レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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抽象的な線形代数学を,数理工学の現代的な課題へ拡張した「広義の線形代数」を体系的に学べる一冊。従来の教科書で扱いの少ない商集合を取り上げ,また頻出であるジョルダン標準形の位置づけを見直すなど構成に工夫を施している。
- 発行年月日
- 2026/03/25
- 定価
- 4,950円(本体4,500円+税)
- ISBN
- 978-4-339-06136-9
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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読者モニターレビュー【 田中 裕己 様(業界・専門分野:情報処理技術)】
掲載日:2026/03/17
一般的な線型代数学の教科書は、抽象的なベクトル空間の理論から入るものと、よりイメージしやすい3次元幾何や行列の計算から入るものに大別されるかと思います。本書の最もユニークな特徴は、前者寄りの理論的なアプローチをとりつつも、グラフ理論や高速フーリエ変換等、工学的に重要かつ興味深い応用例を豊富に取り上げている点であると思います。
本書の構成に踏み込むと、2章までの代数学の準備は、純粋数学としての理論に踏み込みすぎずエッセンスが効率よくまとまっていると思います。
3章から5章ではベクトル空間を一般化した加群の理論を出発点として、基底の取り換え、次元公式、標準形などの重要な理論が展開されていきます。ここは本書の中でも重たい部分になりますが、線型代数に対して一段抽象的な観点から見通しが得られ、高度な応用への盤石な基礎が固まるでしょう。説明の構成という観点では、線型代数で必ず学ぶ固有値・固有ベクトルが標準形の説明の後に出てくる等、いくつか珍しい点があると感じました。
6章以降は数理工学・情報科学諸分野への線型代数が展開されています。それぞれの章の内容はグラフ理論、FFTなどの各専門書を紐解けば学習できますが、特に線型代数の理論によって美しく記述できる部分が凝縮されており、興味のある個所を一部ピックアップするだけでも線型代数へのモチベーションが上がると思います。また、応用の章は基本的に行列を中心に展開されるので、5章までの抽象的議論が完全に消化できなかったとしても十分理解して楽しめる内容になっています。ここでの内容を面白いと感じる方は、本書で扱っていない話題として、ランダム行列の理論やLie代数の理論も学んでみると面白いかもしれません。
決して易しい本ではありませんが、一般的な学部の講義や教科書で「線型代数は一通り分かった」と思った人にこそ本書を手に取り、線型代数の広くて深い世界に触れてほしいと思います。
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読者モニターレビュー【 電気系学生 様(業界・専門分野:電力システム工学、パワーエレクトロニクス)】
掲載日:2026/03/17
この本はぜひ電気工学や制御工学を使う学生や社会人に読んで欲しい1冊である。大学の工学部や高専の学生なら授業で線形代数を習わない人はいないであろう。しかし、授業で習う線形代数は手を動かす演習系のカリキュラムがほとんどであるため、数学としての定義や定理を厳密に理解し、またそれを数理的に応用できる人はわずかである。
この本では、線形代数を学ぶ上で見落としがちな理論に言及し、それらの応用例を詳しく提示している。特に、クロン縮約と電気回路そしてマルコフ連鎖という一見関係がなさそうなものの数理学的なつながりについて詳しく説明されている点がとても興味深いと感じた。
大規模系の制御やシステムの縮約など近年、注目されている課題について足がかりとなるようなヒントが良く書かれている印象を受けた。初学者にとっては難しく感じそうであるが、研究活動を行っている学生や社会人などが読めば新しいアイデアが降ってきそうである。








