何とも,漠然とした閉塞感が漂う厄介な時代である。さらなる社会の発展や福祉の充実に向けて,研究開発の一層の充実が求められている一方で,その根幹である科学技術に20世紀のような青天井の輝きは乏しい。地球環境,経済の停滞や格差の拡大などの諸問題の解決に向けて,新たな科学技術が不可欠であることに疑う余地はないものの,それらの根源を探っていくと科学技術がもたらしたさまざまな手段に至って,つかみどころのない矛盾が顕わになる。今日の科学技術は,おおむね,17世紀に端を発するが,その中核をなした力学は,往時,さまざまなメカニズムが各種の機械に活用され始めた折,その設計を合理的に進めたいということが動機であったようである。対象を研ぎ澄まし論点を限定すると,その範囲内で繰り返される法則性が浮かび上がり,その法則性を明示的なものにすることにより,各種の設計は合理的で健全なものになってきた。研究開発とも呼応した産業活動が創り出す各種の人工物も大規模で複雑なものになってきて,想像もつかなかったような出来事が行きかうようにもなった。しかるに,今日のさまざまな問題は,どれ一つとして,固有の範囲内で生じているのではなく,多種多様な要因が折り重なって,厄介な問題となっている。となれば,そもそもの設計のありようが問われることになる。対象を限定せず,あくまでも広く横断的に見渡していくことを通じて,新たな機械,新たな人工物,今日的な意味合いでは,製品やサービスなどを創り出していく,そのような未来に向けた設計のあるべきすがたが問われている。
本「設計工学フロンティアシリーズ」は,上記のような問題意識のもと,社会や生活に関わる課題とさらに充実していく科学技術とを橋渡しし,健全な産業活動やそれを支える研究開発を描き出していくことを通じて,包括的な解決を導き出していく役割は新たな意味合いでの設計こそが担っていくとの考え方に立って,実用を旨とする工学の立場から,そのフロンティアを論じようとするものである。産業の実態にあっては,それぞれの専門に特化する分業が進み,大規模で複雑なバリューチェーンを通じて高度な人工物が創り出されるようになった。その背後では,入り組んだ因果関係のもと,新たなイノベーションを起こしていくことが一筋縄ではいかなくなっている。学術にあっても,この間の発展が積み重なってきた結果として,領域の細分化が相当に進んできている一方で,その弊害を克服するべく,学際融合の推進が希求されている。しかしながら,そのような学際融合も領域性を成立させてきた仕組みのもとにある。設計工学におけるフロンティアとは,そのような分業や領域性に起因する限界に対して,異なるレイヤーから,新たな実践なり学術を切り拓いていこうとするものとなる。
本シリーズでは,新たな地平に向けて,設計解を導き出すための考え方や方法論,設計を合理的かつ効率的に進めていくための支援技術,さらには,社会や生活における価値と相対する設計のあるべきすがた,設計の担い手となる人々や組織のあるべきすがたなどの各論について,それぞれに分冊を出版していくことを計画している。それぞれの分冊が,各方面での営みに新風を吹き込むこと,また,それに向けた学術が深まっていく足掛かりになっていくことを願っている。
2024年5月 編集委員長 藤田 喜久雄
(所属は2024年5月現在)
以下続刊
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【各章について】
1章では,本書における導入の章としての位置づけのもとで,人工物の定義と歴史,存在意義を振り返り,設計と呼ばれる人の創造行為が果たした意味を再考します。【各章について】
各章での説明の流れを簡単に説明します。【各章について】
各章での説明の流れを簡単に説明します。【各章について】
1章ではマルコフ決定過程の概要を,2章では基礎理論としてマルコフ連鎖を中心として確率過程について述べています。3章から5章では,有限期間期待利得問題,無限期間総割引期待利得問題,平均利得問題のそれぞれについて,最適政策導出に関する理論と,最適政策を求めるアルゴリズムについて詳細に述べています。6章では連続時間上のセミマルコフ決定過程について述べ,7章では部分観測可能マルコフ決定過程に関する基礎的な事項を示しています。8章では,より発展的な内容として,大規模問題における近似アルゴリズムの観点からの強化学習へのアプローチ,また最適性方程式から導かれる最適政策のもつ性質の理論的導出について触れています。【各章について】
1章では,今後,必要となる数学の基礎的内容について説明を行います。さらに,関連する表記法についても説明を行います。内容に関しては,最適化手法を重点に説明を行います。また,最適解を得るために必要な数値計算法について触れ,その後,システムの安定性から始まり,システム制御理論ではおなじみの最適レギュレータ問題に関して,考察を行います。特に,最大原理や動的計画法による解法について説明を行います。また,近年のシステム制御理論の成果として重要なH_∞制御理論や線形行列不等式(LMI)について触れます。【各章について】
章をまたがってタイトルが同じである例の内容は関連しています。これを踏まえた上で,例は取捨選択して読み進めることができます。また,第4 章は第6 章より後に読むことができます。【各章について】
1章「確率と確率過程」:本書で必要となる確率と確率過程の基本的な用語と性質について簡単に解説する。【各章について】
1章「秘書問題の主要モデル」:最適化基準と利用可能な情報の組合せからなる四つの問題,すなわち無情報型最良選択問題,無情報型順位最小化問題,完全情報型最良選択問題,完全情報型順位最小化問題を紹介する。