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思考力を磨く信号処理基礎の仕組み

思考力を磨く信号処理基礎の仕組み

本書では,信号処理の既存スキルの習得よりも「どうして」を「どのように」に結びつけ,今後の発展や周辺学問分野への展開を重視した。信号処理の中核となるフーリエ変換について,固有・直交基底の観点から導き出すように説明した。

発行年月日
2024/04/22
定価
3,300(本体3,000円+税)
ISBN
978-4-339-00990-3
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 JAZZCAT 様(業界・専門分野:鉄鋼機械エンジニアリング)】

掲載日:2024/04/10

レビュアーは、陶良氏による著書「思考力を磨く信号処理基礎の仕組み」をレビュー致しました。その結果を箇条書きにて、下記致します。

① 本書の一貫したスタイルとなっている「原理的な説明」もしくは「読者が疑問に思う点」をまず提示し、その後、その「理由の説明」や「具体的な例題」を通じて、解説がされており、非常に理解が深まる構成になっていると感じました。
類書では、天下り的な導入から始まり、そこから例題などの演習が中心となっているものが多いようにレビュアーは感じておりました。そのため、「なぜそうなるのか(そう考えるのか)」が理解できないままで、終わってしまうことが多いように思います。
この点は、本書のまえがきに書かれている「「どうして」を「どのように」に結びつけ」という一文からも、上記の良さが分かるものと思います。

② 全章を通じて、説明は(良い意味で)くどいほど丁寧で、理解も早くなるものと思いました(式の誘導も丁寧です)。
但し、数学的な考え方がきちんと身についていないと、読んでいても、チンプンカンプンとなってしまい、かなりしんどくなる点も指摘する必要がある(本書を読むにあたり、「相当な覚悟が必要」)と思いました。具体的には、以下の点を考慮したためです:
1) 本書のタイトルは、「信号処理基礎の仕組み」となっていますが、内容は信号処理を題材とした、「応用数学」の範疇に入るものと思いました。というのも、信号処理は、適用範囲が幅広く、機械系(レビュアーは、機械系出身のため)に限っただけでも、計測工学や制御工学、研究でのデータ処理、実験、開発といったものが思いつきます。

2) 上述の通り、「適用範囲が幅広い」のであれば、そこには「汎用性の高さ」が存在します。汎用性が高いものを理解するためには、「数学もしくは物理」という道具を利用した、抽象的な概念を導入する必要があります。

3) 抽象的な概念の理解で注意しないといけない点は、概念を読んだだけでは、分かったつもりになってしまう、ということです。レビュアーも経験がありますが、その概念を具体的な問題に適用しようとすると、なぜだかうまくできない(問題が解けない、という意味)のです。
それは、抽象的な概念を「具体的な意味合いまで落とし込み、理解をする」というプロセスが抜けているためだということが、経験を積んでいくうちに、分かってきました。
本書では、適切な例題が、適切な位置に配置され、分かりやすい解説がされているので、時間の許す限り、演習を行い、自分のものにするほうが良いと感じました。

4) 本書のまえがきには、「複素数、微分積分、線形代数など大学基礎数学の知識があれば」と書かれていますが、特に、線形代数では、線形空間という抽象的な空間論を自由自在に使いこなせる力をかなり要求されるように思いました(当然、本書内でも丁寧な説明はされておりますが)。
そのため、上記3分野の一通りの基本事項と例題演習ができている、という前提が必須かと感じました(本書のまえがきに「理工系大学2、3年次の学生を対象と想定」と書かれてはいますが、上記の点を考えると、そこまで深く理解できている学生は、そう多くはないものと思われます)。

③ 最後に、いくつかコメント致します。
1) 本書の利用について、1章は初等的な関数の概念の記述となっているので、読者諸氏で不明な部分や初学の部分のみ、読めば良いのではないか、と感じました。また、後章に進むうちに不明点があれば、1章に立ち返り、読み直し、理解すれば良いものと思いました。

2) レビュアーは、本書のコアになる部分は、2章から5章にあると考えています。線形時不変システムを通して、固有空間の概念を導入し、そこからフーリエ級数やフーリエ変換という概念を導いていく、類書にはない特長を有していると思いました。ここは、時間をかけて、じっくり丁寧に読んでいくのが良いものと思いました。

3) 本書を読むにあたり、1度でも信号処理(もしくは、フーリエ変換やラプラス変換、制御工学でも良いと思います)に関する概略を頭に入れておくと、理解がより早く、そして深くなるものと思いました。

4) 制御関係に携わっている諸氏には、釈迦に説法かと思いますが、7.2に記載されているラプラス変換については、既存の書籍ではあまり詳しく書かれていない事項が記載されているので、ラプラス変換を原理的な視点(応用数学からの視点)から理解し直すのに、もってこいの教材かと感じました。

以上、簡単ではありますが、本書をレビューした結果を記載致しました。本書をご購入予定の方々のご参考になれば、非常に幸いです。

読者モニターレビュー【 はると 様(業界・専門分野:情報・電気電子)】

掲載日:2024/04/01

本書は信号処理について学べる本である。1章と2章では信号とシステムの概念について説明されている。数学について深く学ばない学科であっても、各々の基礎が理解できるように例題や図を用いて詳しく説明されている。3章では、線形時不変システムの固有関数と直交基底関数について説明されており、これまでの章の内容と4章以降の内容の懸け橋となる重要な章である。固有値の説明からされているため、線形代数学に苦手意識を持っている人でも安心して読み進めることができる。また、人工知能やデータ圧縮で重要な役割を果たす最小二乗法についても紹介されているため、是非とも理解して欲しい。4章ではフーリエ級数展開について説明されており、本書では多くの初学者が苦手とするフーリエ係数の物理的意味について節が設けられており非常にわかりやすく解説されている。5章は連続フーリエ変換について説明されており、フーリエ変換の基礎だけでなくその実用例のローパスフィルタや通信分野で用いられる変調復調などついても書かれており、読み手の視野が広がるようになっている。6章は離散フーリエ変換について、他の離散時間フーリエ変換が書かれた本に比べ、簡潔にわかりやすく書かれている。また、離散ならではのサンプリング定理にもしっかり言及されている点が良いと思った。7章では、ウェーブレット変換やラプラス変換、z変換について説明されており、様々な分野の基礎となる内容を学べるが、これらの内容は非常に難しいため例題や図がもう少し欲しいと感じた。
総じて、信号処理の初学者やそれがどのように応用されているのか知りたい人におすすめである。本書をご購入予定の方々のご参考になれば、とても幸いである。