レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

数理工学のための線形代数 - 線形代数の新しい地平 -

数理工学のための線形代数 - 線形代数の新しい地平 -

抽象的な線形代数学を,数理工学の現代的な課題へ拡張した「広義の線形代数」を体系的に学べる一冊。従来の教科書で扱いの少ない商集合を取り上げ,また頻出であるジョルダン標準形の位置づけを見直すなど構成に工夫を施している。

発行年月日
2026/03/25
定価
4,950(本体4,500円+税)
ISBN
978-4-339-06136-9
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 Manny-Lab 様(業界・専門分野:機械学習や深層学習を用いた統計モデリング)】

掲載日:2026/03/26

本書の特徴を、一言でいうならば、「線形代数を学んだ学部生が、線形代数の理解を深めるために、次に学ぶための本」と言えます。

近年のデータサイエンスやAIの発展に伴い、線形代数の重要性は高まる一方です。しかしながら、学部で線形代数を学んだ学生が、その重要性に気づけない理由の一つに、具体的な応用イメージの欠如があると評者は考えています。その中にあって、本書は、筆者の研究を含む「数理工学」という具体的な事例を取り上げつつ、具体的な事例に取り組んだ良書と言えます。(適度に抽象的な概念も入っているも良いですね。)
 
そのうえで、是非、読者にお勧めなのは「演習問題」に取り組むことです。演習問題には、少しアドバンスドな話題も含めて掲載されており、線形代数の広がりを感じるものが多く掲載されています。評者としては、第3章で代数的トポロジーの題材が取り上げられていることに、ニヤリとしました。また、読者の中でプログラミングなどにも興味がある方は、PythonやSageMathなどでの実装を試みてはどうでしょうか。より具体的なイメージが沸くと思います。
 
昨今の生成AIが進展する中、手を動かしてみることをお勧めできるテーマが満載の本です。

読者モニターレビュー【 たか 様(業界・専門分野:制御工学(産業応用))】

掲載日:2026/03/23

「線形代数」と聞くと、多くの人はベクトル空間や行列演算といった分野を思い浮かべるだろう。しかし、本書は副題に “新しい地平” とあるように、代数学と数理工学の視点を橋渡しする書籍である。

前半では、群・環・体、整数論などの代数学の基礎が丁寧に説明されている。そして、本書の大きな魅力は、これらの代数学的性質を、従来の線形代数で扱ってきたベクトル空間の視点から改めて確認できる点にある。例えば、第4章では整域上での行列式の解説があり、第5章のジョルダン標準形も加群の理論を踏まえて議論が展開される。私自身、これまで「代数学」と「線形代数」の書籍で別々に説明されることが多かった内容が、本書を通して読むことによって,つながることを実感できた。

さらに、第6章以降ではグラフ理論、制御工学、FFT など、数理工学への応用が幅広く紹介されており、「このような応用と結びつくのか」と実感することができる。特に、第8章で扱われる behavior approach のように、制御工学において代数学的なアプローチを用いる研究は現在も盛んに行われており、本書はこうした分野に必要な基礎知識を身につけるうえでも有用である。

代数学的な手法に興味のある人はもちろん、目次を見て気になると感じた人にもぜひ手に取ってもらいたい一冊である。

読者モニターレビュー【 北山 匡史 様 三菱電機(株)(業界・専門分野:電力システム)】

掲載日:2026/03/23

線形代数は制御工学をはじめとするシステム工学,統計学,経済学など,幅広い分野に共通する基盤である。大学初年度に「ベクトル空間上の線形写像」として学んだ内容が,各専門分野で改めて必要となるときに,改めて習ったことを振り返って学習する書物,というのが線形代数の書籍に対する印象である。しっかり学習している学生もいるのだろうが,行列の計算,固有値の計算と対角化,といった計算技術に目が行ってしまい,深い理解に至りにくい面があると思われる。

近年,このような初学者向けの教科書的な書籍でなく,応用分野を深く,広く理解するための線形代数を扱う書籍が増えてきたように感じる。その背景には,従来の学術分野を横断的に理解したいというニーズに加え,ビッグデータを用いた深層学習などデータサイエンスが身近になるにつれ,これらを「使う」だけでなく「理解する」ための数学的基礎として,線形代数の重要性が改めて認識されてきたことも一因であろう。また,本書が基盤とする代数学についても,一般的な関心が高まっているようである。

本書は,大学教養課程で扱う「体上のベクトル空間としての線形代数」を,環や加群といった抽象代数の視点から再構築した,広義の線形代数の体系書である。単なる計算技術の習得にとどまらず,数理工学における複雑な構造を読み解き,新たな道具を自ら創造するための「数学的思考の基礎体力」を養うことを主眼としている。また,応用例として,大規模ネットワークを効率よく縮約するクロン縮約,信号処理の根幹をなす高速フーリエ変換の線形代数的解釈,深層学習モデルへの応用,さらには格子暗号を取り上げており,抽象理論が高度なアルゴリズムへと結実する過程を丁寧に解説している。

線形代数の基礎を修めた学生はもちろん,システムモデリングやデータ分析の理論的裏付けを深めたい実務家エンジニアにとっても,座右に置く価値のある一冊である。抽象と具体を往復する本書の構成は,現代の複雑な技術課題に立ち向かうための真の数理工学的センスを養う上で,大きな助けとなるだろう。

読者モニターレビュー【 田中 裕己 様(業界・専門分野:情報処理技術)】

掲載日:2026/03/17

一般的な線型代数学の教科書は、抽象的なベクトル空間の理論から入るものと、よりイメージしやすい3次元幾何や行列の計算から入るものに大別されるかと思います。本書の最もユニークな特徴は、前者寄りの理論的なアプローチをとりつつも、グラフ理論や高速フーリエ変換等、工学的に重要かつ興味深い応用例を豊富に取り上げている点であると思います。

本書の構成に踏み込むと、2章までの代数学の準備は、純粋数学としての理論に踏み込みすぎずエッセンスが効率よくまとまっていると思います。

3章から5章ではベクトル空間を一般化した加群の理論を出発点として、基底の取り換え、次元公式、標準形などの重要な理論が展開されていきます。ここは本書の中でも重たい部分になりますが、線型代数に対して一段抽象的な観点から見通しが得られ、高度な応用への盤石な基礎が固まるでしょう。説明の構成という観点では、線型代数で必ず学ぶ固有値・固有ベクトルが標準形の説明の後に出てくる等、いくつか珍しい点があると感じました。

6章以降は数理工学・情報科学諸分野への線型代数が展開されています。それぞれの章の内容はグラフ理論、FFTなどの各専門書を紐解けば学習できますが、特に線型代数の理論によって美しく記述できる部分が凝縮されており、興味のある個所を一部ピックアップするだけでも線型代数へのモチベーションが上がると思います。また、応用の章は基本的に行列を中心に展開されるので、5章までの抽象的議論が完全に消化できなかったとしても十分理解して楽しめる内容になっています。ここでの内容を面白いと感じる方は、本書で扱っていない話題として、ランダム行列の理論やLie代数の理論も学んでみると面白いかもしれません。

決して易しい本ではありませんが、一般的な学部の講義や教科書で「線型代数は一通り分かった」と思った人にこそ本書を手に取り、線型代数の広くて深い世界に触れてほしいと思います。

読者モニターレビュー【 電気系学生 様(業界・専門分野:電力システム工学、パワーエレクトロニクス)】

掲載日:2026/03/17

この本はぜひ電気工学や制御工学を使う学生や社会人に読んで欲しい1冊である。大学の工学部や高専の学生なら授業で線形代数を習わない人はいないであろう。しかし、授業で習う線形代数は手を動かす演習系のカリキュラムがほとんどであるため、数学としての定義や定理を厳密に理解し、またそれを数理的に応用できる人はわずかである。

この本では、線形代数を学ぶ上で見落としがちな理論に言及し、それらの応用例を詳しく提示している。特に、クロン縮約と電気回路そしてマルコフ連鎖という一見関係がなさそうなものの数理学的なつながりについて詳しく説明されている点がとても興味深いと感じた。

大規模系の制御やシステムの縮約など近年、注目されている課題について足がかりとなるようなヒントが良く書かれている印象を受けた。初学者にとっては難しく感じそうであるが、研究活動を行っている学生や社会人などが読めば新しいアイデアが降ってきそうである。