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AI時系列制御解析

AI時系列制御解析

本書は,システム制御における時系列データを用いたAI手法の実用的応用について述べる。各章に基本的な理論を数式展開による示す節を設け,引き続きその理論を使った実践応用例の節を設けるという従来にない構成を採用した。

発行年月日
2022/07/15
定価
4,400(本体4,000円+税)
ISBN
978-4-339-03239-0
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 Manny-Lab 様(業務内容:時系列データなどへの機械学習適用に関する研究等 )】

掲載日:2022/07/12

この本の特徴を一言で言い表すならば、「社会実装」を指向した本です。

近年、経済データ・センサーデータなど様々な時系列データへの深層学習などAI技術の応用が広がっています。しかしながら、その多くは所謂データサイエンス的な分析・モデル化の側面に重点が置かれています。そのため、作成したモデルの出力を、次のプロセスでどのように使うか・繋げるかという視点の記載が弱くなっています。

その中で、本書は「制御」を含むタイトルにある通り、組込システムでのAI技術を使用したモデル化のみならず、その次のプロセスである「制御」までを範囲とした実際的な取組までを紹介している所に特徴があります。大きく言い換えると、AI技術を社会実装するための取組が一通り記載されていると言えます。

本書が事例としているIoTを含む組込システムは、社会実装する上で特有の課題があります。それは、組込システムは、その対象システム環境に特化した技術検討が必要になるため、容易に他のシステムへと知見を展開しにくいという課題です。この課題に、果敢に取り組まれたのが本書と言えます。

本書の特徴を評者なりに纏めると、次の3点になります。
・空調機器制御を題材に、時系列データの取扱から制御まで一通り取り扱っています。
・様々なAIに関する技術の使い方・組合せ方を、事例を通じて紹介しています。
・各事例の課題設定は、モデルを作るだけではなく、実運用を指向しています。
時系列データはとても身近に存在するデータです。その分、関連する技術の蓄積も数多いです。しかしながら、近年のトレンドは、所謂データサイエンス系のデータが多く取り扱われており、工学的な組込システム系の取扱が少ないです。ここに、工学系技術者の悩みがあります。本書を読み進めることで、AI技術などの基礎事項を習得した工学系技術者が、次のステップとして「では、(習得した)技術で何が出来るか?どのように使えば良いのか?」という問に応える事が出来ると期待しています。

本書で説明している各種アルゴリズムの詳細は、必要に応じて他書を参照するとしても、読者は確実に得るものが大きいです。特に、社会実装までを目指す時に必要となる事項が概観できるものと思います。実を言う評者も、シミュレーテッド アニーリング (SA) 法の概要は知っていたつもりでしたかが、本書で始めて実例を通して学び直すことができました(第5章)。また、突発事象予知モデル(3.4節)などは、ここまで出来るのかと興味深く読ませて頂きました。

最後に、1点要望等を記載致します。本書最後でソースコードを記載し読者の便宜を図っているのですが、折角なのでダウンロードファイルの提供や、簡単な解説、実行に関する説明などがあると、なお読者にとって親切であったと思います。

読者モニターレビュー【 MasaTam 様(ご専門:Robotics/AI/Software Engineering)】

掲載日:2022/07/12

全編に渡り内部メカニズムの理解と応用のバランスが取られ、基本的なモデルの解説から、
その現実世界への応用を数式も交え説明しています。データの強化や収集法に関しても
触れられており、付録にはコードも付いている至れり尽くせりの一冊です。
スコープは時系列の実用的なものに絞られていますが、深めで実用へのヒントが多数
含められており、痒い所に手が届く内容です。
読者は基本的な機械学習の知識や技法を知っていると理解しやすいと思います。

読者モニターレビュー【 田中真夜 様(ご専門:工学 )】

掲載日:2022/07/12

まえがきに「しかるに,世の中にあるのは数式だけの理論書か,はたまた,ツールハウツー本の両極端のように思われる。(中略)理論を踏まえたうえでの実践モデル構築を述べた「橋渡し」となる専門書が望まれているのではないか。」とあるとおり、本書は、数式による基礎理論の解説とその理論が実際にどのように実用されるのかという事例紹介の両面がセットになっています。この構成により理論を説明する数式がいきいきとして見えてきますし、実例をより深く理解することができると思います。理論の説明に豊富に用いられている図も、実用に向けた理論の直観的な理解を助けるものとなっています。

また、6章『時系列学習データ収集の現実』、7章『時系列AIモデリングの実作業』、付録のプログラム例により、読者自身が直面する問題に対して本書の5章までの内容を実際に適用するサポートが行われている点からも、非常に実践的な内容になっていると思われます。