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エピゲノム情報解析

バイオインフォマティクスシリーズ 7

エピゲノム情報解析

ゲノムはその配列情報のみならず,配列の修飾状態(エピゲノム)や核内における立体的構造などを利用してその機能を適切に発現させている。シークエンサーを用いたエピゲノム・立体構造情報の全ゲノム的な解析の全体像を解説した。

発行年月日
2025/08/18
定価
3,410(本体3,100円+税)
ISBN
978-4-339-02737-2
在庫あり

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読者モニターレビュー【 maiko 様 (業界・専門分野:バイオインフォマティクス)】

掲載日:2025/08/06

エピゲノム解析に携わってきた研究員の立場から、本書は非常に実用的かつ実践的な内容が詰まった一冊だと感じました。

まず、本書はエピゲノム解析に必要な基礎知識が一通り網羅されております。例えば、ゲノム解析でも用いられるファイルフォーマット(fastq、bam、bed等)に加え、エピゲノム解析で頻出するリード分布ファイル形式(Wig、BedGraph、bigWig等)についても丁寧に解説されています。初学者であれば複数フォーマットの存在そのものにも困惑しがちですが、各形式の特徴やメリット・デメリットまで記述されているため、「なぜその形式が使われるのか」を理解しながら納得感を持って読み進めることができます。

また、初学者向けの書籍と思いきや、中級者にとっても学びの多い内容が随所に存在します。実務でよく用いられる解析手法について、教科書的な記述として改めて体系的に整理されていることで、「分かっているつもり」で曖昧だった理解が一つずつクリアになっていく感覚がありました。さらに本書では(いずれの章においても)単なるコマンドやツールの使い方紹介ではなく、その背後にある解析手法の考え方まで丁寧に踏み込んでいます。これまで、解析ツールを「動けばよい」と鵜呑みにして使っていた自分にとって、本書はまさにその背景を深く理解するための「橋渡し」となるものでした。

また、本書の魅力は「解析結果をいかに解釈するか」という視点が随所にある点であると感じました。例えば、ChIP-Seqでのコントロールピークの取り扱いや、複数サンプルでのピーク比較における正規化の注意点など、実際の現場で「これってどう捉えればよいんだろう」と迷うポイントが自然な形で解説されています。コマンド例を並べたような表面的な解析手順の紹介ではなく、「データを見る目」が養われる貴重な教科書です。エピゲノム解析を通して「細胞内で何が起きているのか」という本質的な問いに向き合う姿勢を育ててくれる内容が詰まっていると感じました。

具体的な解析ツールの操作方法はあえて詳述されていませんが、それはむしろ本書の大きな長所でもあります。ツールは日進月歩で更新される一方で、それらを適切に選び使いこなすためには、背後にある統計的・解析的な考え方を理解することが不可欠です。本書では難解になりすぎない形で数式を用いた解説も加えられており、ピークコールなどの手法についても、その統計学的背景を自然に理解する助けになります。

そして、本書の最大の特長は第5章「ゲノム三次元構造」です。Hi-Cを中心とした立体構造解析について、これほど体系的かつ丁寧に記述された教科書は、これまでほとんど無かったと思います。特に、これからHi-C解析に挑もうとする学生や若手研究者にとっては、まさに必読と言える内容です。計測原理から解析ステップまで的確に整理されており、重すぎない分量でありながら、「曖昧な理解のまま手探りで解析を進める非効率さ」を大きく減らしてくれます。私自身、過去にHi-C解析で何度もつまずきながら学んできましたが、「当時この本が手元にあれば、どれほど助かっただろう」と強く感じました。それほどに、本書はこの分野における決定版とも言える貴重な一冊です。

本書は、エピゲノム解析を本質的に理解したいと考える全ての読者の方に、自信をもって推薦できる良書です。