音声器官のメカニズムとシミュレーション - 生体計測とモデル化 -
物理的計算に基づく調音と声帯振動の発声モデル,深層学習による研究についても紹介。
- 発行予定日
- 2026/08/中旬
- 判型
- A5 上製
- 予定ページ数
- 280ページ
- ISBN
- 978-4-339-01168-5
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
「実験・観察」と,「理論による説明」に分け,調音と声帯振動による発声について最新の研究手法を解説。深層学習技術にもいくつか触れるが,中心となるのは物理的な計算に基づいたモデルであり,両者の融合についても紹介する。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
音声の生成に関する研究は,記録に残る中では,1780年ごろにvon Kempelenが音声生成機械(speaking machine)を発明したのが最も古い例であり,その後19世紀にはHelmholtzによる共鳴器を用いた母音の共鳴の説明が試みられるなど,非常に古くから多くの研究者によって行われてきた。また20世紀に入ってからは,日本人研究者の活躍も広く知られている。千葉と梶山による1942年の著書“The Vowel: Its Nature and Structure”は,後のG. FantやK. N. Stevensらによる音響理論に大きな影響を与え,声帯2質点モデルを提案した石坂謙二や,声帯の詳細な観察を行った平野実らの論文は,現在でも多く引用されている。
これらの研究の共通点は,いずれも音声の物理的メカニズムに着目している点である。人が音声を発する際には,肺から気流が流れ,声帯を振動させたり,口で気流を乱れさせたりと,さまざまな物理的プロセスを経て音となり伝わっていく。またこのとき,声帯がどのように閉じるのか,舌がどのように変形するのかといった点も,生理学的だけでなく力学的に説明することができる。本書では,こうした問題を取り上げ,物理学の最も基本的なアプローチである「実験・観察」と,「理論(シミュレーション)による説明」の二面から,調音(唇・舌・喉などを動かして母音や子音といった具体的な音にすること)と声帯振動による発声について最新の研究手法を解説する。
現在,深層学習やAIと呼ばれる技術の発展により,音声生成や音声合成に多くの研究者や技術者の関心が寄せられている。大量のGPUと音声データセットをモデルに投入することで,人では聞き分けがつかないほど自然な音声が生成できるようになってきた。しかし,モデルの内部はブラックボックスであり,人がどのように喉や口を調整して自然な音声を生成しているのかを調べることはできない。一方,人の発声や調音の物理的メカニズムに基づいた知見は,器質的な発声・発話障害(器官の異常が原因で起こる声や話し方の障害)の治療には欠かせない。現に,発声障害やボイストレーニングの現場では,物理モデルによる説明が活用されている。このような背景から,本書で中心となるのは物理的な計算に基づいたモデルであり,深層学習技術および両者の融合については副次的に取り上げる。本書で紹介する研究の発展が,発音・発声を良くしたいと願う人々にさらに活かされることを望んでいる。
本書は,音響テクノロジーシリーズ14『音声生成の計算モデルと可視化』(鏑木時彦編著)と同じ分野を扱うが,2010年に発刊された前書から本書執筆までに15年が経過しており,計測装置や物理モデルは大きな発展を遂げている。
1章では,発音・発声の基礎となる音声器官の生理を解説し,2章と3章では調音運動の計測と声道のシミュレーションについて解説する。計測については,現在の研究でよく用いられている超音波画像計測とリアルタイムMRIに焦点を絞り,計測データの後処理まで丁寧に説明している。4章と5章では声帯振動による発声について,計測とシミュレーションをそれぞれ取り上げ,計測については人の声帯から類人猿の声帯,さらにシリコーン樹脂によるモデルまで広く解説する。3章と5章のシミュレーションでは,最新のスーパーコンピュータを用いた解析や機械学習による研究など幅広く紹介する。
本書の執筆は,音声科学の各分野で第一線に立つ研究者の方々にお願いした。また,各章の執筆にあたり,多数の方々から貴重なご援助をいただいた。この場を借りて,著者一同,心より感謝申し上げる。本書が音声科学に興味を持つきっかけとなり,また音声科学の進展の一助となれば幸いである。
吉永司:1章,3.1節,3.3~3.4節,4.1~4.2節,5章
竹本浩典:2.2節,3.2節
北村達也:2.1節
桂田浩一:3.5節
徳田功:4.3~4.4節
2026年7月
吉永司
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1.音声器官の生理
1.1 スピーチチェイン
1.2 呼吸器の生理
1.2.1 呼吸のメカニズム
1.2.2 発話および歌声における肺気量
1.3 調音器官の生理
1.3.1 唇と顎
1.3.2 舌
1.3.3 軟口蓋と咽頭
1.3.4 喉頭蓋とその周辺器官
1.4 喉頭の生理
1.4.1 3つの軟骨
1.4.2 内喉頭筋
1.4.3 外喉頭筋
1.4.4 声帯の物性
2.調音運動の計測
2.1 超音波画像法
2.1.1 超音波画像法の基礎
2.1.2 音声研究における超音波画像法
2.1.3 超音波画像法を用いた音声研究の例
2.1.4 超音波プローブの固定法
2.1.5 舌輪郭の抽出
2.2 rtMRI
2.2.1 rtMRIの概要
2.2.2 切歯補填
2.2.3 rtMRI動画からの調音器官の輪郭抽出
2.2.4 抽出した輪郭の後処理
2.2.5 輪郭を用いた分析例
3.声道のシミュレーション
3.1 舌の有限要素モデル
3.1.1 有限要素法
3.1.2 医用画像からの舌形状の抽出
3.1.3 筋線維の配向
3.1.4 解析により得られた知見
3.1.5 舌シミュレーションの応用
3.2 音響シミュレーション
3.2.1 支配方程式
3.2.2 境界条件
3.2.3 計算条件
3.2.4 計算手順
3.2.5 計算例
3.3 口腔模型による実験
3.3.1 母音の実験
3.3.2 子音の実験
3.4 流体力学シミュレーション
3.4.1 支配方程式
3.4.2 支配方程式の性質
3.4.3 乱流モデル
3.4.4 離散化
3.4.5 境界条件と計算格子
3.4.6 計算例
3.4.7 OpenFOAMでの解析
3.5 物理情報を用いた機械学習による音の生成
3.5.1 調音運動からの音声合成で用いられる深層学習モデル
3.5.2 調音運動データからの音声合成
4.喉頭・声帯の計測
4.1 in vivoでの声帯の観察
4.1.1 喉頭内視鏡
4.1.2 EGG
4.1.3 その他の観察手法
4.2 in vivoでの空気力学的測定
4.2.1 Rothenbergマスク
4.2.2 声門下圧の測定
4.2.3 発声機能検査
4.3 in vitroの摘出喉頭での測定
4.3.1 声帯振動の再現実験
4.3.2 摘出喉頭吹鳴実験
4.3.3 高速度撮影
4.4 シリコーン声帯物理モデル
4.4.1 さまざまな声帯物理モデル
4.4.2 MRI型モデルの作成法
4.4.3 MRI型モデルの吹鳴実験
5.声帯振動のシミュレーション
5.1 低次の質点モデル
5.1.1 質点モデルのバリエーション
5.1.2 喉頭筋のモデル化
5.2 有限要素モデル
5.2.1 形状と物性値
5.2.2 モード重畳法
5.2.3 モード解析による声帯振動解析
5.2.4 内喉頭筋の筋線維モデル
5.3 流体構造連成解析
5.3.1 モデルの種類
5.3.2 モデルの検証
5.3.3 流体構造連成解析の応用
5.4 機械学習モデル
5.4.1 質点モデルのパラメータ推定
5.4.2 喉頭筋活動度の推定
5.4.3 有限要素法と機械学習
5.4.4 PINN
引用・参考文献
索引








