4 過渡現象の式を用いたエネルギー計算
コンデンサに蓄積されるエネルギー
コイルに蓄積されるエネルギー
演習問題
7.各種回路の過渡応答
7.1 RC回路における充電型の過渡応答
7.2 RC回路における放電型の過渡応答
7.3 RL回路における電流増加型の過渡応答
7.4 RL回路における電流減少型の過渡応答
7.5 RLC直列回路における過渡応答
7.6 RLC直列回路における過渡応答(過減衰)
7.7 RLC直列回路における過渡応答(減衰振動)
7.8 RLC直列回路における過渡応答(臨界減衰)
7.9 RLC直列回路における3種の過渡応答の比較
演習問題
演習問題解答
索引








