レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

音楽する脳と身体

音楽する脳と身体

音楽を聴いたとき,無意識に感動したことはないだろうか。多くの専門家によって感動の理由を説明する試みがなされてきたが,その答えは得られていない。そこで本書では,音楽が脳や身体に与える作用を脳科学と生理学から論じていく。

発行年月日
2022/11/07
定価
2,530(本体2,300円+税)
ISBN
978-4-339-07826-8
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

【 Aki様 医療法人 資生会(ご専門:音楽療法士・介護老人保健施設勤務)】

掲載日:2022/11/04

近年、音楽の脳処理に関しては、さまざまな文献や論文が世に出ていますが、こちらの書籍は脳のどの部分を活用しているかだけではなく実験の内容や結果、また懸念されるべき事柄などの背景等、詳細に記載されているところが特徴的だと思いました。また複雑な内容が多い中だが、一方的に結果のみが論じられているのではなく、著者の希望や感想なども記されているので読んでいて堅苦しくならなく、前向きに捉えられるような印象を受けた。
音楽療法に関して記されている部分もあるが実際の音楽療法士の方が著しているわけではないため、あっさりと言及しているのみなのでその点を期待している方がいれば、ご注意いただきたい。
私自身は、音楽療法士として日常的に音楽を活用してクライエントに向き合っているため、日々、音楽による変化やどのように脳で処理されているのか、また、その方のもつ障害から脳のどの部分が機能していないのか、その場合はどのようなアプローチが適切なのかを考えることがある。そのように実践していく中で、本書で得た見解は活用できるであろうと感じた。すでに知識として得ていたことも多いがその点を再確認でき、また実験の説明を通して、臨床に置き換えて活用することができる知識を多く得ることができたと思う。
今後は、また新たな視点、新たな状況での実験や研究などを含んだ続編を期待したい。

読者モニターレビュー【 まーれ 様(ご専門:言語学、認知神経心理学)】

掲載日:2022/10/24

以前、音楽と脳の働きについて個人的に調べたことがあったのですが、まとまったものがなかなか見つからず困っていました。
この本は脳の処理について詳しく書いてあり、ありがたく思いました。
また脳だけでなく身体への影響も記載してあり大変参考になりました。
運動への影響についてのボリュームが少なかったのが残念ですが、続刊に期待したいと思います。

読者モニターレビュー【 山口直彦 先生(東京国際工科専門職大学 助手,専門:情報学)】

掲載日:2022/10/24

本書のテーマである「音楽と脳の研究」についての現状は、126ページにある以下の文章に集約されるでしょう。

「現代の知見だけでは音楽と感情の究極の真理の解析はいまだ困難ではあるが、音楽をするときには、少なくとも、感じることも動くこともすべてが中枢から末梢にまでつながった1連のユニットだ、くらいに大きく考えて頂ければよいと思う。」

本書は、人間が音楽を聴いたり演奏したりする際、脳がどのような働き・反応をしているのか、そしてその他の身体活動にどのような影響を及ぼしているのかを、脳科学と心理学の観点から丁寧に解説しています。文章は全体的に読み物に近い形式で書かれていて、学術書として考えるといささか書き方が回りくどい感も読み始めには多少感じました。しかし読み進めていくうちに、感情・美学・経験といった、脳科学の中でも非常に解明が難しい要素と密接にかかわる話であるため、「AだからBである」とか「P故にQが起こる」といった、明瞭な(教科書的な、といっても良いかもしれない)記述は(でき)ないという事が理解できました。あわせて、多少読み物的な表現にならざるを得ないのだと納得することができました。

教科書的な明瞭に言い切った表現ができないかわりに、本書は著者を含め世界中の研究者がこれまでに行った「音楽をとりまく脳科学・心理学的な実験手法と結果」を順番に積み上げ、おぼろげながら見えてきている音楽・脳・身体のつながり、すなわち先の引用における「1連のユニット」の姿をあぶりだしそうとしています。このような実験には多くの要因がからみ、わずかに条件が変わるだけで検討結果がひっくり返ってしまう可能性もあります。本書に掲載されているほとんどすべての実験例には結果だけでなく実験の前提条件や、統計的有意差の検討が行われており、著者が科学的真理の追究に真摯に向き合っていることが伺えます。

また音楽と脳だけでなく、身体への影響を通じて、いわゆる「音楽療法」の有効性を検討するところまで踏み込んで検討している所も注目に値するでしょう。音楽療法(あるいはもう少しゆるやかな、老人ホームなどで行われる音楽を通じたレクリエーション)は、実践報告・実践研究が先行し、科学的な有効性の判断が遅れている感があります。その結果どちらかというと「成功例」に注目が集まりがちなのですが、本書ではやはり地道な研究により、良かれと思って行う音楽療法がかえってよくない結果を生み出す可能性にも言及しています。

脳科学の知識があればより深く理解できるかと思いますが、私のように脳科学が専門でなくても理解できる程度には基本事項の説明もあります。音楽と人間の関わりについて一歩踏み込んで理解したい人や、音楽に関わる感情分析に興味のある人におすすめの一冊です。