09/03
声が出る仕組みとは?声帯・声道・舌など音声器官の役割と発声メカニズムを解説

声は、肺から送られた空気、声帯の振動、声道の共鳴、舌や唇などの調音器官の働きが連携することで生まれます。本記事では、声が出る仕組みをわかりやすく解説するとともに、音声器官の動きを調べる生体計測や、発声をコンピュータ上で再現するモデル化・シミュレーションについて紹介します。
声が出る仕組み
人が声やことばを生み出す過程には、大きく分けて「呼吸」「発声」「共鳴」「調音」が関係しています。
まず、肺から送り出された空気が気管を通って喉頭へ向かいます。有声音では、この呼気と声帯の相互作用によって声帯が振動し、音のもととなる音源が生まれます。
その音が咽頭や口腔などからなる声道を通ると、声道の形に応じて特定の周波数成分が強調されたり弱められたりします。さらに舌や唇、顎、軟口蓋などを動かして声道の形や空気の流れを変えることで、さまざまな母音や子音が作られます。
大まかな流れは、
肺から空気を送り出す
↓
声帯などで音源をつくる
↓
声道で共鳴し、音の性質が変わる
↓
舌・唇・顎などを動かしてことばの音をつくる
と整理できます。
ただし、すべての音で声帯が振動しているわけではありません。子音には声帯振動を伴う「有声音」だけでなく、声帯を振動させず、口の中などで空気の流れを狭めたり遮ったりして作る「無声音」もあります。
つまり、人間の音声は声帯だけで生み出されるのではなく、呼吸器、喉頭、声道、舌や唇など多くの音声器官が協調することで作られています。

発声にかかわる主な音声器官
声やことばを生み出すためには、体のさまざまな器官がそれぞれ異なる役割を担っています。
肺・呼吸器
音声を生み出すためのエネルギー源となるのが、肺から送り出される空気です。
肺そのものだけでなく、横隔膜や胸郭などの働きによって呼気が調節されます。発話するときには、話す長さや声の大きさなどに合わせて空気の送り出し方を調整しています。
喉頭と声帯
気管の上部には「喉頭」があり、その内部に左右一対の声帯があります。
呼吸時には声帯の間が開いていますが、有声音を発するときには左右の声帯が近づき、肺から送られた空気との相互作用によって周期的に振動します。
この振動によって空気に周期的な変動が生まれ、音源になります。
声帯は単純な弦のようなものではありません。筋肉や粘膜などから構成された柔らかい組織で、形状や張力、組織の性質、呼気などの条件が複雑に関係して振動しています。
声道
喉頭より上にある咽頭や口腔など、音が通る空間を「声道」と呼びます。音によっては鼻腔も音の伝わり方に関係します。
声帯などで生じた音は、声道を通過する間に特定の周波数成分が強調されたり弱められたりします。
声道の形は人によって異なるだけでなく、舌や顎などの動きによって発話中にも変化します。この声道の共鳴特性が、声の音色や母音の違いに大きく関係します。
舌・唇・顎・軟口蓋
ことばの音を形作る際に重要なのが、舌、唇、顎、軟口蓋などの「調音器官」です。
舌を前後・上下に動かす、唇を丸める、顎を開閉する、軟口蓋を上げ下げするといった動きによって、声道の形や空気の流れが変化します。
こうした細かな動きを組み合わせることで、私たちは多くの母音や子音を使い分けています。

声の高さや音色はどうやって決まる?
同じ人でも高い声や低い声を出すことができ、人によっても声の特徴は異なります。
声の違いには、声帯の振動と声道の共鳴が大きく関係しています。
声の高さ
声帯が周期的に振動するとき、その振動の繰り返しの速さを表す「基本周波数」は、声の高さを感じるうえで重要な要素です。
一般に、基本周波数が高くなると高い声として、低くなると低い声として知覚されます。
人は喉頭の筋肉などを働かせ、声帯の長さや張力などの状態を変えることで、声の高さを調整しています。
声の大きさ
声の大きさには、肺から送られる空気や声門付近の圧力、声帯の振動状態などが関係します。
単純に息を強く出すだけではなく、呼吸器と喉頭を協調して働かせることで声量を調節しています。
声の音色とフォルマント
声帯で生じた音には、さまざまな周波数成分が含まれています。
その音が声道を通ると、声道の形状に応じて特定の周波数帯が強調されます。この共鳴によって現れる特徴的な周波数は「フォルマント」と呼ばれます。
特に母音の違いを考えるうえで、フォルマントは重要です。
舌の位置や口の開き方、唇の形などを変えると声道の形状が変わり、それに伴って共鳴特性も変化します。そのため、私たちは「あ」「い」「う」など異なる母音を作り分けることができます。
母音や子音はどのように作られる?
声や空気の流れを具体的なことばの音へと形作る働きを「調音」と呼びます。
母音では、空気の流れを大きく遮ることなく、主として舌の位置や顎の開き方、唇の形などを変化させます。それによって声道の共鳴特性が変わり、異なる母音になります。
一方、子音では、舌や唇などを使って空気の流れを一時的に閉鎖したり、狭い隙間を通したりすることがあります。
狭い場所を空気が通ることで乱れが生じ、その雑音が子音を構成する音源になる場合もあります。
このように、ことばの音は声帯振動、声道の共鳴、気流、調音器官の動きなど、複数の物理現象が組み合わさることで生み出されています。
見えない音声器官の動きをどうやって調べる?
発声や発話を研究するうえで難しいのが、舌や声帯など重要な器官の多くが体の内部にあることです。
舌は発話中に複雑に変形し、声帯は非常に速く振動します。外側から見ているだけでは、その動きを詳しく知ることはできません。
そこで音声研究では、超音波やMRI、内視鏡などさまざまな生体計測技術を使って、音声器官の動きを観察します。
超音波画像法
超音波画像法では、顎の下などに超音波プローブを当てることで、発話中の舌の形状や動きを観察できます。
放射線を使用せず、舌の動きを連続的に観察できることから、音声・調音研究でも利用されています。
得られた超音波画像から舌の輪郭を抽出し、「どの音を発するときに舌がどのような形になるのか」を分析する研究も行われています。画像処理には機械学習が利用されることもあります。
リアルタイムMRI
発話している最中の音声器官を連続的に撮影するために、「リアルタイムMRI(rtMRI)」も利用されています。
MRIでは舌だけでなく、軟口蓋、咽頭壁など、外側から観察しにくい軟組織を可視化できます。
そのため、発話中に舌、唇、顎、軟口蓋、咽頭などがどのように連動して声道の形を変化させているのかを調べることができます。
喉頭内視鏡やEGG
声帯の動きを観察する方法の一つに、喉頭内視鏡があります。
声帯は高速で振動するため、高速度撮影などを組み合わせて詳しく調べる方法もあります。
また、「EGG(Electroglottography:電気声門図)」では、首の表面に電極を配置して、発声中の声帯接触に伴う電気的な変化を測定します。
こうした複数の計測方法を組み合わせることで、発声時に人体の内部で起きている現象をさまざまな角度から調べることができます。
計測した音声器官をコンピュータ上でモデル化する
生体計測によって「実際にどのような動きが起きているのか」を調べることができます。
しかし、観察した現象がなぜ起きるのかを考えるためには、実験や観察だけでは十分でない場合があります。
そこで、計測した音声器官の形状や運動をもとにコンピュータ上にモデルを構築し、物理法則に基づいたシミュレーションを行います。
音声研究を、
計測・観察
↓
モデル化
↓
シミュレーション・解析
という流れで捉えると、実際の現象と理論の関係がわかりやすくなります。

発声をコンピュータでシミュレーションする
音声器官をコンピュータ上で再現することで、実際の人体では直接確かめにくい現象についても分析できます。
舌のシミュレーション
舌は多数の筋肉から構成された柔らかい組織で、発話中には複雑に変形します。
こうした柔らかい物体の変形を解析する方法の一つが「有限要素法」です。
MRIなどの医用画像から舌の形状を再構築し、筋肉が働いたときに舌がどのように変形するのかをコンピュータ上で解析することで、調音運動を力学的に理解することができます。
声道の音響シミュレーション
声道の形が変われば、その中を伝わる音も変化します。
そこで声道形状をモデル化し、音波がどのように伝わり、どの周波数が共鳴しやすくなるのかを数値計算によって解析します。
これにより、**「舌や唇をこのように動かすと、なぜこのような音になるのか」**という、調音運動と音との関係を物理的に調べることができます。
気流のシミュレーション
音声には空気の流れも深く関係しています。
特に子音では、声道内の狭い部分を空気が流れることで乱れが生じ、それが音源になる場合があります。
流体力学に基づいて口腔や声道内の気流を計算することで、どこで流れが速くなり、どこで渦や乱れが生じるのかを分析できます。
声帯振動のシミュレーション
声帯振動についても、さまざまなモデルが利用されています。
比較的単純化した質点モデルから、声帯の立体的な形状や組織の性質を考慮した有限要素モデルまで、目的に応じて異なるモデルがあります。
さらに、声帯という柔らかい構造物の変形と、その周囲を流れる空気を同時に扱う「流体構造連成解析」によって、声帯がどのように振動し、音源が生み出されるのかを詳しく解析する研究も行われています。
『音声器官のメカニズムとシミュレーション―生体計測とモデル化―』でも、舌の有限要素モデル、音響・流体シミュレーション、声帯の質点モデル・有限要素モデル・流体構造連成解析などが取り上げられています。
AIによる音声生成と物理モデルは何が違う?
近年は深層学習や生成AIの進歩によって、非常に自然な音声をコンピュータで生成できるようになっています。
大量の音声データから特徴や規則性を学習する方法は、高品質な音声合成に大きな成果を上げています。
一方、自然な音声を生成できることと、「人間がどのようにしてその音声を生み出しているのか」を理解することは同じではありません。
人間の舌がどのような力で変形するのか、声帯が気流との相互作用によってなぜ振動するのか、声道の形が音にどのような影響を与えるのかを理解するためには、人間の音声器官そのものを対象とした物理モデルが重要になります。
現在では両者を対立するものとして考えるのではなく、物理モデルと機械学習を組み合わせる研究も行われています。
たとえば、調音運動のデータから音声を生成したり、声帯モデルのパラメータを機械学習によって推定したりする研究があります。
物理的な計算に基づくモデルを中心に、深層学習や両者の融合についても扱っている点は、『音声器官のメカニズムとシミュレーション―生体計測とモデル化―』の特徴の一つです。
音声器官を研究することにはどんな意味がある?
音声器官を計測し、その働きを物理的にモデル化する研究は、「声が出る仕組み」を理解するだけにとどまりません。
研究によって得られた知見は、音声科学や音響学をはじめ、
- 音声合成・音声技術
- 発声や発話の仕組みの解明
- 発声・発話障害に関する研究
- 発音訓練
- ボイストレーニング
- 人とコンピュータの音声コミュニケーション
など、さまざまな領域と関係しています。
特に、人間の発声や調音を対象とする場合には、「どの器官がどのように動き、それによってどのような音が生まれるのか」という物理的な理解が重要です。
音声器官のメカニズムをさらに詳しく学ぶには
人間の音声は、肺からの呼気、声帯振動、声道の共鳴、舌や唇などによる調音といった、さまざまな現象が連携することで生まれています。
現在では、それらを外側から想像するだけでなく、超音波画像法やリアルタイムMRI、喉頭・声帯の計測などによって実際の動きを観察し、さらにコンピュータ上のモデルによって発声・調音のメカニズムを解析できるようになっています。
コロナ社の**『音声器官のメカニズムとシミュレーション―生体計測とモデル化―』**では、「実験・観察」と「理論による説明」という二つの側面から、調音と声帯振動による発声について解説しています。
超音波画像法やリアルタイムMRIによる調音運動の計測、舌の有限要素モデル、声道の音響・流体シミュレーション、喉頭・声帯の計測、声帯振動のシミュレーションなどを体系的に取り上げ、物理モデルと機械学習を組み合わせた研究についても紹介しています。
声はどのようにして生まれるのか。
そのとき体内では何が起きているのか。
そして、その現象をコンピュータ上でどこまで再現できるのか。
音声生成の物理的な仕組みを、生体計測とモデル化の両面から詳しく学びたい方におすすめの一冊です。
『音声器官のメカニズムとシミュレーション―生体計測とモデル化―』
https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339011685/
作成・編集:コロナ社 営業部 大熊
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