レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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入門レベルの理論経済学を学ぶ上で必要となる数学についてまとめた一冊。数学が苦手な読者でも中学で学んだ知識があれば理解できるように,高校数学から説明して偏微分まで扱う。理解を助けるための例や問題も多く掲載した。
- 発行年月日
- 2023/10/30
- 定価
- 3,300円(本体3,000円+税)
- ISBN
- 978-4-339-06128-4
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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読者モニターレビュー【 あめ色玉ねぎ 様 (業界・専門分野:システム工学)】
掲載日:2023/10/25
本書は、高校数学レベルから大学で学ぶ基礎的な解析学の内容を網羅した基礎数学の入門書である。
タイトルは「経済学部生のための」となっているが、数学に自信のない理系学生にも勧められる内容である。
序盤は2次方程式のレベルから入るため、これまで数学に苦手意識を持っていた読者でもかなり読みやすいのではないかと思う。
本書後半の、高校数学以上の難易度の高い題材を取り扱うあたりからは定理の証明や例題の解答も丁寧に解説されているので、初めて高校数学以上の分野を学ぶ者でも理解がしやすい充実した内容となっており、大変読みやすい一冊であった。
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読者モニターレビュー【 藤原 憲二 様 関西学院大学経済学部(業界・専門分野:大学教員、経済学専攻)】
掲載日:2023/10/11
本書はタイトルが示す通り、経済学部生が経済学を学ぶ際に必要な数学を解説した教科書である。著者は中央大学経済学部で初年次の数学を担当され、私立大学経済学部の現状に即して執筆された本書はすばらしい内容になっている。著者と同じく私立大学経済学部で初年次の数学を教える評者にとって教科書の選択肢が広がった。以下で評者が感じた本書の良い点と気になった点(悪い点ではない)を述べる。
本書を一読して最もすばらしいと思った点は高校数学の基礎的な部分から説明されていることである。残念な現実として経済学部生の中には1次関数のグラフがかけない人もいる。これでは経済学で最初に学ぶ需要・供給曲線分析も理解できない。この現状を反映してか世界中で使われているマンキューやクルーグマンの経済学入門の教科書では、ミクロ経済学やマクロ経済学に入る前に1次関数やグラフのかき方について説明されている。それと同様に本書の第1章では1次関数、1次方程式から説き起こし、中学・高校数学と大学の経済学部で必要な数学がスムーズに接続されている。経済数学の教科書の中には1次関数や2次関数は既知として、数列や平均変化率のような高校数学II・Bレベルから始めるものもある。しかし微積分の概念や計算を理解するには最も簡単な関数である1次関数や2次関数から始める方がよい。特に推薦入試で入学してきた学生や英・国・選択科目の3科目型一般入試で日本史や世界史を選択した学生には1次関数から始める本書のスタイルがなじみやすい。
評者が感じた第2の良い点は経済学にとって必要な分野に絞って説明されていることである。例えば三角関数は理工系では頻繁に使われる(と思う)が、評者が知る限り学部レベルの経済学では全く使われない。そうした学部の経済学で不必要な項目は載せず、必要な項目だけに絞ることで学生はどの程度まで勉強すればいいのかの見通しがつきやすくなる。実際、本書でカバーされている範囲をしっかり習得すれば、学部レベルの経済理論を学ぶときに不自由を感じることはないだろう。
他方で若干気になる箇所もある。もちろんこれらは本書の価値を下げるものではない。第1はホームページに掲載されている「問の解答」に答えしか載っておらず、不親切な印象を持った。個人的には答えだけを本書の巻末に載せ、その導出過程をオンラインサポートとして出版社のホームページに載せてほしかった。この点は本書の先行者である尾山・安田(2013年)や多鹿(2023年)に軍配が上がる。筆者は「問はすべて本文で説明した公式や解き方をそのまま使えばよいのでわざわざ詳しく載せる必要はない」、「答えの導出過程は教員が準備すべきだから載せる必要はない」と考えたのかもしれない。それでももう少し「問の解答」は詳しくしてほしかった。そうすると学ぶ学生と教える教員の双方の負担が減る上に、自習書としての価値も高まる。
第2はタイトルに反してやや経済学への応用例が少ない。特に本書の中核をなす第3章で説明される1変数関数の微分の応用がないのは大きな不満である。企業の利潤最大化、需要の価格弾力性、様々な比較静学など1変数関数の微分の経済学への応用例はぜひ欲しかった。